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日本IBMに聞くストレージ仮想化の効果的な活用法 [後編]


 日本アイ・ビー・エム株式会社 クロス・ソリューション事業部 ストレージ・ソリューション担当部長の佐野正和氏に、ストレージ仮想化のメリットとその具体的な活用法をお聞きした。最終回となる後編では、仮想ストレージ環境への移行を円滑にする機能、そしてファイルレベルのストレージ仮想化について解説していく。


日本アイ・ビー・エム株式会社 クロス・ソリューション事業部 ストレージ・ソリューション担当部長の佐野正和氏

仮想ストレージ環境への移行を円滑にするSVC

仮想ストレージ環境への移行サポート機能(出典:日本アイ・ビー・エム、以下同様)。SVCのイメージモードを利用すれば、これまで使ってきたディスクサブシステムをSVCに接続するだけで仮想ストレージ環境へと移行できる。
 前編、中編を通じて、ストレージ仮想化が非常に便利であることは分かったが、従来のSAN環境から仮想ストレージ環境への移行が容易でなければ、ユーザーはなかなか手を付けられない。IBMは、こうした問題に対応すべく、仮想ストレージ環境への移行を容易にする機能を用意している。

 異なるアーキテクチャのディスクサブシステム間でデータ移行を行う場合、コピー元からデータを読み出し、それをコピー先にそのまま書き込むという操作が基本になる。しかし、それをすべて手動で行うとなると、かなりの手間がかかる。そこで、SVCには、ディスクサブシステムのファイバチャネルポートを差し替えるだけですぐに移行を完了できるイメージモードをサポートしている。なお、実際には、ディスクサブシステムがファイバチャネルスイッチに接続されている環境がほとんどなので、そのスイッチにSVCを接続し、SVCで移行したディスクサブシステムを有効にするだけで移行が完了する。

 これにより、一対一で使用していた従来のSAN環境からSVCによる仮想ストレージ環境への移行が容易になる。そのあと、SVCが自動的にバックグラウンドで仮想ストレージプール上のボリュームにデータをコピーし、古いディスクサブシステムの中身を空にしたら、速やかに撤去、処分できる。もちろん、古いディスクサブシステムを仮想ストレージプールに加え、引き続き有効活用することも可能だ。

 「ディスクは車のタイヤと同じく消耗品ですので、いつかはデータを移行しなければなりません。しかし、昔と違って止められないアプリケーションが数多くあり、しかも移行すべきデータ量があまりにも多くなっています。特に後者の問題は甚大です。テラバイトクラスのデータを手動で移行するとなると、システム管理者の負担は計り知れないほど大きなものになります。通常、こうしたデータ移行作業は土日に行われますから、システム管理者は何度もの休日出勤を余儀なくされるでしょう。SVCを利用すれば、ディスク移行機能コマンドを実行するだけで、あとはそのまま帰宅してかまいません。労働組合がらみで休日出勤が難しい会社には最適な機能かもしれませんね(佐野氏)」。


必要なときにだけディスクを追加する仮想ストレージ・オンデマンド

 SVCによる仮想ストレージ環境の高度な使い方として、仮想ストレージ・オンデマンドがある。これは、通常使用するアサイン済みのボリュームにオンデマンド用のディスクを追加することで、必要に応じてディスクの容量やパフォーマンスを動的に変更する機能だ。例えば、人気歌手のライブが開催される場合、オンラインチケット予約が殺到することが予想される。そこで、チケット予約期間だけオンデマンド用のディスクを追加し、ディスクの容量やパフォーマンスを高めておく。チケットが完売したら、その時点で再び元のディスク構成に戻す。こうすれば、必要なときに必要なだけのコスト増で対応できる。

 IBMは、この仮想ストレージ・オンデマンドを活用したキャパシティ・オンデマンド(CoD)を顧客向けのサービスとしても提供している。ディスク・サブシステムのリース契約を結ぶ際に、基本容量の2倍までアップグレードできるようにしておく。当初は基本容量に基づく月額リース料金が発生するが、途中で基本容量を超えた場合には、超過した分だけを追加課金する。使用量に応じて超過分の増減も変わるので、もし使用量が基本容量で収まる状態に戻ったら、月額リース料金も基本料金に戻る。ちょうど、使った分だけ課金される水道や電話の使用料にも似ている。


SVCによる仮想ストレージ環境では、必要に応じてアサイン済みボリュームにオンデマンド用のディスクを追加することが可能だ。これにより、必要なときに必要なだけのディスク容量とパフォーマンスを確保できる“ストレージ・オンデマンド”が実現される。
キャパシティ・オンデマンド(CoD)は、SVCの仮想ストレージ・オンデマンドを顧客に対するサービスとしてIBM自身が用意したものだ。

オープン系システムの弱点を取り払うファイルレベルのストレージ仮想化

 次に、ファイルレベルのストレージ仮想化だが、これはオープン系システムの弱点を完全に克服できるテクノロジである。前編で説明したように、オープン系システム間でファイルを共有できない原因はファイルシステムにあるわけなので、このファイルシステムにメスを入れることでファイル共有を可能にしている。具体的には、SANファイル・システム・メタデータ・サーバー(以下、SFS)と呼ばれる専用サーバーをネットワーク上に配置し、このサーバーでファイルシステムのインデックスやロック制御の機能を提供する。

 「インデックス機能をコンピュータシステムの外に出す方法は、メインフレーム的な発想といえます。ただし、メインフレームはディスク上、ファイルレベルのストレージ仮想化は専用サーバー上にインデックスを配置する点が大きく異なります。メインフレームには最初からファイル共有という概念があったため、最低限のディスク共有はもともと可能でした。だからこそ、ディスク上にインデックスを配置するという発想が成り立ったのです。しかし、オープン系システムは最低限のファイル共有さえ実現できていませんので、インデックスをディスクの外に出すしか方法が残されていませんでした。ただし、外部のサーバーにインデックスを配置したことで、データの位置を調べるときにディスクI/Oが発生しないという利点はあります(佐野氏)」。


ファイルレベルのストレージ仮想化でインデックス管理やロック制御などの役割を担うSANファイル・システム・メタデータ・サーバー。この他に、各コンピュータシステムには共通のファイルシステム(SANファイル・システム)を持たせる。 ファイルレベルのストレージ仮想化を実現したシステム構成例。各種コンピュータシステム(サーバー、ワークステーションなど)とディスクサブシステムに加え、2台以上のSFS、管理コンソールが接続される。名前解決のためのActive Directory、NIS、LDAPサーバーなどが接続される場合もある。

キャッシングの仕組みを示したもの。キャッシュに正しいメタデータがある場合には、SFSを経由することなく、キャッシュ上のメタデータを利用してストレージに直接アクセスできる。
 インデックス機能をSFS上に搭載すると、ファイルを開くたびにSFSへのアクセスが発生することになる。この頻度は決して低くないだろう。「各サーバーには、メタデータを格納するためのキャッシュを搭載しています。キャッシュ上に正しいメタデータがある場合には、キャッシュ内のメタデータを利用して直接ファイルにアクセスします。正しいメタデータがない場合にのみ、SFSに問い合わせを行います。開発部門によれば、一般的な環境においては、だいたい全体の20%くらいがSFSに対するアクセスとなるそうです(佐野氏)」。

 なお、ファイルレベルのストレージ仮想化を実現するには、SFSの設置に加え、各サーバーで共通のファイルシステム(SANファイルシステム)をサポートしなければならない。現在は、Windows 2000 Server SP4、Windows 2000 Advanced Server SP4、AIX 5.1に対応している。「WindowsとAIXのサポートだけでは不十分ですので、年内にはSolarisとLinuxもサポートする予定です。また、気持ちの上ではHP-UXも追加したいと思っています。もちろん、IBMからの正式な開発意向表明があるまではサポート未定とお考えください(佐野氏)」。


バックアップシステムやクラスタリングシステムへの活用

Windowsを搭載したコンピュータシステム間、AIXを搭載したコンピュータシステム間、そしてWindowsとAIXを搭載したコンピュータシステム間でファイルの共有が可能になる。
 ファイルレベルのストレージ仮想化によっていったい何ができるのか。それは、いうまでもなく複数のコンピュータシステム間でファイルの共有を行えることだ。例えば、PCクライアント、ワークステーション、サーバー間で医療関連の画像やCAD図面などを共有できるようになる。また、共同作業環境のWindowsクライアント同士でファイルを参照しあうといった用途も考えられる。ただし、WordやExcelのファイルをAIX上で見たりするわけがなく、WindowsとAIXでファイル共有を行えてもごく一部の人にしか役に立たないように思われる。だが、こうしたファイル共有を行える環境があるからこそ、これを利用した面白い応用例も生まれるのだ。

 その代表例として、バックアップシステムでの活用が挙げられる。従来のSAN環境では、異なるプラットフォームのサーバーに対して直接バックアップをとることはできなかった。これは、ファイルシステムが異なるからであり、通常はバックアップサーバーから見えるディスクにデータをいったんコピーしてからバックアップを行う。しかし、ファイル共有が可能ならば、バックアップサーバーからはどちらのサーバーのファイルも操作できるため、どちらも直接バックアップを行える。これにより、適用業務サーバーを稼働させながらバックアップを行ったり、バックアップサーバーを統合することが可能になる。

 もう一つの例は、クラスタリングシステムでの活用だ。サーバークラスタリングでは、一方のサーバーがダウンしたらもう一方のサーバーにテイクオーバーが行われる。このとき、ディスクとネットワーク資源のテイクオーバーが必要だが、ネットワーク資源はすぐに切り替えられるものの、ディスク資源の切り替えにはかなり時間がかかる。これは、ファイルシステムのインデックスがサーバーのメインメモリ上にあるためだ。サーバーがダウンしたということは、インデックスも壊れていることを意味しており、当然ファイルシステムの整合性も破綻している。したがって、ファイルシステムの整合性を確認する作業(fsckなど)が必要になる。整合性の確認作業はファイル数に比例し、大きなファイルシステムであればあるほど作業時間を要する。その時間は、数時間から半日にも及ぶことさえある。

 こうした問題は、サーバー同士の共有ディスク資源をSFSによる仮想ストレージにすることで見事に解消できる。仮想ストレージ環境では、すでに複数のサーバー間でファイルを共有しているわけなので、ディスク資源の引き継ぎが不要になる。ファイルの整合性チェックが必要だったとしても、ダウンしたサーバーが直前まで使用していたごく一部のファイルをチェックするだけで済む。これにより、高速なテイクオーバーが実現される。また、一対一のクラスタリングに加え、多対一のクラスタリング構成もとれるため、サーバー統合(コンソリデーション)が可能になる。


バックアップシステムでの活用例。ファイルレベルのストレージ仮想化を導入すれば、バックアップサーバーからWindows、AIX搭載サーバー両方のバックアップを直接行える。
クラスタリングシステムでの活用例。すべてのサーバーで常にストレージ資源を共有しているので、サーバーダウン時のテイクオーバーをきわめて高速に行える。

 その他にも、SVCとSFSを併用した仮想ストレージ環境、ファイバチャネルとIPネットワークを併用したハイブリッドSANなど、多種多様なシステム構成をとれる。特にiSCSIは、技術開発においてIBMが重要な役割を担った経緯もあり、同社にとって十八番の技術といっても過言ではない。IBMが推進する次世代のSANテクノロジについては、後日追加の取材を行い、また別の機会に詳しく取り上げたいと思う。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/

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  ・ 日本IBMに聞くストレージ仮想化の効果的な活用法 [前編](2004/03/29)
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( 伊勢 雅英 )
2004/03/31 00:00

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