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データコア・ソフトウェアに聞くストレージコスト大削減術 [後編]


 データコア・ソフトウェア(以下、データコア)の代表取締役社長であるピーター・トンプソン(Peter Thompson)氏と取締役副社長の佐藤宣行氏に、ストレージコストを削減する画期的な方法と同社の主力製品であるSANsymphonyとSANmelodyの特徴をお聞きした。最終回となる後編では、ストレージ業界の常識を覆すストレージ制御ソフトウェア「SANmelody」とデータコア製品の実際のパフォーマンスについて取り上げる。


データコア・ソフトウェア 代表取締役社長のピーター・トンプソン氏(左)と取締役副社長の佐藤宣行氏(右)

単体のディスクストレージにもコスト削減のメスを入れる「SANmelody」

SANsymphonyとSANmelodyの位置付け(出典:データコア・ソフトウェア)。SANsymphonyでストレージ全体のコスト削減を、SANmelodyで各ストレージのコスト削減をそれぞれ推し進める。「ちょうどSANsymphonyは兄、SANmelodyは弟の関係にあります(トンプソン氏)」
 SANsymphonyは、ストレージ仮想化という視点からハードウェアとソフトウェアの分離を成し遂げた製品だが、もう少しミクロな視点から観察すると、ディスクストレージそのものも、SANsymphonyと同じ考え方によってコスト削減できることが分かる。これを具現化したのが、2003年第4四半期より出荷を開始した新しいストレージ制御ソフトウェア「SANmelody」である。

 「多くのストレージベンダーは、ハードウェアとソフトウェアを一体としたディスクストレージを販売しています。しかし、各種サーバーコンピュータがIAサーバーとWindowsに分かれたように、ストレージもコストが劇的に下がっているハードウェアと高付加価値のストレージ制御ソフトウェアに分離されたら、ストレージの利用価値を保ちつつ、性能向上の著しいIAサーバープラットフォームを使用しながら、同時にコストも削減できるでしょう。このコンセプトを現実のものにし、しかもそれが正しいことを証明するためにSANmelodyを発表しました(佐藤氏)」

 「ストレージコスト全体に対するハードウェアのコストは微々たるものかもしれません。しかし、このデフレの時代に、SANmelodyによってストレージ利用の価値を保ちながら数百万円単位でも一千万円単位でもコストを削減できるのであれば、それは企業にとって大きな躍進といえます。実ビジネスでこれだけの利益を出すには、億単位で売り上げなければなりませんからね(佐藤氏)」

 確かに、Linuxを中心としたデータセンター、エンタープライズコンピューティングの流れがひた走る中、こうした用途に見合った高機能で価格の安いストレージ(ライトストレージ)はほとんど存在しない。DRサイトを構築するにしても、リモートサイトに配置するストレージは安価なもので十分だ。しかし、仮に安価なストレージを導入しようとしても、スナップショット機能やミラーリング、レプリケーション、ハイアベイラビリティ(HA)に対応していないなど、機能の制約を受けることが多い。結局、安価なストレージが欲しくても、機能が足りないために高いストレージを購入せざるを得ないのが現状だ。

 「SANmelodyは、こうした現状を打破する重要な役割を果たすでしょう。ストレージの技術開発には大きなコストがかかりますが、SANmelodyを利用すれば、ソフトウェアにまつわる技術開発を省略できますので、あとはすでに出来上がったIAサーバーやJBODを購入するだけで、簡単にストレージを作れてしまいます。これにより、チャネルやシステムインテグレータまでもがストレージを提供できるようになります。米国で小さなscrewdriver shopからホワイトボックス サーバーが登場したように、近い将来には“ホワイトボックス ストレージ”が登場するのではないでしょうか。もしそれが現実になったら、今までのストレージ業界の常識が、特にエントリーとミドルレンジのストレージで崩れていくと思います(佐藤氏)」


SANmelodyは、IAサーバーを高性能ストレージに仕立てるストレージ専用OS

従来型ストレージとSANmelodyを搭載したストレージサーバーの違いを説明しているトンプソン氏。関西弁混じりの流ちょうな日本語で熱弁を振るっていただいた。
 SANmelodyは、IAサーバーとそれに内蔵ないし接続されたディスク装置を高機能なディスクストレージに仕立てる“ストレージ専用OS”である。SANmelodyは、SANsymphonyのストレージ仮想化技術を継承しているため、SANmelodyが動作するストレージサーバー同士で仮想ストレージプールを作成することも可能だ。また、2台のストレージ間で同期ミラーを行ったり、スナップショットを作成することもできる。トンプソン氏は、従来型ストレージとSANmelodyが動作するIAサーバーの違いを次のように説明する。

 「従来型ストレージは、CPU、コントローラ、I/Oチャネル、キャッシュメモリ、ファームウェアを含むストレージ制御ブロックとディスクドライブ(HDD)から構成されています。しかし、ディスクドライブについては、SANmelodyが動作するIAサーバーに搭載されるものとまったく同一です。両者で異なるのは、ストレージ制御ブロックのみです。しかし、このストレージ制御ブロックをIAサーバーに切り替えれば、低価格化とパフォーマンス向上を両立できてしまいます」

 「まず、CPUですが、従来型ストレージは現時点でせいぜいPowerPC 900MHzあたりが限度ですが、IAサーバーならば3GHzオーバーのPentium 4やXeonプロセッサが当たり前のように搭載されています。また、マルチプロセッサ構成とすることで、さらに処理性能を稼ぐこともできます。キャッシュメモリは、IAサーバーに搭載されたメインメモリ(SDRAM DIMM)をそのまま転用できます。従来型ストレージの専用キャッシュは非常に高価ですが、IAサーバー向けのDIMMならば安価ですし、入手も容易です」

 「I/Oチャネルは、IAサーバーではHBAベンダーが開発した高性能なファイバチャネルHBAやGigabit Ethernet NICを使用できます。従来型ストレージは、開発スパンの都合上、新製品に対しても前のモデルのI/Oチャネルをそのまま搭載するケースがほとんどです。また、従来型ストレージのコントローラやファームウェアに代わるものがSANmelodyですが、これはいうまでもなく非常に安価で高機能なものです。このように、SANmelodyを搭載したストレージサーバーならば、お求めやすい価格に抑えつつ、従来型のミドルレンジ、ハイエンドストレージにも匹敵する豊富な機能と高いパフォーマンスを達成できるのです」

 「また、ミドルレンジ以上のストレージに不可欠なハイアベイラビリティ構成も容易に実現できます。通常、従来型ストレージは、ストレージ内部のコンポーネントを冗長構成にすることで可用性を確保していますが、SANmelody搭載ストレージならば、ミラーリング方式で簡単にハイアベイラビリティを構成できます」


 執筆時点ですでにSANmelodyを導入した大手ベンダーの製品も登場している。その筆頭が、IBMのIBM eServer xSeries ストレージ・ソリューション・サーバー(Type345-S for SANmelody、Type445-R for SANmelody、Type445-FR for SANmelody)である。詳細な仕様は、IBMの製品紹介ページをご覧いただくとして、ここで注目したいのは大手ストレージベンダーでもあるIBMがSANmelodyを採用したという事実だ。

 「主要なストレージベンダーは、先ほどお話をしたように自社でストレージ本体やストレージ仮想化技術などを研究・開発しており、これまでに膨大な投資をしてきたことでしょう。それにも関わらず、データコアのパートナーとなり、データコアの製品をエンドユーザーの皆様に出荷していただいています。当然、このような決断を下すために、ストレージベンダー自らが弊社に足を運んで実際に検証を行っていただきました。その結果として、データコアの製品が優れていること、そしてもはや自社のソリューションの一部としてデータコアの製品を取り込んでいく必要があると判断されたのだと思います(佐藤氏)」

 「実は、会社を設立したときには、SANmelodyの製品化を先に考えていました。しかし、会社に信用がない状況でいきなり発売しても意味がないと判断し、まずはSANsymphonyで大きな企業と信頼関係を結ぶことから始めました。SANmelodyは、構想を長らく暖めて、最近になってようやく発売された待望の製品なのです(トンプソン氏)」

 「たぶん、当時のIAサーバーに搭載されているCPUでは、SANmelodyを搭載してもあまり高いパフォーマンスが得られなかったでしょう。ですから、3GHzオーバーのCPUが登場した現在にSANmelodyを投入したのはタイミング的にも正解だったと思っています。今後、Itanium 2のような64ビットCPUも安価に登場してくるでしょうから、データコア製品の動作プラットフォームもさらに豊かなものになります。64ビットプラットフォームが本格化したら、SANsymphonyもSANmelodyもその価値がきっと大いに認められることでしょう(佐藤氏)」


Windowsベースでソフトウェアを開発した理由

 SANsymphonyやSANmelodyは、OSのプラットフォームとしてWindows 2000 Server/Advanced ServerあるいはWindows Server 2003を採用している。近年の市場動向を見ると、コスト削減のためにはLinuxなどのフリーUNIXを採用するケースが一般的だが、データコアはあえてWindowsを選択したのだという。佐藤氏は、この理由を次のように説明する。

 「Encore Computerからスピンアウトしてきたエンジニアは、基本的にUNIXと大型ストレージ向けのキャッシュテクノロジに精通していました。彼らが、Encore Computer時代に完成させた一番最初のストレージコントローラは、AIXベースで動作するものです。また、Sun Microsystemsに買収されたときには、Sun StorEdge T3 Arrayのストレージコントローラも設計しましたので、Solarisベースのものも手がけています」

 「それなのに、なぜデータコアになってWindowsを選択したのかといいますと、これはさまざまなOS向けのソフトウェアを開発し、そのパフォーマンスを検証した結果、最終的にWindowsが最も高いパフォーマンスを引き出せることが確認されたからなのです。UNIX/Linux系製品では、あるタスクが予測可能で一貫性のある時間枠内で完了することを保証できないのですが、Windowsはマイクロカーネルの中で確定的割り込み処理を提供しています。そこで私たちは、このWindowsの特徴を利用してI/O処理の遅れによる性能劣化の問題を解消しました。また、Windowsは、API(Application Programming Interface)がしっかりしていることも大きな利点です。このように、UNIXとリアルタイムOSに精通したプロがあえてWindowsを選択したのには大きな理由があったのです」

 「さらに、元インテルという立場から説明を付け加えますと、ストレージソフトウェアを動作させるプラットフォームとしてIA(Intel Architecture)を選択したことも大きなポイントになっています。通常、多くのストレージに搭載されているストレージコントローラでは、フラットなアドレスを使用し、アドレスポイントがどこに飛んでいくか分からないような環境下でファームウェアを開発しています。しかし、IAプラットフォームは、セグメンテーションというメモリー管理機構があるため、プログラミングエラーによる範囲外のスペースへのアドレッシングを防ぐことができます。過去、IAプラットフォームにて通常のアプリケーションソフトウェアを開発する際にはセグメンテーションによる不便を感じるケースも見受けられましたが、ストレージ制御ソフトウェアを設計する上ではまさにベストな環境であると考えています」

 「よく“Windowsは不安定だ”といういわれなき誤解がありますが、検証済みのハードウェアで構成し、認証を受けたソフトウェアのみを走らせる環境では、Windowsもきわめて安定して動作します。また、SANsymphonyやSANmelodyは、弊社のサティフィケーション資格を取得しているエンジニアが責任を持って立ち上げます。実際、フランスの製薬会社の日本法人、アベンティスファーマ株式会社では、SANsymphonyの稼動が始まって以来、現在に至るまで7カ月間まったくトラブルが発生していないと報告を受けております。このように、IAプラットフォーム、Windows、データコア製品の組み合わせから生まれる高い安定性は、お客様の実績からもしっかりと裏付けられているのです」


パフォーマンス世界一の記録を塗り替えるデータコア製品

 最後に、データコア製品で忘れてならないのが、高いパフォーマンスである。トンプソン氏と佐藤氏は、インタビュー中、データコア製品の高いパフォーマンスについて終始強調していたのが印象深い。

 「すでにストレージ仮想化についてご存じの方は数多くいらっしゃいます。また、形はどうであれ、ストレージ仮想化技術をソリューションとして提供しているベンダーも出てまいりました。しかし、お客様にとって最も大事なことは、本当にハードウェアに依存せずにストレージやアプリケーションサーバーをすべて接続でき、しかもその上で希望どおりのパフォーマンスが発揮されるかどうかということです(佐藤氏)」

 実際、ストレージ仮想化を導入するとシステム構成が複雑になるため、パフォーマンスが落ちるのでないかという不安を持つユーザーも多い。そこで、データコアはこの問題にきちんと答えるために、SPC-1 Benchmarkのベンチマーク結果を大々的に公表している。SPC-1 Benchmarkとは、ストレージのパフォーマンスを評価する非営利団体、Storage Performance Councilが開発した客観性の高いベンチマークテストである。

 データコアが発表した8月13日付けのプレスリリースによれば、SANsymphonyは、3ノードSDSの構成において世界で初めて50,000 SPC-1 IOPSを突破したという。このとき使用したストレージの価格は約30万ドルで、従来型ストレージのミドルレンジモデルの半分以下、ハイエンドモデルの3分の1から5分の1でしかない。この結果、SPC-1 Price-Performance(1 SPC-1 IOPSあたりの価格)は6.11ドルとなり、第2位(発表当時、Sun Microsystems StorEdge 6320、15.56ドル)の半分以下という非常に優れた結果を残している。また、ディスクドライブの台数も前回の記録保持者の3分の1と少なく、ディスクドライブあたりのIOPSについても第2位を大きく引き離している。


各社ストレージのSPC-1 Benchmarkの結果(SPC-1 IOPS)を列記したもの(出典:データコア・ソフトウェア)。データコアの3ノードSDSは、世界で初めて50,000 SPC-1 IOPSを突破した。ストレージの価格を加味し、1 SPC-1 IOPSあたりのコスト(SPC-1 Price-Performance)を算出すると、第2位の半分以下という非常に優れた成績を残している。 各社ストレージのSPC-1 IOPS per Spindleの結果を列記したもの(出典:データコア・ソフトウェア)。データコアのSDSは、少ないディスクドライブで非常に高いSPC-1 IOPSをはじき出しているため、ディスクドライブあたりのSPC-1 IOPSは他社を圧倒する。 各社ストレージの応答時間をグラフ化したもの(出典:データコア・ソフトウェア)。他社のストレージは少ないSPC-1 IOPSで長めの応答時間となるのに対し、データコアのSDSは50000 SPC-1 IOPSに達しても応答時間が10msに満たない。データコアが近い将来に競合相手を超えられると確信している理由は、この辺にもありそうだ。

 執筆時点では、富士通のディスクアレイ ETERNUS3000 モデル600Mが64,249.77 SPC-1 IOPSを達成し、SPC-1 IOPSの世界一を奪取している。しかし、テスト時に使用したストレージの価格は210万ドル以上にものぼるため、SPC-1 Price-Performanceは32.72ドルとなり、コストパフォーマンスでは依然としてデータコアが優位に立つ。

 「データコア製品はマルチスレッド化がかなり進んでおり、並列に動くようにベストフィットされています。SANsymphonyが極めて高いパフォーマンスを記録しているのも、決して偶然ではなく、ハイパー・スレッディング・テクノロジに対応したIAプラットフォームにフィットし、さらにWindowsが持つアーキテクチャの利点も生かしているからこそ得られたものなのです。残念ながら、現時点ではSPC-1 IOPSの絶対性能値では第2位となりましたが、米国本社では、SDSシステムのさらなる最適化によって、現在の性能値をはるかに上回るパフォーマンスを出せるように準備を進めているところです(佐藤氏)」

 データコアは、設立して間もないベンチャー企業だが、そのバックグラウンドには、データコア製品を自社のソリューションとして採用してくれる大手のストレージベンダーに加え、いわばIT業界のキーカンパニーともいえるインテルやマイクロソフトまで応援に付いている。「データコアは、規模こそ小さい会社ですが、実は非常に強いテクノロジリーダーシップを持った企業です。弊社のSANsymphonyやSANmelodyを使って、ぜひビックリするほどのストレージ利用効率とトータルコスト削減効果を体験していただきたいと思います。製品はすでに存在し、さまざまなパートナーさんからご購入いただけます。お客様はもうルビコン川を渡るだけ、つまり決定を下すだけなのです(佐藤氏)」



URL
  データコア・ソフトウェア
  http://japan.datacore.com/
  IBM eServer xseries ストレージ・ソリューション・サーバー:Type345-S for SANmelody、Type445-R for SANmelody、Type445-FR for SANmelody
  http://www-6.ibm.com/jp/servers/eserver/xseries/product/mel310/index.shtml
  Storage Performance Council
  http://www.storageperformance.org/

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  ・ データコア・ソフトウェアに聞くストレージコスト大削減術 [前編](2003/12/15)
  ・ データコア・ソフトウェアに聞くストレージコスト大削減術 [中編](2003/12/16)


( 伊勢 雅英 )
2003/12/17 00:00

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