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日本ヒューレット・パッカードに聞く次世代のストレージ・ビジョン[後編]


 ヒューレット・パッカード(以下、HP)が2005年までに目指している次世代のストレージ・ビジョンについて、日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS製品本部 本部長の本間孝秀氏とNSS市場開発本部 担当マネージャの渡辺浩二氏にお話を伺った。

 後編では、HPのストレージ戦略の大きな柱をなすENSAextended(Enterprise Network Storage Architecture Extended)の概要と、これによって実現される次世代のエンタープライズ・ストレージ像について取り上げる。


日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS製品本部 本部長の本間孝秀氏
日本ヒューレット・パッカード エンタープライズ・システム事業統括 エンタープライズ ストレージ&サーバ統括本部 NSS市場開発本部 担当マネージャの渡辺浩二氏

ストレージは電気や水道のような社会インフラとなる

ENSAextendedのフレームワーク。前回取り上げたストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)によるストレージの物理的統合とストレージ仮想化技術による論理的統合を経たストレージ“リソース”上でさまざまなデータサービスが提供される。そして、業界標準のインターフェイス(API)を通じて、さまざまなストレージソフトウェアが動作する(出典:日本ヒューレット・パッカード、以下同様)
 HPの新しいストレージ戦略は、ENSAextended(Enterprise Network Storage Architecture Extended)と呼ばれている。ENSAextendedは、旧HPが提唱していた管理に特化したアーキテクチャ FSAM(Federated Storage Area Management)と、コンパックが提唱していたストレージ仮想化技術に基づくアーキテクチャ ENSAが融合したものだ。本来の定義に従えば、ストレージは“データの保管庫”なのだが、ENSAextendedはストレージを単なる保管庫ではなく“社会インフラ”にまで押し上げる役割を果たす。

 「ストレージは、いつでもどこでも必要な人が必要なデータに常時アクセスできなければなりません。つまり、電気、水道、ガスと同じような社会インフラとなるのです。そのためには、ストレージがControllable(制御性)、Extensible(拡張性)、Resilient(復旧性)という要件を満たす必要があります。また、これからのストレージは、エンタープライズに対する“ユーティリティサービス”でなければなりません。HPは、誰もが、いつでもどこからでも適切な情報へのアクセスを可能にするストレージユーティリティを実現できるように、大きな柱となるストレージ戦略としてENSAextendedを提唱し、これに基づく製品開発とサービス提供を推進しています(本間氏)」


アプリケーション・ユーザーの視点からストレージインフラを構築できるアクティブ・インテリジェント・マネジメント

 現在到達しているENSAextendedの最も特徴的な機能は、アクティブ・インテリジェント・マネジメントである。これは、ユーザーが定義したポリシーに基づいてストレージリソースやデータの管理を自動化し、これらのストレージリソースを自由に制御できるようにするコンポーネントだ。ユーザーは、アクティブ・インテリジェント・マネジメントによって、システム管理者とアプリケーション・ユーザーという2つの視点からストレージインフラを構築できるようになる。

 従来のストレージインフラは、原則としてシステム管理者の要求に基づいて構築されていた。例えば、データの重要度、可用性、データ転送速度、システムの復旧時間など、かなり技術的な要素を考慮に入れながら、これらに基づいたストレージインフラを構築していたわけだ。

 一方、ENSAextendedのアクティブ・インテリジェント・マネジメントは、このようなシステム管理者の視点だけでなく、コスト管理を行いたい、ビジネスを失いたくない、新しいアプリケーションを導入したいといったアプリケーション・ユーザーの視点に立ったストレージインフラの構築も可能にする。ストレージを実際に利用するエンドユーザーはアプリケーション・ユーザーであり、アプリケーション・ユーザーの要求に従ったアプリケーション指向型のストレージインフラが、より優れたものになるのはいうまでもない。


定番のHP OpenViewをベースとしたストレージ管理ソフトウェア

HP OpenView Storage Area Managerは、マルチベンダのストレージ環境に対し、危機管理、容量管理、性能管理、課金管理、アクセス制御管理などをトータルに提供するストレージ管理ソフトウェアである
 そして、このようなストレージインフラの構築、運用、管理を可能にするソフトウェアスイートが、HP OpenView Storage Area Managerである。HP OpenViewといえば、古くからエンタープライズ・ネットワークの管理ソフトウェアとして定評のある製品だが、このストレージ版にあたるのがHP OpenView Storage Area Managerだ。HP OpenView Storage Area Managerは、機器構成管理を行うHP OpenView Storage Node Manager、データ容量管理を行うHP OpenView Storage Builder、性能管理を行うHP OpenView Storage Optimizer、課金管理を行うHP OpenView Storage Accountant、アクセス制御管理を行うHP OpenView Storage Allocaterという5つのコンポーネントから構成されている。

 「現在はまだ普及していませんが、これらのコンポーネントの中で特に“課金管理”が、ユーティリティ・モデルに移行する際の重要な柱になるものと考えています。ビルなどで、この部署はこれくらいの面積を使っているから、これくらいの運用コストがかかっているという算出を行うのと同様に、ストレージも“インフラ”としての運用コストを算出する必要性が生じてくるでしょう(本間氏)」

 「HP OpenView Storage Accountantは、ユーザーに割り当てられたストレージを測定(メータリング)するツールセットを提供します。これにより、部署ごとにどれくらいの容量を使っていて、それに対するコストがどれくらいかかっているのかということを正確に知ることができます。この結果、ストレージコストを管理しながらサービスを提供することで収益増加を図ったり、より顧客の需要に適した付加価値サービスを提供することでサービスの差別化を図れるようになります(本間氏)」


HP OpenView Storage Provisionerは、ユーザーに対してストレージを最適供給するツールである。手動であれば数週間を要する作業を数秒から数分に短縮できるため、システム管理者の管理時間が劇的に削減される
 さらに、HP OpenView Storage Area Managerに付加する新しいコンポーネントとして、HP OpenView Storage Provisionerがある。これは、サービスレベルなどに基づいてストレージの種類や容量を最適供給(プロビジョニング)するものだ。また、ストレージの利用状況をより正確に制御、追跡し、その結果を利用レポートとしてまとめることもできる。HPの調査によれば、ストレージの検出、ディスクアレイの設定、ホストへの論理ボリュームのマウント、変更後の監視と障害対応という、手動であれば数週間を要するストレージ提供のための作業を、HP OpenView Storage Provisionerによって数秒から数分に短縮できるという。

 「HP OpenView Storage Provisionerを使用し、手動でのストレージ提供に必要な煩雑で時間のかかる反復手順をカットすることで、システム管理者はもっと戦略的なこと、つまりストレージインフラをどのように活用すればいいのかという創造的な作業に多くの時間を割けるようになります。これまで技術者が頭をひねって考えていたことが隠蔽され、ユーザーが本当にやりたいことからそれに必要なストレージが自動的に提供されることこそが、HPの目指す真のストレージ像です(渡辺氏)」


ビジネスルールに基づいたストレージインフラの構築を可能にする

 将来的には、アプリケーション・ユーザーの視点からさらに上位に押し上げ、ビジネスルールに基づいたストレージインフラを構築できるようにするという。つまり、ストレージインフラを活用してビジネスを実際に展開するユーザーの視点から情報を管理できるようにするのだ。

 例えば、クリスマスカードをオンライン販売している会社を例にとると、この会社にとって、クリスマス前の12月10日から23日(仮にそう定める)までは非常に重要な時期となる。この時期にシステムが停止したり、データを失ったりすると、ビジネスに大きな打撃を与えてしまう。そこで、この重要な時期には、データ保護レベルを大きく高め、しかも取り扱う情報も大幅に増えるのでデータ増大にも対応できるストレージインフラを構築する必要がある。これが、ビジネスを展開するユーザーによる要求内容だ。

 従来は、これをシステム管理者に直結する技術的な要求内容に置き換え、ストレージインフラを構築していたが、これからはこうした作業をENSAextendedのソフトウェア技術によって完全に自動化していく。通常の時期は信頼性が少し低い安価なストレージで運用し、重要な時期になると高性能で可用性の高いストレージに切り替わり、データのバックアップもさらに強化されるといった一連の作業が完全に自動化できれば、システム管理者の負担も大幅に軽減可能だ。

 「ビジネスの視点に直結したストレージインフラの構築は、スナップショットやリモートコピーといった低レベルのストレージサービスとアプリケーションが連携しなければ実現できません。例えば、データベースのバックアップをとる場合、データベースを二重化(クローニング)してからアーカイブストレージ(テープ装置など)にデータを移動します。通常、データベースは内部にキャッシュを持ち、アプリケーションのトランザクションはこのキャッシュに基づいて動作していますので、トランザクションの切れの良いところでデータをコピーしないと両者のデータに不整合が生じてしまいます。現在、SNIA(Storage Network Industry Association)などでストレージサービスのAPI定義を進めていますが、それをどのようにアプリケーションと連携させるかに関してはまだ先の話です。HPは、2005年の実現を目指しています(本間氏)」


情報を“ゆりかごから墓場まで”見届けるインフォメーション・ライフサイクル・マネージメント(ILM)

 現在、多くのストレージベンダが声高に提唱しているテクノロジーに、インフォメーション・ライフサイクル・マネージメント(以下、ILM)がある。データは生成されてから消去されるまで一連のライフサイクルを持っており、ライフサイクルごとに管理方法が変化していく。従来は、これをシステム管理者の手によって逐次解決していたが、ストレージの容量が増えるに従い、運用コストが無視できなくなってきた。実際、ストレージ管理のために費やされる管理コストは、IT全体コストの中で最も比率が高いというのが現状だ。そこで、ビジネスルールに基づいてデータの管理、移動、保護などを行い、情報のライフサイクルを総合的に管理するILMというテクノロジーが登場した。


現在、システム関連の管理に多くの時間が割かれており、その中でも企業の重要資産である“データ”の保守管理には非常に多くの作業時間が必要とされる。ILMによってストレージの運用、管理を可能な限り自動化し、データ管理の時間を削減することで、本来のビジネス拡大に向けた戦略的作業に多くの時間を割けるようになる
データは、生成、更新、展開、待避、時には復元、そして最後に破棄という形で一生を遂げる。データを放置しておくと、不要なデータがストレージに蓄積されていくため、いわばストレージがデータのゴミ箱と化してしまう。そこで、データのライフサイクルに着目し、ビジネスルールに基づいてデータの管理、移動、保護などを効率的に行おうとするのがILMである

 「ストレージは情報の“入れ物”ですから、データがどのようなアトリビュート(属性)を持つかによって入れ物も変えていく必要があります。ILMは、これらの入れ物を統合的に管理し、データのアトリビュートによって入れ物を変えていくことで、情報を生成から削除まで管理していこうというものです。入れ物の種類によってどのような処理を行うのか、バックアップするのか、アーカイブするのかといったことをきめ細かく定義し、一定のポリシーに基づいて上位レイヤでこれらの作業を自動化します(本間氏)」

 「本間の話に出たアトリビュート(属性)について補足しますと、従来はデータの重要度、可用性、データ転送速度、システムの復旧時間などを考慮に入れて、ストレージシステムを組み上げてきましたが、ILMを導入すると、データをアトリビュートで制御できるようになります。例えば、“インターネットバンク”というアトリビュートをデータに与えたとします。このビジネス的な意味は、運営する企業に関わらず、24時間×365日のアクセス、高速なレスポンス、データの高可用性、短時間の復旧、長時間保存という共通のサービスレベルに置き換えられます。そこで、インターネットバンクというアトリビュートが来たら、こうしたサービスレベルを満たすストレージにデータを自動的に移行させるわけです(渡辺氏)」

 「残念ながら、ILMについてはまだ具体的なお話ができるところまで開発が進んでいません。ILMに近い概念としては、HP StorageWorks Enterprise Virtual Array(EVA)があります。EVAは、接続された物理ストレージを集約してデータプールを作成し、管理者が冗長化レベルの高低(RAID 0、1、5)など、ある種のアトリビュートをデータに定義して、それに基づく仮想ボリュームを作成します。こうした考え方をさらに拡張して、24時間×365日アクセス、高速レスポンスなどのサービスレベル、さらにこれらをグループ化したビジネスに基づくアトリビュートなどを定義し、システムに実装することができればILMが実現されます。ILMも含めて、HPが目指すストレージ像のかなりの部分を2005年に実現できる見込みです。ぜひ、これからのHPのストレージソリューションにご期待ください(本間氏)」


現在の管理手法とアトリビュート管理の違いを説明したもの。ビジネスに直結したアトリビュート(例えばインターネットバンク)が与えられたら、それに必要なサービスレベルを満たすストレージが自動的に供給される
EVAは、複数の物理ストレージを集約してデータプールエリアを作成し、ユーザーによって指定されたRAIDレベル、容量に応じた仮想ストレージをこのデータプールエリアから切り出していく。物理ストレージが完全に隠蔽され、ユーザーは冗長度というある種のアトリビュートを与えるだけで、それに必要なストレージが供給される


URL
  日本ヒューレット・パッカード、hp StorageWorks
  http://www.hp.com/jp/storageworks

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  ・ 日本ヒューレット・パッカードに聞く次世代のストレージ・ビジョン[前編](2003/11/04)


( 伊勢 雅英 )
2003/11/05 08:35

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