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アダプテックジャパンに聞くiSCSIの製品戦略 [後編]


 アダプテックのSNG(Storage Networking Group)が推し進めているiSCSIの製品戦略について、アダプテックジャパン マーケティング プロダクトマネージャの瀧川大爾氏にお話を伺った。後編では、アダプテックの次世代製品に関する最新ロードマップと、アダプテックが考えるiSCSIの魅力について取り上げていく。


アダプテックジャパン マーケティング プロダクトマネージャの瀧川大爾氏

iSCSIとTCP/IPの処理回路をワンチップ化したVega 2

Vega 2をカードに落とし込んだASA-7220のブロックダイアグラム(出典:アダプテックジャパン)。iSCSI処理とTCP/IP処理のワンチップ化により、現行のASA-7211と比較してカード全体の構成が非常にシンプルになっている。
 前編では、自社製のTCP/IPオフロードエンジン「AIC-7211」を搭載したiSCSI HBA(Host Bus Adapter)のASA-7211と、ネットワークアクセラレータのANA-7711について説明したが、アダプテックがiSCSIに対してさらに攻勢をしかけてくるのは、2004年の始めに量産開始予定の第2世代コントローラ「Vega 2」が登場してからである。また、Vega 2をカードに落とし込んだASA-7220は、2004年の半ばごろに登場する予定だ。

 Vega 2は、iSCSIとTCP/IPの処理回路をワンチップ化したiSCSI TOE ASICである。Vega 1では、iSCSIの処理に専用のマイクロプロセッサを追加する必要があったが、Vega 2はiSCSIの処理も含めてすべての作業をワンチップでまかなえる。また、データ暗号化などに使用されるIPSecエンジンを内蔵しているのも大きな特徴だ。瀧川氏は「Vega 2は自社ですべてデザインを起こしていますが、これまで設計してきたあらゆるコントローラの中で最もヘビーで複雑なものになりました。しかし、iSCSI処理エンジンとTOE、さらにはIPSecのようなセキュリティソリューションまでを含むiSCSI ASICは、Vega 2が業界で唯一の製品となります」と話す。

 さらに、Gigabit Ethernetポートが2ポートに増える。これに伴い、サーバーとのインターフェイスにはPCI-X 1.0 133MHzが新たにサポートされる。2ポートの使い方は、iSCSIまたはNAC用として2ポートを独立して使用するのはもちろんのこと、マルチファンクションPCIデバイスのサポートによって、それぞれのポートをiSCSI用とNAC用のいずれかに使用し、1枚のカードで複数の機能を自由に混在させられる。

 瀧川氏は、「マルチファンクションPCIデバイスのサポートは、“NICとiSCSIのカードを2枚とも装着する形では不便”という市場からの要求によって生まれたフィーチャーです。この機能によって、1枚の拡張カードでありながら、TOEの部分を使ってNACとしても使用できますし、iSCSIの部分まで完全に使ってiSCSI HBAとしても使用できます。この柔軟性の高さがVega 2の大きな魅力です」と説明する。

 また、ポートトランキング機能によって2ポートを束ねてデータ帯域幅を2倍に拡張したり、さらにカード自体を拡張することで2枚ならば4ポートで4倍、3枚ならば6ポートで6倍といった具合でスケーラブルに帯域幅を拡張できる。現在、ファイバチャネル製品は2Gbps(FC2)のものまでが製品化されているが、Vega 2ならポートトランキングによってファイバチャネルを上回る帯域幅も簡単に実現可能だ。「ポートトランキング機能は、自社製のミドルウェアによって提供されます。なお、現時点では何枚のカードまでトランキングできるようにするかはまだ決まっていません(瀧川氏)」


アダプテックのiSCSI製品ロードマップ(出典:アダプテックジャパン)。2004年始めに第2世代のVega 2が登場し、これをカードに落とし込んだASA-7220は2004年半ばに発売する予定だという。さらに、2005年に入るとPCI Expressのサポートが加わる。
 将来的な動向としては、PCI Expressや10Gigabit Ethernetのサポートも注目したいポイントだ。アダプテックの製品ロードマップによれば、PCI Expressは2005年の上半期に改めて登場するVega 2でサポートされる。これに伴い、PCI Express仕様のVega 2搭載iSCSI HBAも追って登場することになる。また、2005年下半期には第3世代ASIC「Vega 3」が登場予定だが、現時点ではPCI Expressのサポートのみが決定しており、それ以外の仕様については「今まさに議論している(瀧川氏)」状態なのだという。

 10Gigabit Ethernetについては、現時点ですでに10Gigabit Ethernetに対応したスイッチなどが登場しているものの、瀧川氏はこれに関して「費用対効果を考えると、今すぐに10Gigabit EthernetでIP SANを構築するのは現実的ではないでしょう。当面は、Gigabit Ethernetとポートトランキング機能の組み合わせによって、必要な帯域幅を稼ぐ形がベターです」と説明する。


ファイバチャネルより安価で互換性もきわめて高いiSCSI

 さて、iSCSI HBAの準備が整ってきたことは分かったが、iSCSIを利用してストレージをネットワーク化することにどんなメリットがあるのだろうか。

 まずいえるのは、iSCSIがSCSIとIPという枯れた技術を使っているため、互換性や相互運用性の問題が発生しづらいということだ。「ファイバチャネルのときは、互換性の問題をメーカーがわざわざ作った経緯があります。しかし、iSCSIは見た目こそ新しいテクノロジですが、その中身はIP、SCSIという非常に枯れた技術に基づいています。従って、わざわざ互換性や相互運用性の問題を作って、囲い込み戦略によるマーケティングを行おうとしても、iSCSIでは原理的にできないことなのです(瀧川氏)」


アダプテックが試算したDAS、iSCSI、ファイバチャネルのコスト比較データ(出典:アダプテックジャパン)。設備に必要な初期コスト、運用管理に必要なコストのいずれもiSCSIが安く、この優位性は年を追うごとに目立ってくる。
 このようなオープンなスタンスから生まれたiSCSIは、もちろんコストも安い。ある構成での比較になるが、アダプテックが試算したDAS(Direct Attached Storage)、iSCSI SAN、ファイバチャネルSANのコスト比較データを見てみよう(右図)。

 初期投資コストは、サーバーにストレージを直結するDASが最も安価で、ファイバチャネルが2倍以上のコストを余儀なくされる。iSCSIは、HBAやスイッチなどが安価なため、DASよりも少し高い程度で済む。管理コストは、サーバーとともにストレージも分散しやすいDASが最も高価になる。ファイバチャネルはDASの6割ほど、iSCSIはファイバチャネルを扱えるエンジニアに比べてネットワークエンジニアが多いという理由からファイバチャネルよりもさらに安価で済む。この傾向は年を追うごとに強くなり、iSCSIの優位性が目立ってくると結論づけられる。


iSCSIソリューションのターゲットをミドルレンジに置く

 ここまでは実に素晴らしい話なのだが、筆者がいくつかの大手ベンダーと話しているといつも耳にするのが、“SANの中核はファイバチャネルにありき”という言葉だ。SANのアイランドをファイバチャネルで構築することに変わりはなく、それを大規模化していき、さらにDR(Disaster Recovery)目的などで遠隔のSANアイランド同士を接続するときにIPストレージの技術が用いられるという。つまり、IPストレージはファイバチャネルSAN間を結ぶ補完技術であって、それ単体でIP SANを構築するものではないという考え方だ。

 実際、筆者は大手ベンダーがファイバチャネルにこだわる理由について“ファイバチャネルならば大きなマージンをとれるから”という話を耳にしたことがある。そもそもこれまで10年くらいにわたってファイバチャネルという技術に対して投資してきたわけなので、それに対するリターンを保護する必要があるのは当たり前の話だ。iSCSIのように新しい技術でありながら低価格なソリューションであっては収益が減ってしまい都合が悪い。大手ベンダーの立場に立つと、この理由も分からなくはない。

 瀧川氏は、こうした考え方に対して次のように説明を加える。

 「大手ベンダーが見ているマーケットは、どちらかというとハイエンドの基幹系サーバーストレージ環境がメインです。現在、あらゆる規模の企業でデータの容量が大きく増えていく傾向にありますが、こうした条件下でストレージを一元的に管理しながら容量を増やしていくには、ファイバチャネルならばもちろん可能ですが、コストが非常に高く付きます。また、管理が難しく、ファイバチャネルに通じたエンジニアも少ないのが現状です。さらに、スイッチ間の互換性の問題もまだ残っています。このように、ファイバチャネルはいろいろな面で敷居が高く、中小企業がすぐに手を出せるソリューションとはいえません」

 「一方、弊社が見ているiSCSIソリューションのマーケットは、あくまでもミドルレンジです。これまでSCSI製品を数多く輩出してきたメーカーがいうのも心苦しいのですが、従来型のSCSIには限界があります。簡単に使えたり、スピードが速いといった利点はあるものの、サーバーが分散していき、ストレージへの要求が高まっていくにつれて、SCSIで場当たり的にストレージを増やすのはもう限界といえます。そこで、iSCSIのようなブレークスルーとなりうるテクノロジが必要だったのです。iSCSIならば、既存のIPネットワークを使用できますので、機器コストが大きく下がります。また、IPネットワークに通じたエンジニアは数多くいますから、管理コストも下がります。ファイバチャネルで解決しようという問題を安価に実現するには、まさにiSCSIがベストだと考えています」

 「ただし、すでにファイバチャネルでSANを構築している大企業が、いきなりiSCSIに切り替えることはないでしょう。こうした大企業にとってiSCSIは補完的な技術にとどまるかも知れませんが、マルチプロトコル対応のストレージスイッチを介してファイバチャネルとiSCSIの相互変換も行えますから、両者がうまく共存することは十分に考えられます。もちろん、これからSANを導入しようとする中小企業にとっては、iSCSIが魅力的な存在となるでしょう」


iSCSIの導入事例は2004年から急速に増えていく

 iSCSIの魅力も十分に伝わったが、実際にiSCSIのみでSANが構築される例はどれほどあるのだろうか。私事だが、筆者は今年3月に洋書の日本語訳書「IP SAN - インターネット時代のストレージ・ネットワーキング技術(Tom Clark著、ソフトバンクパブリッシング社、ISBN4-7973-2185-7)」を発売している。IPストレージの早期の立ち上がりを期待して投入した書籍なのだが、ちっとも売れていない……。日本では、まだIPストレージが認知されていないということか。瀧川氏は、特にiSCSIに絞ったマーケットの現状を次のように説明する。

 「日本では、iSCSIに対する期待値は、昨年あたりは非常に高かったのですが、なかなか規格が策定されず、結局今年の2月までずれ込んでしまい、膨らんだ期待度が一気に落ち込んでしまいました。しかし最近になって、米国ではアダプテック社内に加え、企業や研究機関などからもいくつかの導入事例が出てきており、これらが日本にも浸透してくれば確実に風向きが変わってくるでしょう」

 「日本国内のベンダーからもiSCSI対応のストレージがいくつか登場していますし、ネットワークアプライアンスのような従来はNASで有名だったベンダーもiSCSI対応のモジュールを発売するなど、ストレージ側のiSCSI対応がかなり進んできています。弊社も、2004年の第1四半期にはiSCSI-to-シリアルATA接続の外部ストレージ「DuraStor」を発売する予定です。このため、ストレージ側の装置がないと市場自体が盛り上がらないという状況が、今年末から来年にかけてかなり改善される見込みです。また、弊社のiSCSI HBAに関しては、検証目的、実際に構築する前の試験導入を目的として購入されるケースが増えています。さらに、バックグラウンドでは、遠距離で接続できないかなどといった問い合わせが急増しており、2004年以降はかなり期待できるかなという実感が沸いています」

 瀧川氏が予想するようにiSCSI市場がバンバン盛り上がって、ついでに筆者の書籍も売れてくれれば非常にありがたいところだ。



URL
  アダプテックジャパン
  http://www.adaptec.co.jp/

関連記事
  ・ アダプテックジャパンに聞くiSCSIの製品戦略 [前編](2003/12/08)


( 伊勢 雅英 )
2003/12/09 00:00

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