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検索エンジンのエアバス? 欧州で立ち上がるQuaeroプロジェクトとは


 検索エンジン分野でゆるぎない地位を築いている米Googleに対抗するため、欧州で官民共同プロジェクトが立ち上がろうとしている。その名は「Quaero」。ラテン語で「私は探し求める」を意味する。謎の部分が多い同プロジェクトに対し、このところ欧米のメディアの関心が集まっている。各紙の報道からQuaeroを探ってみた。


 Quaeroは、仏・独の両政府が主導で進めようとしている検索エンジン開発プロジェクトだ。2005年4月、両国の首脳が合意に至したのが出発地点。両国政府とその研究機関、仏・独の大手・ベンチャー企業が参画しているほか、欧州連合(EU)も絡んでいるようだ。

 Quaeroプロジェクトの目的は、マルチメディア検索エンジンの開発だ。欧州産検索エンジンにはノルウェーのFAST(Fast Search & Transfer)などがあるが、Googleの人気は欧州でも高い。そのGoogleに対抗することになるため、これを航空業界の「エアバス vs ボーイング」に例える人もいる。

 Quaeroが今年1月に入って、急に注目を集め始めたのは、世界的なメディア企業の独BertelsmannグループがQuaeroに参加を検討していると英紙Financial Times(FT)が報じたことからだった。

 FTによると、Quaeroへの参加を検討しているのは同社の情報子会社Empolisという。Quaeroはフランスでは、大手電機メーカーのThomsonが主導している。ドイツでは、Deutsche Telekom、Siemensなどの企業が参加を表明しているものの、昨年秋の選挙などのため体制作りが遅れていた。Bertelsmannがドイツ側を率いるとなると、影響が及ぶ範囲が変わってきそうだ。

 フランス側は、Thomsonのほか、France Telecom、Exalead、 LTU Technologies、Vecsysなどの企業、フランス国立研究所(INRIA)、フランス国立科学研究センター(CNRS)、文化省視聴覚研究所(INA)などの研究機関が参加するようだ。

 またQuaeroへの関心の高まりは、仏シラク大統領が年頭演説でQuaeroに言及したことにも関係がある。シラク大統領は、知識と文化が地理的に偏在しているとして現状を憂い、「GoogleやYahoo!などのアメリカの大手企業の世界レベルの挑戦を受けて立たたねばならない」とQuaeroに触れた。そして、戦略的な国家プロジェクトと位置づけていることを強調した。1980年代の「Minitel」(ビデオテックスサービスの家庭用端末)など、フランスでは政府主導で大型研究プロジェクトが進められることが多く、国内に与える影響は大きいとされている。

 さらにQuaeroへの出資額にも注目が集まっている。米Herald Tribune紙によると、フランスの出資額は最大で1億5000万ユーロ(約210億円)とも推測されており、仏政府が約1億5000万ユーロの開発予算を与えて新設した産業革新庁(AII)の開発プロジェクトとなった場合、さらに資金を得られる見込みだ。こうしたことから、総額で10億~20億ユーロになると推測する関係者もいるという。参加企業が流動的なことから、投資額の見通しが立つのは少し先となりそうだ。


 さて、肝心のQuaeroの技術はどんなものだろう? 現在Quaeroの公式サイトはThomsen内でホスティングされているが、1月12日に同社は公式サイトの一般公開を停止、現在、内部の者しかアクセスできなくなっている。FTなどの報道によると、検索エンジンはExaleadの技術を、INRIAのインデックス技術をベースとして、写真や画像、動画、音楽などのマルチメディア向けの検索エンジンを目指すという。複数の言語に対応し、マルチメディアドキュメントを自動で認識し、インデックス化する。

 一般ユーザーのニーズにも応えるが、ニュース報道クリップなどのアーカイブを利用する専門家向けのツールも目指すようだ。PCのほか、携帯電話などの携帯端末、デジタルTVなどから利用できるようにするという。欧州各国の中には、Googleの図書アーカイブプロジェクト「Google Print」へ批判的な姿勢を示すところもあり、Quaero立ち上げの背景となっていることも考えられる。

 Quaeroのプロジェクト概要などは、1月中にも正式に発表されるという。

 壮大かつ野心的なプロジェクトに見えるQuaeroに対しては、「投資の効果があるのか?」、「(Minitelのように)また失敗に終わるのではないか?」という批判的な意見が、内外から出ているようだ。検索エンジンの勝負はすでについているという見方もある。だが、Webブラウザ分野でも、後発のデメリットをものともせずに順調にシェアを伸ばしているFirefoxの例がある。米国勢にかなわないとみるのは早計だろう。

 インターネットをはじめとする情報技術分野では、Google、米Microsoft、米Yahoo!など、米国の企業が大きな存在感を占めている。今回のQuaeroは、研究開発では長い伝統と歴史を持つ欧州のプライドにかけた挑戦になりそうだ。



URL
  Quaero公式サイト(外部からのアクセスは制限)
  http://www.thomson.net/EN/Home/Quaero
  米International Herald Tribune
  http://www.iht.com/articles/2006/01/17/business/quaero.php


( 岡田陽子=Infostand )
2006/01/23 09:00

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