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ベリタスソフトウェアに聞く同社のビジネス戦略 [前編]


 VERITAS Software(以下、ベリタス)といえば、VERITAS NetBackupやVERITAS Backup Execなど、いわゆる“バックアップの会社”として広く知られているが、実はエンドユーザーが気づかずに使っている領域でもベリタス製品がかなり浸透している。例えば、Windows 2000以降に標準搭載されている論理ディスクマネージャ(ダイナミックディスクとボリューム管理)はベリタスから提供されたものだ。その他にもファイルシステムやクラスタリングソフトウェアなど、FORTUNE 500に含まれる企業の99%が何らかのベリタス製品を使っている状況だという。

 今回は、ベリタスソフトウェア株式会社 技術本部 本部長の足立修氏、マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャの雨宮吉秀氏、マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャの中野逸子氏に、バックアップの会社だけにとどまらないベリタスの本当の姿をお聞きした。前編では、ベリタス製品のこれまでの歴史と現在推進しているユーティリティコンピューティングの概要を取り上げる。


ベリタスソフトウェア株式会社 技術本部 本部長の足立修氏 ベリタスソフトウェア株式会社 マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャの雨宮吉秀氏 ベリタスソフトウェア株式会社 マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャの中野逸子氏

商用UNIX向けのボリュームマネージャとファイルシステムを開発

Windows XPなどに標準搭載されているバックアップユーティリティは、ベリタス(もともとはベリタスが買収したSeagate Software)が開発したものだ。
 冒頭でも述べたとおり、ベリタスは“バックアップの会社”という印象がとても強い。たぶん、エンタープライズストレージに精通しているユーザーを除けば、“もともとの柱だったバックアップから派生して、いろいろなストレージソリューションを提供している会社なのだろう”と考えているユーザーが多いと思われる。実際、コンピュータに詳しい筆者周辺にベリタスのビジネスについて聞いて回ったところ、“バックアップソフトで有名だよね”という答えが続々と返ってきたほどだ。

 しかし、ベリタスはバックアップから始まった会社ではない。実際には、UNIX向けのボリューム管理ソフトウェア(ボリュームマネージャ)やファイルシステムから始まった会社であり、これらに関連するものとしてバックアップを後から製品ラインアップに加えたというのが正しい流れだ。

 「ベリタスは、もともとファイルシステムやボリューム管理など、エンドユーザーからは見えにくい製品を各プラットフォームベンダにOEM提供する戦略をとっていました。これらの製品を各プラットフォームにとにかくseeding(種まき)し、世界中にあまねく普及させることが最大の目標でした。そして、1997年には主に既存の顧客に対する追加のビジネスとして、これらのストレージ技術に最も関連したバックアップソリューションを提供し始めました。同時に、エンドユーザーにも見える形でのセールスチャネル強化を図りました。多くの皆様にバックアップの会社というイメージが根付いた理由はこの辺にあるのではないでしょうか(中野氏)」。

 ベリタスは、1989年にTolerant Softwareから分社した企業だ。Tolerant Softwareは、AT&T UNIX System Laboratoriesの協力を得て、自社のハイアベイラビリティ・オペレーティングシステムからUNIX System V向けに価値あるコードを抽出し、トランザクションベースのボリュームマネージャとファイルシステムを業界で初めて開発した。

 「現在は、メインフレームの代わりにUNIXをミッションクリティカルな用途に使うようになりましたが、もともとはミッションクリティカルな用途にまったく向かないOSでした。メインフレームはジャーナルファイルシステムや論理ボリューム管理などが充実していましたが、UNIX系OSにはこれらの機能がなかったからです。UNIXをCAD/CAMで使用したり、ソフトウェアの開発で使用したりするなど、エンジニアリングワークステーションとして使用する分には十分なOSでしたが、データベースなどのビジネスクリティカルな用途で使おうとするとメインフレーム並みに強化されたファイルシステムやボリューム管理が不可欠となります。このような流れは、メインフレームの置き換えを目論むWindowsの世界でも現在まさに起ころうとしています(雨宮氏)」。


圧倒的なシェアを持つバックアップおよびクラスタリング製品

 Tolerant Softwareは、1989年にVERITAS Softwareへと社名を変更した後、1991年にはMicrosoft、1992年には日立とIBM、1993年にはHewlette PackardとSun Microsystems、1994年にはOracleとパートナー関係を結んでいく。そして、パートナーのソフトウェアと密接に関連する製品として、商用UNIX向けのファイルシステムやボリュームマネージャ、OracleやDB2の管理性、可用性、パフォーマンスを最適化するデータベースエディションなどを発売していった。「意外と知られていないのですが、HP-UXに標準搭載されているファイルシステムはベリタスが開発したものです。つまり、HP-UXを使っている環境では、同時にベリタスの製品も使っていることになります(中野氏)」。

 1997年には、OpenVision Technologyと合併し、エンタープライズバックアップや階層化ストレージ管理ソリューションを自社のラインアップに加えた。このとき登場した製品が、大規模環境向けのバックアップソフトウェア「VERITAS NetBackup」である。さらに、1999年にはSeagate SoftwareのNSMG(Network and Storage Management Group)を買収し、当時業界をリードしていた中小企業向けのWindowsバックアップソフトウェアを「VERITAS Backup Exec」として引き継ぐことになった。


ベリタスのバックアップソリューションを利用すれば、ローカルオフィス、リモートオフィスなどロケーションを問わずに、サーバー、クライアントに格納されたデータの保護を統合的に実行できる(出典:ベリタスソフトウェア、以下同様)。図はDAS環境の例だが、サーバーとストレージの接続にSANを併用すれば、もっと効率的な運用が可能になる。
 このように、VERITAS NetBackupとVERITAS Backup Execの登場によって、UNIXからWindowsに至るまで、幅広いプラットフォームのデータ保護を可能にした。現在、ベリタスのバックアップソリューションは、多くの人から“バックアップの会社”といわしめるほどに成長し、バックアップ/リカバリ製品の中でのシェアはVERITAS NetBackupが1位(26.9%)、VERITAS Backup Execが2位(18.3%)と見事なワンツーフィニッシュを飾っている(Gartner Dataquest 2004年4月発表のデータより)。また、1999年にはクライアントPC向けのリモートデータ保護技術を開発していたTeleBackup Systemsを買収し、クライアントPCのバックアップも統合的に行えるソリューションを提供している。これにより、サーバーからクライアントまですべてのデータ保護が可能になった。

 そして、ベリタスが高いシェア(プラットフォームを問わなければシェア第1位)を達成している、もう一つの分野がクラスタリングソフトウェアである。ベリタスは、1995年にハイアベイラビリティ・フェイルオーバソフトウェアを開発していたTidalwave Technologiesを買収し、SCSIベースで2ノード対応の初歩的なシングルアプリケーション・フェイルオーバを実現するソフトウェア「First Watch」を取得した。これは、ベリタスがもともと持っていたハイアベイラビリティ・クラスタリング技術であるVERITAS VxReliantを補うものになった。

 その後、ベリタスの技術者によって8、16、32ノードへとクラスタリングの規模が拡張され、同時に複数のアプリケーションのフェイルオーバーもサポートされた。また、SANによる接続、WAN回線を経由したディザスタリカバリにも対応し、1998年には実用的なクラスタリング、ディザスタリカバリ機能を備えたベリタス初の製品として「VERITAS Cluster Server」が発売された。さらに、複数ノードからのファイルシステム共有を可能にするVERITAS Cluster File System、同じく複数ノードでボリュームの共有を可能にするVERITAS Cluster Volume Managerを統合したことによる、優れた管理性、拡張性、パフォーマンスを兼ね備えたクラスタリング環境を実現している。


ビジネス達成を最大の目的としたユーティリティコンピューティング

 ベリタスは、こうした長い歴史を通じて数多くのソフトウェア製品を持つに至った。しかし、ただやみくもにソフトウェアの種類を増やしてきたわけではなく、一定の基準に従ってソフトウェアの拡充を図ってきたのだという。この基準とは、ベリタスの設立当初に立てられて戦略に端を発しており、それはシステムのダウンタイムをなくすこと、複雑すぎるタスクを簡素化し、管理作業を視覚的に行えるGUIを用意すること、システムのパフォーマンス強化に対して徹底的にこだわることの3つだった。

 「これまでは、ストレージを中心に顧客の管理コストとダウンタイムを削減するソリューションを提供してきました。現在は、ユーティリティコンピューティングをキーワードに、ストレージからサーバーまでのITインフラ全体に対して、管理コストの削減、高い可用性、パフォーマンスの強化を図るための製品群を拡充しているところです。ハードウェアでユーティリティコンピューティングを実現しようとしている競合他社にはいろいろな制限がありますが、ベリタスはすべてをソフトウェアで実現しています。このため、制限はきわめて少なく、ヘテロジニアスな環境でもかなり自由度の高いユーティリティコンピューティングを実現できる自信があります(足立氏)」。

 ベリタスは、この“ユーティリティコンピューティング”という言葉を最も大事にしている会社の一つである。しかしながら、ユーティリティコンピューティングの解釈は各社各様なのが現状だ。基本となるのは“電気、水道、ガスのように、好きなときに好きなだけコンピューティングリソースを使える”という部分で、それ以外の部分では各社の違いが見え隠れする。ベリタスは、ユーティリティコンピューティングの定義を自身の言葉でしっかりと用意している。

 その定義とは、「最も重要なビジネス要求を満たすことを目的に、可用性、パフォーマンス、人的資源とシステムリソースの有効活用を通して、日常的に所有しているハードウェアを活用可能な資源としてプール化し、それらをダイナミックかつ自動的に再配置、再利用できるソフトウェアの仕組みのITインフラストラクチャ」だという。これは、ベリタスソフトウェア株式会社が日本語訳した文章そのままである。

 この定義の中で特に注目しておきたいのが“最も重要なビジネス要求を満たすことを目的に”という部分だ。足立氏によれば、多くの企業がビジネスの達成のためにITインフラを組んでいないという。ITインフラを徐々に入れていくのはいいが、ITインフラを構成するストレージ、ネットワーク、サーバー、アプリケーションが相互に関わりながらも、実際にはこれらがうまく構築されていなかったり、うまく組み合わさっていなかったりするのが現状だ。これにより、多くの企業のITインフラは遅い、混沌、非効率という問題を抱えてしまっている。


多くの企業は、ITインフラの構成要素をバラバラの目標の下に構築しているため、ビジネスの遂行に合致していない状況に陥っている。

勝ち続ける企業にとって運用コストの削減が第一の命題

 こうした問題を解決するには、情報システム部の担当者、特にCIO(最高情報責任者)が矢面に立ってITインフラを整備していく必要がある。足立氏は、「ベリタスは、ユーティリティコンピューティングという切り口から、これらの問題を解決するソリューションを提供します。単にITインフラだけをまとめるのではなく、ビジネスの方向性に従った形でインフラが後からついていくことが重要で、そのためには“統一された目標”と“実行環境のインテグレーション”が不可欠です。そして、これを支援するのもベリタスの役割となります」と話す。

 IT予算が運用コストと革新的技術の導入コストから構成されているとする。革新的技術の導入コストとは、新しい技術を導入するための資金、人材、時間である。このとき、これらの関係を調べると重要なことに気づく。まず、従来の運用スタイルを変えなければ、運用コストは年々上がっていく。しかし、よほど利益を上げている企業でもない限り、IT予算は横ばい、もしくは年々縮小される傾向にある。仮に十分な利益を上げているとしても、それ以上に利益を追求するのが企業の姿であり、IT予算を潤沢にとるのはなかなか難しい。従って、IT予算から運用コストを差し引いた革新的技術の導入コストも、年々減らしていかなければならない。とはいえ、企業は革新を続けない限り競争社会では勝ち残れない。まさに板挟みの状態だ。


IT予算は年々縮小され、運用コストは年々拡大していく。このため、革新的な技術の導入コストは日増しに圧迫を受ける結果となる。このネガティブスパイラルから脱却しなければ、競争社会に打ち勝てる“強い企業”にはなれない。
英国のある企業の事例。IT予算は年々徐々に減少しているものの、ベリタスのソリューションを通じて運用コストを大幅に削減したことで、新たなものを生み出すための開発コストは増大している。IT予算を増やすことなく、これを実現しているところが大きなポイントだ。

 そこで、運用コストを削減することが企業にとっての第一の命題となる。「ベリタスがやりたいのは、いかに運用コストを低く抑えて、革新的な技術のためにIT予算を割けるようにするかということです。私たちは、自動化、仮想化という手法を通じてITシステムの運用を徹底的に効率化し、削減された分のコストが新たな投資へと生まれ変わるように支援します。ベリタスのソリューションでこれを実践している企業はすでに多数あります(足立氏)」。


 中編では、ユーティリティコンピューティングを実現するベリタスの製品マッピングに加え、統合的なデータストレージ管理を可能とするパッケージ製品「VERITAS Storage Foundation」を取り上げる。



URL
  ベリタスソフトウェア株式会社
  http://www.veritas.com/ja/JP/

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( 伊勢 雅英 )
2004/12/13 00:00

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