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日本ストレージ・テクノロジーに聞くテープストレージの魅力 [前編]


日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 フィールドマーケティンググループ シニアスペシャリスト Tape&Tape Automationの吉岡雄氏
 テープストレージには、地味で古くさいイメージがつきまとっている。たぶん、昔ながらのカセットテープやビデオテープで、レコーダにテープが巻き込まれる、テープが切れる、テープの記録面がはがれるなど、さまざまなトラブルを経験してきた人が多いからだろう。しかし、コンピュータの世界で用いられるテープストレージは、最新テクノロジが投入された最先端のハードウェアだ。テープストレージは、テープメディア、ドライブ、テープオートメーションなどから構成されており、これらが足並みを揃えて進化を続けている。実際、カートリッジ1本あたりの記憶容量やサステインデータ転送速度はHDDと肩を並べるほどだ。

 今回は、日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 フィールドマーケティンググループ シニアスペシャリスト Tape&Tape Automationの吉岡雄氏に、テープストレージの魅力をお聞きした。前編では、テープストレージの利点、光ディスクとの違い、光ディスクライブラリとの棲み分けについて取り上げていく。


GB単価が圧倒的に安いテープストレージ

 テープストレージはなぜ今も存在し、そして今後も存在しなければならないのか。これまで、さまざまなストレージ機器が“生まれては消え”を繰り返しているが、テープストレージはIBMが最初に製品を完成させてから実に53年目を迎える。半世紀を経た現在もなお進化を続けており、衰退の兆しはまったく見受けられない。

 テープストレージの存在意義として最も大きな要素は、他のストレージと比較してコストが圧倒的に安いことだ。ただし、ここには“エンタープライズ用途で使用する”という前提条件が付く。例えば、3.5インチのATA HDDはGB単価がかなり安くなっており、仮に個人ユーザーがテープストレージとHDDを比べたとしたら、明らかにHDDのほうが低コストだ。しかし、テープストレージは個人用途ではなく大量のデータを扱うエンタープライズ用途で使われるべきものである。

 テープカートリッジの管理や入れ替えに際する運用コストがかかるので、結局テープストレージのほうが総コストはかかると反論をする人もいる。確かに、サーバーごとに単体のテープドライブを接続ないしは内蔵し、個別にバックアップを行っているのであれば、運用コストは莫大なものになる。しかし、エンタープライズ用途でテープを入れ替えるという操作はそもそもナンセンスであり、近年ではテープライブラリを用いて一カ所で集中的にバックアップを行う手法が多く採用されている。実際、単体のドライブの売り上げは年々減ってきており、逆にオートメーション系(オートローダやテープライブラリ)が増える傾向にある。従って、テープストレージのコストが安いという議論は、テープライブラリなどによる集中バックアップ環境を前提条件としていることに注意したい。

 「StorageTekは、数々のテープストレージの中でも特にテープライブラリに特化して製品を開発、販売しています。同容量帯のテープライブラリとディスクサブシステムのGB単価を比較すると、テープライブラリのほうが明らかに安価です。ディスクサブシステムの最も安いものとテープライブラリの最も高いものを比較しても2~3倍以上の開きがあります。なお、ここでいう価格とは、実際に使う環境に合わせる必要から、テープカートリッジや最小限の管理ソフトウェアも含めた価格を指しています」。

 「ATA系ディスクサブシステムの急激な低価格化を見ると、ディスクサブシステムとテープライブラリの価格差は今後少しずつ縮まっていくように思えるかもしれません。しかし、実際にはまだまだ開く傾向にあります。他社製品も含めて考えると、エンタープライズ系ディスクサブシステムとオートメーション系テープストレージには現時点で90倍近い価格差が見られますが、これが2007年になると112倍にまで広がると予想されます。もちろん全体的なコストはどちらも下がっていきますが、テープストレージのほうが価格の下落が大きいため、両者の価格差は今後も広がります(以上、吉岡氏)」。


テープライブラリとディスクサブシステムの容量あたりの単価を比較したもの(出典:日本ストレージ・テクノロジー、以下同様)。テープライブラリの最大構成とディスクサブシステムの最小構成でGB単価を比較しても2倍以上の価格差がある。
ストレージのGB単価傾向を示したもの。どのストレージも年々価格が下がっているが、オートメーション系テープストレージがその他のディスクサブシステムよりも圧倒的に安価である傾向に変わりはない。

リムーバブルであることの利点と欠点

 テープストレージのもう一つの存在意義は、メディアすなわちテープカートリッジがリムーバブルであることだ。リムーバブルであれば、テープカートリッジをテープライブラリから取り出し、温度や湿度が厳密に調整された倉庫で長期保管したり、火災、天災、テロなどの影響を受けない遠隔地に持っていったりすることが可能だ。

 一方、まれなケースだが、リムーバブルであることが裏目に出ることもある。例えば、米金融機関のシティバンクは、3月19日に同行日本支店(東京都港区)の顧客データ12万3690口座分が入った磁気テープをシンガポールで紛失したと発表した。シンガポールの警備会社が、シティバンクの顧客データ処理センターに磁気テープを搬送する際に磁気テープそのものを紛失したのだという。紛失した磁気テープは取引明細のバックアップデータで、顧客の名前、住所、口座番号、預金残高などが記録されていた。

 第三者には判読できないように磁気テープにセキュリティがかけられていたため、情報の流出は現在もなお確認されていないが、顧客情報(のもととなるデータ)が必要外の場所に漏れ出てしまったことに変わりはない。吉岡氏は、これに対して「ご指摘のように、リムーバブルであることが欠点になることもあります。その欠点を最小化するためにも、セキュリティツールとしてデータの暗号化が必須といえます。主要なバックアップソフトウェアにはデータ暗号化の機能がオプションとして用意されていますので、こうしたセキュリティ機能を積極的に活用すべきでしょう。また、いうまでもありませんが、テープカートリッジの入出庫をよりいっそう厳重に管理しなければなりません。リムーバブルであるというテープの特徴を生かすも殺すもユーザー次第なのです」と説明する。


大容量と高速データ転送が利点のテープストレージ

 話は変わるが、リムーバブルというと、書き換え型DVDなどの“ヒカリモノ”のストレージを思い浮かべる人が多いと思う。そして、ヒカリモノのほうが最先端のテクノロジを採用しているというイメージが強いようだ。実際、次世代のDVDとして青色レーザー系の光ディスクが世間をにぎわしているし、将来の光ディスクとして近接場光やホログラフィーを利用したものが開発、実用化されている。さらに、近未来を舞台とした映画を見ると、映像や遺伝子情報などの記録媒体として虹色にきらめく光ディスクが登場したりする。このため、テープは古い記録媒体、光ディスクは新しい記録媒体と考えられがちだ。


StorageTekのテープライブラリに搭載されているロボット機構。テープカートリッジの搬送時間を最短化するために円運動を描くロボット機構が採用されている。また、テープカートリッジの位置を広い範囲で一度に識別するために、CCDカメラを用いた最新のデジタルビジョンシステムが投入されている。
 しかし、実際にはテープも光ディスクに匹敵する最先端のテクノロジが数多く採用されている。確かに磁気記録という枯れたテクノロジを用いていることに変わりはないが、高密度記録や高速データ転送を実現するために、HDDにも匹敵する最先端のMRヘッド、サーボテクノロジ、データ符号化方式などが惜しみなく投入されている。Super DLTのように、テープ上のトラックを正確に位置決めするために、レーザー光によるガイドシステムを採用している製品などもある。このように、外見こそ地味なテープストレージだが、その中身は非常に高度なものなのだ。

 光ディスクとテープの利用面での違いは、メディア1巻(1枚)あたりの記憶容量とデータ転送速度にある。まず、記憶容量だが、DVDは両面メディアで9.4GB、青色レーザーを採用したソニーのProfessional Disc for DATAで23.3GB、来年に登場が予想されるBD-Dataで50GB(2層)にとどまるが、テープはすでに普及が進んでいるLTOで200GB(LTO-2)、S-DLTで300GB(SDLT 600)、S-AITで500GB(SAIT-1)にも達する。しかも、テープの大容量化はさらに進み、現在発表されているロードマップによれば、LTOで800GB(LTO-4)、S-DLTで1.2TB(SDLT 2400)、S-AITで4TB(SAIT-4)までが予定されている。光ディスクがここまでアグレッシブに大容量化を進められるとは考えづらく、記憶容量の面においてテープに分があることは明らかである。

 次にデータ転送速度だが、一見するとテープは遅いと思われがちだ。まず、テープの速度にはアクセス速度とデータ転送速度の2種類があることに注意しなければならない。アクセス速度はデータへ到達するまでの速度を指しており、通常はカートリッジのローディングに必要な時間とファイルへのアクセス時間によって決まる。これらは、純粋に機械的構造に依存しているため、ランダムアクセスが可能な光ディスクと比較するとかなり長くなる。吉岡氏によれば、テープカートリッジに搭載されているメモリ(MICやCM)を用いても大きくは改善されない部分だという。一般に、テープが遅いと誤解される第一の要素は、このアクセス速度の遅さにある。

 しかし、いったん読み書きを開始したら、非常に高速にデータを読み書きできる。このときの読み書き速度がデータ転送速度と呼ばれるものだ。光ディスクのデータ転送速度は4倍速書き込みのDVDで5.4MB/sec、Professional Disc for DATAで11MB/secにとどまるが、テープはLTO-2で35MB/sec、SDLT 600で36MB/sec、SAIT-1で30MB/secと、HDDと比べても遜色のないデータ転送速度が得られる。HDDのデータ転送速度は内周に行くほど遅くなることから、テープのデータ転送速度がHDDを逆転するケースも見受けられる。「テープが高速なデータ転送速度を達成できるのは、HDDと同じ磁気記録を採用しているからです。光ディスクは、レーザー光を用いて記録面にデータを転写するなど、物理的に複雑な手順を踏む必要があるため、どうしてもデータ転送速度が遅くなります(吉岡氏)」。


光ディスクドライブ、テープドライブのデータ転送時間を比較したもの。横軸は経過時間、縦軸は転送したデータの合計サイズだ。グラフのスタート位置が左であるほどアクセス速度が高速で、グラフの傾きが急峻であるほどデータ転送速度が高速であることを意味している。DVDは、S-AITやLTO Ultrium 2と比較するとアクセス速度は高速だが、データ転送速度は逆に低速なのが分かる。このため、DVDは大容量のデータ転送には向かない。
HDDとテープドライブのデータ転送速度を比較したもの。HDDの外周部とテープドライブのデータ転送速度を比較するとHDDのほうがいくらか高速だが、HDDの内周部と比較すると逆転するケースも見受けられる。このように、テープドライブはHDDに匹敵するデータ転送速度を持っているのだ。

きわめてニッチな市場で生き残る光ディスクライブラリ

 光ディスクを用いたエンタープライズ向けの製品に、光ディスクライブラリ(光ライブラリ)がある。これは、1台以上の光ディスクドライブ、多数の光ディスク(メディア)をひとつの筐体に収納した光ディスク版のライブラリ装置だ。よくテープライブラリと引き合いに出される代表的な大容量ストレージサブシステムのひとつだが、実はさまざまな面で微妙な位置付けにあるストレージといえる。

 例えば、テープのような大容量化は難しく、せいぜい数TBを実現するのがやっとだ。光ディスクのロードマップを見ても分かるように、将来的にも大幅な大容量化を望むことはできない。また、ディスクならではのランダムアクセスを生かそうにも、ATA HDDを採用した安価なディスクサブシステムあたりが競合となりかねない。信頼性をとっても、「光ディスクの設計思想そのものが個人をターゲットとしており、ビットエラーレートがテープと比べるとかなり落ちます。また、一般に光ディスクは半永久的なものとして捉えられていますが、メディアにそりが出てきて読めなくなるケースもあるようです(吉岡氏)」という通り、テープほどの信頼性を確保できるわけでもない。

 このように、光ディスクライブラリは、ディスクサブシステムにもテープライブラリにも攻められる立場にあることから、きわめてニッチな市場にとどまるものと考えられる。実際、ある資料によれば、アーカイブ市場向けの昨年の出荷実績は約1000台といわれており、ここから察するとバックアップ用途なども含めても千数百台ほどにとどまるものと予想される。吉岡氏は、これに対し「かろうじてアーカイブ用途で光ディスクライブラリが生き残っていますが、今後アーカイブするデータ容量が増えていった場合には、コストも考慮しなければなりません。そうなると、テープライブラリへの移行がいっそう進み、光ディスクライブラリの市場がさらに縮小することになります。結局、中容量以下のアーカイブ用途でのみ光ディスクライブラリが生き残るのではないでしょうか」と話す。

 後編では、ディスクサブシステムのみで完結するストレージシステムの問題点、テープストレージの併用によるコスト削減効果、日本国内における磁気テープの標準化動向などを取り上げていく。



URL
  日本ストレージ・テクノロジー株式会社
  http://www.storagetek.co.jp/

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  ・ 日本ストレージ・テクノロジーに聞くテープストレージの魅力 [後編](2004/05/24)


( 伊勢 雅英 )
2004/05/17 00:00

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