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日本HP、ミッドレンジストレージを利用したSMB向け災害対策ソリューション

不況でもサプライチェーンの複雑化や法制度がDRを後押し

エンタープライズストレージ・サーバ事業統括 ストレージワークスビジネス本部の諏訪英一郎氏

DRソリューションの位置付け
 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は11月19日、事業継続・災害対策(DR)ソリューションのポートフォリオを拡大すると発表した。大規模システム向けの導入実績で培ったノウハウを生かし、より価格を抑えた3つのDRソリューションを順次提供する。

 2007年、新潟県中越沖地震の影響で自動車の生産が一時ストップするなどを受け、DRの重要性が高く意識されるようになった。地震の多い日本は特に、データの複製を行い、メインシステムに何らかの障害が発生した際に速やかに事業復旧を行うBCP(事業継続計画)の策定やBCM(事業計画管理)が重要な国といえる。

 一方で、DRの導入には、「多大な初期投資」「費用対効果が見えにくい」「難しいテクノロジーの選択」「導入期間の長さ」など高い障壁が存在している、とエンタープライズストレージ・サーバ事業統括 ストレージワークスビジネス本部の諏訪英一郎氏は語る。

 そこで、従来ハイエンドストレージ「HP StorageWorks XP(以下、XP)」の機能を用いて実現してきたDRソリューションのすそ野を拡大し、ミッドレンジストレージ「HP StorageWorks EVA(以下、EVA)」でも実現できるようにソリューション化したのが今回の発表。9月16日にヴイエムウェアから発表された災害復旧ソフト「VMware Site Recovery Manager(以下、SRM)」との連携ソリューションなども提供が予定されている。

 具体的には「EVAリモートデータコピー 1TBパッケージ(以下、EVAリモートデータコピー)」「Blade+VMware Site Recovery Manager+EVA DRソリューション(以下、Blade+SRM+EVA DR)」「HP StorageWorks XP DR-Liteソリューション(以下、XP DR-Lite)」の3つを提供する。「いずれも日本HPが検証済みで、比較的安価に、中堅・中小にも手の届くソリューションにしたのが特長」(同氏)という。


ハード・ソフト・構築まで包括した「EVAリモートデータコピー」

 EVAリモートデータコピーは、EVAやFCスイッチなどのハードウェア、ストレージ筐体間コピーソフト、導入構築サービスをすべてパッケージ化したソリューション。データ複製技術「HP StorageWorks Continuous Access EVA(以下、CA EVA)」を用いて、距離のある2台のEVA間でデータ保護が可能になる。ローカルサイトとリモートサイトでデータはリアルタイムに同期が図られるため、有事の際にも短いRPO(目標復旧時点)でデータを復旧できる。

 構成を決め打ちにし、機能をデータミラーリングに特化したことで、従来よりも低価格を実現。社内検証も完全に済ませ、オペレーションの手順まで確立されているのが同製品の特長という。

 扱えるデータ容量は1TB。価格は、3990万円(税別)から。オプションとして、リモートサイトにコピーされたボリュームのスナップショットを作成する「EVA BC Vsnap」も用意。バックアップ用途にもう1つのコピー機能として利用できる。価格は390万円(同)から。


EVAリモートデータコピーの機能と特長 システム構成図

VMware SRMで災害復旧の流れを自動化する「Blade+SRM+EVA DR」

Blade+SRM+EVA DRの概要。データレプリケーションと自動復旧を実現する
 2つ目のBlade+SRM+EVA DRは、ヴイエムウェアのSRMによるサイト復旧機能を、同製品と相性がいいという「HP BladeSystem」およびEVAのプラットフォームで提供するソリューション。EVAリモートデータコピーがデータミラーリングに特化していたのに対し、こちらはサイト間フェイルオーバーまで行えるのが特長。

 SRMは、各社ストレージ製品のレプリケーション機能と透過的に連携して、総合的なDR管理と自動化を実現する製品。実際にDRを行う際には、多くの手作業が求められたのだが、SRMを使うと、DRの流れを簡素化し、自動化することが可能になるという。

 また、仮想化環境でのDRには課題も多いのだが、Blade+SRM+EVA DRでは、それをシームレスに実現する。具体的には、SRMとCA EVAを連携させるプラグインを加えることで、データレプリケーション+サイト自動復旧が可能。

 「すでに仮想化による統合を実装している、あるいは検討中の企業にお勧め」(諏訪氏)だ。仮想化技術と連携することで、もう1つDRにおける大きな課題が解決する。課題とは、テストの難しさだ。DRのフェイルオーバーテストは業務に多大な負荷を与えるため、実施するには課題が多く、現にDRが失敗する要因として「テスト不足」が指摘されている。一方、「Blade+SRM+EVA DRなら、テストサイトを別途構築するのも容易」とのことだ。

 価格はハードウェアのみで5629万円(税別)から。


通常業務の可用性も強く求められる企業向け「XP DR-Lite」

XP DR-Liteの概要

従来のハイエンドDRとの比較
 3つ目のXP DR-Liteは、ハイエンドストレージのXPとミッドレンジクラスのストレージを利用して遠隔バックアップを実現するソリューション。従来、日本HPのDRソリューションではローカルサイト・リモートサイトともにXPを設置して実現するのが一般的だった。これによりRTO(目標復旧時間)の小さな災害対策が可能なのだが、高価なXP2台が必要となるためコストが高くなってしまう。

 XP DR-Liteでは、ローカルサイトにXPを設置し、リモートサイトはミッドレンジストレージでカバーすることで低コストを実現したのが特長。その分、リアルタイムのデータミラーリングは行えず、オフラインでのバックアップのみに機能が制限される。サイト復旧には別途構築が必要となるため、XP DR-LiteだけではRTOは大きくなってしまう。また、リアルタイム性がないため、RPOも大きくなってしまうのがデメリット。

 バックアップは、XPが備える外部ストレージ機能を使って、セカンダリストレージと直接接続することで行われる。外部ストレージ機能に製品制限はないので、セカンダリストレージはEVAでも他社製品でも構わない。

 前述したようにデメリットはあるが、「まずXP DR-Liteを導入して、段階的にXP2台を利用するハイエンドDRへ拡張することは可能なので、将来的に本格的なDR導入を見据えたスモールスタートとしても最適」(諏訪氏)という。また「ローカルサイトにハイエンドストレージを利用するので、通常業務の可用性を重視する企業にも最適なソリューションとなっている」とのこと。

 価格は個別見積もり。「XPが含まれるので、やはり前者2つと比べて敷居が高い。詳細は公表できないが、数千万円台の上の方」(諏訪氏)となる。


IT投資が抑制される中、DRは受け入れられるか

BCPのISO化の流れ
 マーケティング統括本部 AIビジネス本部の宮坂美樹氏は「すでにDRは経営課題の1つと認識されている」と市場ニーズを読み解く。現に日本HPが行った、ITインフラの課題に関する意識調査でも、事業継続・災害対策は、運用・管理コスト、電力問題、仮想化の必要性などと並んで、上位にあがっている。

 一方で現在は米国サブプライムローン問題を端にした異例の不況である。こうした中でもDRへの投資にブレーキはかからないのだろうか。同氏は「確かに削られる可能性はある。だが、現在のサプライチェーンの複雑化をかんがみると、DRはもはや1社単独の話ではなく、完全なブレーキにはならないだろう」と答える。

 確かに2007年の自動車業界の事例は、トヨタや日産などへ部品を納品するメーカーの工場が被災したことによる。同氏によれば「サプライチェーンの複雑化を露呈したこの事例以降、横がDRを実施したらウチもやらなければ、という風潮になっている」。加えて「BSI(英国規格協会)が規定するBS25999を端緒にBCPのISO化の流れが起こっている」(同氏)と、法制度がDRを後押しする可能性にも言及。「2009年以降にISO規格として制定が予定されており、各国から注目が集まっている。こうした状況を踏まえ、かつDR自体の重要性を考えれば、この不況の中でもビジネスチャンスはある」とあくまで前向きだ。

 こうした状況をひっくるめて「事業継続・災害対策ソリューション全体で、2009年度に数十件の案件化を目指す」とのこと。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/
  ニュースリリース
  http://h50146.www5.hp.com/info/newsroom/pr/fy2009/fy09-007.html

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( 川島 弘之 )
2008/11/19 16:41

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