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CPU処理もネットワーク上で共有、米Azulの次世代アプローチ


 米Azul Systems(以下、Azul)は4月21日、「Azul コンピュート アプライアンス」を発表した。これは、J2EEなど仮想マシンベースのプラットフォームで実行されるアプリケーションに対し、CPU処理能力やメモリといったコンピューティングリソースを、複数のアプリケーションから利用できるようにする、「NAP(ネットワークアタッチドプロセッシング)」アプライアンスである。今回は、Azulが市場に投入した「NAP」という新しい概念について、国内の製品販売開始に合わせて来日した、Azulの代表取締役社長兼CEOであるステファン・ドゥイット氏から話を聞いた。


現行の仮想化コンセプトの限界

Vegaプロセッサを手にする社長兼CEOのステファン・ドゥイット氏(右)と、ビジネス開発 シニアディレクターの北島弘氏(左)
 ドゥイットCEOは、「システムの拡張には、安価なサーバーを複数台導入する水平方向への拡張(スケールアウト)と、非常に高い機能を持つ大きなサーバーを導入する垂直方向への拡張(スケールアップ)があり、多くの場合は水平方向への拡張が選択されいる」と述べ、その上で、たいていはアプリケーションごとにサーバー群が用意されているため、「それぞれの稼働率は概して低くなってしまっている」と指摘する。

 本来、システムを常に良好な状態に保つためには、キャパシティプランニングが必須だ。しかし、ピーク時に性能が足りなくなることを想定して、大量のサーバーを投入するというこれまでのやり方が、こうした問題を生み出してしまっており、こうした手法には限界がきているのは、多くの管理者が理解していることだろう。

 そこでIT業界の中ではこれらの問題を解消するために、グリッドなどの仮想化技術によって、複数のアプリケーションで複数のハードウェアを共有し、余剰のリソースを有効に使おうとする動きが出てきた。しかしそのような業界の動向に対してドゥイットCEOは、「グリッドはシステムのキャパシティが足りなくなった場合に、別のシステムのリソースを取ってこようとする考え方であるが、もし別のシステムのキャパシティにも限界がきていたらどうにもならない。またアプリケーション処理の場合、たとえば4Wayサーバー×4台=16プロセッサ、と単純に計算することはできない。JavaVMのコンテナは1つのサーバー内でしかスケールできないので、あくまで4プロセッサは4プロセッサだからだ」と、グリッドの限界について述べ、「いままで使ってきたコンピューティングモデルを見直す時期」と主張する。


仮想的なコンピューティングリソースをアプリケーションへ提供する

NAPのイメージ図。いわゆる3Tierサーバー構造のうち、アプリケーションサーバーの処理をコンピュートプールが肩代わりする
 そしてAzulではその答えとして「Azul コンピュート アプライアンス」を提供するというわけだ。これに採用しているNAPという新しいコンセプトに関してドゥイットCEOは、「既存のシステムに修正を加えることなく、無制限にプロセッサをマウントできる機能」と説明する。具体的には、アプリケーションサーバーとAzul コンピュート アプライアンスをGigabit Ethernetで接続することによって、本来サーバー側で処理していた複数のアプリケーションから、アプライアンス内のコンピュートプールと呼ばれる仮想的なコンピューティングリソース(処理能力)を共有する仕組みを採用している。アプリケーション側からは、ひとつのコンピュータリソースにアクセスしているようにみえるため、既存のシステムを変更する必要がない。

 「かつて、サーバーは何でもその中でできた。しかし現在では、たとえばストレージが外部へ出たように、少しずつその機能を分散化している。NAPとは、サーバーが、外部のNASを自らのストレージとして利用するように、外部のコンピュートリソースを利用することだ」と語るドゥイットCEOは、「これによって個々のアプリケーションごとのキャパシティプランニングが必要なくなる」とメリットを述べる。

 そして、サーバー自体に高い処理能力を必要としなくなれば、たくさんのプロセッサを積んだ高価なサーバーを用意する必要はなくなるし、大量のサーバーを稼働させる必要もなくなるため、「1コアあたり1000ドルちょっとで提供できるAzul コンピュート アプライアンスは、現在のコモディティラインよりも経済的である」と、費用面でのメリットがある点を強調。「スペース、電力、管理・運用コストを大幅に削減することができる」とした。


NAP普及への課題は?

Azul コンピュート アプライアンス
 Azulが打ち出したNAPは非常にユニークなコンセプトであり、今のところ競合他社は存在しない。しかし、今後は競合する企業が出てくることになるだろうとドゥイットCEOは予想している。同CEOはNAPに関して「今後5年の間にネットワークアタッチドプロセッシングの考え方はより浸透していくことになる」と述べ、Azulがこの分野においてパイオニアであり、マーケットリーダーとなることを強調した。

 ただし普及に伴って、今後はアプリケーションのライセンスが問題になってくると考えられる。というのも今のアプリケーションソフトの市場では、プロセッサ数に応じて料金を徴収する、というライセンス形態が大きなウエイトを占めるからだ。そうした課金をしているベンダにとって、ユーザー環境におけるプロセッサ数の減少は大きな影響を与えることから、Azul コンピュート アプライアンスの利用を制限されたり、アプライアンス内のプロセッサ自体にライセンスを要求してくるケースも考えられる。

 ドゥイットCEOはこの問題に関して「ほとんどの顧客では、サイトライセンスで契約しているためあまり影響はないのではないか」としながらも、「今後の普及に向けて、ソフトウェアベンダと話し合っていく必要はある」と述べ、今後の課題の1つとした。

 なお、Azul コンピュート アプライアンスの中枢部には、24のコアを持つ自社開発の64ビットマルチコアプロセッサ「Azul Vega」を使用している。あえてプロセッサを自社で用意した理由についてドゥイットCEOは、「仮想マシンに最適化されたプロセッサが必要だった」と説明した。製品には、このプロセッサを4基搭載する5Uサイズのものと、8基ないし16基搭載する11Uサイズのもの、計3製品がラインアップされている。国内での価格は13万ドルから。



URL
  米Azul Systems
  http://www.azulsystems.com/

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  ・ 米Azul Systems、アプリケーションサーバー向け仮想マシンアプライアンス(2005/04/19)


( 北原 静香 )
2005/04/21 18:04

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