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デルに聞く同社のストレージビジネス戦略 [後編]


 デル エンタープライズシステムズマーケティング本部 ストレージプロダクトマーケティング マーケティングマネージャの中村智氏に、デルが推し進めているストレージビジネス戦略をお聞きした。後編では、標準化をキーワードとしたデルの製品戦略、顧客に対する技術情報の積極的な公開などの話題を取り上げていく。


デル株式会社 エンタープライズシステムズマーケティング本部 ストレージプロダクトマーケティング マーケティングマネージャの中村智氏

標準化が進んでいるテクノロジに注力するデルの戦法

 近年、ストレージの世界では、ストレージ仮想化やILM(Information Lifecycle Management)、IPストレージといった新しいテクノロジが続々と登場している。資本力の豊かなデルであれば、こうした新しいテクノロジの開発を先導したり、これらを搭載した製品をいち早く市場に投入することも容易だろう。デルの中村氏は、新しいテクノロジに対する自社のスタンスを次のように説明する(以下、「」内はすべて中村氏の発言)。

 「デルのビジネスモデルは、ニッチなところから急激に標準化が進んでいるテクノロジに着目して製品化を進めることで、そのテクノロジのメリットを最大限に発揮させようというものです。原則として、将来的にどうなるか分からないテクノロジには投資しません。したがって、デルが新しいテクノロジを牽引していくというよりは、標準化を推進しながら“安くて良いもの”をお客様に提供していくことがデルの大きな役目となります」

 「例えば、最近注目を浴びているストレージ仮想化は、ハードウェアとしてどこまでサポートすればいいのか、そしてストレージシステムとして問題が発生した場合にハードウェアとソフトウェアの切り分けをどのように行えばいいのか、などといった部分でまだ曖昧なところが数多くあります。現在、多くのベンダーが独自のテクノロジでストレージ仮想化を実現していますが、世界共通の“標準”というものが存在しません。もちろん、ベンダー独自のテクノロジであっても、それ相応のコストをかけてベンダーに手厚くサポートしてもらえば安心して使い続けられるでしょう。しかし、このようなコストパフォーマンスの低いアプローチは、デルの論理には当てはまりません」

 「そして、“バーチャル”にストレージを運用、管理するという複雑な方法よりも、一つずつのストレージコンポーネントをより分かりやすく現実的な形で牽引していくアプローチのほうが、ハードウェアベンダーとしてのデルのメリットをお客様に感じていただけると考えています。最も基本的な“ハードウェア”という切り口からも、弊社が頑張らなければならないところはまだたくさん残っています」


規格策定を終えたiSCSIのテクノロジに大きく期待

 では、標準化が急速に進んでいるテクノロジとは具体的にどのようなものだろうか。中村氏は、さらに説明を続ける。

 「サーバーの世界でいえば、IAプラットフォームや1Uサーバーなどが良い例です。ストレージならば、ファイバチャネルストレージです。テクノロジの標準化が進めば、多くのベンダーがこれに対して価格競争を繰り広げますので、製品の価格がどんどん下がっていきます。ファイバチャネル対応のディスクアレイは、一昔前であれば1000万円以上が一般的でしたが、ここ1年くらいで急激に価格が下がり、弊社が発表した新製品では、すでに200万円を切る価格(CX300ベースユニット、36GB HDD×5本)を実現しています」

 標準化が進んでいる次世代のテクノロジのうち、筆者が個人的に注目しているのはiSCSIだ。2003年には規格策定も無事完了し、これに伴いiSCSIに対応した製品も少しずつ登場し始めている。特に、Microsoft Windows Storage Server 2003でiSCSIイニシエータを標準サポートした点は大きな進展といえよう。Microsoft Windows Server Appliance Kit(SAK)の登場によって、ローエンドNASのコストが大きく下がり、爆発的に普及した経緯があるが、iSCSIをサポートしたWindows Storage Server 2003が登場したことで、CIFSやNFSといったファイルベースによる従来型のストレージサービスに加え、iSCSIによるブロックベースのストレージサービスも安価に提供できるようになる。これは、iSCSIの普及にとって強力な追い風となる。

 「デルは、iSCSIの標準化が大きく進むと考えていますので、いうまでもなくiSCSIには注目しています。ストレージは“動いて当たり前”の世界ですから、お客様の多くは新しいテクノロジに対して及び腰になりがちです。しかし、iSCSIは、IPとSCSIという十分に練られたテクノロジをそのまま採用して出来上がったものですので、その他の新しいテクノロジよりも敷居は低いと考えます。これまで使ってきたネットワークインフラもそのまま使用できますので、お客様も本格的に注目し始めるのではないでしょうか」

 「弊社は、現在のNASから一歩進んだソリューションとしてiSCSIの製品化を検討していく予定です。現在、NASは、CIFSを使用してファイルやディスクの共有を図っていますが、iSCSIを導入することでさらにパフォーマンスを高められるでしょう。今年中には何らかの形でiSCSIを搭載した製品が具体的な形になっていくと思います。そして、iSCSIを使用してメリットが生まれるソリューションを来年にかけてご提案できるように準備を進めています」


ユーザーに役立つ技術情報を積極的に公開していく

 コンピュータシステムは、人気どころのハードウェアとソフトウェアを用意しただけですぐに機能するほど単純なものではない。顧客の要望や予算に応じたハードウェア構成、それに適したソフトウェアの選定と導入、ハードウェアの処理性能を最大限に引き出すソフトウェアのチューニングなど、多岐にわたるノウハウが求められる。一般に、こうした作業を代行するのがベンダーのサービス部門や専業のシステムインテグレータ(SIer)なのだが、ノウハウのベースとなる技術情報が顧客に明かされるケースは少ない。もちろん、システム構築を検討している段階にあるユーザーが、これらの技術情報を入手することはもっと難しい。

 ユーザーは、現在検討中のアプリケーションを自社の規模で実際に運用する場合に、どのようなハードウェア構成をとればいいのか、そしてどのように運用していけばいいのかがよく分からなければ、なかなか導入に踏み切れない。だからといって、ベンダーやシステムインテグレータにコンサルティングを依頼すれば、そのシステムを導入するかどうかに関わらず、サーベイだけでかなりの費用が発生してしまう。大不況と呼ばれて久しい今日、限りある予算の中で最高のシステムを構築しようと思ったら、1円でも無駄にはしたくない。と、こんな具合に、悪循環の中でもがいているIT管理者はきっと多いことだろう。

 デルは、こうしたネガティブスパイラルを払拭する一つの切り口として、顧客への情報開示を積極的に推し進めている。

 「デルの製品は、モジュール型によるシステム拡張、クラスタリングによる負荷分散など、さまざまなアプローチをサポートしていますが、例えば1000人の規模のお客様がシステムを導入する場合、“いったいどれくらいのハードウェアを購入すればいいのか”とか、“負荷分散を行った場合には管理がどれくらい複雑になるのか”というような、さまざまな疑問にぶつかります」

 「デルは、このようなお客様の疑問を解決し、さらには一つの指標をご提供しなければならないと考えています。つまり、ハードウェアを提供するのは当たり前のこと、それ以前の段階で必要になるノウハウや技術情報もきちっとご提供する必要があると感じているのです。デルとパートナー企業が協力し、“こうやればシステムをうまく運用管理できますよ”という基本的な模範解答を示すことで、お客様は、その模範解答をもとに、ある程度ご自身の環境にあった形で運用形態を変えることができます。こうすれば、お客様自身が評価システムを借りたり、買ったりして検証を行う手間を省けますので、購入するまでの調査、検証期間を短縮できます」


 デルが最近公開した技術情報の中で特に注目したいのが、「PowerEdgeサーバーとDell|EMCストレージのMicrosoft Exchange Server 2003 パフォーマンス検証報告」だ。これは、最もサーバーとして売れている2wayのPowerEdge 2650、4wayのPowerEdge 6650、さらにはDell|EMCブランドのCXシリーズを組み合わせたシステム上で、Microsoft Exchange Server 2003のパフォーマンスを検証したものだ。ここでは、LoadSim 2003によって計測を行い、2500、5000、8000ユーザーという比較的規模の大きな環境に求められるベストプラクティス構成を導き出している。また、安価な2wayや4wayサーバーでも、2~3台のクラスタ構成をとれば十分なパフォーマンスが得られること、裏を返せば、標準化が進んだ2wayや4wayサーバーを積極的に活用することで高いコスト効率が得られることを示している。


Microsoft Exchange Server 2003 パフォーマンス検証のハードウェア構成(出典:デル)。 最大8000ユーザーのベストプラクティス構成(出典:デル)。Xeon MP 4wayのPowerEdge 6650が3台、ファイバチャネルスイッチが2台、CX600(HDD 120台以上)というコストパフォーマンス重視のハードウェア構成が推奨されている。

今後は、Microsoft Exchange Server 2003のバックアップとリストアの運用検証を行う予定だという(出典:デル)。バックアップソリューションには、EMC Replication Manager(ERM)やSnapView BCVなどが採用される
 「今後は、バックアップやリカバリーなどに関する運用検証を行う予定です。ここでは、コストパフォーマンスに優れたATAディスクによる高速バックアップソリューションを取り上げます。ディスクベースのバックアップを導入することで、一般に1日1回といわれるバックアップの頻度を数時間に1回まで短縮したり、1時間以内でリカバリーを完了するようなことが可能になります。こうしたことがテクノロジ的に可能なことは多くの人が理解できますが、問題は“それを具体的にどのように運用していくのか”という点にあります。そこで、デル自身がバックアップとリストアの検証を行うことで、この運用ガイドラインを示したいと思っています」


顧客にとってのコストパフォーマンスを常に追求する姿勢

 今回は、デルがサーバーとストレージの両方を手がけていることを中心に取り上げてきたが、サーバーとストレージを手がけるベンダーはその他にもある。具体的に挙げれば、HP、IBM、NEC、富士通などが良い例だ。では、デルならではの利点とはいったいどのようなところにあるのだろうか。

 「デルは、お客様にとってのコストパフォーマンス、特に製品単体だけではなく、システム導入にあたってのTCO(総所有コスト)をとことん追求します。これが他社との圧倒的な違いだと思ってください。他社は、新しいテクノロジや独自のテクノロジも含め、何でも揃えています。しかし、そのための開発費も余計にかかっており、開発費を回収するために製品の価格も必然的に高くなっています。一方のデルは、標準化が進んでいるテクノロジに着目することで、開発費を可能な限り抑えます。これにより、製品の価格も抑え、お客様が得られるコストメリットを最大限に高めています。例えば、同じIAサーバーだからといって、8way以上のハイエンドサーバーまで揃えるのではなく、2wayや4wayといった標準化が進んでいるサーバーに的を絞ります。そして、同じく標準化されたミッドレンジクラスのファイバチャネルストレージやテープを組み合わせるわけです」


コンピュータシステムのコンソリデーション(統合)には、いくつかの種類がある(出典:デル)。これらの中で最もROIが高いのがストレージだ。従って、SANやNASの導入によってストレージコンソリデーションを行う価値は大いにある。さらに、ここで使用するストレージ製品としてデル製品のような標準化が進んだものを採用することで、コスト効率をさらに高めることができる。
 「ROI(投資収益率)が最も高いコンソリデーションの対象は、ストレージといわれています。企業競争力やIT投資を今後どのようにするか見直されつつある現在、ストレージに対する見方はさらにシビアになっていくでしょう。そして、お客様の視点がシビアになるからこそ、デルが日夜追求している“コストパフォーマンス”に目が向けられます。デルのストレージビジネスは、これからもっと楽しくなると思います」




URL
  デル株式会社
  http://www.dell.com/jp/

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  ・ デルに聞く同社のストレージビジネス戦略 [前編](2004/02/16)


( 伊勢 雅英 )
2004/02/17 00:00

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