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「まず医療、次に教育。公共サービスの分野のボランタリープラットフォーマーへ」ヨセミテ津田代表


 今回のゲストは元フォートラベル会長、現在は医療系のCGMサイトを手がけるヨセミテの津田代表です。CGMのあり方についてはサプライヤーとコンシューマーの両方のメリットを実現してこそである、という持論を常々語る津田さんですが、今回は公共性の高いエリアでの起業です。どのようなプランともくろみがあっての起業なのか、詳しくお話を伺いました。


ヨセミテ・津田代表 津田 全泰(つだ ぜんたい)
株式会社ヨセミテ 代表

1976年生。群馬県桐生市出身。
慶應義塾大学総合政策学部在学中に8人目のメンバーとして楽天株式会社に入社。楽天市場では、出店営業、広告企画、システム開発を担当。2001年には楽天トラベルの立ち上げとして、業務構築からシステム開発まで幅広く担当。
2003年10月にフォートラベル有限会社を設立し、2005年1月に株式会社カカクコムのグループに参加。
2008年1月に株式会社ヨセミテを創業し、同社代表に就任。


フォートラベルを立ち上げた2つの目的

小川氏
 ごぶさたしています。津田さんといえばフォートラベルの創業者、というイメージがみなさん強いかと思いますが、同社を退社された経緯や、その後のヨセミテ起業までのお話をかいつまんできかせていただけますか?


津田氏
 フォートラベルを退社することになった伏線として、そもそもフォートラベルをどうして作ったのか、なぜカカクコムに会社を売ったのかをお話しさせてください。

 僕はそもそも学生のときに楽天に入りまして、5年ほど勤めたんですが、そのころから自分で起業することを目指していたんですね。結果としてフォートラベルを立ち上げたんですが、その理由は明確に二つありました。一つは自分で自信を持ってサービスを出してデビューをしたい、よいWebサービスを作りたい、と思ったこと。よいサービスというのは、例えばそれが手を離れたとしても、おれ、これを作ったんだよと孫にでもいえるようなサービス、ということです。もう一つはアメリカのベンチャーでは創業者は必ずキャピタルゲインを得られるじゃないですか。IPOかバイアウトはどうであれ、僕もそのキャピタルゲインを手にしたいと思って起業をしました。


小川氏
 はい。


津田氏
 ただ、フォートラベルを作った26歳の時点では、IPOしたあとで自分が社長を続けるというイメージがわかなかった。なので、そのときはバイアウトすることをイメージして起業したんです。

 2003年の後半にいろいろと仕込んで、2004年1月にサイトをオープンして、2004年11月に売却発表をしました。とても順調だったといえますね。いろんな会社からオファーをいただいたんですけど、カカクコムに売却した理由は、彼らが中間メディアで消費者寄りだったこと。フォートラベルもそうですし、ビジネスレイヤーが一緒ということがまずありました。そしてカカクコムは旅行をやってなかったので、双方にメリットもありました。また、カカクコムには大きなトラフィックと信用というエンジンがありますから、それが加われば、フォートラベルもより伸びていだろうと思ったんです。もちろん、評価も一番いい金額でオファーしてくれたこともあります。だから、相思相愛という形で売却したといえますね。


小川氏
 最近ではなかなかない成功事例ですよね。もちろんキャピタルゲインも得た、と(笑)。


津田氏
 キャピタルゲインを得られれば、いろいろなことから自由になれる、好きなことができる、と思いました。でもなにがしたいんだ?と自問したときに、当時は分からなかったんです。それがだんだん明確になってきて、ああ、自分はやっぱりインターネットビジネスをやりたいんだなと思ったんです。

 取りあえず当面の資金はある、やろうと思えば何でもできる状態で、唯一やりたいのはネットビジネスだった、というわけです。


医療情報に特化した分野でのプラットフォーマーを狙ってヨセミテを設立

小川氏
 ヨセミテという会社は医療系のCGM、というように伺っています。なぜこの分野なのでしょう?


津田氏
 ネットビジネスをやるうえで、CGMとかUGMの世界がいいだろうとは思いましたが何しろ幅広いですから。やるなら特定の分野への特化型がやりやすいと思いました。それなら業界を再構築することもできるだろうと。フォートラベルも旅行業界を再構築できた、といい切れるほどではないかもしれませんが、それなりの変化を生んだサービスになったと思います。同じことを別の分野で、しかもゼロからやりたい、と思ったわけです。その結果、医療とか教育の分野がいいだろうと思いつきました。


小川氏
 それはなぜ?


津田氏
 一番の理由は、プラットフォーマーみたいなプレイヤーがいないからです。プラットフォーマーというのはカカクコムとかアットコスメみたいな企業のことを指しています。

 なんでかというと、やはり税金で国が統制している分野だからでしょうかね、自由競争が働きづらいんでしょう。ということはプラットフォーマーがもうけづらい分野といえるかもしれません。例えば医療なら、広告を出すにも規制があって、薬品メーカーも例えば医療用医薬品の薬品名は出せないことになっています。

 公共サービスに近いので、規制が強いイコールもうけづらい。だから誰も参加しない、ということでしょう。


小川氏
 そこにあえて参入する理由は?


津田氏
 ユーザー側、コンシューマー側からすればプラットフォーマーがいないことはあまりいいことではない、と思いました。旅行だったら旅行者に当たる人たち、医療ならば患者さんやそのご家族、そうした消費者レベルのニーズはほかの分野と変わらないと思ったからです。


小川氏
 つまりニーズはあるのに参入者がいない。


津田氏
 そうです。参入が難しいから誰も入らない。ということは、一回入ってしまえば参入障壁があるわけです。

 この分野なら、長期的な資金を持った志のあるプレイヤーしかこないと思ったんですね。経験と資金をある程度持っているわけなので、自分たちならできるとも思いました。そこで、昨年の7月にフォートラベルを辞めたわけです。


小川氏
 なるほど。


津田氏
 公共サービスの中で医療を選んだのは、最終消費者である患者さんのニーズが強いことです。例えば、闘病ブログを書いている人はとても多いんですね。誰かに伝えて励ましあいたい、感情をシェアしたいということかもしれない。旅行は自分の体験を自慢したいというニーズがあります。ニーズを作り出すのは難しいが、エンパワーすることはできるわけです。さらに、医療でも、メタボ対策みたいなものから難病と、いろいろレベルがあるわけですが、がんなどにフォーカスした情報サイトを作り上げることを考えました。


情報収集、比較検討、情報発信、交流の4つの行動を支援する特化型プラットフォームを作りたい

小川氏
 具体的なビジネスモデルとサービスは?


津田氏
 CGMには、サプライヤーとコンシューマーが存在します。医療業界であればサプライヤーは病院、医療機器メーカーや薬品メーカーになります。コンシューマーとは闘病者とご家族です。その両者を結ぶプラットフォーム的なサービスを提供します。具体的にはサプライヤーのマーケティング支援やブランディング広告などのお手伝いになります。コンシューマーには病気や治療法にかかわる情報や、患者さん同士の交流の場を提供します。


小川氏
 はい。


津田氏
 例えば、ファイザーのバイアグラであれば商品名を使った広告は法制上できない。だからED(男性機能不全)という病名を告知する、いわゆる疾患啓発広告という手法をとります。そうしたブランディング戦略的なことに関するコンサルティングや場を提供するわけです。また、コンシューマー側に対しては、特化型の行動支援プラットフォームという呼び方をしているんですが、情報収集、比較検討、情報発信、相互交流、という4つのメソッドを提供します。


小川氏
 コミュニティとは違う?


津田氏
 コミュニティは最後の交流という要素ですね。

 ほかの患者の症状や気持ちなどのブログを読みたいなどのニーズに応えるのが情報収集機能ですし、どの薬や病院がいいかという情報は比較検討機能になります。また、自分の情報を公開するためのブログサービスなどが情報発信になります。そうした4つの機能をまとめてプラットフォームとしています。


小川氏
 なるほど。


NPOはプレイヤー。プレイヤーを支援するプラットフォームが必要

津田氏
 ただ、サイトは10月末に公開したものの、まだまだ病気ごとの情報のリンク集でしかない状態です。自分自身が旅行好きであったフォートラベルとは違って、闘病経験のない僕には、闘病者のみなさんの意見を伺いながらサイトを作っていくほうがいいだろうと判断し、機能が不十分なことは知りつつサイトをオープンしました。今月中にはメンバーのフォーラム機能は追加しますし、来年早々にはブログ機能も公開する予定です。また、サプライヤー側へはまだなにもアプローチしていないんです。だから収益はまだありません。実際に収益があがるのは3期目以降でしょうね。


小川氏
 なかなか長い道のりですよね。たしかに自己資金でやっていないとできないビジネスです。


津田氏
 医療だけではなくて、それ以外にも教育やボランタリー(寄付、貢献)の分野にも入っていきたいですから。2年に一つずつくらい事業を立ち上げて、10年に5つの事業を興す、というつもりでします。ネット上に、月間1000万人に使ってもらえる公共サービスプラットフォームを作りたいですね。それに、この間梅田望夫さんと話したときに、オライリーがWeb 2.0 ExpoでWeb meets worldというテーマを出していたと聞いたんですね。


小川氏
 言ってましたね。


津田氏
 自分たちが目を向けている分野が間違ってない、と思いました。それと、梅田さんが危惧(きぐ)されていたのが、米国では国益に貢献しようとするとする動きがIT業界にもあって、英語で発信するから、ほかの英語圏にも広がっていくけれど、日本語での発信は情報の伝搬において、パブリックな情報の蓄積にあまりに開きがありすぎる、それが心配だということでしたね。アメリカの就職したい企業トップ10にNPOが2社も入っているんですが、日本では全然です。そういう意識にも違いがありますね。


小川氏
 確かに。


津田氏
 NPOはプラットフォーマーではなく、どうしてもプレイヤーになりがちです。そういうプレイヤーをエンパワーする役割を果たしたいですね。

 例えば重病患者が手術代が足りないからカンパが欲しい、というときにも役立てるような。eBayのボランタリー版というか、ボランタリープラットフォームといえるような存在になりたいですね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/12/16 00:00

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