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日本ストレージ・テクノロジーに聞くストレージ戦略


 テープライブラリのベンダとして有名なStorageTekは、近年ディスクストレージにも力を入れており、同時に同社のテープライブラリとディスクサブシステムを効果的に組み合わせたILM(Information Lifecycle Management)戦略を推進している。また、日々急増するデータを低コストかつ安全に保管できるように、シリアルATA HDDを搭載したセカンダリ・ディスクストレージを今年2月に日本でも発表している。

 今回は、同社のILM戦略とATAベースのセカンダリ・ディスクストレージについて、日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 マーケティング本部長の吉川知男氏とマーケティング本部 シニアスペシャリストの藤田剛氏にお話を伺った。


日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 マーケティング本部長の吉川知男氏 日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 シニアスペシャリストの藤田剛氏

多段ギア方式で攻めるStorageTekのILM戦略

 ILMは、StorageTekが特に力を入れているソリューションの一つだ。データは、生成されてから消去されるまで、時間の経過によりアクセス頻度や価値が変化していく。つまり、データは一連のライフサイクルを持っている。理想論からいえば、アクセスが高速で信頼性の高いストレージにすべてのデータを常に格納できることが望ましい。しかし、高速であればあるほど、そして信頼性が高ければ高いほど、ストレージのコストも増大する。したがって、ライフサイクルの各段階にあるそれぞれのデータに対して、適切なハードウェア、ソフトウェア、サービスの組み合わせを適用することが自社のストレージ戦略を成功に導く鍵となる。StorageTekでは、こうした考え方をILMと定義している。

 例えば、アクセス頻度に着目すると、データへのアクセスは、ほとんどが作成した初日に実行されるが、7日後から急速にアクセス頻度が減少し、90日後にはほとんどアクセスされなくなるという。アクセス頻度の高低は、データの価値にも連動している。したがって、直近のビジネスに不可欠な価値の高いデータは、安全でアクセスが容易なストレージに格納し、データが日々のビジネス活動に貢献しなくなったら、そのデータをよりコストの低いストレージに格納することで、データの総所有コストを削減できる。


StorageTekが推進しているILM戦略の中での自社製品の位置付け(出典:日本ストレージ・テクノロジー、以下同様)。データ作成後の日数が経過するにつれてアクセス頻度も落ちていくため、これにあわせてデータの格納庫(ストレージ機器)を段階的に変えていくのがILMの流儀だ。なお、4種類の区分を決める具体的な日数は、使用するアプリケーションによって左右される。
 StorageTekでは、データ作成後の経過時間とデータ価値によってデータの保管場所を4種類に分けている。生成されて間もないデータはオンライン、ある程度日数が過ぎたらインライン、アクセス頻度が極端に落ちたらニアライン、もはや使われなくなったデータはアーカイブと呼ばれるストレージに保管する。それぞれの保管場所に最適なStorageTek製品を当てはめると、オンラインは高いデータ転送性能と高可用性を両立したVシリーズ(Shared Virtual Array)もしくはDシリーズ、インラインは安価で大容量のATA HDDを採用したBシリーズ、ニアラインとアーカイブはテープライブラリのLシリーズやPowderHornとなる。

 ある特定の業種では、電子メールや金融の取引情報、患者の医療データなど、法的な要件や規制準拠によって、アクセス頻度にかかわらずデータを安全にかつ長期間保管しなければならない場合もある。StorageTekでは、こうした特定の用途向けに9840 VolSafe、9940 VolSafeといったWORM(Write Once Read Many)メディアを用意している。このWORMメディアとテープライブラリを組み合わせることで、大量のデータを長期にわたり安全に保管できるようになる。


ディスクストレージ製品のラインアップ。StorageTekは、近年ディスクストレージにも力を入れており、今年2月に日本でも発表されたB280とB220ディスク・サブシステムが加わったことで、ローエンドからハイエンドまですべてのセグメントを網羅できるようになった。
 StorageTekのILM戦略で特徴的なのは、オンラインからアーカイブに至るまで、ストレージ製品がきめ細かく用意されていることだ。

 「StorageTekは、テープの開発に長い歴史がありますので、特にテープライブラリについてはL20のような小規模なものからPowderHornのような大規模なものまで、非常に数多くの製品を取り揃えています。ディスクストレージについても、近年サポートを強化してきた結果、Vシリーズ、Dシリーズ 5種類、Bシリーズ 3種類(2004年3月時点)と、かなり充実感が出てきました。ILMを構成するディスクストレージとテープの組み合わせのバリエーションは、これらのかけ算となりますので、会社全体のILMだけでなく、部門ごとのILMなど、さまざまな規模のストレージシステムに即対応できます(吉川氏)」。


今後重要性が大きく高まるセカンダリ・ディスクストレージ

 カリフォルニア大学バークレー校、ホライゾン・インフォーメーション・ストラテジーによれば、デジタルコンテンツ全体のうち、オリジナルなコンテンツは20%程度に過ぎず、残りの80%は直接の運用目的ではなくビジネスを継続するために複製されたコンテンツであるという。したがって、オリジナルコンテンツと複製されたコンテンツの効率的な保管には、ディスクストレージとテープライブラリを組み合わせたILMソリューションが威力を発揮する。

 従来は、オリジナルコンテンツとそのレプリケーションに高性能なディスクストレージを、バックアップやアーカイブにテープライブラリを採用していた。しかし、レプリケーションされたデータの大半は、高性能なディスクストレージに保管しなければならないほど重要なものではない。また、年々急増しているデータのバックアップを高速化し、バックアップウィンドウを短縮するために、テープではなくディスクを使ってバックアップを行いたいという要望も強くなっている。

 そこで登場したのが、ATA HDDを搭載したセカンダリ・ディスクストレージである。これは、セカンダリという言葉からも分かるように、あくまでも高性能なディスクストレージを補う目的、もしくは特別な用途で使用されるコスト効率重視のディスクストレージを指している。


ファイバチャネルディスク、ATAディスク、テープの特徴や適した用途などをまとめたもの。ファイバチャネルディスクはプライマリ・ストレージ、ATAディスクはセカンダリ・ストレージ、テープはアーカイブに適している。
 これまでエンタープライズで使用されるHDDといえば、SCSIないしはファイバチャネルをベースとしたものが定番だったが、近年ATAテクノロジも大きく進歩し、エンタープライズ向けのATA HDDが発売されるようになった。

 デスクトップPC向けに開発されたデスクトップクラスのATA HDD、いわゆる従来型ATA HDDは、(ある製品の例だが)8時間の通電時間と10%のデューティサイクルを想定して設計されており、MTBF(平均故障間隔)も60万時間以下と短い。しかし、サーバーの内蔵ストレージや外部ストレージ向けに開発されたストレージクラスのATA HDD、いわゆるエンタープライズ向けのATA HDDは、24時間の通電時間と30%のデューティサイクルを想定して設計され、MTBFも100万時間以上に延長されている。24時間の通電時間と80%のデューティサイクル、120万時間以上のMTBFを誇るSCSIやファイバチャネルベースのHDDには及ばないものの、十分な冗長性を持たせたRAID構成をとり、さらにはセカンダリとして使用するぶんにはATA HDDでも十分実用になる。


MB/sec重視のアプリケーションに最適なATAベースのストレージ

 では、ATAベースのディスクストレージはどのような用途に向いているのか。これは、SCSI/ファイバチャネルHDDとATA HDDのパフォーマンス特性を調べればすぐに分かる。HDDのデータ転送性能は、MB/sec性能とIOPS性能の2つによって決まる。MB/sec性能は、十分に大きなブロックのデータを連続的に読み書きした場合、すなわちシーケンシャルアクセス時の1秒あたりのデータ転送量を表している。その性能は、ディスクの記録密度と回転速度に大きく左右され、ディスクの記録密度が高くなればなるほど、そして回転速度が高速になればなるほどMB/sec性能も上昇する。

 もう一つのIOPS(Input Output Per Second)性能は、1秒あたりに処理できる読み書きの回数を表している。ただし、ブロックサイズが大きい場合には、IOPS性能の最高値に達する前にMB/sec性能が頭打ちとなってしまうため、通常は小さなブロックサイズでIOPS性能の最高値が得られる。IOPS性能は、ディスクのシーク時間、回転待ち時間、コマンドキューイングによって左右される。回転待ち時間は、ディスクの回転速度によって決まる要素なので(ディスク回転速度が高速ならば回転待ち時間は短い)、回転待ち時間を回転速度に置き換えて考えてもよい。基本的には、シーク時間と回転待ち時間が短ければ短いほど、そしてコマンドキューイングが効果的に働いていれば、IOPS性能も高くなる。


ファイバチャネルHDDを搭載したディスクストレージ(D280)とシリアルATA HDDを搭載したディスクストレージ(B280)のパフォーマンスを示したグラフ。B280のMB/sec性能(図中ではスループット)は、HDDの台数をD280の2倍に増やすことでほぼ拮抗するレベルにまで高められるが、IOPS性能はHDDの台数を増やしてもB280のレベルには達しない。これが、ファイバチャネルベースとATAベースのストレージの大きな違いといえる。
 SCSI/ファイバチャネルHDDは、高性能サーボテクノロジの採用によってシーク時間がきわめて短く、ディスク回転速度も10000rpmまたは15000rpm(rpmは1分あたりの回転数)と高速だ。また、コマンドキューイングもかなり進歩している。したがって、MB/sec性能とIOPS性能は、どちらも最高レベルに達している。一方、ATA HDDは、シーク時間が比較的長く、ディスク回転速度も7200rpmが主流である。したがって、IOPS性能はあまり高くない。ただし、ディスクの記録密度はSCSI/ファイバチャネルHDDよりも若干高いため、MB/sec性能はSCSI/ファイバチャネルHDDよりも少し落ちる程度と、かなり高い水準に達している。

 一般に、MB/sec性能が高いディスクストレージは、ビデオサーバー、リッチメディアコンテンツの保管、ディスクストレージのバックアップ(Disk to Diskバックアップ)など、大きなブロックのデータをシーケンシャルに読み書きする用途に向いている。一方、IOPS性能の高いディスクストレージは、小さなブロックをランダムに読み書きするオンライントランザクション処理(OLTP)やデータベース、メールサーバーなどに向いている。

 これらを踏まえると、StorageTekのILM戦略の中では、アプリケーションの運用を直接支えるオンラインにはMB/sec性能とIOPS性能の高いSCSI/ファイバチャネルHDDベースのディスクストレージが、Disk to Diskでオンラインのバックアップを行うインラインにはMB/sec性能の高いATAベースのディスクストレージが適していることが分かる。もちろん、ビデオサーバーの本番用ストレージなどとして使う場合には、ATAベースのディスクストレージをオンラインに回すこともできる。


汎用的なセカンダリ・ディスクストレージとして設計されたBシリーズ

 すでに、ATA HDDを採用したディスクストレージは数多くのベンダから発売されている。ローエンドNASなどは数年前からATA HDDを積極的に採用しているが、今後はSANに対応したミドルレンジ以上のストレージでもATA HDDの採用例が増えるものと予想される。例えば、SANに対応した有名どころの製品を挙げると、フィックスコンテンツ(現状のままこれ以上変更されることのないデータ)の長期アーカイブに向けたEMCのCenteraシリーズなどがある。

 StorageTekでは、BシリーズがATA HDD搭載のディスクストレージとなる。Bシリーズは、HDDの高密度配置による大容量を売りとしたBladeStore BC84(6.25TB~150TB)、小容量から段階的にスタートできるミドルレンジのB280ディスク・サブシステム(750GB~56TB)とローエンドのB220ディスク・サブシステム(750GB~28TB)から構成される。B280とB220は、業界でいち早くシリアルATA HDD(以下、SATA HDD)を採用しているのが大きな特徴だ。

 「B280とB220は、ファイバチャネルベースのディスクストレージにファイバチャネル-シリアルATAの変換モジュールを追加することで、SATA HDDを内蔵できるようにした製品です。このため、SATA HDDを内蔵しながらも、ディスクストレージ単体で見れば従来ながらのファイバチャネルストレージと同じものになります。従って、弊社が発売している数々のストレージソフトウェアをそのまま使用できます(藤田氏)」。

 今年後半には、次世代のシリアルATA IIが実用化される。シリアルATA IIには、分岐接続のサポートにより柔軟なケーブリングを可能にするPort Multiplier、アクティブ-スタンバイ方式の冗長化をサポートするPort Selector、高負荷のI/Oトランザクションを効率よく処理するNative Command Queuingなど、エンタープライズストレージに適した数々の機能が提供される。藤田氏によれば、現行のB220とB280はシリアルATA 1.0に準拠しているが、将来の製品にはシリアルATA IIが採用される可能性もあるという。


B280およびB220ディスク・サブシステムは、B280およびB220コントローラ・モジュールに複数のB200 SATAディスク・アレイを組み合わせたものになる。筐体に内蔵されるSATA HDDは、どちらもMaxtorのMaxLine Plus II 250GB(7200rpm)だ。接続可能なB200の台数は、B280が最大16台、B220が16台で、SATA HDDの台数に換算するとB280が224台(56TB)、B220が112台(28TB)となる。

 Bシリーズと他社のATA製品との違いは「エンタープライズ向けの汎用的なセカンダリ・ディスクストレージとして販売していく(藤田氏)」ところにある。つまり、Bシリーズは、高性能ディスクストレージとテープライブラリのギャップを緩衝する新たな階層を作り上げるわけだ。ILM戦略のところでも述べたように、StorageTekはストレージ階層の多段ギア化を推し進めることで、アクセス性能とコストのバランスがとれたトータルストレージを目指している。


MirrorStoreレプリケーション・アプライアンスでサポートされるローカルおよびリモートミラーリングの例。ローカルサイトにあるストレージはファイバチャネル経由の同期型ミラーリングを、リモートサイトにあるストレージはIPネットワーク経由の非同期型ミラーリングが用いられる。
 さらに、これを後押しするために、プライマリ・ディスクストレージとセカンダリ・ディスクストレージとの連携を高めるアプライアンス「MirrorStoreレプリケーション・アプライアンス」も発表した。MirrorStoreは、同期型と非同期型のミラーリング、トランザクション対応の差分レプリケーション、複数世代の保存が可能がスナップショットをサポートしている。IPインターフェースの標準搭載によってIPネットワークにも直結でき、リモートサイトにあるディスクへの非同期ミラーリングやレプリケーションも簡単に実現可能だ。

 「長い間テープを中心に手がけてきた関係で、多くの方は“StorageTek=テープ”という印象を持たれているようですが、StorageTekはストレージをトータルにサポートするベンダとしてディスクストレージにもかなり力を入れています。今年2月には、750GBという小容量からスタートできるATAベースのセカンダリ・ディスクストレージ(B220とB280)も発表しました。日々急増しているデータを低コストかつ安全に保管したいという方は、ぜひATAベースのセカンダリ・ディスクストレージに着目してください(藤田氏)」




URL
  日本ストレージ・テクノロジー株式会社
  http://www.storagetek.co.jp/

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  ・ ストレージテック、シリアルATAベースのディスクシステムとバックアップアプライアンスを発売(2004/02/12)


( 伊勢 雅英 )
2004/03/22 00:00

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