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日本ヒューレット・パッカードに聞く次世代のストレージ・ビジョン[前編]


 ヒューレット・パッカードは、全世界の40%以上のシェアを持つテープストレージをはじめ、ディスクストレージ、NAS、光ディスクをベースとしたアーカイブストレージ、ファイバチャネルスイッチやiSCSIルータなどのSANインフラストラクチャ製品、各種ストレージソフトウェアなど、ストレージにまつわるさまざまな製品およびサービスを提供している最大手のベンダである。

 今回は、ヒューレット・パッカードが2005年までに目指している次世代のストレージ・ビジョンについて、日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS製品本部 本部長の本間孝秀氏とNSS市場開発本部 担当マネージャの渡辺浩二氏にお話を伺った。インタビュー内容は、前編と後編に分けてお届けする。


日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS製品本部 本部長の本間孝秀氏 日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS市場開発本部 担当マネージャの渡辺浩二氏

HPとコンパックの合併によって価格競争力が大きく高まる

 ストレージ製品を提供するベンダの中で、ヒューレット・パッカード(以下、HP)が他社と大きく異なる点は、コンパックコンピュータ(以下、コンパック)との電撃的な合併を経たことだ。変動の激しいIT業界において、企業の吸収や合併は決して珍しい話ではないが、これらの大半は自社より小さい企業もしくは企業の一部門を買収するケースがほとんどであり、HPとコンパックのような大企業同士が勢いよく合併するケースはなかなかお目にかかれない。

 HPとコンパックは、こうした巨大な合併を経て、両社の持つさまざまな部分の融合を果たしたが、ストレージ戦略についても両社の戦略が見事に融合されたものになったという。本間氏と渡辺氏は、特にストレージ分野に関して、旧HPとコンパックの主な特徴、そして両社の合併によってもたらされた利点を次のように説明する。


会社の合併により、ヒューレット・パッカードとコンパックコンピュータのストレージ戦略が融合を果たす(出典:日本ヒューレット・パッカード、以下同様)
 「旧HPは、Disk Array XPシリーズに代表されるように、決してデータを失うことなく、しかもメインフレームと接続しても遜色がないような、とても重厚で堅実、堅牢というイメージを持っています。一方のコンパックは、ネットワークに接続したら軽々と動き出すPCのイメージを強く持っています(本間氏)」

 「もう少しテクノロジー面から補足しますと、旧HPは、HP OpenViewに代表されるように、限られた人員で効率よくシステムの運用・管理を行えるテクノロジーが充実していたのに対し、コンパックは、いつでもどこでも必要な人に必要なデータを提供できるようにするストレージユーティリティのテクノロジーが進んでいました。両社が合併したことで、HPの高い信頼性、管理効率とコンパックの利便性が融合し、ストレージが本当の意味で“使えるもの”になりました(本間氏)」

 「さらに、OSという切り口から比較しますと、旧HPは、HP-UXを搭載したハイエンドサーバーに代表される“高性能で堅牢”というイメージ、コンパックはWindowsやLinuxを搭載したPC、ワークステーション、ローエンドサーバーに代表される“安くて使いやすい”というイメージを持っています。このような対照的なイメージを持つ両社が合併したことで、高性能、堅牢でありながら、同時にボリュームメリットが出て価格競争力が一気に高まりました。合併前の旧HPは“高性能だけど非常に高価”という感じでしたが、新生HPは“高性能でありながらお求めやすい価格”で提供する、まさに顧客志向の形に生まれ変わったのです(渡辺氏)」


SANに一本化することでストレージを物理的に統合

 ストレージは、旧来のDAS(Direct Attached Storage)からSAN(Storage Area Network)やNAS(Network Attached Storage)へと急速に移行し、ストレージもついにネットワークの時代に突入した。ネットワークは、オープン化という特性を本質的に持っており、メインフレームに代表されるクローズドシステムをオープンに展開するには、もってこいの武器となる。

 最近、メインフレームをオープン化したいという要望は非常に強い。ただし、銀行を筆頭に、勘定系などを扱う非常に堅牢なシステムとしてメインフレームをメインフレームのままで使わなければならないところもけっこうある。そこで、ストレージネットワーキングを導入して、メインフレームのストレージをSAN上に配置し、そのデータを外部のオープンシステムでも利用できるようにすることで新たな価値を創出する。


NASにHDDを内蔵するのではなく、SAN上のディスク装置をデータ格納に利用し、NAS本来のファイルサービスをNASヘッドで提供することにより、ストレージをSANに集約できる
 一方、小さいところにも目を向けると、小規模サーバーやクライアントPCで利用されているNASがある。一般に目にするNASは、NAS筐体にHDDを内蔵し、単体でNASとして機能するものがほとんどだ。しかし、メインフレームや多くのサーバーはSAN上のストレージでまかない、その他のサーバーやクライアントPCはLAN上のNASでまかなうという状況では、ストレージが不必要に分散してしまい、運用、管理コストを跳ね上げる結果となる。そこで、ディスク装置だけはSAN上のものを利用し、NASのファイルサービスのみをNASヘッドで提供する形に切り替えることで、すべてのストレージをSAN上に統合できる。HPでは、HP StorageWorks NAS e7000 v2がNASヘッドにあたる製品だ。

 SAN、NASヘッドの導入によって、すべてのストレージをSAN上に集約できるが、SANはストレージを物理的に統合するだけで、ユーザー側から見えるストレージの姿は旧来とそれほど変わらない。また、SANの規模が広がるにつれて、物理的に離れた位置にSANのアイランドが次々と生まれていくが、SANの基本的な機能だけでこれらのアイランドを上手に統合することは意外と難しい。結果として、いくらSANによってストレージを物理的に統合したとしても、ユーザーから見えるストレージは依然として分散した状態にあり、本当の意味でのストレージ統合には到達できないのだ。


ストレージ仮想化技術でストレージを論理的に統合

 そこで、近年注目されているのがストレージ仮想化技術である。ストレージ仮想化技術とは、SANに接続された複数のストレージを束ねて仮想的なストレージプールを作成し、サーバーからストレージの物理構成(種類、配置、容量など)を隠すことにより、ストレージリソースの利用を効率化し、高い可用性と集中管理を可能にする技術だ。ストレージ仮想化技術を導入することで、ストレージの物理構成によらず、必要に応じて必要な容量のストレージをユーザーに提供できるようになる。

 「ストレージ仮想化技術は、ストレージの物理的な属性を完全に隠蔽する役割を果たします。あらゆるハードウェアを“リソース”(論理的なオブジェクト)という形でハンドリングできるため、共通の管理技術を適用できるようになります(本間氏)」

 「また、ディスク装置やテープ装置といったあらゆるストレージデバイス、そしてこれらの中のデータ領域を“キャパシティ”として扱えるようになります。例えば、ディスク装置からテープ装置へのバックアップは、ディスク装置というキャパシティからテープ装置という別のキャパシティへのデータ移動に抽象化されます。同様に、リモートサイトへのリモートコピーは、プライマリサイトにあるディスク装置というキャパシティからリモートサイトにあるディスク装置というキャパシティへのデータ移動に抽象化されます。このように、キャパシティ間のデータ移動という単純な処理に置き換えるだけでデータの保護レベルを自由に変えられるのが、ストレージ仮想化の大きな利点です(本間氏)」

 多くの企業にありがちな例として、ストレージ仮想化技術が大いに役立ちそうなのは、異なるベンダの製品が混在するストレージ環境を統合するケースだろう。例えば、HP製以外のディスク装置を利用していた企業がHPの製品を新たに導入し、こちらにデータを移し替えるケースは往々にしてある。このとき、導入したばかりのHPのディスク装置に、いきなりすべてのデータを移し替えるのはあまりにも危険すぎる。そこで、ストレージ仮想化技術によって、すべてのストレージを束ねて一つの仮想ストレージプールを作成し、その中でゆっくりとデータを移行していけばよい。


CASAを導入することで、SANに接続された異なるベンダのストレージデバイスを効率よく統合できる。ユーザーは、ストレージデバイスの物理構成にかかわらず、抽象化された“リソース”または“キャパシティ”としてストレージを扱えるようになる

距離の離れたSANアイランド同士を結ぶゲートウェイ、ブリッジをCASAの仮想プールに開放することで、ストレージデバイスの物理的配置や使用プロトコルに関わらず、SANアイランドを単一の大規模SANとして論理的に統合できるようになる
 「HPは、ディスク装置やテープ装置だけでなく、ストレージ仮想化を実現するHP OpenView Continuous Access Storage Appliance(以下、CASA)も発売しています。CASAの下には、他社のディスク製品を含むさまざまなストレージを接続し、これらを単一の共有ストレージとして管理できます。また、必要に応じてストレージ容量の割り当て、再割り当て、追加が可能ですので、効率と柔軟性が大幅に向上します。CASAによって、HPの新しいストレージにデータを安全かつ円滑に移行できますが、同時に旧ストレージの再利用も容易になりますので、旧ストレージが無駄になるようなこともありません(渡辺氏)」

 最近では、IPネットワークを利用してSAN間の長距離接続を実現するIPストレージが注目を浴びている。SAN間を接続するプロトコルには、FCIP(Fibre Channel over TCP/IP)、iFCP(Internet Fibre Channel Protocol)、iSCSI(Internet Small Computer System Interface)などがあるが、これらを意識しない形で遠隔のSANアイランドを相互に接続するにはストレージ仮想化技術が威力を発揮する。

 「距離の離れたSANアイランド同士を接続するには、アイランドの出入り口にファイバチャネルフレームとFCIP、iFCP、iSCSIといったIPストレージプロトコル間の相互変換を行うゲートウェイやブリッジを設置します。このとき、これらの“門”をCASAの仮想プールに開けることで、ストレージデバイスの物理的な配置や使用プロトコルによらず、あたかも一つの大規模SAN上でストレージを運用、管理できるようになります。いわば、SANは大きな海であり、その中の浅いところ、深いところ、水温の高いところ、低いところなど、さまざまな条件を持った海域を適材適所で使い分けるような感じです(本間氏)」


 次回は、HPのストレージ戦略の大きな柱をなすENSAextended(Enterprise Network Storage Architecture Extended)の概要と、これによって実現される次世代のエンタープライズ・ストレージ像について取り上げる。



URL
  日本ヒューレット・パッカード、HP StorageWorks
  http://www.hp.com/jp/storageworks



( 伊勢 雅英 )
2003/11/04 08:35

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