Enterprise Watch
バックナンバー

日本ストレージ・テクノロジー新社長に聞く同社のストレージ戦略


日本ストレージ・テクノロジー株式会社 代表取締役社長の臼井洋一氏
 日本ストレージ・テクノロジー株式会社は、2月1日付けで臼井洋一氏が代表取締役社長に就任することを発表した。臼井氏は、日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステムエンジニアとして職務経験後、1981年に日本ストレージ・テクノロジーに入社、1988年には米国のStorage Technology Corporation(以下、StorageTek)に転籍している。1993年にはマーケティング本部長として一度日本に戻ってきているが、StorageTek生活の大半は米国本社で過ごし、数々の要職を歴任してきた。つまり、20年以上もの長い間、ワールドワイドでストレージ業界に携わってきた数少ない日本人スペシャリストの一人ということだ。

 今回は、日本に戻ってきて間もない臼井氏に、ITシステムに対する欧米と日本の思想的な違い、ILM(Information Lifecycle Management)のいでたち、アーカイブ向けストレージの最新動向についてお話を伺った。


従業員の創意工夫でまかなう日本と物量作戦で乗り切る欧米

 臼井氏がStorageTekに入社した当時、日本では“ストレージをなぜ専業ベンダから購入しなければならないのか”という議論があったという。メインフレームを提供する大手ベンダはストレージも一緒に発売しているため、メインフレームもストレージもすべて同じベンダから入手するのが当たり前の時代だったのだ。しかし、欧米では“餅は餅屋”ということわざの通り、多くのベンダからよいものを寄せ集めてコストパフォーマンスの高いシステムを作るという考え方が早くから定着していた。

 そして、そこには必ず標準化というキーワードが含まれていた。欧米では、従業員が他の部署に異動したり、他の企業に転職するケースが多く見られる。このため、人が動いても運用を継続できるように、完全に標準化されたシステムが不可欠だった。つまり、標準化されたハードウェアおよびソフトウェアを変更せずに使い、標準的なプロセスを組んで標準的にこれらを運用する必要があったわけだ。逆に、日本では独自の“作り込み”が好まれる傾向にある。例えばソフトウェアは、市販のパッケージを使わずに独自開発したものを使用するケースが多く見られる。実は、このような作り込みの文化は人があまり動かないからこそ実現できたものでもある。

 ハードウェアの導入アプローチについても同様だ。欧米は、ハードウェアの増設という物量作戦によって解決していくのに対し、日本は従業員の創意工夫でまかなおうとする。例えば、欧米ならば3ユニットのハードウェアを導入するところを1ユニットの導入に抑え、2ユニットぶんは従業員の器用さでカバーするといった具合だ。担当者がずっと同じ部署にいれば理想的なアプローチかもしれないが、担当者が他部署に異動したり、退社したりすると運用に支障をきたしてしまう。欧米の企業が、徹底した標準化と物量作戦で乗り切ろうとする理由は、こうした社会構造の違いにあるのだ。

 もともと日本では、最初に入社した一社にとどまり最後までその会社に尽くすという姿勢が一つの文化でもあった。しかし、近年ではキャリアアップを目的とした転職が多く見受けられるようになり、一社にとどまる時代ではなくなってきている。このため、担当者が頻繁に変わってもシステムの運用を継続していける欧米的なアプローチが必要とされているのだ。実際、臼井氏は「日本でも社会構造の変化に伴い、標準化やコストパフォーマンスといった観点からシステムを構築する考え方が浸透しつつあります」と話す(以下、カッコ内はすべて臼井氏のコメント)。


今やストレージ業界のキーワードであるILMを最も早く提唱したStorageTek

 次に、StorageTekといえばILM(Information Lifecycle Management)とは切って離せない関係にある。最近になって、多くのストレージベンダからILMのメッセージが伝えられるようになったが、臼井氏によればILMを最も早く提唱したベンダはほかでもなくStorageTek自身なのだという。

 「StorageTekがILMという概念について皆様に初めてお話ししたのは、2002年10月のことです。このとき開催されたStorageTek FORUM 2002の基調講演で、会長兼CEO(最高経営責任者)のPat MartinがILMをいち早くご紹介しました。他のベンダがILMについて話すようになったのは弊社から半年以上遅れた2003年以降のことですから、ILMの元祖はまさにStorageTekといっても過言ではないでしょう」。

 「そして、StorageTekは単にILMを提唱しているだけでなく、世界で最高のILMを提供できるベンダであるという自負もあります。StorageTekが設立されたのは1969年ですから、実に30年以上もの歴史が積み重ねられています。このような長い歴史を経て、現在では高速型のディスクサブシステムから大容量のテープライブラリに至るまで幅広い製品が取り揃っています。お客様は、これらの製品を上手に組み合わせることで、最もコスト効率に優れたストレージを手に入れられるのです」。

 臼井氏は、ILMのいでたちについてさらに次のように説明を加える。

 「ILMというと、何かまったく新しい概念のようにとらえられがちです。しかし、ILMの基本となる考え方は、私がIT業界で仕事を始めた当時からすでに提唱、実用化されていました。主にメインフレームの世界で活躍していたもので、当時は階層型ストレージ管理(HSM:Hierarchical Storage Management)と呼ばれていました。ストレージには、ディスクのようにアクセス効率は優れているけど単価が高いものもあれば、テープのようにアクセス効率は低いけど単価の安いものがあります。従って、これらのストレージをうまく組み合わせて、データの特性や使用方法に応じた形でその時々で最適なストレージにデータを保管すれば、ストレージのコスト効率を大きく高められます。これが階層型ストレージ管理の基本的な考え方です」。

 「一方、当時のオープンシステムの世界では階層型ストレージ管理がほとんど浸透していませんでした。オープンシステムでは、ディスクかテープか、言い換えればオンラインかオフラインかという選択しかありませんでした。オンラインのディスクには普段使用するデータをすべて保管し、オフラインのテープにはバックアップ用のデータのみを保管します。例えば、1年に1回しか使わないデータであっても高価なディスクに保管されます。そして、テープは安価という強力な武器を持ちながら、あくまでもバックアップ用としてしか使われなかったのです」。

 「しかし、オープンシステムも階層型ストレージ管理を導入しなければならない局面に立たされています。この背景には、情報量の爆発的な伸びがあります。従来のオープンシステムのような“ディスク or テープ”という考え方では、もはやストレージシステムを維持できません。だからこそ、オープンシステム向けの階層型ストレージ管理としてILMが提唱されたわけです」。


ディスクとテープの“いいとこ取り”をする仮想テープ技術

 安価なATA HDDを搭載した大容量型ディスクサブシステムの登場により、ディスクからテープへの遷移はより円滑なものになったが、ディスクとテープの本質的なギャップはなかなか埋まらない。テープはデータ転送速度こそ高速だが、アクセス速度はディスクと比べて桁違いに遅い。このため、一度データを保管したらめったに読み出すことのない用途には適しているが、たびたびアクセスが発生するような用途には向かないのだ。例えば、近年国内外で施行されている情報保護関連の法律では、直近数年のデータをすぐに取り出せることが要件として掲げられている。このため、ベンダによってはテープレスによる運用を推奨しているところもある。

 これに対し、臼井氏は「テープレス推奨ベンダがいうところのテープとは、物理的なテープそのものを指しています。StorageTekがいうところのテープは、ディスクとテープの利点を併せ持つ仮想テープと物理テープの組み合わせを指します」と話す。


仮想テープの仕組み。サーバーからはディスクベースの仮想テープ装置に従来通りの手順でデータのバックアップを行う。仮想テープ装置内のテープイメージは、バックエンドでテープライブラリ内の物理テープに詰込式で圧縮コピーされる。
 StorageTekは、テープレス推奨ベンダの指摘をクリアするために仮想テープ装置を投入している。これは、テープメディアおよびテープ装置をディスク装置で仮想化したテープストレージシステムのことだ。サーバーからはディスクコントローラがあたかもテープ装置のように見えるため、従来のバックアップ手順を変更することなく、テープに本来書くべきジョブのデータをディスクに書き込める。テープドライブの物理的な台数に左右されないので、書き込みジョブを複数平行して実行することも可能だ。そして、ディスクにためられた論理的なテープイメージは、バックエンドに接続されたテープライブラリの物理テープに吐き出される。

 仮想テープによるバックアップ/リストアは物理テープと比べるとかなり高速だ。このため、データの急増とバックアップウィンドウの縮小の板挟みにあっているIT部門に最適なソリューションといえる。また、アクセス頻度の高いデータが含まれるテープイメージをディスク上に置いておき、アクセス頻度が落ちたらテープライブラリに移す。こうすることで、アクセス性能とデータの保管コストのバランスをとれる。

 仮想テープの機能をソフトウェア単体で提供しているベンダもある。FalconStor SoftwareのVirtualTape Library powered by IPStorやAlacritus SoftwareのSecuritus Virtual Tape Libraryなどがその代表例だ。臼井氏は、他社製品に対するStorageTek製品の強みを次のように説明する。

 「他社はソフトウェアを単体で発売していますが、StorageTekはディスクやテープを含む仮想ディスク装置、テープライブラリをワンセットにして発売しています。仮想テープの機能はハードウェアとソフトウェアがきっちり揃ってこそ意味をなすものですので、お客様に安心して導入していただくには弊社のようなトータルソリューションが不可欠であると考えています」。

 「また、StorageTekの仮想テープ装置は、他社の製品よりもインテリジェンスを高めてあります。例えば、物理テープの劣化に対するデータ保護機能があります。これは、サーバーを介することなく複数の物理テープに対してデータの自動複製を行うものです。これにより、テープの媒体不良が発生しても別のテープから確実にデータを読み出せるようになります。テープの信頼性についてしばしば議論されることがありますが、弊社の仮想テープソリューションを活用すればこうした問題は簡単に解決できるのです」。

 「さらに、最近のテープカートリッジは一巻あたり数百GB、圧縮すれば1TB近くなりますので、一巻に論理的なテープイメージが丸ごと収まるケースが増えています。このため、テープ一巻に複数の論理ボリュームを書き込めるようになっています。当然、複数のボリュームを詰められるようにすると、一部のボリュームの中に保存期限が過ぎるデータも出てきます。つまり、有効なデータと失効したデータが混在する穴あき状態となるわけです。このような場合には、有効なデータだけを抽出して別の物理テープに改めて書き直すことができます。そして、元の物理テープは他の用途にリサイクルできます」。


回線を利用したリモートバックアップでセキュリティを高める

 テープに関して一点懸念すべき点は、メディアの紛失である。海外では、データセンターからテープ保管センターにメディアを搬送していて紛失してしまう事件が何件か発生している。このような問題にはどのように立ち向かえばいいのか。

 「私たちの中では、トラックで物理的なメディアを搬送することをFord Track Access Method、略してFTAM(筆者注:OSI環境のファイル転送、アクセスおよび管理を表すFTAMをもじったもの)と呼んでいるのですが、もはやこの考え方は過去のものです。これからは回線を使ってデータを搬送すべきでしょう。StorageTekの仮想テープソリューションは、リモートサイトにあるテープライブラリにデータを直接保管できます。こうすれば、テープカートリッジの物理的な搬送はもはや不要です。そして、ローカルサイトとリモートサイトに仮想テープ装置とテープライブラリを置き、何重にもデータをバックアップすることで信頼性を高められます。ユーザーはローカルサイトの仮想テープ装置にバックアップをとるだけで十分です。あとはすべてバックエンドで複製作業が行われます」。

 あまり望ましいことではないが、仮想テープ装置を利用することで、テープカートリッジが盗難にあってもデータを高確率で保護できるという。論理テープボリュームから物理テープにデータを移す際には、特別なロジックでデータの圧縮が行われる。また、ファイルのインデックスもその仮想テープでなければ理解できない形式となっている。このため、テープカートリッジを手に入れたとしても、中身をまず解読できないという。「暗号化とはいえませんが、ある意味セキュリティのかかったテープであるといえると思います。今後は暗号化を施すことも考えていますので、暗号化をさらにかければ安全性は大幅に高まります」。

 StorageTekは、個人情報保護法などのコンプライアンスに準拠したアーカイブ用のアプライアンスを現在開発中である。発表は今年後半を予定しているという。

 「StorageTekの新しいアーカイブストレージは、他社のディスクベースのアーカイブストレージが持つ弱点を克服したものになる予定です。その弱みとは、バックアップという面で制約が多いことです。他社のアーカイブストレージは、そのアーカイブストレージ自身にデータを最後まで残すことを主眼に設計されています。もし、このアーカイブデータのバックアップをテープにとる場合には、何らかのサーバーを経由してデータを一度読み出してからテープに書き込むという複雑な手順が必要になります。StorageTekのアーカイブストレージは、アクセス性能に優れたディスクだけでなく、コスト効率に優れたテープも上手に組み合わせて、最適な形で長期アーカイブを行えるように設計されています」。



URL
  日本ストレージ・テクノロジー株式会社
  http://www.storagetek.co.jp/


( 伊勢 雅英 )
2005/04/11 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.