富士通株式会社は4月8日、製品情報を管理するPDM(Product Data Management)ソリューションの次世代コンセプト「M3」を確立し、体系化したと発表した。同コンセプトに基づき、既存のPDM製品「PLEMIA」を再構築し、業態と企業規模に応じた3種の新製品として同日より販売する。
■ 手戻り作業を減らす手法を体系化したコンセプト「M3」
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富士通長野システムエンジニアリング、PLMソリューション事業部 事業部長代理の今泉啓輔氏
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手戻りによる弊害が深刻化
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M3は、手戻りの少ない開発をするために、設計上流から技術者同士のアイデアを共有しながら開発を行う「擦り合わせ型開発」と、「プロジェクトに潜むリスクを察知して先手を打つマネジメント」をシステムで実現するもの。これまで「擦り合わせ型開発」で生み出されてきた設計ノウハウを、「製品情報」「設計プロセス」「設計リソース」の3つのマネジメント軸で体系的に管理し、構想設計段階から効果的に活用する仕組みを提供するという。
ものづくりの現状の課題について、富士通長野システムエンジニアリング、PLMソリューション事業部 事業部長代理の今泉啓輔氏は、「いままで以上に品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)のQCD対応が求められるようになっている。一方で設計環境が複雑化するにつれ、手戻りによる弊害が顕著なものとなり、開発工数の2~5割を手戻り作業が占めるとも言われている」と指摘。「こうした状況で重要なのは、製品・プロセス・リソースの3つのマネジメントなのだが、現状では人間系に大きく依存してしまい、効率化できなくなっている」と述べ、「いま求められているのは、人や勘に頼っていた判断をIT化するほか、あまり顧みられてこなかった設計途中のノウハウ、例えば棄却案なども蓄積して、新規開発のより上流で活用できる仕組みだ」とした。つまり「どんな検討結果で製品を作り上げたか」が重要で、「たとえその時の開発で却下された案でも、次回の開発で役に立つことがある」(同氏)というわけだ。
M3というコンセプトは、3つの軸で設計ノウハウを体系化することで、こうした製造業の課題を解決するという。ここでいう3つの軸が「製品情報」「設計プロセス」「設計リソース」のことで、これらを横ぐしに管理。その具体的な手法として「構想設計でのノウハウ徹底活用」「リスクを察知して先手を打つマネジメント」「業務変化に追随できるIT」の3つを挙げている。
1つ目の「構想設計でのノウハウ徹底活用」では、過去の設計で蓄積された設計ノウハウを構想設計段階で活用する仕組みを提供する。そこには直接的なノウハウだけでなく、検索したデータにまつわる情報や類似データを設計者に提示する仕組みや、前のプロジェクトで採用されなかった案を活用する仕組みも提供されるという。「例えば、部品を使うとき、過去にどんな製品で使われたか、どのような代替部品が用意されているかといった、普通であれば設計者が気づかない情報にも気づかせることができる。また、情報蓄積を容易にすることで、設計の上流段階からメカ(機械系)・エレキ(電機系)・ファーム(ソフト系)に関する事項の擦り合わせを行うことも可能になる」(同氏)。
2つ目の「リスクを察知して先手を打つマネジメント」では、自動で開発進ちょくを把握してアラートを発するような仕組みを実現。計画と実績の変化点に着目することで、レビューポイントを絞り込み、大きな手戻りとなる前に小さな芽の段階で対処できる仕組みを提供するという。
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M3の概要
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「リスクを察知して先手を打つマネジメント」。計画と実績のそごに早い段階で対処する仕組み
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■ M3実現への第1ステップとして「部品表」を再構築
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新製品の画面例。部品を一覧表示している
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既存の部品表を再構築したもので、機能強化が図られている
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今回発表された3種の新製品は、M3の完全実現を目指して、まずは「製品情報」マネジメントを実現したものとなる。具体的にいうと「部品表」を再構築したものだ。従来のPDM製品の基本機能を強化し、よりインテリジェントな操作性を持たせた。まずはこれをステップ1として同日より販売開始し、2010年1月以降にステップ2として、「構想設計でのノウハウ徹底活用」「リスクを察知して先手を打つマネジメント」を実装する、とロードマップを公表している。
新製品のラインアップとしては、中堅企業向けの「PLEMIA BOM Standard One」、複数の生産形態に対応した「PLEMIA BOM Standard」、グローバル設計に対応した「PLEMIA BOM Enterprise」の3つを提供する。
PLEMIA BOM Standard Oneは、優れた編集・検索機能と高速レスポンスを実現した製品情報管理の基本システム。品目管理、構成管理のほか、品目にひも付けた図面・文書の管理機能や電子承認によるワークフローも用意した。マスタデータメンテナンスや属性項目のカスタマイズもGUIベースで行えるほか、データアクセス権の細かな設定やアクセスログ管理などのセキュリティ機能も充実しているとのこと。価格は240万円(税別)より。
PLEMIA BOM Standardは、この基本システムに加え、受注生産、量産それぞれに最適化された機能が提供される。受注生産向けとしては、受注情報管理機能や、モジュール単位で組み合わせ設計を検証するコンフィグレータ機能などを備える。量産向けとしては、地域ごとに仕様の異なる製品や類似した製品の設計時に共通部品化の検討や、製品間の差異を把握しやすくするマトリックス部品表、企画から生産準備まで継続的な原価低減活動を支援する原価企画機能などを用意している。価格は560万円(税別)より。
PLEMIA BOM Enterpriseは、さらにSOAに基づく分散アプリケーション開発基盤「WCF(Windows Communication Foundation)」を採用することで、製品設計の柔軟性、設計拡張におけるカスタマイズ性を高めている。また、ADSLなどの低速回線でも、設計データを高速送信する仕組みも備えた。価格は4200万円(税別)より。
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操作履歴から頻繁に活用する情報へ迅速にアクセスできるなど、検索性が大きく強化されている
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そのほか「お気に入り」や「ワンクリック検索」などの検索機能も。検索結果に対して、関連情報の提示も行うため、設計者に気づきを与えることができる
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■ 国内トップシェア目指し、PLM事業再編も
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富士通、PLMビジネスセンター長の永嶋寿人氏
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これらの発表に伴い、富士通ではPLM事業の再編も行う。まず「PLMエンジニア(850名)のリソースやスキルを、関連会社のデジタルプロセスと富士通長野システムエンジニアリングに集約。顧客から見た“One FUJITSU”を実現するため、富士通グループでの全体整合を図っていく。加えてグローバルPLMベンダーはいずれもパッケージビジネスモデルであることから、「当社でも強いパッケージの確立を急務とし、PLEMIAシリーズ全体の売り上げを追求。これにより、PLM国内市場でシェアトップを狙う」(富士通、PLMビジネスセンター長の永嶋寿人氏)としている。なお、PLEMIAシリーズ全体で今後3年間に300億円の販売をめざす方針。
■ URL
富士通株式会社
http://jp.fujitsu.com/
プレスリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2009/04/8.html
( 川島 弘之 )
2009/04/08 16:12
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