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「責任をとれる情報だけを集めた辞書メディアでトップを」エア小島社長


 今回のゲストは、株式会社エアの小島孝治社長です。わずか3人で、さまざまな辞書サービスを手がけるエアの戦略はどのようなものでしょうか。

 知の提供、知の普及にこだわる小島さんの思いを伺いました。


エア・小島社長 小島 孝治
株式会社エア 代表取締役社長

1997年、成蹊大学工学部電気電子工学科(森島研究室)卒業。卒論テーマ「顔動画像からの周波数特性解析による表情認識」(1996電子情報通信学会発表、プログラミング言語:C)
同年株式テレビ東京に入社。関係会社含め、技術(インターネット/CG/スポーツ中継編集)、IR、インターネット/モバイル新規事業開発、編成業務を経験し2005年独立。


知を集積して携帯メディアとして提供

小川氏
 株式会社エアの事業を一言でいうと?


小島氏
 総合辞書メディアサービスの提供者ですね。インターネットが普及して、ある程度正しい情報や知識を入手することは簡単になりましたが、本当に正しい知というものだけを提供するサービスはほとんどないといっていいと思います。Googleで検索しても、得られた情報が正しいかどうかは確実ではありません。

 そこで書籍、主に辞書と、インターネット経由の情報、そしてユーザーからの投稿という三方向から“知”を集めて、携帯メディアとして提供することをしています。


小川氏
 分かりました。ちなみに社名の由来は神話からだとか?


小島氏
 はい。古代バビロニア神話のエアという神様の名前から拝借しました。エアは知恵の神です。ちなみにナイキ(NIKE)は同じバビロニアの勝利の女神ニケからきてるのは有名な話ですね。

 エアという名前を社名にしたのは、われわれが知的コンテンツ、人間の英知を普及させたいという思いからです。


小川氏
 はい。


小島氏
 英知の普及をキーワードに事業を興したわけですが、普及をさせるにもお金はかかります。そもそも本当の“知”とは、有識者が多大な労力と時間をかけて辞書化したものです。だから高価で当たり前のものです。


小川氏
 そうですね。


小島氏
 高価であるということは、それを買える一部の利用者しか使えないということです。だからこそ、そういう知をもっと普及させたいと考えています。


小川氏
 元はテレビ局にお勤めでしたよね。


小島氏
 はい。

 テレビ東京で8年間、技術系や新規事業系の仕事をしていました。マスコミは知を普及させるためのチャネルと最先端の技術を持っていると考えて入社しましたが、実はテレビにはそこまでの力がない、という限界を感じて退社しました。テレビ局自体は、実は非常に保守的な世界ですよ。


JLogosはさまざまな知恵を集約したデータベース事業

小川氏
 今のエアの事業を始めるきっかけは?


小島氏
 もともとテレ東時代に、ビットバレーがもてはやされたころからネットベンチャーの若手起業家たちとはつるんでいました。僕もいわゆるホリエモン世代なんです。

 きっかけはケータイビジネスなんですが、テレ東時代に公式サイトの企画をしていて、サーバーの構築を堀江さんが創業したオン・ザ・エッヂ(現ライブドア)に発注したのが最初ですね。


小川氏
 エアの主力事業は先ほど話されたケータイの辞書サイトなんですよね。


小島氏
 そうです。大きな枠でいうとライツマネジメント(権利管理)というジャンルです。著作権で守られていて通常は非公開だったりする情報、そして専門性や信頼性が高くて、結果として責任がある情報を取り扱います。そういう情報はあまりネットには置いてないものです。ウィキペディアは情報量が多いですけど、自己責任で使うものですよね。ユーザーの自己責任にまかすというのは最大の無責任だと思うんですよ。だから責任の持てる情報を普及させるには権利の処理をちゃんと行う、きちんとしたプロセスが必要なんです。


小川氏
 同感です。


小島氏
 そこでわれわれが作ったのがJLogos(ジェイロゴス)という知恵を集約したデータベース事業です。


小川氏
 詳しくいうと?


小島氏
 信頼できる情報だけの検索エンジン、というサービスですね。2005年の9月5日にスタートしましたが、現在3万人のユーザーがいます。


小川氏
 有料なんですよね。


小島氏
 はい。有料サイトで毎月税込み315円のモバイルサービスです。

 前月比を下回ったことがないのが誇りですね(笑)。


小川氏
 それはすごい(笑)。


小島氏
 簡単にいえばケータイ辞書サイトですが、単に調べるだけの辞書から、意味を理解するための「総合辞書メディアサービス」を目指しているものです。

 事業としては、ユーザーへの直接提供以外に日経テレコムに辞書のコンテンツを卸しています。あるいは、ユニークな辞典も作っていて、例えばホスト用語辞典を作ってます。


小川氏
 へえ(笑)。


小島氏
 ゲストタンブラーをゲスタン、ミネラルウォーターをミネ、とかね(笑)。


小川氏
 ははあ(笑)。


小島氏
 あとはテレビ東京のテレビチャンピオンという番組での築地王選手権で優勝した築地王と組んで、築地の用語辞典も作っています。

 要はニッチな辞典をたくさん作っていくことをやっています。今後はPCでもケータイでも広げていこうかと。

 ただ大事なことは、監修があることなんです。


小川氏
 そうですね。

 いまはまだケータイだけのサービスなんですよね、PC側に参入する上で意識していることは?


小島氏
 PCとケータイの違いは、著作権と収益の分配の考え方ですかね。


小川氏
 というと?


小島氏
 例えばケータイはコピペができないですから、それが反面著作権の保護に有効なんです。課金も文化として定着しているし。


小川氏
 なるほど。


電子辞書市場に匹敵するマーケットを作りたい

小島氏
 PCへの展開はハードルがあるが、いろいろやり方はあると思っています。ともかく目指すは何でも引ける辞書の提供ですね。

 ニッチも根こそぎ集めてくればマスになります。そもそもマスメディアはニッチの集合体ですから。

 スイミーという絵本知ってますか?


小川氏
 いえ。


小島氏
 スイミーは一匹だけ黒い魚なんです。周りは赤い魚。で、小さい魚たちなんでマグロに襲われるんですけど、赤いのが集まってカラダ、黒いスイミーが目になって大きな魚影を作って対抗するんですよ。

 つまり、僕たちエアが目になって、辞書などのコンテンツを提供できる皆さんとパートナーシップを作って、全体を集めて連合軍を作っていきたい。そうすることでマーケットを作っていけると思っています。


小川氏
 なるほどね。

 エアの競合は?


小島氏
 一番近いのはジャパンナレッジという小学館のサービスかな…。

 でもエアがやっているのは一社の辞書しか引けないというのではなく、あらゆる知の辞書化ですから、厳密には競合はいないですね。出版社主導のサービスだと、自社コンテンツしか提供できないですが、利用者からすると一つの出版社の辞書をみたいわけではないです。独立企業であるエアが入ることで色のついてない辞典を提供できるだろうと思います。国語辞典からも和英からも法律辞典からも見比べられる、そういう辞書サービスが必要だと思っています。


小川氏
 たしかに。


小島氏
 うちが提供している辞書を普通に全部買ったら130万円くらいします。それを月額315円で、それに匹敵するサービスをしているので、競合は少ないですね。

 いま、15社くらいを網羅していて、朝日新聞、東洋経済さんなど、最新の時事用語や会社四季報などの情報を常時用意しています。


小川氏
 ユーザー層は?


小島氏
 かなり細かい分析をしているんですけど、20~30代が7~8割ですね。ケータイの保有層からすると若干高めかもしれないですね。

 電子辞書は毎年200~300万台売れているんですよ、そのマーケットとケータイのマーケットの間をうちが埋めていきたい。

 利用の傾向をみると、月に30~40万回の検索がされているんですね。PCと違って年齢別や職階別の個人的な情報とひもづいていますから、有用な情報が集められます。いってみればケータイは銀行口座さえキャリアに握られているわけで、個人情報を入れることにあまり抵抗がないガジェットです。加えて、辞書ツールですから知りたくないことは検索しないから、正しい興味が集められます。


小川氏
 それだけの事業をいま何人で行っているのですか?


小島氏
 社員は3人です。開発はすべて外注しています、主に在宅のプログラマーにです。


小川氏
 当面の目標は?


小島氏
 電子辞書の市場と同じくらいのユーザー数、つまり200~300万人を確保することですね。そうすれば100億円企業にだってなれます。規模としては、売上100億円を社員10名くらいで賄いたいですね。ジャンルを絞ってその中でトップを目指す、それがわれわれのやり方です。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/10/28 00:00

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