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日立、“PCブレード”を用いたセキュアクライアントソリューション

HDDレス端末のラインアップも拡充、同端末向けの指静脈認証機器も

 株式会社日立製作所(以下、日立)は5月23日、HDDレスPC端末などを利用した「セキュアクライアントソリューション」のラインアップを強化すると発表した。同社が今回発表したのは、PCブレードや、液晶一体型、A4サイズのノート型などの新HDDレス端末で、これらは5月25日より販売を開始する。


「情報を持ち出せない」HDDレス端末を積極的に導入

日立の執行役副社長 兼 情報・通信グループ グループ長&CEO、古川一夫氏
 HDD端末を用いたシンクライアントソリューションは以前からあり、マイクロソフトやシトリックス・システムズ、Tarantellaなどがソフトウェアを、米Wyseなどが端末をそれぞれ展開してきた。これらは最初は集中管理による管理性強化、TCO削減などをメリットとしてうたっていたのだが、最近ではむしろ、シンクライアントが情報をローカル環境に保存できない点を生かした、情報漏えい対策のソリューションとして関心を集めるようになっている。

 日立でも、「情報を持ち出せない」という特徴に着目して、まず自社の情報・通信グループに、2000台ものモバイルHDDレス端末を導入し、情報漏えいへの取り組みを強化した。このソリューションでは、リモート環境からオフィスの自席にあるPCへアクセスして、そこにあるアプリケーションやデータを利用するため、「ノート型端末を紛失したとしても、情報が外部に漏れることがない」という点が特徴になる。

 こうした製品を導入した経緯について、日立の情報・通信グループ 情報システム本部 本部長、中島史也氏は、「以前もHDDや外部媒体をパスワードで保護するほか、暗号化を徹底していたものの、保護処理が施されていても、それだけでは、PCの紛失時などに、お客様へ『情報漏えいはない』と断言することはできないため」と語った。

 また日立では2月に、自社へ導入したソリューションを生かした「ポイント・ポイント型」と、MetaFrameなどを用いて構築された、サーバー上の仮想PCへアクセスする「センター型」の、2つのセキュアクライアントソリューションを発表している。同社では、「先端技術・最新ソリューションを自社に先行導入し、完成度向上を図る」(日立の執行役副社長 兼 情報・通信グループ グループ長&CEO、古川一夫氏)目的で、以前から同様の試みを行っているとのことで、古川副社長は「中で使い込んで、自信を持って(ソリューションをユーザーへ)出す」と述べ、同社の取り組みと強みを説明した。

 具体的には、通信カード利用時(低速通信時)のレスポンス向上を目指した高速化(減色)モードの見直し、電波状況が悪い場合のための自動再接続機能の搭載、HDD端末自身のバッテリ、通信状況などを表示するメニューバーのサポート、といった点が、社内展開時の課題をもとに製品にフィードバックされたことだという。


ブレード型PCを用いた、「ポイント・ブレード型」ソリューション

bd100の使用イメージ
 今回、同社ではさらに、PCブレード「FLORA bd100」によって、リモート環境だけでなく、社内のオフィス環境においてもHDDレス端末を活用できるようにする、「ポイント・ブレード型」ソリューションをラインアップに加えた。

 これは、1枚のPCブレード内に1ユーザー分のデスクトップ環境を再現し、自席から、またリモート環境から、ネットワークを通じてそこへアクセスを行うというもので、最初にセキュアクライアントソリューションが発表された際にも、「フェーズ2」としてロードマップに示されていた。このソリューションでは、実際のアプリケーションはブレードPC側で動作させ、画面の遷移データとキーストローク、マウスの入力データだけをやりとりする仕組みを採用しており、一見「センター型」と似通っているが、複数のユーザーで1台のサーバーを利用するのではなく、1枚のPCブレードをあくまで1人のユーザーのために利用する点が異なっている。

 中島本部長は、すでに発表しているノート型端末の導入計画(2005年度8000台)に加え、PCブレードも、自社へ2005年度1万台を導入する計画を明らかにした上で、「PCの負荷が高い作業を行うことが多い当社内の環境では、この『ポイント・ブレード型』が適している」と述べ、日立がセンター型のソリューションを採用しなかった理由を説明した。確かに、1サーバー内に複数のユーザーが混在するセンター型のソリューションでは、負荷の大きい作業を行うユーザーがいると、ほかのユーザーは影響を受けやすくなってしまう。また、「エンドユーザーのシステム開発環境に合わせたソフトをインストールする必要があることも多い」(中島本部長)ため、すべてのWindowsアプリケーションが動くとは限らないSBC環境では、運用上問題が生じるケースもあるという。


bd110のシャーシ(左)とPCブレード(右)。1つのシャーシには最大14枚のブレードが収納できる
 そこで日立では、独立した環境をアサインでき、ユーザーによってソフトのインストールも可能な、ポイント・ブレード型を選択したのである。このソリューションでは、1枚のPCブレード内でそれぞれWindows XP ProfessionalのPCブレード版(機能は通常版と同等)が動作しており、Windows XPに対応するアプリケーションならば、問題なく使用できるのだ。

 ただし、自社内への大規模なセンター型ソリューションの採用こそ見送ったものの、日立がSBCソリューションすべてを否定したわけではないという。「定型業務が多い事務環境などでは、十分に利用できる」として、今後もセンター型ソリューションの販売・提供を継続することを明言した。

 また日立自身では、2007年度までにセキュリティPCとPCブレードをあわせて5万台の導入を計画しているが、これはあくまで情報・通信グループだけのもの。ほかのグループでも、「営業・SEなど(情報漏えいの)リスクの大きいところでは計画している」(古川副社長)としながらも、「日立社内でも、まったく外部に出ないところなどもある。リスクを考えて、慎重に決めたい」と述べ、全社的にすべてのPCを置き換えるかどうかはまだわからないとした。

 なおbd100は前述のように、1枚1枚がWindows XP Professionalが動作する1つのPCになっており、Celeron M 1.40GHz×1、512MBメモリ、40GB HDD、Gigabit Ethernet×2などのハードウェアを備える。シャーシは3Uサイズの専用のものを利用し、1シャーシあたり最大14枚、ラック1つあたり最大112枚のブレードを収納可能で、価格は、シャーシが20万円(税別)、ブレードが12万9500円(同)。ソリューションとして提供する場合は、100ユーザー規模で3300万円(同)程度からになるという。


オフィス向けHDDレス端末のラインアップを強化、指静脈認証端末もサポート

 また同社では、現時点ではモバイルノート型だけに限られていたHDDレス端末のラインアップを増強した。ポイント・ブレード型ソリューションの投入によって、自席で利用する端末もHDDレス可が容易になるため、これに対応する端末を増やしたものと見られる。今回発売されるのは、液晶一体型デスクトップタイプの「Se310」、A4ノートタイプの「Se270」の両機種で、このほか省スペースデスクトップタイプの「Se330」も、2005年度第3四半期の製品化を目指して開発されているという。価格は、Se310が12万4000円(税別)、Se270が12万9000円(同)。またSe330は6万円台での販売を目指している。

 さらに、USB接続型の指静脈認証機器を7月15日より提供開始する。セキュリティ関連では、従来のソリューションでも認証のための証明書や接続先情報を納めた「KeyMobile」というUSB接続の認証装置を用いており、これがなければシステムには接続できないようにするなど、従来のソリューションでも配慮がなされていたが、バイオメトリクスを利用する指静脈認証機器との併用によって、さらなるセキュリティの強化と、利便性の向上を目指すという。

 加えて日立は、HDDレス端末を利用したソリューションのアウトソーシングサービスも開始する。このサービスでは、HDDレス端末の導入・保守・移設・破棄などのライフサイクルサポートだけでなく、データセンター自身の提供も含めた運用管理までを、アウトソーシングサービスとして用意し、ユーザーの希望に応じて提供する。


液晶一体型の「Se310」 A4ノート型の「Se270」 HDDレス端末用の指静脈認証ユニット


URL
  株式会社日立製作所
  http://www.hitachi.co.jp/
  ニュースリリース
  http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2005/05/0523.html

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( 石井 一志 )
2005/05/23 17:26

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