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富士通に聞く同社の最新ストレージ製品 [前編]


 富士通は、顧客のビジネスや業務を支える高性能、高信頼、高品質なITインフラとして独自の「TRIOLE(トリオーレ)」を提唱、推進している。TRIOLEは、オープン環境において、サーバー、ストレージ、ネットワーク、ミドルウェア製品の利便性、信頼性を図りながら、プラットフォーム全体の整合検証を通じてメインフレームに匹敵する整合性と信頼性を保証するものだ。

 今回は、このTRIOLEを構成する最新のストレージ製品について、富士通株式会社 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 プロジェクト部長(ソリューション担当)の近藤紀彦氏と、ソフトウェア事業本部 自律システム基盤開発統括部 統括部長代理 兼 第二開発部長の篠坂勉氏にお話を伺った。前編では、高い性能と信頼性を両立したディスクアレイのフラグシップモデル「ETERNUS」について取り上げる。


富士通株式会社 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 プロジェクト部長(ソリューション担当)の近藤紀彦氏
富士通株式会社 ソフトウェア事業本部 自律システム基盤開発統括部 統括部長代理 兼 第二開発部長の篠坂勉氏

世界最高クラスのSPC-1 Benchmark値をはじき出すETERNUSシリーズ

 富士通が発売するディスクサブシステムのフラグシップモデルは、ETERNUS3000とETERNUS6000である。ETERNUS3000は、UNIXサーバーやIAサーバーといったオープン系システム向けのミッドレンジ製品、ETERNUS6000は、オープン系に加え、富士通のメインフレームシステムも接続できるマルチプラットフォーム対応のハイエンド製品となる。これらの製品は、コントローラの性能やディスク最大容量の違いなどによって、さらに何種類かのモデルに分類される。中には、ETERNUS3000 モデル50のように183万円(税別)から購入できる手頃な製品も用意されており、適合するシステム規模はかなり幅広い。

 ETERNUSで筆者が特に注目した点は、読み書きパフォーマンスの高さである。Storage Performance Councilが提供するSPC-1 Benchmarkの結果によれば、2004年3月時点において、ETERNUS6000 モデル800で69241.74 SPC-1 IOPS、ETERNUS3000 モデル600Mで64249.77 SPC-1 IOPSを達成している。この数字を発表した時点では世界最高値だったが、2004年6月時点ではETERNUS6000 モデル800が3位、ETERNUS3000 モデル600Mが4位を付けている。SPC-1 Price-Performance(1 SPC-1 IOPSあたりの価格)は、ETERNUS6000 モデル800が$11.99で8位、ETERNUS3000 モデル600Mが$12.60で10位となっており、従来型のディスクサブシステムの中ではかなり高いコストパフォーマンスを示している。

 余談だが、筆者がSPC-1 Benchmarkに対して常々抱いている疑問は、ディスクサブシステムを発売する主要ベンダにもかかわらず数値を公表していないところがあることだ。エンドユーザーが数あるディスクサブシステムを公平に評価するためには、とにかく多くのベンダがSPC-1 Benchmarkに参加してくれなければ意味がない。これに対し、近藤氏はSPC-1 Benchmarkが抱える事情と今後の動向について次のように説明する。

 「SPC-1 Benchmarkは、主要なストレージ関連ベンダが、業界で標準的に使えるベンチマークを作ろうという目的で開発したものです。現在ベンチマーク結果を公表していないベンダももともとは含まれていましたが、自分たちがやりたいことが委員会内で認められず、離れていったという経緯があります。しかし、一部の大手ユーザーの中には、ディスクサブシステムの調達明細を書くときにSPC-1 Benchmarkの記録があることを前提とするところが現れてきています。このため、どのベンダもSPC-1 Benchmarkを無視することができなくなりました。従って、一部のベンダのみが数値を公表する現在のような状態は、それほど遠くない将来に改善されるものと予想されます」。


ETERNUS製品のラインアップ(出典:富士通株式会社、以下同様)。ワークグループ向けのETERNUS3000 モデル50(ディスクドライブ最大12台、最大容量876GB)からエンタープライズ向けのETERNUS6000 モデル1000(ディスクドライブ最大1020台、最大容量148.9TB)まで、さまざまな規模の製品が用意されている。 SPC-1 Benchmarkの結果(2004年3月時点)。Texas Memory SystemsのRamSan-320(112491.34 SPC-1 IOPS)と3PARdataのInServe S800 Xseries(100045.74 SPC-1 IOPS)が加わった結果、2004年6月時点ではETERNUS6000 モデル800が3位、ETERNUS3000 モデル600Mが4位を付けている。

ETERNUSが備える強力なデータ保全、無停止機能

 TRIOLEの目指すインフラ全体の安定運用を実現するには、その土台となる各種ハードウェアが“本質的”に安定したものである必要がある。その一役を担うストレージ機器として、富士通のETERNUSは、数え切れないほどの最新テクノロジによって、“本質的に安定”といえるレベルの高い信頼性、可用性を達成している。ETERNUSが備えるデータ保全、無停止機能は多数あるが、ここではエンドユーザーに直接関係のあるリダンダントコピー、RAIDマイグレーション、ロジカルデバイスエクスパンションの3つをピックアップする。

 RAID(Redundant Array of Independent Disks)は、複数のディスクドライブを束ね、データに冗長性を持たせながら運用することで、そのうち一部(RAID 5ならばRAIDグループあたり1台)が故障してもデータの可用性を失わない仕組みとなっている。また、多くのディスクサブシステムは、残ったディスクドライブからデータを復元し、故障したディスクドライブをホットスペアディスクに切り替えてRAIDを再構成できるホットリペアの機能に対応している。しかし裏を返せば、ホットリペアは、残りのディスクドライブを読んでフロントエンドのアプリケーションに少しずつ影響を与えながら、ホットスペアディスクにデータを書き込んでいくという余分な作業が発生することを意味している。また、可能性はかなり低いものの、ホットリペアの最中にもう1台のディスクドライブが故障したとしたら、RAIDそのものが破たんしてしまう。

 そこで、ETERNUSに搭載されたデータ保全機能が、冗長性を維持したままディスク交換を行えるようにしたリダンダントコピーだ。リダンダントコピーは、ディスクドライブが故障する予兆を検出した時点でホットスペアディスクとの入れ替え動作を開始する。ホットスペアディスクにデータを移動したら、交換対象となるディスクドライブを切り離し、新たなホットスペアディスクの組み込みを行う。こうすることで、RAIDグループの冗長性を保持したままディスク交換を行える。また、ホットスペアディスクへのデータ移動は単純なコピー処理で済むため、アプリケーションへの影響がきわめて小さく、またディスクドライブの入れ替えに要する時間も短い。

 業務稼動中にディスクやRAID構成を変更する機能には、RAIDマイグレーションとロジカルデバイスエクスパンションがある。ロジカルデバイスエクスパンションは、既存RAIDグループに対してディスクドライブを1本単位で活性追加できる機能だ。RAIDグループの容量を追加する場合、従来ならばいったんデータを別の場所に退避させ、RAIDグループを作り直し、新たなRAIDグループにデータを復元するという操作を経る必要があった。しかし、ロジカルデバイスエクスパンションを利用すれば、既存のRAIDグループを壊すことなく簡単に容量を追加できる。


 もう一つのRAIDマイグレーションは、業務稼働中にRAID構成を活性変更する機能で、主にパフォーマンスチューニングのために用いられる。それぞれのRAIDレベルには得手、不得手があるため、使い方によっては現状のRAIDレベルでうまくパフォーマンスを引き出せないケースが生じてくる。このような場合、RAID構成を用途にあった形に切り替えることでパフォーマンスを簡単に改善できる。例えば、書き込みが多く発生する用途では、RAIDレベルをRAID 5からRAID 0+1に変更することで書き込みパフォーマンスを高められる。通常、RAIDレベルの変更にはRAIDグループの解除、再構成が必要だが、RAIDマイグレーションを利用すれば、データを退避させることなくRAIDレベルを変更できる。


データ損失の可能性を限りなくゼロに近づけるリダンダントコピー機能。ディスクが故障してからRAIDの再構成を開始するのではなく、ディスクの故障を予知し、故障に至る前にホットスペアディスクへのデータ移動を行う。
システムを運用しているうちに、ディスク容量の不足やパフォーマンス面の問題が多く発生する。これに対処するために登場した機能が、業務稼働中にディスク構成やRAID構成を活性変更できるロジカルデバイスエクスパンションやRAIDマイグレーションである。

ETERNUSのインターフェイスはあくまでもファイバチャネルが主体となる

 次に、ETERNUSを構成する内部ハードウェアについてピックアップしよう。まずは、ファイバチャネルインターフェイス(以下、FCインターフェイス)についてだ。現在の主流は帯域幅が1GbpsのFC1もしくは2GbpsのFC2だが、次世代は4GbpsのFC4になる予定だという。数年前には、FC4はRAIDバックエンド用のプロトコルとして検討されるにとどまり、多くのFCインターフェイスは、FC2から一気に10GbpsのFC10へとステップアップするといわれていた。基本的に、FC1からFC2への移行は技術的に容易だが、FC2からFC4への移行はかなり難しい。このため、FC4を中途半端に使うくらいならば、FC10へと一気に高速化したほうがいいと考える人が多かったのだ。

 しかし、Brocade Communications Sysmtemsなどの大手FCスイッチベンダがFC4への移行を表明している現在、FC4は業界全体で採用されるものと考え直されてきている。実際、将来のETERNUSでもFC4は採用される見込みだという。ただし、FC4が必ずしも必要かといえばそうでもないという意見もある。篠坂氏は、FC4の必要性について「普通の基幹系トランザクションですと、巨大なデータを一気に転送するような用途はあまり多くありません。トランザクション主体の業務サーバーでは、FCインターフェイスの帯域幅を広げても、オーバーヘッドの部分が変わらなければパフォーマンスはあまり向上しないのです。従って、多くのケースでは、FC2のマルチパス化で十分に対応できると思います。むしろ、従来のマルチパスをFC4でシングルパス化することによる信頼性の低下が気になるかもしれません。現状でFC4の利点を生かせる用途は、HPCC(High Performance Computing Cluster)だと思います」と説明する。

 また、FCインターフェイスに関連して、IPストレージへの展開についても興味がある。特に業界的に盛り上がっているiSCSIをETERNUSで採用する可能性はあるのだろうか。

 「iSCSIによるSANが、ファイバチャネルによるSANと比べて本当に安価かつ有利であるのかといったところを突き詰めて考えると、いろいろと問題点が浮かび上がります。私たちは、ミッションクリティカルなシステムでどのように使われるのかという観点からiSCSIを検討する立場にありますが、残念ながらETERNUSが導入される分野でiSCSIがファイバチャネルよりも魅力的であるとは考えられません。一方、一般的な事務所環境で、さまざまなクライアントからデータを簡単に共有したいというケースでは、現在のNASソリューションの延長線としてiSCSI対応のディスクアレイなどがあったら非常に便利ですね。富士通としては、iSCSIはぜひとも採用すべき技術だと思っており、実際に開発も進めています。ただし、ETERNUSに限定しますと、あくまでもファイバチャネルが主体となります(近藤氏)」。


スタンダードテクノロジと自社のノウハウをうまく使い分けた設計スタンス

 ETERNUSの上位モデルにもなると、処理性能や信頼性向上のために独自開発のパーツが多数含まれていると考えている読者は多いことだろう。実際、かつての製品では、インターフェイスのプロトコル制御LSIまで自前で起こしたりするのが当たり前だった。そこで最後に、現在のETERNUSの設計スタンスについてお聞きしてみた。

 「プロセッサはIntelのx86系プロセッサやFreescale SemiconductorのPowerPC、キャッシュメモリは標準的なDIMM、インターフェイスのプロトコルチップはQLogicやEmulexといった専業ベンダの製品を採用しています。コストパフォーマンスが要求されるところには、積極的にスタンダードテクノロジを採用していくというのが現在の設計スタンスです」。

 「CISC、RISC論争が繰り広げられていた20年前には、自社製プロセッサを搭載していた時代もありましたが、現在はその部分にリソースを割いても意味がありません。逆に、外部のソースを活用したほうが、次々と新しいトレンドを採用でき、かえって競争力を維持できます。例えば、プロトコルチップがよい例です。プロトコルチップを開発しているベンダには、独自のノウハウが数多くたまっています。特に近年ではシリアル化が大きく進んだ関係で、伝送信号の周波数がかなり高くなってきていますので、物理層の開発にはかなりのノウハウが要求されます。このようなところにリソースを割くくらいならば、別の部分にリソースを割り当てるべきであることは明白です」。

 「ただし、スタンダードテクノロジを単に搭載するだけではパソコンと変わりませんから、どのように脇を固めていくのかが私たちの腕の見せ所といえます。ETERNUSでは、スタンダードテクノロジだけで不安なところや信頼性に問題があるところを、自社で開発したASIC、LSIなどを用いて適切に補強しています。いわゆる“餅は餅屋”ということわざのとおり、水平分業をうまく活用しているわけです(以上、近藤氏)」。


 後編では、管理者の負担を大幅に削減するストレージの仮想・自律ソリューションについて取り上げる。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/
  富士通、ETERNUS製品紹介ページ
  http://storage-system.fujitsu.com/jp/

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  ・ 富士通に聞く同社の最新ストレージ製品 [後編](2004/06/15)


( 伊勢 雅英 )
2004/06/14 00:00

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