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今年夏に本格始動する次世代のSerial Attached SCSI [中編]

SASのコネクタ仕様と物理層の電気特性

マックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏
 完全シリアル化されたSerial Attached SCSI(以下、SAS)の概要が明らかにされたのは2003年だが、2005年に入って製品のアナウンスも聞かれるようになった。SASインフラの本格的なローンチは今年夏を予定しており、SASが身近な存在になるのもあと少しだ。

 そこで、今回はマックストア サーバ・プロダクツ技術・戦略マーケティング・グループ インタフェース・アーキテクチャ・イニシアティブ マネージャーでSCSI Trade Association担当副社長を兼任しているマーティ・チェカルスキー氏にSASの技術および製品の最新動向をお聞きした。中編では、SASのレイヤ構造に加え、その中でも特にユーザーとの接点が強いコネクタ仕様や物理層の電気特性について取り上げる。


既存のSCSIアプリケーションに対する互換性を高めるSASのレイヤ構造

 前編の冒頭でも触れたように、SASは、パラレルSCSI、シリアルATA(以下、SATA)、Fibre Channelが持つ優れた技術をうまく融合したインターフェイスだ。例えば、ポートのアドレッシングにはFibre ChannelでおなじみのWWN(World Wide Name)ライクなSASポートを採用している。従来のパラレルSCSIではSCSI IDという形でハードウェア的にポートの割り当てを行っていたが、SASではこれが大幅に拡張されたことになる。SASポートは、IEEEで規定された企業IDが24ビット、ベンダ独自の識別子が40ビットを含む64ビットのユニークなアドレスだ。

 SASのプロトコル、すなわちコマンド、データ、ステータスなどの情報をやり取りする取り決めは、パラレルSCSIの仕様を規定したSPI(SCSI Parallel Interface)に準拠している。また、SASではデータや非データがすべてパケット化されて転送されるが、このパケット化にはパラレルSCSIの情報ユニット転送と非常に似た方法が採用されている。パケットの構造は、Fibre Channelのフレームとほぼ同じものであり、そこにはSCSI Primary Command SetやSCSI Block CommandsといったSCSI周辺仕様で規定されているCDB(Command Descriptor Blocks)、その他のSCSI情報が含まれる。このため、SCSIオブジェクトを使用する他のインターフェイス、例えばFibre ChannelやiSCSI、InfiniBandへのブリッジングも容易に行える。


SASのレイヤ構造。こうした細かいレイヤ分けを行うことにより、パラレルSCSI向けに開発された既存のアプリケーションやデバイスドライバを修正せずに、もしくは最小限の修正のみで使用できるようになる。また、ATAデバイスを接続した際には、STPのリンク層やトランスポート層を通じて、ATA向けのアプリケーション層と通信が行われる。
 SASポートは、SATAと同様に下位から順番に物理層、Phy層、リンク層、ポート層、トランスポート層から構成されている。ソフトウェアやデバイスドライバなどのアプリケーションはトランスポート層の上に載り、これをアプリケーション層と呼ぶ。物理層は、コネクタやケーブルなど、信号経路を形成するハードウェア部分を指す。Phy層は、トランシーバやレシーバなどのハードウェア、信号を送受信するための信号エンコード方式などを含み、信号線上でシリアル化された信号を送受信する役割を果たす。PhyはPhysicalの略なので、日本語で言い換えれば物理層ということになるが、SASでは最下位を物理層、その上に載るものをPhy層と区別している。

 リンク層はイニシエータとターゲット間の接続管理を行うために物理層を制御するものだ。ポート層は、上位のトランスポート層から届いたSASフレームをリンク層に渡す。トランスポート層は、コマンド、データ、ステータスなどの情報をSASフレームにカプセル化し、これをポート層に引き渡す。もしくは、ポート層から届いたSASフレームをコマンド、データ、ステータスなどに分解し、これらを上位のアプリケーション層に引き渡す。こうしたレイヤ構造によって、パラレルSCSI向けに開発された既存のアプリケーションやデバイスドライバを修正せずに、もしくは最小限の修正のみで使用できるようになる。


エキスパンダ併用による大規模構成、高速化のためのワイドポートをサポート

 SASデバイス(ターゲット)の接続はコントローラ(イニシエータ)とのポイント・ツー・ポイントが原則となるが、その接続形態には直結とエキスパンダ経由の2通りがある。小規模のシステムではコントローラに用意されたSASポートに直結すればすむが、ある程度の規模に達するとエキスパンダを介して接続されるようになる。

 エキスパンダはファイバチャネルでいうところのスイッチに似た役割を果たす。ルーティングには、ダイレクトルーティングに加え、テーブルを利用した本格的なルーティングもサポートする。エキスパンダは、SATA IIで規定されたポートマルチプライヤにも似ているが、ポートマルチプライヤと違って多段接続にも対応する。エキスパンダには、エッジエキスパンダとファンアウトエキスパンダの2種類がある。SASシステムの最も根元に来るのがファンアウトエキスパンダで、その下にはエッジエキスパンダもしくはSASデバイスを最大128台接続できる。さらに、エッジエキスパンダの下にはSASデバイスを最大128台接続できる。ただし、ファンアウトエキスパンダがなくても、2台のエッジエキスパンダを直結することは可能だ。


SASのトポロジ。エキスパンダを併用することで、Fibre Channelに匹敵する大規模なストレージシステムを構築できる。エンドデバイスは、SASデバイスとコントローラの両方を含む。コントローラを複数含むマルチイニシエータ構成もサポートしている。
 SASデバイス同士、SASデバイスとエキスパンダ間、エキスパンダ同士の接続には、帯域幅1.5Gbpsもしくは3Gbpsのシングルポートに加え、これらを2ポート束ねたデュアルポート、さらにはそれ以上のポートを束ねたワイドポートもサポートしている。基本的には、SAS HDDがデュアルポートの対応、ホストバスアダプタ(HBA)やRAIDコントローラ、エキスパンダがワイドポートに対応する。エキスパンダを介した複雑なトポロジとなった場合、基幹部分での帯域幅を十分に確保する必要性に迫られる。このようなときにワイドポートで必要とされる帯域幅を稼ぐ。こうしたトランキング機能は、Fibre Channel環境でも提供されているが、SASは低コストに実現できるのがポイントだ。

 「SASのマルチリンク機能は、アーキテクチャレベルでサポートされているものですので、その実現に特別なソフトウェアを必要としません。つまり、SASハードウェアのみでサポートされます。一方、Fibre Channelは、パスの冗長化やロードバランシングを行うために高価なソフトウェアを併用しなければなりません。また、これらのソフトウェアはメーカーが独自で用意しているものであり、価格もかなり高価です(マーティ氏)」。


広帯域の24Gbpsリンクを提供する4レーンの内蔵/外付けSASコネクタ

 前編では、SAS HDDとこれに直結するSASケーブル、SASバックプレーンのコネクタを取り上げた。これらは、デュアルポート対応の内蔵用SASコネクタだ。SASでは、さらにHBAとディスクサブシステム間、ディスクサブシステム同士などを接続するワイドポート対応のコネクタも用意される。現在、仕様書の中ですでに規定されているのが、4レーンのワイドポートに対応した内蔵用のSAS 4iコネクタと外付け用のSAS 4xコネクタだ。3Gbps Phyを利用時の帯域幅は、いずれも全二重で24Gbps(=3Gbps×2×4)と非常に高速だ。

 SAS 4iコネクタは、SAS 4iケーブルレセプタクルコネクタとSAS 4iプラグコネクタから構成され、その仕様はSFF-8484で規定されている。全32ピン構成のうち、最大16ピンが信号用、6ピンがサイドバンド信号用、残りがグラウンド用として割り当てられている。サイドバンド信号は、I2Cやベンダ独自の信号を扱えるようにするもので、筐体管理機能などを追加するときに役立つものだ。また、レーン数は1~4レーンまで選択でき、レーン数が少ないときには2~4レーン目の信号ラインが未接続(N/C)となる。電源ラインは規定されていないので、電源は別系統で用意する必要がある。


4レーンのバルクヘッドケーブルおよびコネクタ(出典:Knut Grimsrud - Intel, Serial ATA 3Gbps and the Next Frontier, Intel Developer Forum Fall 2003, Sept. 18, 2003)。これは、サーバーとディスクサブシステム間、ディスクサブシステム同士を接続するときに用いられる。
 SAS 4xコネクタは、SAS 4xレセプタクルコネクタとSAS 4xケーブルプラグコネクタから構成され、その仕様はSFF-8470で規定されている。これらのコネクタは、InfiniBand 4XやSATAの外部接続で使われているのと同じものだ。全25ピン構成のうち、最大16ピンが信号用、9ラインがグラウンド用に割り当てられている。また、筐体用のグラウンドがケーブルのハウジング部に独立して設けられている。READY LED信号やサイドバンド信号は割り当てられていないため、あくまでもデータ転送に特化して使用される。

 なお、SAS 4i、SAS 4xコネクタともに、さらに小型化されたMini SAS 4iコネクタとMini SAS 4xコネクタも用意されている。Mini SAS 4iコネクタは、SFF-8087とSFF-8086で規定され、36ピン構成の非シールド型コンパクトマルチレーンコネクタが採用されている。サイドバンド信号ラインとして8ピンを割り当てている。Mini SAS 4xコネクタは、SFF-8088とSFF-8086で規定されている。全26ピン構成のうち、16ピンが信号、10ピンがグラウンド、ハウジングが筐体用グラウンドである。


SATAよりも広いマージンをとって信頼性を高めているSASの物理層

 SASの物理層はSATAから多くを流用しているが、信頼性やコネクティビティを重視するアプリケーションが中心となることなら、電気特性に関して求められる要件はSATAよりもかなり厳しい。例えば、SATAは信号の送出側となるトランスミッタの電気仕様を規定しつつも、受信側となるレシーバの電気仕様は少しあいまいである。これに対し、SASはトランスミッタの電気仕様は緩めに設定されているが、レシーバの電気仕様はかなり明確に決められている。これは、SASが信号をしっかりと受信できることを必須の条件としているからだ。SASシステムの通信検証を行う際にも、トランスミッタの負荷条件として理論的に最悪とされる負荷もしくはそれ以上の負荷をかける。これにより、実際の動作環境で十分なマージンを確保しているのだ。


レシーバ側のアイマスク。白い部分に信号パターンが描かれ、ちょうど目が開いたような形になっていればよい。
 SATAとSASの違いは、レシーバで許容される信号の差動電圧を見ても分かる。右図のようなアイマスクを定義した場合、最外周となる-Z2からZ2の間隔がSATA 1.5Gbps(Gen1i)で600mVppd(ppdはdifferential peak-to-peak)、SATA 3Gbps(Gen2i)で700mVppdなのに対し、SAS 1.5Gbpsと3Gbpsでは1600mVppdと規定されている。最内周となる-Z1からZ1の間隔は、SATA 1.5GbpsとSAS 3Gbpsが325mVppd、SATA 3GbpsとSAS 3Gbpsが275mVppdだ。このように、SASのマージンはSATAよりも圧倒的に広い。この広いマージンを利用するためにも、SASのトランスミッタはSATAよりも高い電圧で信号をドライブすることになる。

 また、オプションとしてインターコネクトの中での信号損失を補う信号補正機能も提供される。トランスミッタ側で用いられるのがプリエンファシス、レシーバ側で用いられるのがイコライゼーションだ。プリエンファシスは、パラレルSCSIでいうところの前置補正(PRECOMP)に相当する。低周波成分を弱くドライブすることで、相対的に高周波成分の振幅を強める役割を果たす。イコライゼーションは、パラレルSCSIでいうところのAAFにも似ている。高周波成分の感度を高めることにより、インターコネクト中で減衰した高周波成分をうまく検出できるようにする。これらの機能を実際に使用するかどうかは、ベンダの選択に任されている。


SATA、SAS、Fibre Channelの特徴を並べた表(出典:日本マックストア)。SASは、ちょうどSATAとFibre Channelの利点を兼ね備えたような形となっている。
 SCSI Trade Associationの資料によれば、SASのケーブル長は6メートル以上まで対応できるとしている。SATAでは、仕様書中に内蔵用で最長1メートル、外付け(1レーン)用で最長2メートルと規定されているが、SASの仕様書(筆者が参照したのは2005年5月12日発行のT10/1601-D Revision 9d)には、具体的な最大ケーブル長が記載されていない。SATAと比べて非常に曖昧にも思えるが、これは先述のようにレシーバで受信した信号が基準を満たしているかどうかに依存していることによる。つまり、受信側で一定の基準を満たしてさえいれば、ケーブル長は何メートルであってもかまわないということだ。ベンダが公表する数値は、ごく一般的なケーブリング環境で6メートル以上という意味であり、より優れたケーブリング環境や信号補正機能を利用することで最大ケーブル長がさらに伸びる可能性も考えられる。


 最終回となる後編では、SASの製品動向と将来のロードマップを取り上げていく。



URL
  日本マックストア株式会社
  http://www.maxtor.co.jp/

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( 伊勢 雅英 )
2005/07/04 00:00

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