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Network Applianceに聞く同社のストレージ戦略 [後編]


 米Network Appliance, Inc. アジア・パシフィック担当バイスプレジデントのトム・チン氏と日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 代表取締役社長の鈴木康正氏に、競合他社とは一線を画するNetwork Appliance(以下、NetApp)ならではの独特な企業風土、ストレージビジネスに対するビジョンについてお話を伺った。後編では、ストレージユーティリティの実現に向けたNetAppのアプローチ、Spinnaker Networksを買収した理由などを取り上げる。


米Network Appliance, Inc. アジア・パシフィック担当バイスプレジデントのトム・チン氏 日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 代表取締役社長の鈴木康正氏

日進月歩のビジネスで勝ち続けるには単純なストレージが不可欠

 前編では、経営体制、製品コンセプト、設計思想などに対するNetAppの首尾一貫性について説明してきたが、その結果としてもたらされるものがsimplicity(単純さ)なのだという。

 「競合他社は、新しいながらも内容が複雑なアーキテクチャを提示し、“顧客がこのアーキテクチャに賛同することで明るい未来が開けますよ”といったトーンで自社の優位性をアピールしています。一方、NetAppのメッセージは非常に単純で、多くの方が容易に理解できるものになっています。つまり、何か特別なビジョンを語るわけではなく、“顧客が現在直面している課題に対する解として何が求められているか?”を突き詰めた製品を発売することが私たちのメッセージなのです。例えば、今回発表したData ONTAP 7Gがよい例です。ディスクの有効利用、既存容量の有効利用というのは企業にとって重大な問題ですが、Data ONTAP 7Gを使用すれば、これらが非常に簡単に、しかも追加投資なく実現できます(チン氏)」。

 企業が扱うデータ容量は急速に増えている。そして、それをまかなうためのストレージも同様に大容量化が進んでいる。ここで問題となるのは、こうした巨大なストレージ群をいかにして配備、管理するかということだ。そして、これらの中にあるデータすなわち企業財産をいかにして保護するのか、さらには地震、火災といった災害に対するデータ保護策をいかに安価に実現するかといったことも考えなければならない。これらは、企業にとってデータという切り口から見た場合の“経営課題”であり、決して避けては通れないものだ。

 「ストレージ製品の判断基準として重要なポイントは、とにかく単純なものを選択すべきだということです。自社の顧客に対して、より細かいサービスをより迅速に提供しようと思ったら、複雑なアーキテクチャを持つストレージでは対応できません。新しいサービスに合わせてストレージ構成を変更するときに、時間や人手がかかるようでは日進月歩のビジネスでは到底勝てません。ストレージを単純なものにするには、弊社の社名にもある“アプライアンス”というコンセプトが役立つでしょう。アプライアンスを利用することでストレージシステムの配備や管理を簡素化でき、それがコスト削減につながり、結果として企業のさまざまなプロセスを変え、成功へと導くわけです(鈴木氏)」。


すべてのストレージ製品に同一のOSを搭載することの意義

 では、NetAppの製品は具体的に何がどのように単純なのか。NetAppの製品を使ったことがない人からは見れば、NetAppの製品も競合他社の製品も大きな差がないように思えてしまう。正直なところ、どのベンダも血眼になって研究、開発を進めているので、各社の製品で“できること”“できないこと”の差はどんどん縮まりつつある。これに対し、鈴木氏は、NetAppを知らない人に向けたメッセージであることを告げた上で、自社製品の強みを次のように説明する。

 「競合他社も、さまざまなストレージハードウェアを発売しており、例えばILMを実現するという点で大きな差はありません。しかし、それぞれのハードウェアは、もともと開発した人のベース(設計思想)が異なる上に、異なるOSが動作しているのが現状です。もともと複雑な思想でできているコンポーネントに“表面上”の一貫性を持たせるためには、ストレージハードウェアをソフトウェアの皮で包んであげる必要があります。しかし、一貫性のない屋台骨にいくら高度なILMソフトウェアをかぶせたところで、真の意味でのILMを実現するのは困難といえます」。

 「一方、NetAppはNASアプライアンス、ニアラインストレージ、インターネットゲートウェイプロキシ/分散コンテンツ配信アプライアンスなど、あらゆるハードウェアにまったく同じOSが搭載されています。つまり、すべての製品が首尾一貫しているのです。だからこそ、ILMに限らず多くのソフトウェアがハードウェアの上で非常に綺麗な形で動作します。また、ソフトウェアの高度化にハードウェアも足並みを揃えられますので、ストレージで実現できることの幅がどんどん広がっていきます。もちろん、各製品で同じOSを搭載すること、すなわちシングルイメージを実現することは口で言うほど簡単なことではありません。しかし、NetAppは創業以来から首尾一貫性を大事に守り続けた会社なので、それが可能だったのです」。


ストレージグリッドによってストレージのユーティリティ化を実現

 アプリケーションで使用するデータは、とにかくどこかのディスクに置くしかない。そして、これらのディスクは必ず物理的な所在地、IPアドレスなどにヒモ付いている。この結果、データを読み書きするサーバー、データを生成するサーバー、データを活用したいアプリケーションが動作するサーバーなども物理的な所在地が決まってしまうことになる。これが、現在の一般的なコンピューティング環境の姿である。

 これに対し、多くのベンダがユーティリティコンピューティングという言葉を唱え始めている。ユーティリティコンピューティングとは、CPUパワーやストレージ容量などのコンピューティングリソースを、あたかも水道や電気のインフラのごとく、必要なときに必要なだけ利用しようという考え方のことだ。ストレージの世界では、ストレージ仮想化やストレージグリッドがこうしたユーティリティ化を実現する重要な切り口となる。これらのテクノロジは、各ストレージハードウェアが持つストレージ容量をすべて束ねてプール化し、これらの中から必要なときに必要なだけの容量を切り出して使えるようにする。また、不要になったら、割り当てたストレージ容量を元に戻し、別の用途に使い回せるようにする。このように、データをただ溜めるだけの時代から活用する時代に移行しつつある現在、NetAppはどのようにしてストレージユーティリティを実現しようとしているのか。


グリッド・コンピューティングに対応したストレージの概念図(出典:日本ネットワーク・アプライアンス株式会社)。コンピューティングサーバー群はクラスタリング技術や負荷分散ソフトウェアの組み合わせによって単一の仮想マシンとして扱い、ストレージ群はストレージグリッドの導入によって単一の仮想ストレージプールとして扱う。こうすることで、単一のCPUリソース、ストレージプール、その間を結ぶネットワークという非常に単純な構成となる。
 「データの可用性だけでなくデータそのものに対する利便性も高めるストレージユーティリティを実現するには、データ自身もしくはデータを管理しているOSが動作するコントローラがどこにあろうが、データに対するアクセスがどのような形で発生しようが、サービスを享受する側(サーバーやアプリケーション)に対して常にサービスを提供し続けられなければなりません。NetAppは、これを“ストレージグリッド”と呼ばれる構想でカバーします。ストレージグリッドは、複数のストレージハードウェアをグリッド化することで、ストレージリソースを必要なときに必要なだけ迅速にアプリケーションへと割り当られるようにするものです(チン氏)」。

 「競合他社も同じような考え方でストレージユーティリティを実現しようとしていますが、NetApp製品にはすべて同じOSが搭載された“一貫性”という武器がありますから、ここで明確な差が生まれるものと考えています。例えば、ノード数を無制限にサポートできるストレージ仮想化製品は競合他社からまだ発売されていませんが、NetAppはこれを可能にする完全グリッド化の技術をすでに持っています。まだ発表はしていないのですが、アーキテクチャやビジョンなども細かいところまで出来上がっており、あとはあるタイミングをもって発表するだけとなっています(鈴木氏)」。

 鈴木氏は、さらに管理性の違いについても言及する。「ITインフラを構成するアプリケーション、ミドルウェア、コンピューティングサーバー、ネットワーク、ストレージを見た場合、これらは一種のレイヤ構造をなしており、しかも相互にさまざまなやり取りが行われています。従って、常に誰かが下のレイヤを管理していなければ、上のレイヤは動かないことになります。しかし、このような状況はアプリケーションから見たら非常に不便な環境といえます。やはり、アプリケーションからすべてのレイヤを制御、管理できるのが本来正しい姿です」。

 「そこで、NetAppは、アプリケーションからストレージのレイヤを簡単に制御、管理できるようにする“呼び出し口”をOSに用意し、そのAPIもすべて開示しています。私たちは、こうした特徴をcallableやexecutableと呼んでいます。これらの機能により、アプリケーション側からデータのコピーをとったり、ある種のポリシーを定義したりできるようになります。現在、すでにグローバルな提携関係にあるオラクル、SAP、マイクロソフトに続き、その他のさまざまなアプリケーションおよびミドルウェアのベンダともいろいろと話を進めているところです」。


突出したクラスタリング技術を獲得するためにSpinnaker Networksを買収

 近年、ストレージハードウェアはコモディティ化が急速に進んでいる。例えば、どのベンダのディスクサブシステムも、その中に搭載されているディスクドライブはほとんど一緒、もしくはまったく同じだったりする。外部インターフェイスもFibre ChannelやGigabit Ethernet、SCSIなどの業界標準インターフェイスが採用されており、何かこれらと異なるアーキテクチャを持った独自インターフェイスを搭載するようなことはまずありえない。

 つまり、各社のストレージ製品で明確な差が生まれる場所は、ストレージハードウェアの制御や管理を行う“ソフトウェア”ということになる。「NetAppは、ソフトウェアにこそストレージの価値を見いだしています。先ほどのsimplicityと関連しますが、私たちは自分たちが持つ固有の技術をすべて埋め込んだソフトウェアで顧客の問題を簡単かつ迅速に解決できるように支援しています(チン氏)」。

 ストレージハードウェアのコモディティ化と並び、低価格化もいっそう進んでいる。企業が扱うデータ容量はうなぎ上りに増大しているが、ディスクの価格も同じレベルで下落しており、トータルで見るとストレージ製品にかかるコストはほとんど変わっていない。同じ投資額でより大容量のディスクを手に入れられるので、顧客にとっては嬉しい傾向といえるが、ストレージベンダにとってはまさに勝負の時である。現在、ストレージ市場全体の総売上高は約200億ドルといわれているが、ストレージ製品に対するユーザーの投資額が変わらないということは、200億ドルという総売上高も変わらないことになる。つまり、200億ドルという限られた市場を競合他社とともに奪い合うしかないのだ。

 「競合他社と同じようなことをやっている間は、いつまで経っても同じだけの配分しかもらえません。早い段階で技術的なものを確立し、迅速にマーケットシェアを獲得しないと生き残ることはできません。もう時間的な猶予はないのです。そのような状況の中、NetAppは、2003年11月に突出したクラスタリング技術を持つSpinnaker Networksを買収しました(チン氏)」。


Spinnaker Networksのテクノロジは完全グリッド化の実現に大きく貢献

 Spinnaker Networksは、次世代のNASストレージソリューションを提供するベンチャー企業で、特に分散環境におけるファイルシステム、仮想化ソリューションなどを得意としていた。NetAppが注目したのは、SpinOSの持つ突出したクラスタリング技術だった。NetAppの製品はこれまでNFSとCIFSをファイルシステムの基調としていたが、ストレージユーティリティやストレージグリッドを実現する上で、複数のOS間やロケーション間でデータアクセスを可能にするクラスタリング技術が欠かせなかったのだ。

 Spinnakerが開発したSpinOSの歴史をさかのぼると、AFS(Andrew File System)へとたどり着く。AFSは、LANやWANを自由にまたいでファイルを共有できる分散ファイルシステムで、カーネギーメロン大学の後に、Transarc社が中心となって開発したものだ。製品化に向けた開発はTransarc社によって進められていたが、Transarc社がIBMに買収されてから減速してしまったという。そのような中、AFSを開発したメンバーが中心となり、Spinnaker Networksが設立された。「NetAppは、AFSと非常に似通った考え方を持つSpinOSに着目しました。Spinnaker Networksとは、買収するずっと前から将来的なビジョンを確認し合いながら家族付き合いのように密接に話を進めてきました(チン氏)」。

 また、ストレージグリッドではグローバルネームスペースが重要になる。グローバルネームスペース(大域的名前空間)とは、広義には分散システムにおいてすべての計算機から参照できる単一の名前空間を指している。ストレージの世界では、データの物理的な所在に関わらず、クライアントからは単一のファイルシステム上にあるデータであるように見せる働きを持つ。これにより、クライアントはデータの物理的な位置を意識することなく自由にそのデータへとアクセスできるようになる。また、管理者は単一のファイルシステムを管理するだけですむため、管理性も大きく向上する。グローバルネームスペースのテクノロジは、NetAppもSpinnaker Networksも持っていたが、買収を通じてこれらがうまくマージされる形となった。

 NetAppは、これに先立って11月18日にSpinnaker Networksの仮想化技術を取り入れたData ONTAP 7Gを発表している。今後は、Data ONTAPのWAFL(Write Anywhere File Layout)ファイルシステムにSpinOSのクラスタリング技術を取り込み、大規模なストレージグリッドを実現する方向へと向かっていく。チン氏は「Spinnaker Networksのテクノロジをすべて統合するのは2005年末になるでしょう」と話す。このときが、NetAppが目標に定めている完全グリッド化の実現時期であると考えて間違いなさそうだ。



URL
  日本ネットワーク・アプライアンス株式会社
  http://www-jp.netapp.com/

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( 伊勢 雅英 )
2004/12/06 00:00

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