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アダプテックジャパンに聞くiSCSIの製品戦略 [前編]


 アダプテックといえば、SCSIコントローラやSCSIホストアダプタのトップブランドとして広く知られており、特にハイスペックのPCやワークステーションを手にするパワーユーザーにはたいへんなじみ深いベンダーである。

 近年、PCの外付けインターフェイスとしてUSB 2.0やIEEE 1394が台頭したり、ローエンドサーバーやワークステーションのディスクインターフェイスとして安価なATAインターフェイスが採用されるなど、ストレージインターフェイスにも大きな変化が見られている。そこでアダプテックは、自社技術の優位性を発揮しやすく、高い収益性を見込みやすいエンタープライズストレージ分野へと次第に傾倒していった。その中でも特に力を入れている分野がiSCSIである。今回は、アダプテックのSNG(Storage Networking Group)が推し進めているiSCSIの製品戦略について、アダプテックジャパン マーケティング プロダクトマネージャの瀧川大爾氏にお話を伺った。


アダプテックジャパン マーケティング プロダクトマネージャの瀧川大爾氏

IPネットワーク上でSCSIプロトコルを転送するiSCSI

 iSCSIは、IBMとシスコシステムズによって提唱されたのがはじまりで、発表当時はSCOT(SCSI over TCP)と呼ばれていた。iSCSIの役割を一言で説明すれば“IPネットワーク上でSCSIプロトコルを使用するためのテクノロジ”ということになる。

 ファイバチャネルによってストレージをネットワーク化するSAN(Storage Area Network)が普及しつつあるのはご存じの通りだが、最近ではSANを構築するインターフェイスとしてIPネットワークを利用するIPストレージが注目を浴びている。それを可能にするのが、FCIP(Fibre Channel over TCP/IP)、iFCP(Internet Fibre Channel Protocol)、iSCSIと呼ばれるストレージプロトコルである。これらのうち、IPネットワーク上でファイバチャネルフレームを転送する技術がFCIPとiFCP、SCSIプロトコルを転送する技術がiSCSIだ。

 iSCSIは、SCSIのさまざまなトラフィックをすべてTCP/IPパケットの中にカプセル化して転送する。最終的な出入り口は、Ethernetに代表されるIPネットワークであるため、通常のネットワークカードであってもiSCSIに対応したドライバさえあればiSCSIを利用できる。しかし、iSCSIのヘッダ処理やTCP/IP処理はサーバーのCPUで行われるため、これらの処理負荷が大きな問題となりやすい。サーバーのCPUサイクルは本来の業務に対して使われるべきであり、iSCSIの処理に費やされるのは本末転倒だからだ。

 そこで、多くのiSCSIシステムには、負荷の高いTCP/IP処理を肩代わりするTCP/IPオフロードエンジン(TOE)やiSCSI処理を行う専用のマイクロプロセッサを搭載したiSCSI HBA(Host Bus Adapter)が採用されている。アダプテックでは、TOE専用チップとしてAIC-7211(開発コード名:Vega 1)を今年5月から出荷している。同社では、このチップを特にSPA(Storage Protocol Accelerator)と呼んでいる。


(a) 通常のNIC、(b) TOE搭載のNIC(NAC、SNIC)、(c) iSCSI処理エンジンも搭載されたiSCSI HBAの比較を行ったもの。(a) はiSCSIやTCP/IPの処理がすべてサーバーのCPU上で行われる。安価に構築できる反面、iSCSIのためにサーバーのCPUサイクルを消費してしまうのが大きな欠点だ。(b) は最も負荷の高いTCP/IPの処理をNIC上の専用コントローラによってオフロードするもの、(c) はiSCSIの処理も含めてすべてHBA上で行うものだ。iSCSIの処理形態としては(c)が最も理想だが、それをいち早く製品化したのが後述するAdaptec iSCSI Card 7211である。 AIC-7211のブロックダイアグラム(出典:アダプテックジャパン)。通常のNICに搭載されるEthernetインターフェイスやホストインターフェイス、EEPROMなどに加え、TCP/IPの処理をオフロードするエンジン、大容量メモリを接続するためのメモリインターフェイスなどが搭載されている。

 そして、このSPAを拡張カードに落とし込んだ製品として、ネットワーク処理のパフォーマンスを高めるAdaptec GigE NAC 7711(以下、ANA-7711)と、さらにiSCSI処理を行うマイクロプロセッサ(StrongArmベースのインテル 80200 プロセッサ)が搭載されたAdaptec iSCSI Card 7211(以下、ASA-7211)を発売している。いずれもGigabit Ethernetをサポートしており、接続メディアとしてカッパー(銅線)と光ファイバーの両バージョンが用意されている。

 瀧川氏は、「他社はTOE対応のNIC(Network Interface Card)をiSCSI対応カードのような形で販売していることが多いですが、アダプテックはiSCSI処理に特化したiSCSI HBA、TCP/IP処理に特化したTOE対応NICという形で、用途別にきっちり分けて製品を販売しています」と話す。


TCP/IPとiSCSI処理をハードウェアでオフロードするASA-7211

ASA-7211のブロックダイアグラム(出典:アダプテックジャパン)。現在は、iSCSI処理を行うブロックとTCP/IP処理を行うブロックの2ブロック構成となっている。
 iSCSI HBAであるASA-7211は、iSCSIのヘッダ生成などを行うブロックとTCP/IP処理を行うブロックに分かれ、それぞれに専用のコントローラ、SDRAM、フラッシュメモリを搭載するなど、かなり複雑な構成がとられている。瀧川氏は、これに関して「現在はワンチップ化できていませんが、time to marketという観点から、二つのブロックに分けて製品化を急ぎました。その甲斐あって、TCP/IP処理とiSCSI処理を完全にハードウェアでオフロードする製品は、現時点でASA-7211が業界唯一の製品となっています」と述べる。

 ASA-7211のスループットは、理論値で約155MB/sec(TCP/IP MSS [Maximum Segment Size] は1408バイトに設定)、ASA-7211を推奨カードとして指定しているネットワークアプライアンスのNetApp FAS960で検証した実測値は約100MB/secである。その際のサーバーのCPU負荷率は5~6%で、本来の業務にほとんど影響を与えないレベルにまで抑えられているという。

 ちょっと気になったのは、AIC-7211(とこれを搭載する拡張カード全般)が、サーバーとのインターフェイスとして64ビット、66MHzのPCIバスを採用していることだ。すでにPCI-X 1.0(66/133MHz)対応のシステムが普及していることに加え、先行して発売されたUltra320 SCSI製品がPCI-X 1.0をサポートしている現在、このクラスのハイエンド製品に既存のPCIバスを採用するのは不釣り合いのようにも思える。

 これに対し、瀧川氏は「スループットが実質的に100MB/secくらいですので、AIC-7211に関してはPCI-Xまで必要ないと判断しました。ASA-7211を2ブロック構成で製品化したのと同じように、time to marketで製品化を急ぎたいという理由もあります。ただし、あとでお話しする次世代のコントローラ(Vega2)からは、より高いパフォーマンスを引き出すためにPCI-Xを採用します」と話す。

 なお、11月21日には、アダプテックのiSCSI HBAがWindows環境での完全な互換性を確立し、マイクロソフトの「Designed for Windows Logo」を取得したことが発表された。「マイクロソフトのiSCSIドライバは、普通のNICを使用してもiSCSIの環境を構築できるのが大きな特徴です。極端な例では、ノートブックにオンボード搭載されたネットワークであってもiSCSIを利用できますので、よりNAS的に使いたい方には最適といえるでしょう。一方、アダプテックのiSCSIドライバは、TCP/IPの処理をハード的に行うことに加え、将来のチップが提供する付加機能も想定して設計されています。基本的にはサーバーとストレージ間の接続に使用されるもので、安定性と信頼性を重視してシステム構築を行いたい方に使っていただけたらと思います(瀧川氏)」


ネットワーク負荷の低減とパフォーマンス向上に特化したANA-7711

ANA-7711のブロックダイアグラム(出典:アダプテックジャパン)。ASA-7211からiSCSI処理のブロックを省略した形となっている。
 もう一つのANA-7711は、ASA-7211からiSCSIのブロックを取り除き、TOEのブロックだけを残した製品である。ちょうどGigabit Ethernet NICのTOE版に相当し、アダプテックはこのタイプの製品をNAC(Network Accelerator Card)と呼んでいる。瀧川氏は、ANA-7211を開発した経緯とこの製品が狙うアプリケーションを次のように説明する。

 「グラフィックス専用バスとしてAGPが登場し、AGP接続の専用カードでグラフィックスのあらゆる処理を行うのが当たり前となったように、ネットワークの世界にもそのような時代が訪れるだろうと思っています。特に10Gigabit Ethernetが登場すると、ネットワーク処理に対するCPU負荷が大きく高まり、従来型のNICではもはや対応できなくなります。これに対処すべく、将来的にはTOEをオンボード搭載することが一般的になると予想されますが、それに先駆けてストレージ関連のネットワーク負荷を削減する目的でANA-7711を開発しました」

 「NACは、ストレージ間でのファイルレベルI/Oに対するサーバーのCPU負荷を軽減することで、アプリケーションの応答時間を短縮し、同時に伝送メディア(ANA-7711ならばGigabit Ethernet)のライン速度に限りなく近いスループットを目指します。これにより、LANをベースとしたバックアップ、大規模なNAS環境でのファイル転送、NASのストレージを使用したビデオ編集などの用途で大きな効果を発揮します」


NACの必要性を垣間見られるベンチマーク結果と導入事例

Chariotのテストプラグラムを利用したベンチマーク結果(出典:アダプテックジャパン)。横軸がブロックサイズ(パケット要求サイズ)、縦軸がCPU負荷 1%あたりのスループットを表す転送効率である。
 ANA-7711については、いくつか面白いベンチマーク結果がある。右図は、Chariotという外部のベンチマーク機関が作成したベンチマークテストを使用した計測結果である。Gigabit Ethernetに対応したインテルのNIC、アラクリテックのSNIC(Storage NIC)、アダプテックのANA-7711を使用し、インテルはWindows 2000とLinux 7.2、アラクリテックはWindows 2000、アダプテックはLinux 7.2の環境で転送ブロック別にスループットとCPU負荷率を計測したものだ。

 ここで注目したいのは縦軸のefficiency(転送効率)で、これはCPU負荷 1%あたりのスループット(Mbps)を表したものだ。いくらスループットが高くてもCPU負荷が高くては意味がないため、低いCPU負荷で高いスループットを発揮するものを的確に見つけ出すために、このefficiencyを性能指標としている。計測結果は、どのブロックサイズにおいてもANA-7711のefficiencyが突出している。一般にNASやデータバックアップで用いられるブロックサイズは4~16KB、ビデオ編集で用いられるブロックサイズは64~128KB前後といわれているが、いずれのブロックサイズにおいてもインテルの約2倍、アラクリテックの約1.5倍のefficiencyをはじき出している。


NetBenchを用いて計測したNICおよびNAC搭載サーバーのベンチマーク結果(出典:アダプテックジャパン)。NAC搭載サーバーでは、スループットが飽和する限界点がさらに上に伸びている。
 さらに、ファイルサーバーにおけるNICとNACの比較を行ったものが右図である。NICを搭載したファイルサーバーは、ファイルを読み書きするクライアントPCの台数が増えていくと、あるライン(右図のグラフでは56台)でスループットが飽和してしまう。しかし、これをANA-7711に切り替えることで、限界値がさらに伸び、クライアント数が88台の時点で約30%もスループットが向上している。

 このようなNACの利点を生かした導入事例が、英国のインペリアルカレッジ(Imperial Collage of Science, Technology and Medicine)のファイルサーバー環境だ。朝、学生がカレッジに来て、ラボ内のPCの電源を入れると、ファイルサーバーに対するトラフィックが集中して応答が極端に悪くなるという問題を抱えていた。これまで、この問題に対処するには、サーバーを追加して負荷分散を行う方法しかなかったが、サーバーのNICをNACに切り替えることにより、サーバーを増設することなく問題を解決できたという。サーバーを追加した場合には約1万5500ドルの初期コストがかかるが、既存サーバーのNICをNACにアップグレードした場合には2100ドルしかかからず、実に1万ドル以上のコスト削減に成功したそうだ。


 後編では、アダプテックの次世代製品に関する最新ロードマップと、アダプテックが考えるiSCSIの魅力について取り上げる。



URL
  アダプテックジャパン
  http://www.adaptec.co.jp/

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  ・ アダプテックジャパンに聞くiSCSIの製品戦略 [後編](2003/12/09)


( 伊勢 雅英 )
2003/12/08 00:10

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