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富士通に聞く同社の最新ストレージ製品 [後編]


 富士通は、顧客のビジネスや業務を支える高性能、高信頼、高品質なITインフラとして独自の「TRIOLE(トリオーレ)」を提唱、推進している。今回は、このTRIOLEを構成する最新のストレージ製品について、富士通株式会社 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 プロジェクト部長(ソリューション担当)の近藤紀彦氏と、ソフトウェア事業本部 自律システム基盤開発統括部 統括部長代理 兼 第二開発部長の篠坂勉氏にお話を伺った。

 後編では、管理者の負担を大幅に削減するストレージの仮想・自律ソリューションについて取り上げる。


富士通株式会社 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 プロジェクト部長(ソリューション担当)の近藤紀彦氏
富士通株式会社 ソフトウェア事業本部 自律システム基盤開発統括部 統括部長代理 兼 第二開発部長の篠坂勉氏

サーバー、ストレージ、ネットワークを統合的に管理する必要性

富士通が推進している仮想・自律システム基盤(出典:富士通株式会社、以下同様)。ITリソースを構成するサーバー、ストレージ、ネットワークを統合的に管理することで、顧客が安心して利用できる理想のITインフラ「TRIOLE」を実現する。
 ITリソースは、複数台のサーバー、ストレージ、ネットワークなどから構成されている。顧客が安心して利用できる理想のITインフラ「TRIOLE」を実現するには、これらを停止させずに、かつ各種リソースをいかに有効に使うか肝要である。そのためには、現在それぞれのリソースがどんな稼働状態、負荷状況にあるのかといったことをリソース自身が常に把握していなければならない。そして、それぞれのリソースがこうした制御、管理機構をしっかり装備した上で、リソース全体の関係管理を行う必要もある。

 例えば、エンドユーザー端末からのトランザクションを考えたとき、その中の処理やデータは、エンドユーザー端末からWebサーバー、アプリケーションサーバー、データベースサーバー、ストレージといった順番に流れていく。ここで、もし何らかの障害が発生した場合、その障害状況を把握し、顧客に最適な指示を与えるには、リソース同士がどのような関係にあるのか、そしてどの業務がどのリソースを使ってどのように動いているのかを関係づけて管理する必要がある。例えば、ストレージのどこかが故障したときには、どのサーバーのどの業務のどのデータに影響が出るのかをすぐに把握しないと迅速な対処ができない。

 そこで、富士通が投入した製品が「Systemwalker Resource Coordinator」である。Systemwalker Resource Coordinatorは、サーバーやネットワークの運用管理を行うSystemwalkerシリーズの構成要素にあたり、システムを構成するサーバー、ストレージ、ネットワークリソースの一元管理とポリシーに基づいたリソースの自律制御を行うことで、ITシステムの全体最適化を行う。Systemwalker Resource Coordinatorを通じて、トラブルの際の影響範囲や原因を早期に把握、特定したり、サーバーの導入や増設、メンテナンスの効率化、業務復旧の迅速化を図れる。

 「Systemwalker Resource Coordinatorで最終的に目指しているのは、リソース最適化制御です。リソース最適化制御とは、サーバー、ストレージ、IPネットワークといった各種リソースにプール化というコンセプトを導入することで、サーバー、ストレージ、ネットワーク、業務の負荷などに応じて、必要なときに必要なリソースを自動的に組み込み、不要になったら外すといった作業を自律的に行えるようにするものです。これにより、業務の要件にあったシステム構成設計、業務の変化に応じたシステム構成の迅速な変更などが可能になります(篠坂氏)」。


サーバー、ストレージ、クラスタの管理機能を一元化するSystemwalker Resource Coordinator。問題が発生した際の影響範囲と原因の早期特定を可能にする。
顧客の業務要件(SLA)に従い、システム構成の作成とプロビジョニングを行う。また、運用の過程で業務要件に変更があった場合には、迅速にシステムを再構成できる。

 先ほどから“自律”という言葉が何度も登場しているが、この自律という言葉は、何らかの障害が発生したときに、それぞれのリソースが自分で障害だということを理解し、さらには自己修復を行う性質を指している。この説明からは、近未来のロボットのような並々ならぬインテリジェンスが感じられるが、いったいどれほどの自律度を達成できているのだろうか。

 「与えられた条件に従って動くだけの自動型は、さまざまな工夫で実現できてきています。しかし、事象をとらえ、分析し、判断し、次の指示を起こすという自律型は、とりわけ分析と判断の技術が難しいためにまだ最適解が得られていません。例えば、一般的な多階層モデルを考えた場合、そこで何らかの問題が発生したときに、どこの部分で問題が生じているのかを知るには、トランザクションを完全に追跡しなければなりません。こうしたトレーサビリティの技術は絵に描くと簡単なのですが、実際のITシステムで実現するとなると急に複雑になります」。

 「特にネットワークがくせ者です。ネットワークでは、トランザクションにタグのようなものを付けて追跡を行うのですが、このタグの持ち方をどうするかという技術的な問題があります。サーバー同士やサーバーとストレージ間を結ぶネットワークの経路は、論理的には一本しかありませんが、物理的には複雑な経路をたどることになります。このような複雑な経路追跡をいかに行うかが大きな難題となっています。現在、富士通研究所のメンバーとともに研究を進めているところです(以上、篠坂氏)」。


日々複雑さを増すSANの管理を容易にするSoftek Storage Cruiser

 SANは、それぞれのサーバーでストレージを共用できることが最大の利点だが、SANはネットワークそのものなので、接続されるサーバーやストレージが増えるにつれてシステム構成が複雑になってくる。最初にシステムを導入する際には、きちんと構成図を作成するのが一般的だが、業務拡張などによってハードウェアを増設したり、古いものを新しいものに入れ替えたりするうちに当初の構成図が陳腐化していく。この結果、どのストレージがどのサーバーに接続されているのかが把握できなくなってしまう。そして、いざストレージを止めて保守を行おうとしても、そのストレージがどのサーバーに影響が出るのかが判別できない。こうした構成管理の複雑さは、SANの良さと裏腹の“欠点”といえる。

 つまり、規模が増大し続けているSANの利点をうまく引き出すには、こうしたシステムの構成設計、管理に対して人間の手を介在させない工夫が必要だ。これに対処すべく、多くのベンダは、独自の技術に基づいたストレージ管理ソフトウェアを発売しているが、その多くはストレージ専用、スイッチ専用、HBA専用といったように、それぞれのコンポーネントごとに用意されている。従って、このようなストレージ管理ソフトウェアを用いて、それぞれの構成要素だけを個別に見ていても、実はシステム全体の関係がなかなか見えてこない。

 そこで、富士通は、それぞれの構成要素をすべて関連づけて管理できる「Softek Storage Cruiser」を市場に投入した。Softek Storage Cruiserは、ETERNUSをベースとしたストレージ統合管理ソリューション「Softek」の構成要素にあたり、先述のSystemwalker Resource Coordinator製品にも標準的に組み込まれている。役割分担としては、Systemwalkerがサーバーやネットワークの運用管理を担当するのに対し、Softekシリーズはストレージの運用管理を担当する感じだ。

 Softek Storage Cruiserは、SAN管理機能を持つSoftek SANViewソフトウェアに高度なストレージ関係リソース管理機能を追加、統合している。SANだけでなく、DASやNASといった幅広いストレージシステムに対応し、ストレージシステム環境全体の安定運用を支援する。「より適切な構成設計を提供し、何か問題があったときの影響範囲を容易に認識できるようなストレージ管理ソフトウェアを目指しました(篠坂氏)」。

 Softek Storage Cruiserでは、ストレージリソースの安定稼働を実現するために、高度な構成管理、障害管理、性能管理の機能を提供する。これらは、すべてGUIベースの画面で直感的に操作できるようになっている。なお、これらの機能の詳細は、富士通のWebサイトにある「Softek Storage Cruiser ご紹介デモ」のFlashムービーが分かりやすい。従って、これ以上の機能説明は同社のWebサイトに譲ろう。


Softek Storage Cruiserは、ストレージシステムを構成するHBA、スイッチ、ストレージ本体に加え、その上位層にあるRAIDグループ、論理ボリューム、ボリュームマネージャ、ファイルシステム、データベースなども統合的に管理できる。
Softek Storage Cruiserが提供する管理機能は、各装置の構成管理、SANの論理パス、物理パスの統合管理を行う「構成管理」、障害イベントの表示に加え、具体的な故障箇所と影響範囲を認識できる「障害管理」、簡単な操作で性能をリアルタイムに表示する「性能管理」の3つである。

自律化をさらに推し進める次世代のストレージプロビジョニング

 将来の展望としては、リソースの効率的な活用と業務の安定運用をさらに高度な形で支援する2つのステップが用意されている。そのひとつが、ストレージプロビジョニング1である。ストレージプロビジョニング1は、Softek Storage Managerによる容量管理機能をうまく活用したプロビジョニング機能だ。Softek Storage Managerは、各サーバーの論理ボリュームの使用状況を管理するソフトウェアで、サーバーから見た論理ボリューム、データベーススペース、ファイルシステムなどの単位でどれくらいの容量が使われているかを累積情報として蓄積している。

 Softek Storage Managerは、これらの累積情報からいつごろサーバーのディスク容量が不足するかを予測できる(トレンド分析と呼ばれる機能)。ストレージプロビジョニング1は、システム全体のストレージリソースを監視しつつ、こうしたトレンド分析機能を通じて将来の動向を予測し、必要に応じてリソースを自動的に組み込んでいく。「ストレージプロビジョニング1では、ストレージプールという仮想化の概念を導入することで、サーバーのディスク容量が少なくなったときにプールから適切な容量を割り当てられるようにする予定です(篠坂氏)」。

 もう一つのストレージプロビジョニング2は、ストレージシステムを自動設計、設定する機能だ。例えば、あるサーバーのディスク容量が足りなくなった場合、サーバーにストレージを増設すれば済む。口で説明するだけなら簡単な話なのだが、実際にストレージを増設し、サーバーから使えるようにするまでの設定作業はきわめて複雑だ。ストレージ側の設定に加え、スイッチの設定、サーバーのHBAやドライバの定義、ボリュームマネージャの定義などが必要になるからだ。従来は、こうしたさまざまな構成要素を個々に定義していたが、複雑さゆえに作業に時間がかかったり、設定や定義を誤るケースが見受けられた。

 ストレージプロビジョニング2では、GUIベースの的確な構成確認画面によって簡単に設定できるようになる。具体的には、画面上でプールのところからドラッグアンドドロップのような形でサーバーにボリュームを割り当てると、ストレージ、HBA、スイッチなどの構成要素に対して必要な定義体が自動生成される。サンプル構成やリソースポリシー(容量、信頼性、性能)を活用した簡易設計にも対応している。システム構成設計を行ったら整合性チェックも行われるため、設計ミスを未然に防げる。

 また、ストレージプロビジョニング2によるストレージ設計は、オフラインでもオンラインでも操作できる。特にオフラインによる設定を利用したポータビリティの機能が秀逸だ。例えば、システムインテグレータのオフィスにあるPCで事前にオフラインでストレージの追加設定を行い、ここで顧客に必要な設定情報を自動的に生成しておく。これをフロッピーディスクなどの外部媒体に吸い出し、現場に持っていって適用すれば、現場の各ハードウェアの設定が自動的に反映されるわけだ。ストレージプロビジョニング2の実現は、2004年末を予定しているという。


ストレージプロビジョニング1では、運用管理を通じて得られた累積情報から、いつごろサーバーのディスク容量が不足するかを予測し、必要に応じて自動的にディスク容量を割り当てられるようにする。
ストレージプロビジョニング2では、サンプル構成やリソースポリシーを活用した簡易設計、GUIベースの構成画面を通じて、ストレージシステムの構成や設計を自動的に行う機能だ。

ストレージ管理標準インターフェイス「SMIS」の推進と製品への実装

 SANを構成するさまざまなコンポーネントを管理するには、各コンポーネントに構成情報を問い合わせて情報を取得したり、設定情報を送り込んで設定を反映したりする共通の管理インターフェイスが必要になる。一方、現在見受けられるSANの多くはマルチベンダ環境であることがほとんどだが、今日のマルチベンダSANに導入されている管理APIには互換性がないため、複数のベンダが提供する一貫性のないアプリケーションセットの使用が余儀なくされる。これにより、ビジネス効率の向上に必要とされる機能、ディストリビューション、セキュリティ、信頼性が欠如している。

 そこで登場したのが、SMIS(Storage Management Initiative Specification)である。SMISは、SNIA(Storage Networking Industry Association)配下のSMI(Storage Management Initiative)が開発したオープンなストレージネットワーク管理インターフェイス規格だ。すべてのストレージネットワークコンポーネントが共通インターフェイスとしてSMISに準拠することで、マルチベンダSANの環境を統合的に管理できるようになる。


次世代のSoftek製品には、ストレージ管理インターフェイスとしてSNIAが開発したSMISを採用する予定だという。他社製品もSMISに準拠するようになれば、Softek製品がマルチベンダ環境に対応できるようになる。
 これからのSoftek製品は、ストレージ管理インターフェイスとしてSMISを採用することでオープン化を推進していく。昨年発売した現行のSoftek Storage Cruiserはローカルインターフェイスを採用しているが、今年末に発表予定の新しい製品はSMISに準拠したものに切り替わるという。

 「サーバーにしろ、ストレージにしろ、サーバー上のミドルウェアにしろ、まず基本的には富士通の製品から取り組みを始めています。すでに富士通の製品であれば、かなりのことが実現できています。ただし、実際のお客様の環境には、さまざまなベンダの製品が含まれているのが現状です。富士通の製品とまったく同じ水準に到達するのは困難ですが、他社のハードウェアやミドルウェアに対しても、ある程度の形でSoftek Storage Cruiserの管理に組み込めるように、Softek Storage Cruiser側のオープン化を推進しています。他社製品をSoftekの管理対象とするためには、各社の取り組み、協力が欠かせません。自社製品をSMISに準拠させることはもちろんのこと、より詳細な情報を取得、設定できるようにインターフェイステーブル情報を改良していただく必要があります(篠坂氏)」。

 どうやら、富士通のTRIOLEが目指すITインフラは今年末に一つの節目を迎えるようだ。自律化、仮想化が大きく進む年末の新製品にぜひとも期待したい。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/
  富士通、Softek製品紹介ページ
  http://storage-system.fujitsu.com/jp/softek/

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  ・ 富士通に聞く同社の最新ストレージ製品 [前編](2004/06/14)


( 伊勢 雅英 )
2004/06/15 00:00

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