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日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 フィールドマーケティンググループ シニアスペシャリスト Tape&Tape Automationの吉岡雄氏
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日本ストレージ・テクノロジー株式会社 マーケティング本部 フィールドマーケティンググループ シニアスペシャリスト Tape&Tape Automationの吉岡雄氏に、テープストレージの魅力をお聞きした。後編では、ディスクサブシステムのみで完結するストレージシステムの問題点、テープストレージの併用によるコスト削減効果、日本国内における磁気テープの標準化動向などを取り上げていく。
■ ディスクサブシステムのみで完結するストレージシステムの問題点
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アクセス頻度の高いデータは高性能なファイバチャネル系のディスクサブシステムに格納し、アクセス頻度が落ちたところで安価なATA系ディスクサブシステムに移動する。さらに、ほとんどアクセスがないものは最もGB単価が低いテープライブラリに保管する。こうすることで、データ全体のGB単価を最小化できる(出典:日本ストレージ・テクノロジー、以下同様)
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近年、ATAテクノロジに基づくディスクサブシステムの登場により、ディスクサブシステムのGB単価が急速に下落している。このため、読み書きが高速なディスクサブシステムだけでストレージシステムを完結しようという動きも見られる。もちろん、本稼働のディスクサブシステムだけでは、コンピュータウイルス、ネットワーク障害、アプリケーションエラー、データベース破壊、操作ミス、故意の破壊などに対して無力なので、ディスクサブシステムを複数用意して、ミラーリング、レプリケーション、バックアップなどをディスクツーディスク(D2D)で行うことにより、データ保護を強化することになる。
吉岡氏は、これに対し「ディスクにデータが格納されている限りは、そのデータは常に“オンライン”の状態にあります。RAIDやコンポーネントの冗長化によって、HDDやコントローラの障害などには対処できるかもしれませんが、オンラインである以上は常にデータに対して直接的にアクセスできるわけですから、操作ミスや故意の破壊など、いわゆる人為的なミスに対処するのは困難です。セキュリティ機能の追加により、ある程度はテープライクに使えると思いますが、メディアを完全にオフライン状態にできるテープストレージほどの強力なデータ保護は実現できません」と警笛を鳴らす。
また、データの容量が増えていった場合に、いくらGB単価が下がったとはいえ、ディスクサブシステムだけではコスト問題をうまく解決できない。これは、データへのアクセス頻度を考えると納得がいく。一般に、データへのアクセスは、ほとんどが作成した初日に実行されるが、7日後から急速にアクセス頻度が減少し、90日後にはほとんどアクセスされなくなるという。そして、ほとんどのデータ(全体の80%程度)に対するアクセス頻度は低いため、これらを高価なストレージ資源であるディスクサブシステムに格納しておくのは非常に無駄である。
■ ランニングコストが圧倒的に安いテープライブラリ
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テープライブラリとディスクサブシステムの消費電力を比較したもの。消費電力の差はGB単価以上に大きく、平均すると10倍ほどの違いがある。大型のストレージ機器は電気料金の絶対額も大きいため、テープライブラリを上手に活用することでランニングコストの削減につながる
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さらに、ランニングコストの問題もある。前編では、テープストレージの最大の利点としてコストの安さを取り上げたが、これは単にGB単価が安いからだけではない。実は、連続運用のための電気料金、空調や電源施設の設備費など、いわゆるランニングコストの安さにも大きく関係している。ディスクサブシステムは、原則としてHDDがすべて稼働しており、消費電力や発熱はきわめて多い。このため、電気料金や空調施設のランニングコストもバカにならない。
一方、テープライブラリは、常に電源供給が必要なのは制御回路くらいであり、テープドライブやオートメーション機構はバックアップなどを行うときにしか大きな消費電力を必要としない。そもそも、テープドライブの台数は大規模なライブラリでも20台ほどにすぎず、何百台ものHDDが常時稼働するディスクサブシステムとは比較にならないほど消費電力が少ない。StorageTekの調べによれば、テープライブラリにドライブ最大台数を搭載した場合のワーストケースで比較しても、同容量帯のATA系ディスクサブシステムの7~11分の1、ファイバチャネル系ディスクサブシステムの4~13分の1にしかならないという。テープドライブの台数が少ない場合やデータ記憶容量がさらに大きい場合には、ディスクサブシステムとの差がさらに広がる。
StoragetTekの製品同士で実際に電気料金を計算してみよう。非常に荒っぽい数字だが、L180テープ・ライブラリー(10台のLTO-2テープドライブをフル搭載、最大34.8TB)の消費電力は約0.4kW(1390Btu/h)、BladeStore BC84ブレード・システム(BC84 1台とB150 3台、37.5TB)の消費電力は約2.78kW(9502Btu/h)になる。東京電力の低圧電力メニュー(200V 交流三相3線式)では1kWhあたりの電気料金が約10円なので、どちらも24時間365日フル稼働していたとすると、年間の電気料金はL180で約3万5000円、BC84で約24万3500円である(簡略化のために燃料費調整や力率調整は無視する)。単純な金額差は約21万円だが、テープライブラリは一日中動いているわけではなく、しかもこれに空調や電源施設のランニングコストなどが加わることから、実際にはさらに差が広がる。
このように、テープストレージの併用によって電気の使用量を減らし、ビジネスの利益率を高めることは、どの企業にとっても重要なことだ。そして、地球環境の保全という観点からも、電気使用量の削減は人道的使命のひとつといえる。人類の子孫に豊かで明るい地球環境を伝承するには、企業、個人が一眼となって地球環境の保全に取り組む必要がある。実際、企業の中では環境マネジメントに関する国際規格ISO14001の認証取得が流行しているが、このISO14001を取得する際にもテープストレージが重要な役割を果たすだろう。「ディスクは確かに便利なストレージですが、ディスクサブシステムを購入する費用、ランニングコスト、データ保護レベル、地球環境問題などを総合的に考慮すると、簡単に“ディスクだけでよいよね”とはいえないはずです(吉岡氏)」。
■ 定期的なメディアコンバージョンで長期アーカイブを乗り切る
米国では、サーベンス・オクスリー法などのさまざまな規制が次々と生まれており、企業にはこれらを遵守する義務が生じている。特に金融サービス業界に対しては、電子メールの長期保存義務が課せられている。このため、何らかの形で自社の情報を長期的かつ安全に保管するためのソリューションが不可欠となっている。そして、その保管先として白羽の矢が立っているのがテープストレージだ。
しかし、皮肉なことに、テープは長期保管できても、その間にデータを読み出せるテープドライブが存在しなくなるという問題がある。これは、テープに限らずどんなメディアでも同じだ。例えば、身近な例として8インチや5.25インチのフロッピーディスク(FD)がある。ほんの10~20年前までは当たり前のように使われてきたメディアだが、これらのメディアを読み出せるドライブはすでにどのメーカーからも販売されていない。もしどうしても入手するとしたら、中古市場を当たってみるしかない。そして、これも時間が経つにつれて入手性が低下していく。テープドライブにも同じ運命をたどっており、アーカイブを行ったからといって、将来的にそのテープを読み出せるという保証はまったくない。
これに対処するには、メディアコンバージョンを通じてテープメディアを定期的に乗り換えていく必要がある。“面倒なメディアコンバージョンをしっかり行っている顧客なんて見たことがない”という意見も一部で聞かれる中、吉岡氏はStorageTekとしての対応を次のように説明する。
「弊社は、メディアコンバージョンのサービスをお客様に提供しています。ですから、お客様自身がコンバージョン作業を行えないのであれば、弊社がそれを代行いたします。実際、オープンリールから9840/9940テープカートリッジへの移行、DLTからS-DLTなどへの移行といった事例が弊社の中でも豊富にあります。また、StorageTekのテープライブラリは、同じライブラリ筐体内に異機種のテープドライブを搭載できますので、古いドライブと新しいドライブを混在させて、バックアップの空いた時間に新しいテープメディアへのデータ移行を自動的に行わせることが可能です。これならば、お客様の手を煩わすことなくメディアコンバージョンを行えます」。
■ 磁気テープを標準化する必要性とは?
吉岡氏は、社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)に属する標準化総合委員会/磁気記録媒体標準化委員会において磁気テープの標準化作業にも携わっている。そこで、磁気テープの標準化動向についてもいろいろとお聞きした。
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主要なテープ規格とJIS規格番号の対照表(吉岡氏からの情報をもとに作成)。「原案作成済み」は、昨年度に原案の作成が終了し、さらに審議を経て制定が予定されていることを意味する
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磁気テープの日本工業規格(JIS)での標準化作業は、磁気記録媒体標準化委員会内のJIS磁気テープ原案作成委員会で規格草案を作成するところから始まる。JIS磁気テープ原案作成委員会では、これまでにDLT、AIT、Mammoth、S-DLT、LTO Ultrium 1などの標準化作業を手がけたという。磁気テープの規格をJIS化する理由は、それがドライブベンダやメディアベンダにとって唯一の拠り所になるからだ。日本国内ではJISのステータスは非常に高く、JIS規格となったということは、その磁気テープ規格が業界で広く認められたことを意味する。当然、OEMベンダなどが顧客に製品を紹介する際にも、JISで定められていることを伝えたほうが説得力がある。
最近の標準化作業で特に苦労したのがLTO Ultrium 1だという。JISの標準化作業はANSIの仕様書をもとに行われるが、従来の標準的な書き方からかけ離れていたことが大きな原因だ。「これまでの仕様書で用いられていた用語、文法などがLTOになって突然変わり、メーカー固有色が現れた、いわゆる今までの標準化で使用していた表記とは異なるものでした。このため、日本語化するのにとても時間がかかりました。原文にできる限り忠実に翻訳することがJISの目標ですが、それだけではこなせない状況に陥ってしまいました。結局、原文に忠実に翻訳しつつも、あいまいな部分に関しては、DLT、S-DLT、Mammothなどの標準化作業で用いてきた実績のある表現を当てはめて解決しました。昨年、LTO Ultrium 1の原案作成が無事終了しましたので、現在は次の標準化の開始を検討しているところです(吉岡氏)」。
磁気記録媒体標準化委員会では、JIS標準化作業だけでなく、業界への折衝や磁気テープ関連の技術調査なども行っている。これらの作業を行っているのが、磁気テープ標準化グループだ。例えば、全国銀行協会に対してオープンリールから36トラックテープへの移行を了解してもらう交渉を行ったりしている。近年、オープンリールの終息を迎えたため、新しい規格への移行を必要としていたのだ。
また、二酸化クロム(テープメディアの記録材料)を提供していたドイツのEMTEC Magneticsが倒産したときにも、磁気テープ標準化グループが大きな役割を果たした。二酸化クロムは、IBM 3480、3490Eなどに用いられていた記録材料だが、EMTEC Magneticsの倒産によってこれらのメディア自身の提供が不可能になった。しかし、これらのテープ規格は銀行の支店間のデータ交換に用いられており、メディアがなくなると業務に致命的なダメージを与えてしまう。そこで、日本のベンダが代わりになるコバルト系酸化鉄のものを製造することになり、さらには磁気テープ標準化グループに属する主なベンダが集まって互換性テストや読み書き性能テストを行ったのだという。このように、磁気記録媒体標準化委員会は日本の磁気テープ業界を陰から支える縁の下の力持ちなのだ。
前編、後編を通じてテープストレージの奥深さを理解していただけたら幸いである。
■ URL
日本ストレージ・テクノロジー株式会社
http://www.storagetek.co.jp/
社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) 標準化総合委員会/情報処理標準化運営委員会/磁気記録媒体標準化委員会
http://tsc.jeita.or.jp/TSC/COMMS/4_IT/Mag/Mag-Index.html
■ 関連記事
・ 日本ストレージ・テクノロジーに聞くテープストレージの魅力 [前編](2004/05/17)
( 伊勢 雅英 )
2004/05/24 00:00
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