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人の関係を抽出して可視化するソーシャルメディア「関心空間」

関心空間・前田社長

 今回のゲストは、ソーシャルメディア「関心空間」を運営する、株式会社関心空間の前田社長です。関心空間はSNSあるいはコミュニティ的サービスではありますが、クローズドではなく投稿された情報が広くネット上に公開されています。2001年の公開と、すでに老舗の部類に入る本サービスを、激変するネット業界にどのようにフィットさせていくのか、前田社長のご意見を伺いました。


関心空間・前田社長 前田 邦宏
株式会社関心空間 代表取締役社長

1967年兵庫県生まれ。株式会社関心空間代表取締役。1990年頃よりデジタルコンテンツの企画・制作に携わり、大手企業のウェブサイト、公共向けマルチメディアシステム、CD-ROMなどを手がける。1995年クリエイター向けSNSのプロデュースを行い、1998年オーストリアのメディアアートフェスティバル「Ars Electronica」にメディアアート作品として「Small World Connection」を出品。2000年こうした活動から生まれた“つながりの視覚化”というテーマを事業化し、2001年にサービス開始した「関心空間」は、2002年度グッドデザイン賞新領域部門に入賞。2006年日本広告主協会Web広告研究会主催の第3回「Webクリエーション・アウォード」受賞。


人の関係を抽出して可視化

小川氏
 Macユーザーなんですね。


前田氏
 そうです。そもそも、僕は音楽をやっていまして、シンセサイザーあたりでデジタルに触れたんですね。その流れでMacを使っています。


小川氏
 ミュージシャンにはMacユーザー多いですよね。


前田氏
 コンピュータは身近ですね。でも、仕事として始めるきっかけになったのは、ハイビジョンデータをリアル転送するという仕様が策定されて、これからは動画も音楽も配信できる、という構想を総務省かなにかの資料で読んだことで。おお、そうすると自宅からマスターの音源から配信できるんだ、レコード会社通さなくてもデビューできるかもしれない、と思ったことです。でもそれじゃみんなができるんだから、ただそれだけでは目立たない、ほんとはiTunesみたいなサービスを作ったら、マイナーな音楽でも自分にフィットできる音楽を探せるわけだから、いろいろなユーザーのフィーリングがあった世界を作れるのではないかと考えたわけです。15年くらい前かな。


小川氏
 なるほど。それが今の関心空間につながっているわけですね。


前田氏
 本当は音楽でやりたかったわけですけど、関心空間では、人の関係を抽出して可視化する、というサービスをやっています。始めた当時は適切な言葉がなかったけど、いまはソーシャルメディアの運営、とかCGMの構築ビジネスですよ、といっています。言葉は大事ですね。


小川氏
 そうですね。ネーミングは重要ですね。うまい言い方がはまると、サービスはブレイクしますね。SNSも、出会い系、というところからうまく脱してSNSで通じるようになってから、社会認知もされましたから。


前田氏
 しかも、メディアという言い方は特によくて。メディアといった瞬間に、人の見方は変わったと思いますね。コミュニティという言葉ではビジネスの感じが伝わらず、メディアと言って初めて伝わった気がします。


ユーザーはコミュニティユーザーと、検索来訪者のメディアユーザーの二種

小川氏
 いまはユーザーはどのくらいですか?


前田氏
 3万6000人くらいかな。コミュニティとしては小さいですよ。でも、われわれがメディアと位置づけているのは検索来訪ユーザーのネットワークなんです。


小川氏
 つまり、検索エンジンの検索結果として関心空間の情報がヒットして、そこからの訪問者があると。


前田氏
 そうです。たったひとつのキーワードでたどり着いたユーザーに、自分の関心のある店舗や人や商品など情報を提供するメディアです。小さな関心の集まりというか、約23万個の商品などの固有名詞がそこにあります。


小川氏
 書くにはIDがいるけど読むにはいらないわけですね。


前田氏
 何か書き込むと周りからそれに関心がある人があつまってくる。それが「気づき」という価値になります。検索来訪者に対しては、ある人がある人に、どういう情報でつながっているかを見せることが価値になります。近接した新しい関心が知識欲を深めたり、購買意欲がなかったけど買いたくなったりという新たなきっかけを生みます。それがメディア価値ですね。


小川氏
 ビジネスモデルは?


前田氏
 法人のお客様にサービスを提供してます。100社以上のクライアントがいますね。やっぱりメディアさんが多いんですけど、たとえば小学館さん、日経BPさんとか。自社の顧客のロイヤルティをあげるためのコミュニティ、という位置づけですね。それと最近、全日空さんに「旅達空間」というシステムを導入していただきまして。マイレージユーザーが使える旅行情報サイトなんですけど。フィットしたのは、訪れた旅先の地名やお店などをカードのように表現して投稿する機能です。


小川氏
 パッケージ化してるんですか?


前田氏
 まだです。計画は何度かしているんですが、お客様のニーズのトレンドも変わるし、なかなか決めかねて。全日空さんに買っていただいて初めて、ちょっとパッケージ化できる仕様を考えられたかもしれないですね。


今のネットはインフレ気味。次のスキームを考えるべき時期

小川氏
 ソーシャルメディアとして、今後どのように事業を伸ばしていくのでしょう?


前田氏
 もともと、細分化された単位での情報を再利用するという点に強いイメージを持ってましたね。それがWeb 2.0みたいなことだと。関心空間だと、投稿単位の情報=検索のキーワード、になっていますけど、ようやく情報の粒度が整ってきた気がして、それをうまくビジネスにつなげられたらと思っていました。RSSにすればいいというわけでもなくて、マイクロフォーマットなどもそうなんですけど、もう少し誰でも使えるような環境にしないとだめですね。

 われわれ自身だけのことをいうと、メディア事業の成長ののりしろが大きいとは思っていますけど、ポータルではなくてロングテールサイトなので、そのテールをどうやって、ユーザー間、情報間、ユーザーと情報間、の3つのつなぎでマッチングするかを解決したいです。いまはGoogleなどの検索エンジンがその仲立ちをしているんですけど。


小川氏
 Googleへの過度な依存は危険ですよ。


前田氏
 われわれとしては、レコメンドエンジンや協調フィリタリングなどを考えているんですけど。オーグメンテッドリアリティ(強調現実:リアル世界に重畳されたバーチャルな世界)をエンハンスするような機能ですかね。


小川氏
 ふーむ。これまでとは違うスキームのネット世界ですね。


前田氏
 1990年代のネットって、最初は情報の出し手と出し手のつながり方がいい出会いに満ちていた気がしませんか? 世の中を変える勢い、ていうんですかね。それがインフレ気味になって、最初の頃からそこにいて、能力も高い人はそのメリットを受けているけど、あとからそのスキームに参加した人はあまりいいことがない感じがしますね。ブログとかも同じで、前からいる人はブロガーとして認知されて社会的に成功した人も多いけど、今からじゃあんまり目立てないし。ネットがインフレ傾向になる、ってことですよ。ただそのインフレ自体は悪いことではないんでしょうけどね、またその次の新しいことが生まれるための調整期というか、考える時期に来たのかなと思っています。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/02/05 00:00

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