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フォルクスワーゲンも採用したWeb商品シミュレータ「ESS MX」 その実力に迫る


 「ESS MX」とは、株式会社エイ・ティー・インタラクティブ(以下、ATI)が開発したWeb商品シミュレータである。“Web商品シミュレータ”という耳慣れないツールは、端的に言ってしまえばWeb上で商品カタログなどを作成するアプリケーションだ。Web上でのビジュアル処理にはFlashを利用するため、動画(アニメーション、ムービー)、画像、テキスト、音声などを利用したWebサイトを製作できる。


フォルクスワーゲン社のWebサイトでは見積依頼が3倍に

アクセサリーシミュレーションがESS MXの機能を利用して作成されている
 ESS MXを、フォルクスワーゲン グループ ジャパン株式会社が自社のWebサイトで採用したのは、2003年の9月である。同サイト内にあるフォルクスワーゲンのスポーツ・ユーティリティ・ビークル「トゥアレグ」の「アクセサリーシミュレーション」にアクセスすると、ESS MXによるWeb商品のシミュレーションを実際に体験することができる。

 このアクセサリーシミュレーションでは、アクセサリの組み合わせによる外観や内装をビジュアル的に変化させ、同時に見積の計算を行う。例えばタイヤのホイールを選択すれば、そのホイールを装着した状態にイメージが変化するといった具合だ。また複合の組み合わせ条件にも対応しているため、ルーフバーを装着した状態にしなければ、ルーフボックスを装着することもできないといった現実感のあるシミュレーションが実現している。このサイトが稼動して以来、トゥアレグの見積依頼が3倍に伸びたのもうなずける。

 もちろんこのようにFlashを利用したWebカタログ的なサイトは、多くのサイトで見ることができる。しかし、ESS MXが画期的と言えるのは、このサイトが1カ月半で作成されていることにある。この期間にはデザインの決定、車体やアクセサリの撮影、ビジュアルデータの調整、コーディングといったすべての工程が含まれる。現在トゥアレグのアクセサリーシミュレーションの組み合わせは約5万パターンにも及ぶが、従来であればこの程度の規模で同様の機能を持ったサイトを構築するには、短く見積もっても3カ月程度の納期が必要であった。もちろん画面デザイン、画像の撮影、画像データの修正などの期間を短縮することは困難である。ではESS MXでは、どのように開発期間を大幅に短縮することができるのであろうか。


Flash MXをベースに驚くほどの機能を実現

 ESS MXはその名前からもわかるとおり、マクロメディア社のFlash MXをオーサリングツールとして作成されたアプリケーションである。従来のFlashはWebアニメーション作成ツールとして「デザイナーの利用するツール」というイメージが強く、アニメーションの処理部分だけに利用することが多かった。しかし、データ通信機能やスクリプト処理などのプログラマブルな機能が大幅に追加されたことによって、Flash 6以降からWebアプリケーションの開発環境として非常に完成度が高くなったと言える。

 特にESS MXにとって重要なのがFlash MXでのXMLサポートである。アクセサリーシミュレーションを見てもわかるとおり、これらのWebアプリケーションには画像データや価格など膨大な商品データベースが必要になる。従来のWebアプリケーションであれば画像処理部分にのみFlashを利用し、データベースアクセスなどのバックエンド部分にはJSPやPHPなどによるコーディングを必要としていた。しかしESS MXではデータベースからCGIによってXMLデータを作成し、実際の処理にはそのXMLデータを利用することでデータベースと連携する。つまり処理の大半をFlashだけで実現しているのである。これによって、ESS MXでは大幅に開発工数を削減することに成功している。

 また、XMLによるデータベース連携機能のメリットとして、開発の容易さ以外にも、データベースサーバーの構造を意識せずにデータベースを利用できるという点も挙げられる。ESS MXが動作するWebサーバーからは、データベースから作成されたXMLデータにアクセスできれば動作が可能で、システム構造を意識する必要はない。ただしプラットフォームでは、OSレベルでUnicodeに対応している必要がある。


徹底したモジュール化で得られるメリット

画面の構成も各モジュール別に分割されている
 とはいってもESS MXによる制作期間の短縮は、なにもFlash MXによる開発の効率化だけで実現しているわけではない。従来、Webカタログなどのサイトを製作する場合、選択の組み合わせの数だけページ全体を製作する必要があった。しかし、ESS MXでは、テキスト表示、画像(静止画・動画)表示、見積といった数値計算処理など、基本機能を分割してモジュール化することにより、各モジュールを独立して製作することが可能になっている。そのため、デザイナーとプログラマーが同時に平行して開発することが可能で、細部に修正を加えても全体に波及することが少ないのも注目すべき点だ。

 また、ESS MXのシミュレータ本体はサイズを抑えて動作を軽くしているが、モジュール化したことにより、シミュレートの際のワンアクションに対して、ページ全体ではなく変化した項目の情報だけを書き換えるため、データのトラフィックを抑えてスムーズな動作を実現している。

 ESS MXはEコマースを意識した製品だが、こうしたサイトでは取り扱う商品データを短期間で変化させることが多い。例えば期間限定のセールやデザインの変更、製品の追加にあわせて、頻繁なコンテンツの追加や修正が必要になる。これまでFlashをベースにしたWebサイトの場合、コンテンツの追加や修正を行うにはページ全体を修正する必要があった。だがモジュール化により、これらの修正は数値や画像など必要最小限のデータを変更するだけでFlashに反映される。

 このような日常的に発生する修正は、データファイルを管理するESS MXのアドミニストレーションツールを利用することで、開発エンジニアに依頼することなくユーザー自身で追加・修正ができる。 もちろん、コンテンツの部分的な停止や削除などの処理も、同様にこのアドミニストレータツールによってユーザーサイドで可能となっている。


インターネット以外での利用

 Webテクノロジはインタ―ネット上で利用されることが多いため、それ以外の分野での利用を失念しがちである。しかし、フォルクスワーゲンではESS MXによるWeb商品シミュレータを、CD-ROMなどの媒体から動作させるように依頼している。これは代理店や顧客を訪問するセールススタッフのPCから、インターネットを利用せずに直接実行できるようにするためである。セールススタッフが紙のカタログを見せるよりも、実際にアクセサリを装着したイメージをその場で確認できるというのは顧客に大きな安心感を与える。もちろん実際に代理店に車を見に来た顧客でも同様で、全てのモデルと全てのアクセサリを準備して店頭で顧客に見せることはほぼ不可能なため、Webで実際にシミュレートできればそれに越したことはない。

 ESS MXによるシミュレータはサイズを抑えて作成されているため、起動時のデータの読み込みさえ終了してしまえば、動作は非常にスムーズでスペックの低いノートPCなどでも十分実用に耐える。このようにWebテクノロジはインターネット以外でも有効に活用することが可能である。


Web商品シミュレータという製品と今後の展開

 現在のEコマースではWeb商品カタログが主流である。しかし、今後はESS MXのようなWeb商品シミュレータによって、より現実に近い製品イメージを顧客に提供できるようになるだろう。また、ATIではフォルクスワーゲンを皮切りに、今後のESS MXをアパレルメーカーや住宅メーカーなどの他分野のサイトでも展開していく予定とのことだ。IT不況といわれるようになって久しいが、ESS MXのように短納期で完成度の高いサイト構築できるアプリケーションの出現によって、顧客の購買意欲を刺激するインパクトのあるEコマースのサイトが増えることを期待したい。


「Web商品シミュレータは、お客様の意思決定を支援する手段です」と語るクリエイティブ ディビジョンの新野マネージャ 「現在、アパレルメーカーのウェアデザイン、建築資材メーカーのモデルシミュレーション、 住宅メーカーの間取りプランなどの案件に取り組んでいます」とディベロップディビジョンの鈴木マネージャ


URL
  株式会社エイ・ティー・インタラクティブ
  http://www.ati.co.jp/


( 北原 静香 )
2003/12/26 19:06

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