|
日本電気株式会社 第一コンピュータソフトウェア事業部 統括マネージャの川浦立志氏
|
近年、ストレージ業界ではILM(Information Lifecycle Management)という言葉がもてはやされている。これは、情報が生成されてから破棄されるまでのライフサイクルに着目し、それぞれのフェーズに適したストレージに情報を格納しようという考え方である。しかし、各社が提唱するILMの姿を細かく調べると、必ずしも中身が一致しているわけではない。
こうした状況の中で、日本電気株式会社(以下、NEC)は、他社が言うところのILMにとらわれることなく、もっと本質的な観点から情報配置の正しい姿を追求する「情報最適配置ソリューション」を提唱している。今回は、日本電気株式会社 第一コンピュータソフトウェア事業部 統括マネージャの川浦立志氏に、同社が提唱する情報最適配置ソリューションについてお話を伺った。
■ 世間一般でいうところのILMとNECが提唱する情報最適配置の違いとは?
企業にとって情報とは何か。情報とは資産である。もっと正確に言えば、企業の資産と呼ばれる人、モノ、お金と同じ手法で管理し、企業活動に活用できる資産である。それにもかかわらず、情報はとうてい資産といえないような扱われ方をされている。多くの企業を見渡すと、人、モノ、お金は、それぞれ専門の管理部門が適切に管理しているが、情報を専門的に管理しているスタッフはほとんど見受けられない。これは、企業の多くが情報を自社の大事な資産として認識していないことに起因する。
しかし、情報こそが今後のビジネスで重要な鍵を握ることは言うまでもない。ある調査会社から発表された数字によれば、企業が保有するデータ容量は2001年から2003年にかけて年間で平均50%も増加しているという。特に伸びの著しいアプリケーションは、IA系ではビデオ、EC(電子商取引)、ERP(企業資源計画)、UNIX系では開発、データウェアハウス、電子メールなどとなっている。こうしたデータの増大に対して対応が遅れると、ビジネス拡大の機会を損失する結果となる。また、システムの障害や災害によってこれらのデータを消失するようなことがあれば、ビジネス継続の危機に陥ってしまい、その度合いによっては倒産に追い込まれる可能性すらある。
従って、人、モノ、お金と同様に、情報に対しても適切な管理手法を確立しなければならないわけだ。そこで、NECは、情報最適配置ソリューションという新たな情報の管理手法を発表するに至った。「人でもモノでもお金でも、何らかの管理手法がすでに確立されています。情報もそのような適切な管理手法が必ず存在するはずです。NECは、自社の中で長年蓄積されてきた経験に基づき、NECならではの切り口から情報を適切に管理する“情報最適配置ソリューション”を発表しました(川浦氏)」。
それでは、情報最適配置とはいったいどのようなものなのか。NECによれば、情報最適配置とは、情報を活用、保護、低コストで管理するための基本的なフレームワーク(考え方)であるという。ILMという言葉が先行している現在、この情報最適配置とILMの差異が少々分かりづらい。これに対し、川浦氏は両者の違いを次のように説明する。
「“情報のライフサイクルを管理するということは本来どういうことか”を考えてみてください。そこには普遍的に正しい姿があり、その正しい姿が正しい形で認識されていれば、それこそがNECの情報最適配置ということになります。最近、ILMという言葉が各所で使われていますが、このILMとは、データの生成から破棄までのサイクルに応じてデータを最適なストレージに“移します”というものです。つまり、高価なストレージから安価なストレージにデータを“移す”からストレージのコストが下がる、そしてこれこそがILMの仕組みであるという風に理解されている節があります」。
「しかし、このような考え方は情報のライフサイクルを管理することのすべてではなく、ほんの一部に過ぎません。つまり、世の中で一般にいわれるところのILMとは、NECが提唱する情報最適配置の一部でしかなく、情報最適配置という表現でNECが意図しているものとは少し異なっているわけです。このため、私たちはILMという用語の使用をあえて避け、情報最適配置のメリットをアピールしています。とはいえ、ILMという言葉をいっさい使わないと、お客様から“NECは他社で言うところのILMのような技術をサポートできないのか?”と勘違いされてしまいますので、ときにはILMという言葉にも触れながら、情報最適配置をご紹介しなければなりません。ただし、少なくともILMの人気にあやかって、“ILMが目印のNECです”という売り文句で弊社のストレージソリューションを展開するつもりはありません(以上、川浦氏)」。
■ さまざまな切り口からデータの分類を行うことが情報最適配置の第一歩
情報最適配置の本質は、データの分類にある。データを分類するにあたり、まず調べなければならないのがデータの種類だ。データの種類には、本番データ、本番データのもとになる素材、素材を作成するためのワークデータ、開発・評価用データ、バックアップデータなど、さまざまなものがある。そして、これらの重要度はそれぞれに異なっている。例えば、先述の例であれば、本番データは非常に重要だが、ワークデータは本番データほど重要ではない。また、バックアップデータはワークデータよりも重要度が低い。このように、データの種類によって重要度はさまざまなのだ。
次に、業務に依存したデータの重要度という切り口もある。企業活動に必要なデータにはさまざまなものがあるが、これらの重要性は関連する業務の重要性に依存している。従って、すべてが同じ重要度であることはまず考えられない。そこで、さまざまな業務を重要度でくくる分類が必要になってくる。このような分類を行う際には、BIA(Business Impact Analysis)と呼ばれる分析手法が生きてくる。BIAとは、企業の中の業務ごとに、その業務の情報システムが停止したらどのような影響があるのかを見積もる分析作業である。こうした作業を通じて、業務それぞれの重要度、そしてこれらの業務にヒモ付くデータの重要度も次々と分かってくる。
さらに、時刻とともに変化する情報の重要度というものもある。実は、この切り口が世の中でいうところのILMにあたる。情報には、生成、活用、保護、廃棄というライフサイクルが存在し、ライフサイクル中の各フェーズでデータの重要度が異なってくる。生成してから活用するまでは非常に重要度が高いが、保護のフェーズでは重要度が低下していき、廃棄のフェーズで重要度がゼロになる。また、ライフサイクルの長さも業務によって依存しており、データを生成してからすぐに廃棄してしまう業務もあれば、データを長期間保護しなければならない業務もある。
近年、国内外の法規制によってデータを長期間保護しなければならない時代へと突入している。例えば、米国ではサーベンス・オクスリー法などのさまざまな規制が次々と生まれており、米国上場している企業や証券取引業会員企業に対して業務上の社内文書や電子メールの長期保存義務が課せられている。また、日本でもデータの長期保管を求める動きが急速化している。その代表例が、2005年4月の施行を目指しているe-文書法、国税関係帳簿書類を電子記憶媒体に保存することを認可する電子帳簿保存法などだ。基本的に、これらの法規制に縛られる業務ではデータのライフサイクルが長くなる傾向にある。
■ 各種サービスレベルに適合する製品、ソリューションを用意
データの分類を行ったら、次にこれらのデータの価値に応じたサービスレベルを明確にしていく。この作業は、いわゆる情報管理ポリシーの策定にあたる。データの重要度を示すキーワードには、アクセス頻度、可用性、リカバリ時間、災害対策の必要性、法規制の有無などがある。これらのキーワードをもとにサービスレベルを明確化し、分類されたデータを管理ポリシーに沿ってそれぞれ適切なストレージインフラへと配置していく。
ここで重要になるのが、さまざまなサービスレベルに適合した製品やソリューション群である。例えば、情報の価値を表す指標として“業務システムに求められる処理性能”があった場合、この指標に対して求められる答えとは“アクセス頻度に応じたストレージ製品を用意する”ことだ。同様に、その他の指標に対するソリューションやプロダクトは次のように結びつけられる。
- ・業務の可用性
- → 信頼性レベルに応じたストレージ製品
- ・バックアップおよびリカバリに許される時間
- → サービスレベルに応じたバックアップ手法
- ・災害対策の必要性
- → リカバリレベルに応じたリモートコピー手法
- ・法規制対応の有無
- → 原本保証、改ざん防止、文書管理プロセス統制の手段
- ・情報価値の時系列的変化の有無
- → 運用、蓄積、保管の各フェーズに最適な情報格納手段
NECは、これらの具体的なソリューションとして、SAN統合、NAS統合、災害対策、バックアップ、自動再配置などを用意している。そして、これらのソリューションは、さらにサービスレベルに応じて複数の手法によって構成される。例えば、バックアップなら、サービスレベルの低い順からテープバックアップ、ATAディスクを使用したディスクバックアップ、筐体内複製を行うディスクバックアップ、複数世代に対応したディスクバックアップがある。リストア時間を短縮して迅速にシステムを復旧したい場合や、復旧時点をなるべく障害直前まで持っていきたい場合には、サービスレベルの高いバックアップ手法を選択すればよい。企業全体で見ると、複数のサービスレベルが混在するので、通常はこれらの手法をうまく組み合わせて個々のサービスレベルを満たしていく。
同様に、災害対策ソリューションには、サービスレベルの低い順からMT搬送、ストレージ筐体間の非同期コピー、ストレージ筐体間のセミ同期コピーまたは順序保証同期コピー、ストレージ筐体間の同期コピーといった手法が用意されている。従って、想定する災害の種類、RPO(データ復旧目標)、RTO(業務再開時間)、対象業務の特性に応じて、これらの中から最適な災害対策ソリューションを選択していけばよい。バックアップと同様に業務ごとに要求されるサービスレベルがそれぞれ異なることから、全社的に見れば複数の手法を組み合わせて災害対策を行うことになる。
|
|
|
NECは、情報最適配置に求められるストレージインフラを構築するために、SAN統合、NAS統合、災害対策、バックアップ、自動再配置などの豊富なソリューションを用意している(出典:日本電気株式会社、以下同様)。
|
複数のバックアップ手法が用意されている。業務ごとに要求されるサービスレベル(バックアップ/リストア時間、復旧時点)に応じて、これらの中から最適なバックアップ手法を選択すればよい。
|
複数の手法が用意された災害対策ソリューション。それぞれの業務がどれくらいミッションクリティカルなものであるのかによって、その業務に適した災害対策ソリューションを選択する。
|
■ 情報最適配置によって計画的インフラ構築型へのパラダイムシフトが起こる
こうした情報最適配置ソリューションを導入することで、企業の中では縦割りプロジェクト型から計画的インフラ構築型へのパラダイムシフトが起こる。
従来は、業務ごとに担当者がいて、それぞれの担当者が自身のアプリケーション開発を主導しつつ、それに必要なストレージを導入していた。さらには、バックアップ手法や災害ホ策などもそれぞれの担当者に任されていた。しかし、このような縦割りプロジェクト型では、業務ごとに独立して走るストレージが複数存在することになり、まさにバラバラの状態となってしまう。
これに対し、情報最適配置ソリューションを導入すると、計画的インフラ構築型に切り替わる。つまり、全社的なストレージインフラを構築するところから始まる。一般には、現在ある業務をきちんと分類すれば、全社的にどのようなインフラを構築すべきかはおのずと決まってくる。業務ごとのアプリケーションはそのインフラの上にただ乗せていけばよいのだ。「アプリケーションごとの要件は少々異なりますが、そのような細かい違いを考えても仕方がありません。ある程度の制約を飲んで、いくつかのパターンに押し込めてしまえば、管理は簡単になりますし、開発コストも削減されます(川浦氏)」。
このような考え方は、都市計画とまったく一緒だ。例えば、広い商業地区があったら、そこに大規模な基礎工事を行い、その上にビルを建築する。さらに、そのビルには各種店舗を収めるためのテナント工事が行われる。あくまでも土地の利用ルールや建造物の建築ルールが基礎にあり、その上で飲食、娯楽などを提供する店舗が次々と収められていく。
こうした考え方は、ストレージインフラのみならずプラットフォーム全体に対してもいえることだ。大きな企業になると、サーバが何千台、何万台も設置されている。これは、大きな商業地区の中で何もルールが決められずに小さな建物が無数に建設されている状況にも似ている。これでは、高品質のサービスを提供することも、コストを抑えることももはや期待できない。
そこで、NECはサーバー、ネットワークを含めたプラットフォーム全体の最適化も推進している。「NECは、サーバー、ストレージ、ネットワーク、クライアントPCまでをオールマイティに扱っています。このため、ストレージ専業ベンダのようなストレージインフラの整備だけにとどまらず、プラットフォーム全体の最適化にまで踏み込めるのです。これがNECの最も大きな強みといえます。そして、プラットフォーム全体の最適化を推し進めることで、企業全体のTCOが削減されます。さらには、その削減されたぶんを新しいところに投資できるようになります。この結果、企業の成長を促す“ポジティブスパイラル”が生まれるのです(川浦氏)」。
|
従来は、業務が先にあり、そこから各業務に適したコンピュータシステムを個別に構築してきた。情報最適配置ソリューションを導入すると、全社の業務を一括してまかなうインフラの構築から始まり、その上で各業務のアプリケーションが走る形へと切り替わる。つまり、都市計画さながらの計画的インフラ構築型へのパラダイムシフトが起こるのだ。
|
■ URL
日本電気株式会社
http://www.nec.co.jp/
■ 関連記事
・ NEC、OuterBayのツールを中核とした「情報最適配置ソリューション」を提供(2004/10/05)
( 伊勢 雅英 )
2005/01/11 11:05
|