ITを活用している企業の中で、最も多く導入されているアプリケーションの1つにグループウェアがある。ある調査によると、業務にITを導入した企業において導入率の高いアプリケーションの上位が、給与計算、ウイルス対策、グループウェアだったという結果が出たそうだ。
グループウェアというと一時期はLotus Notes(Notes)が代名詞のような位置づけでユーザーの支持を受け、こぞって導入された時期があったが、ここ数年はWebブラウザから利用できるグループウェアが登場し、中堅・中小企業や部門内での利用を中心にシェアを拡大している。また、ITの浸透とともに導入ラッシュも一区切りつき、ベンダー側も新たな策を模索している。
■ 新たな展開を始めたサイボウズ
サイボウズは1997年8月に設立、同年10月に初版となる「サイボウズ Office 1」を発売した。同社のグループウェアは、Webブラウザから利用できるため導入しやすいことや、ユーザーインターフェイスが初心者にもわかりやすいとされることなどから、特に中小企業を中心に人気を集め、現在では、中小企業向けの「サイボウズOffice」は163万人、中・大規模企業向けの「サイボウズガルーン」は27万人のユーザーをかかえている。
今年に入って、5月には、中・大規模企業向けの新版「サイボウズガルーン 2(以下、ガルーン2)」を発表(6月30日発売)したほか、ビジネス向けポータルサイト「サイボウズNET」や、セミナー運営を支援する「サイボウズ Seminar Street」などの新サービスを開始している。また、4月には創業者である高須賀宣氏が代表取締役社長を退任し、青野慶久氏が就任した。
■ 管理者にもやさしくなった「サイボウズガルーン 2」
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マーケティングコミュニケーション部 パブリックリレーションズディレクター 村松康孝氏
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サイボウズガルーン2(画面はベータ版)
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「今年、特に力を入れていくのは、ガルーン2」と話すのは、同社マーケティングコミュニケーション部パブリックリレーションズディレクターの村松康孝氏。ガルーン2は、従業員数2、3000人規模の組織への導入を想定して設計しており、同社がこれまで手薄だった比較的大規模組織ユーザーの獲得を狙う。
従来バージョンのガルーンもこの層の取り込みを狙っていたが、発売当初に同社が見込んでいたほどのユーザーを獲得できなかったという。その原因が、ガルーン2で大幅に強化された「拡張性とスケーラビリティ」(村松氏)に問題があったことだ。
ガルーンはサイボウズOfficeと同様、同社が独自開発したフレームワーク「CyDE」を軸とし、Webサーバー、アプリケーションサーバー、データベースを内蔵した設計であったが、多数のユーザーが同時にアクセスすると、予想以上にレスポンスが遅くなる傾向があった。ガルーンサーバーを並列に立てることもできたが、それぞれにデータベースを保有することになるため、データが拡散し人事異動などによるメンテナンスが手間となってしまっていた。
そこで、ガルーン2には新たに「CyDE2」を開発。データベースにMySQLを採用し、サーバーを三層構成にすることを可能とすることで、処理分散を実現し、利用人数に応じて拡張して応答速度を維持することができるようにした。さらに、別途データベースを導入する必要がなく、「実は開発に一番力を入れた」(村松氏)というインストーラーにより、従来と同様、非常に簡単にインストールでき、短期間で導入することができるという。
「データベースを含みながら、(データベースが別売の)他社のエンタープライズ向けグループウェアと同等の価格で提供でき、しかも設定の手間がいらないことが大きな特徴」村松氏は強調する。さらにサーバーを停止せずにバックアップが可能な「ホットバックアップ」にも対応するなど「管理者にもシンプルで簡単になった」(村松氏)という。
また、CyDE2では開発言語としては従来のHTMLに加えて新たにPHPに対応した。あらかじめ搭載されている機能以外のポートレート(構成アプリケーション)が必要な場合、より高機能なものを開発し追加することが可能となった。
実はガルーン2では、スケジュールや情報管理などユーザーが実際に利用する部分についてはほとんど手が加えられていない。すでにユーザーが使い慣れている部分に無理に機能を追加することで、使い勝手を落としたり、軽快さを失わないよう「勇気を出して変えなかった」(村松氏)とのこと。ユーザーが足りないと思う部分はSIerなどが開発して補うという形だ。
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ガルーン2におけるCyDE2の位置づけ
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ガルーン2で可能となった三層構成
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■ 乗り換えは「古いデータを捨てた方がうまくいく」
こうした進化を遂げたガルーン2だが、対象となる従業員数2、3000人規模の会社や組織には、すでに全体や部門ごとにグループウェアを利用している場合が多く、新規開拓の余地があまりないようにも思える。そこで同社が狙うのが既存のグループウェアからの置き換えだ。
村松氏によると、ガルーン2より小規模組織向けのサイボウズOfficeは、中小企業のほか、比較的大企業の部門単位で利用されているケースが多いという。そういった大規模組織では、全社的にNotesのようなグループウェアが導入されていたりするのだが、初心者に難しいとされるユーザーインターフェイスや、部門内という小規模組織内での情報共有という目的に合わないという理由から、別でサイボウズOfficeを導入するというケースが多いそうだ。そういった部門が増えてきて、やがて「それでは全社的に利用できるガルーンを入れてはどうか」という意見となるという。
こうした「乗り換え」の際に障壁となるのが、蓄積された過去のデータの移行作業だが、村松氏は「乗り換えに成功した事例の多くは、以前のデータを捨てて新たに利用したユーザー」だという。データ移行は大きなコストがかかる割に、過去のデータが必要とされる機会は基本的に少ない。そこで、データを引き出す手段を残してはおくものの、日常的に使うグループウェアとは連動しない方が、短期間・低コストでスムーズに移行できるということだ。こういった事例は「情報システム部門の力が強いところに多い」(村松氏)傾向があるようだ。
とはいえ、データの移行は必須であったり、一部は新しいシステムに持っていきたいというニーズもある。同社では、まず従来のガルーンからガルーン2へのコンバーターを今年中に提供するほか、サイボウズOfficeや他社製品からの移行ツールの開発も検討しているという。
■ サイボウズOfficeは、地方への展開を強化
一方、サイボウズOfficeについては、中小企業や部門単位に向けての提供を続けていく方針で、次期バージョンにはCyDE2の採用も予定しているという。しかし販売ルートにおいては、従来大半を占めていたダウンロード販売から、代理店経由へのシフトが進んでいるという。これは、比較的ITスキルの高い企業への導入が一段落し、地方やITに関連性の薄い企業に広がり始めている傾向の現れのようだ。
村松氏によると、現在、同社製品ユーザーのおよそ7割が東京都内にある企業や組織であるとのことで、今後はこの周辺や地方への展開が重要となる。これに向け、同社でも営業マンが全国の地場SIerに対する売り込みを強化しているとのことで、地方でセミナーを開催することも増えているという。こうした企業の多くはIT部門を持たないため担当者も異なり、経営者が直接比較検討するため、より初心者にもわかりやすい説明が求められる。
同社はグループウェアにおいては、今後も「ガルーン2とサイボウズOffice(現行バージョンは6.5)の2本立て」で展開していくとのことだ。
■ URL
サイボウズ株式会社
http://cybozu.co.jp/
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( 朝夷 剛士 )
2005/05/20 17:09
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