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デルに聞く同社のストレージビジネス戦略 [前編]


 デルといえば、コストパフォーマンスの高いクライアントPCやサーバー製品を数多く輩出しているメーカーとして有名だが、同社がストレージ製品にも力を入れていることはあまり知られていない。今回は、デル エンタープライズシステムズマーケティング本部 ストレージプロダクトマーケティング マーケティングマネージャの中村智氏に、デルが推し進めているストレージビジネス戦略をお聞きした。

 前編では、ストレージ市場におけるデルのポジション、ストレージ製品に高い拡張性をもたらすモジュール化の概念、EMCとの協業体制について取り上げていく。


デル株式会社 エンタープライズシステムズマーケティング本部 ストレージプロダクトマーケティング マーケティングマネージャの中村智氏

ストレージ市場でもかなり良いポジションを築き上げたデル

 デルは、クライアントPCやサーバーの“箱売り”というイメージが非常に強いため、“デルがストレージを本気でやっているの?”とか“せいぜいサーバーのオマケだよね”と考えている読者も少なくないと思う。しかし、これはまったくの誤りだ。デルの中村智氏は、同社のストレージビジネスの位置付けを次のように説明する(以下、「」内はすべて中村氏の発言)。

 「TVCMの影響などもあり、デルは個人のお客様にパソコンを販売しているという印象が強いようですが、実はデルの売上の大半は法人のお客様によるものです。このため、弊社が力を入れている分野は、エンタープライズ系のビジネスが基本にあり、その中でもストレージを戦略製品として位置付けています。ストレージ製品は、サーバーの売り上げに貢献するもの、そしてシステム全体を構成する重要なコンポーネントの一つとして、確実に歩みを進めています。ストレージのビジネスを始めたのは今から8年ほど前ですが、現在ではSCSIベースのストレージやNAS製品においてかなりのシェアを確保しています」

 実際、IDC Japanの調査報告(2003年5月)をひもといてみると、デルがエンタープライズストレージ市場で非常に健闘していることが分かる。

 例えば、NASを含む外付け型Windowsディスクストレージシステムのサプライヤー別国内出荷容量推移は、2002年のシェアが出荷台数、容量ともに第1位となっている。全プラットフォームを含めたストレージ市場全体でも第5位をつけており、今後IA+Windowsプラットフォームがさらに成長することを考慮すれば、デルの順位がトップ3に食い込むのも時間の問題だ。また、最近注目を浴びているNAS製品については、出荷台数ベースで1位、出荷容量ベースで2位となっており、こちらもかなり良いポジションを築いている。


モジュール化によってストレージに高い柔軟性を持たせる

 これほどのシェアを獲得しているのであれば、もっと雑誌やTVCMなどのメディアを通じて自社のストレージビジネスをアピールしてもよさそうなものだ。

 「ご存じのように、デルは、サーバーやクライアントPCについてはナンバーワンというメッセージを皆様に積極的にお伝えしています。しかし、ストレージについては、こうした派手なメッセージを出したからといって売り上げに結びつくものだとは考えていません。製品の品質やサービスなどで確実な成果を出し、お客様に満足していただき、そこからさらに新たなビジネスが生まれるのです」

 「また、デルは、ストレージだけで独立したメッセージを作るのではなく、お客様のシステム全体を考えつつ、“スケーラブル・エンタープライズ”というキーワードのもとに、システム全体の中でのサーバー、ストレージというコンポーネントを提供したいと考えています。スケーラブル・エンタープライズとは、業界標準技術を採用したサーバーやストレージを相互接続し、柔軟性と拡張性に優れたシステムを構築するコンセプトのことです」

 「例えば、サーバーの“スケーラブル”は、基本的にサーバー本体を積み重ねていくというスタイルがとられます。一方、ストレージの“スケーラブル”は、お客様が必要としている容量、パフォーマンス、信頼性に応じて、必要なストレージのボックスを購入していただき、もしそれに拡張が必要であればボックスをさらに追加するというスタイルをとります。弊社のストレージ製品は、モジュール化(モジュラー)の採用によって、このような高いスケーラビリティを実現しています」

 「モジュール化を進めていくにあたり、ストレージという単一コンポーネントの中でパフォーマンスや冗長性、信頼性などを追求するのではなく、システム全体の中でのストレージというコンポーネント、そしてデータを格納する場所として、拡張性、スケーラビリティ、既存技術の流用、管理効率といった観点から製品化を進めています」


モジュール型の設計により、データの内容を維持しながら、ビジネスの成長にあわせてストレージの規模を拡張していくことが可能(出典:デル)。
 モジュール型を採用した同社のストレージ製品の代表例が、Dell|EMCブランドで発売しているファイバチャネル接続のディスクアレイ「CXシリーズ」だ。今月10日に発表された新製品として、CX300、CX500、CX700という3種類のラインナップがあるが、これらは従来機種との互換性を保ちながら、CX300からCX500、さらにはCX700へと順次アップグレードできるように設計されている。

 「お客様が初めてストレージを購入されるとき、最初はそれほど大きな容量を必要としていないと思います。したがって、いきなり高価で大きなストレージを購入するのではなく、CX300のような小さなストレージからスタートすればよいのです。システムを運用していく過程で、より高いパフォーマンス、容量、信頼性が必要になったら、上位モデルのCX500やCX700へとアップグレードしていきます。つまり、最小限の投資で必要なパフォーマンスを常に確保しながら拡張していけばいいのです」

 「従来のディスクストレージは、専用のCPU(ディスクプロセッサ)を搭載していることが多いのですが、CXシリーズはインテルのCPUを搭載しており、技術革新の流れにいち早く対応できます。システムをアップグレードする際にも、ディスクの内容を初期化することなく、ディスクプロセッサの基板やコンポーネントを入れ替えるだけで済みます」


EMCとの協業によるメリットとは?

デルとEMCのパートナーシップ(出典:デル)。両社の得手、不得手を互いにカバーしあえる関係となっている。
 CXシリーズに代表されるように、デルは大手ストレージ専業ベンダーのEMCと提携してストレージビジネスを推進している。中村氏は、EMCとの協業がもたらすメリットを次のように説明する。

 「弊社がSCSIベースのストレージやNAS製品でかなりのシェアを確保していることはすでにお話ししましたが、今後は、ファイバチャネルストレージの分野でもシェアの拡大を図っていきます。現在、ファイバチャネルの分野については、EMCと提携することで、効率的なデルと技術や製品で定評のあるEMCという両社のメリットを活かしたOEM製品を提供しています。デルとEMCがパートナーシップを組んで約2年が経過しましたが、すでに全社で7500社以上の実績を達成しています」

 「今回の協業で面白いのは、EMCの得意なところとデルの得意なところが見事に合致していることです。お客様は、たぶんデルが設計したストレージよりも、豊富な実績を持つEMCが設計したストレージのほうが安心感を持たれるでしょう。何でもデルが作ってデルの製品として売るよりも、お客様にとって使い勝手が良く、信頼できるものを提供した方がベストです。逆も真なりで、EMCはサーバーを扱っていませんから、デルからサーバーを提供すればベストといえます。また、デルがこれまでパソコンやサーバーで培ってきた効率的なオペレショーンをEMCストレージにも活かすことで、価格性能比に優れた製品を提供することができます。この結果、デルとEMCの協業によって、サーバー、ストレージを含むシステム全体としてベストなものをご提案できるようになりました」

 デルは、先述のように“箱売り”のイメージが強いことから、デルがハードウェアの手配を行い、サービスやサポートはEMC(日本ではEMCジャパン)が行うのではないかと考える読者も多いかもしれない。しかし、デルは、デル・プロフェッショナル・サービス(旧デル・テクノロジー・コンサルティング)と呼ばれる技術コンサルティング部門を設置しており、大半の技術サポートはデルが行っている。デル・プロフェッショナル・サービスには60名ほどのスタッフが配備されており、特にIAプラットフォームとこれらに接続されるストレージのテクノロジに精通しているという。

 「ストレージの場合は、ヘテロジニアスな環境でのシステム構築でパートナー企業の力を借りることがあります。お客様が商用UNIXからIAプラットフォームへ移行したり、既存の資産をこれからも使い続けたいという場合、こうしたヘテロジニアスな環境でデルのストレージ(CXシリーズなど)を使用するには、ストレージに関する深いノウハウが必要となります。弊社のスタッフはUNIXの専門家ではありませんので、このような時にパートナー企業と一緒になってシステムを構築しています」

 「ここ最近では、IAサーバーやWindows、Linuxといった業界標準のテクノロジを採用したサーバー、ストレージ製品による、企業の基幹業務のインフラ構築事業に注力しています。すでに、金融業界で初めてIAサーバーによる勘定系、情報系の統合システムを稼働させた新生銀行や、商用UNIXからIAプラットフォームへ移行したツタヤオンラインなど、かなり大規模な基幹システムの構築も手がけております」


 後編では、標準化をキーワードとしたデルの製品戦略、顧客に対する技術情報の積極的な公開などの話題を取り上げていく。



URL
  デル株式会社
  http://www.dell.com/jp/

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  ・ デルに聞く同社のストレージビジネス戦略 [後編](2004/02/17)


( 伊勢 雅英 )
2004/02/16 00:00

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