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今年夏に本格始動する次世代のSerial Attached SCSI [前編]

SAS HDDとSATA HDDの混在が可能なSASシステム

マックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏
 インターフェイスのシリアル化。これは時代の絶対的な流れだ。レガシーインターフェイスはUSBやIEEE 1394に、ATAインターフェイスはシリアルATAに、PCIやAGPはPCI Expressへと進化していった。そして、SCSIも完全シリアル化されたSerial Attached SCSI(以下、SAS)に移り変わろうとしている。SASの概要が明らかにされたのは2003年だが、2005年に入って製品のアナウンスも聞かれるようになった。SASインフラの本格的なローンチは今年夏を予定しており、SASが身近な存在になるのもあと少しなのだ。

 そこで、今回はマックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏にSASの技術および製品の最新動向をお聞きした。ここでは、SASの技術概要に触れながら、3回にわたってSASの姿に迫っていきたい。


パラレルバスで深刻化していたスキューとクロストークの問題

 SASは、SCSI、シリアルATA(以下、SATA)、Fibre Channelが持つ優れた技術をうまく融合したインターフェイスだ。まず、物理的なインターコネクトにはSATAの技術がうまく生かされている。SATAのコネクタやケーブリングシステムは非常にシンプルだが、SAS Working Groupはこの部分に着目してSASのインターコネクト仕様を決めたのだという。

 従来のパラレルSCSIでは、多数の信号線が併走するパラレルバスの問題が非常に深刻だ。パラレルバスでは、複数の信号線間に見られるケーブル長の微妙な違いや電気特性の違いにより、送信側で同時に送出された信号が受信側でズレて到着する。これを一般にスキューと呼んでいる。信号の周波数が低いうちはさほど問題にならないが、信号周波数が高くなるにつれてズレの許容範囲が狭まり、スキュー補正などの信号補正技術を加えなければ信号をうまく検出できなくなる。Ultra320 SCSIでは、このスキュー補正が必須の機能となり、これに合わせてスキュー補正を容易にするペース転送方式が追加された(「Ultra320 SCSIを支える高度な信号補正技術(PC Watch)」を参照)。

 もう一つは、併走する信号線間の電磁結合を通じてある信号線が他の信号線に悪影響を与えるクロストークの問題だ。パラレルバスでは複数の信号線が密に配置されているため、クロストークの問題が特に発生しやすい。また、クロストークは信号の周波数が高くなればなるほど顕著に表れるものだ。信号線の配置を工夫したり、ケーブルのシールドを強化することで、ある程度はクロストークを軽減できるが、やはり信号周波数が高まるにつれてケーブルの改良だけでは間に合わず、何らかの信号補正技術に頼らざるをえない。Ultra320 SCSIでは、信号劣化を補正するための前置補正やAAF(Adaptive Active Filtering)が新たに追加された。


クロックスキューによる帯域幅の制限。これは、近年のパラレルバスに見られる問題の一つだ。シリアル転送を採用することにより、こうしたスキューの問題から解放される(出典:日本マックストア)。
近年のパラレルバスに見られるクロストークの問題。シリアル転送の採用により、クロストークの影響を最小限に抑えられる(出典:日本マックストア)。

システムの設計をより困難にする高速パラレル転送

SCSIバスの両端、スタブ部分でのインピーダンス不整合が、原信号の劣化を招く信号反射を生む(出典:日本マックストア)。
 さらに、信号路中での信号反射もかなり深刻な問題だ。SCSIバスの両端、そして1本の信号路に多数の機器がブドウの房のように接続されるスタブ部分でのインピーダンス不整合が信号反射の主な原因である。SCSIバスの両端に関しては、ターミネータ(終端抵抗回路)の挿入によって軽減する努力をしているが、スタブ部分での信号反射そのものを抑えるのは非常に難しい。スタブ部分の信号反射は、接続するSCSI機器の特性インピーダンスに大きく左右されるからだ。

 もちろん、SCSIバス両端に設置するターミネータだって完全とはいえない。パラレルSCSIの仕様を規定するSPI-5(SCSI Parallel Interface-5)は、LVDケーブルの特性インピーダンスを110~135Ωと定めているが、実際にSCSI機器が接続されたSCSIバスは櫛形フィルタに似た周波数特性を示すため、実質的な特性インピーダンスは85Ωを下回るという。このため、SPI-5に準拠したケーブルとターミネータを組み合わせたとしても、十分なレベルのインピーダンスマッチングを行えないのだ。ターミネータ側で動的にインピーダンスマッチングを行うプログラマブルターミネーションも提案されたが、現時点で実用化には至っていない(「幻となった次世代のパラレルSCSI規格 Ultra640編(PC Watch)」を参照)。

 また、SCSI機器の接続間隔に関する規定もある。SPI-5によれば、140pF/mのケーブリング環境では最低10cm、40pF/mのケーブリング環境では最低36cmの間隔を空けるように規定されている。つまり、接続する機器の種類や台数によって異なるが、最短でも10cmの間隔を空けて機器を接続しなければならないのだ。従って、エンクロージャのHDDスロットでも、バックプレーンではそれだけの間隔を作れるように信号線をうまくルーティングする必要がある。「3.5インチHDDで3ドライブ分、2.5インチHDDで5ドライブ分もスキップして配置するのにも相当します。このため、密に配置されたエンクロージャでは、バックプレーンでの信号線のルーティングが非常に難しいのです(マーティ氏)」。

 パラレルSCSIでは、こうした技術的な問題が連続したためにUltra320 SCSIで終焉を告げることになった。SPI-5では、さらに高速なUltra640 SCSI(Fast-320DT)の仕様も規定されたが、結局のところ実用化されることはなかった。これは、製品化がきわめて困難だったことを意味している。「Ultra320 SCSI以降で見られるパラレルSCSIの欠点は、そのシステム設計の難しさにあります。OEM市場では、構成がある程度限定されているのでトラブルは比較的少ないのですが、チャネル市場ではさまざまな製品を組み合わせる可能性があるため、そこでさまざまなトラブルが発生します。製品を市場に投入する以上、仕様に準拠した形で誰もがどのような製品を組み合わせてもきっちり動かなければなりません。しかし、Ultra640 SCSIではそれを保証できなかったのです(マーティ氏)」。


SATA譲りのシンプルかつスリムなSASケーブル&コネクタ

 SASならば、パラレルSCSIで見られた一連の問題がおおむね解決できる。SASの信号路は、送信ラインと受信ラインの2組のみだ。信号伝送には差動伝送方式を採用しているため、それぞれのラインに対して2本の信号線を使用する。それでも信号ラインは合計4本ですむ。従来のバスでは信号ラインとクロックラインを独立して設けるものが多かったが、シリアル転送が主流の近年では、データにクロックを埋め込むケースが増えている。SASでも、8B/10B符号化方式によってクロックが埋め込まれ、受信側でクロックをリカバリする形が取られている。こうした構造により、SASではスキューの問題が原理的に発生しない。また、併走する信号線がほとんどないことから、クロストークを極小化でき、さらにはポイント・ツー・ポイントでSAS機器を接続する形態なので、スタブによる影響も考慮しないでよい。


2.5インチHDDに従来のSCAコネクタを装備するとかなり無理を感じるデザインとなるが、SASコネクタであれば容易に装備できる(出典:日本マックストア)。
 シリアルバスの採用は、ケーブルのスリム化にも役立っている。これにより、筐体内の配線の取り回しが容易になっている。また、筐体内の空気の流れを阻害しないことから、冷却効率を高めやすい。さらに、シリアル転送およびポイント・ツー・ポイントの構成によって、パラレルSCSIと比べてバックプレーンの設計も大幅に簡素化される。ケーブルと同様にコネクタもかなり小さく、特に2.5インチクラスの小さなHDDにコネクタ(レセプタクル)を装備する際に威力を発揮する。現在、2.5インチSCSI/SAS HDDを発売するメーカーは一部に限られているが、ダウンサイジングの道をたどるHDDの歴史を考えれば、いずれは2.5インチへと移行するのは間違いない。そして、これは確実にSASの時代に起こることであり、2.5インチへのダウンサイジングとSASの登場はまさに“めぐり逢い”なのだ。



SCSIとATAインターフェイスを共存共栄の関係に進化させるSAS

 冒頭でも軽く触れたように、SASの内蔵用コネクタにはSATAと上位互換のものが採用されている。これらのSASコネクタには、ドライブ側に装備するSASドライブプラグコネクタ、ケーブル側に装備するSASドライブケーブルレセプタクルコネクタ、そしてバックプレーン側に装備するSASドライブバックプレーンレセプタクルコネクタがある。いずれのコネクタも、SFF-8482「Internal Serial Attachment Connector」と呼ばれる仕様書の中で細かな仕様が規定されている。

 SASコネクタがSATAコネクタの上位互換といわれるゆえんは、SASコネクタにSAS HDDとSATA HDDの両方を接続できることによる。SASはデュアルポート構成をサポートしているが、コネクタ形状はSATAコネクタの上位互換となるように設計されている。具体的には、コネクタの裏面に2チャネル目の信号接点が設けられている。このため、シリアルATAコネクタと同じ小さなコネクタでありながら、デュアルチャネルの高速転送が同時にサポートされるのだ。


SASコネクタには、デュアルチャネル対応のための接点が追加されている(出典:日本マックストア)。
デュアルチャネル対応のSASドライブケーブルレセプタクルコネクタ(左)とSASドライブバックプレーンレセプタクルコネクタ(右)。デュアルチャネル対応なので、信号ケーブルが2本装備されている。

 ただし、シリアルATAとSASは足回りこそ酷似しているが、その中身はATAインターフェイスとSCSI、すなわち生い立ちの異なるプロトコルに他ならない。従って、SASではSASプロトコルとSATAプロトコルの両方をサポートする設計がとられている。ここで重要な役割を果たすのがSTP(Serial ATA Tunneled Protocol)だ。通常のSASデバイス(ターゲット)はSSP(Serial SCSI Protocol)と呼ばれるネイティブなプロトコルを使用してSASイニシエータと通信を行うが、SATAデバイスと通信するときにはSTPが用いられる。つまり、SASイニシエータはSSPとSTPの両方を理解できる設計となっているわけだ。もちろん、SASデバイスのみを使用するシステムでは、SSPのみを理解できるイニシエータさえ用意すれば十分なのだが、SATAとの互換性を強く打ち出している現状を見る限り、SSPとSTPの両方をサポートする形で製品開発が進んでいくのはまず間違いない。


SASとSATAの両方に対応したディスクサブシステムを設計可能。これにより、アプリケーションの要件に応じてSAS HDDとSATA HDDを自由に選択できるようになる(出典:日本マックストア)。
 これまで、パラレルSCSIとATAインターフェイスは互いに相容れない関係、つまり完全に別の筐体内で使い分けるのが基本中の基本だった。しかし、SASの時代には、これがお互いに手を取り合う共存共栄の関係へと変わる。例えば、絶対的なパフォーマンスを優先するシステムでは高性能、デュアルポート対応のSAS HDDを搭載し、バックアップやアーカイブ向けのシステムではGB単価の安いSATA HDDを搭載するといった使い分けが可能になる。

 「これまで、OEMやシステムベンダは、SATA、パラレルSCSI用のシステムを完全に独立して開発する必要がありましたが、SASによってこれらが一つになります。つまり、バックプレーン、RAIDコントローラ、筐体管理システム、電源など、ディスクサブシステムを構成するコンポーネントの設計をSASで単一してしまえばよいわけです。一つのSASディスクサブシステムを用意すれば、あとはユーザがHDDのインターフェイスを自由に選べます。もちろん、すでにディスクサブシステムを運用している段階でも、アプリケーションの要件が変わったら、古いSAS HDDから新しいSATA HDDへ、もしくは古いSATA HDDから新しいSAS HDDへと即座に切り替えられます(マーティ氏)」。


 中編では、SASのレイヤ構造に加え、その中でも特に興味深い物理層の最新動向を取り上げる。



URL
  日本マックストア株式会社
  http://www.maxtor.co.jp/
  伊勢雅英のIT見聞録 Ultra320 SCSIを支える高度な信号補正技術(PC Watch, 2003/6/18)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0618/it004.htm
  伊勢雅英のIT見聞録 幻となった次世代のパラレルSCSI規格 Ultra640編(PC Watch, 2003/6/30)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0630/it005.htm
  幻となった次世代のパラレルSCSI規格 SAS編(PC Watch, 2003/7/2)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0702/it007.htm


( 伊勢 雅英 )
2005/06/27 00:00

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