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ストレージ分野にも本格進出を果たしたアップルコンピュータ [前編]

コストパフォーマンスに優れたディスクストレージ「Xserve RAID」

 アップルコンピュータといえばPowerMacやiPodなどでおなじみのベンダだが、最近ではサーバー分野にもかなり力を入れている。例えば、PowerPC G5プロセッサとMac OS X Serverを搭載したXserve G5は、ハイパフォーマンスコンピューティングクラスタ(HPCC)やデータセンターの各種サーバーとして導入例がかなり増えてきている。

 また、XserveやPowerMacと組み合わせる高性能ストレージも当然ながら見逃せない。そこで今回は、アップルの高性能ディスクストレージ「Xserve RAID」とクラスタファイルシステム「Xsan」について、アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング Xserve 担当課長の鯉田潮氏とプロダクトマーケティング サーバ・ソフトウェア製品 担当課長の寺田和人氏にお話を伺った。前編では、Xserve RAIDを取り上げていく。


アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング Xserve 担当課長の鯉田潮氏
アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング サーバ・ソフトウェア製品 担当課長の寺田和人氏

優れたデザインと手頃なGB単価を両立したアップルのディスクストレージ

Xserve RAIDの外観。コンシューマ製品にも通じた統一感のあるデザインが特徴的だ。前面パネルに配置されたさまざまなインジケータにより、システムコンポーネント全体の動作状況や状態を一目で確認できる。
 筆者がXserve RAIDを目にしたときの第一印象は、とにかくデザインが美しいことだった。エンタープライズ向けの製品といえば、少々無骨なデザインを持つものが多くを占めるが、アップルのエンタープライズ製品は、PCや携帯型音楽プレイヤーといったコンシューマ製品と変わらない秀逸なデザインを持ち合わせている。データセンターなどでは19インチラックに収められることから、せっかくの美しい外観が無駄になる可能性だってある。それでもデザイン性にこだわるアップルには、ある種の哲学さえ感じてしまう。「私たちの製品は単に見かけ倒しのデザインを目指しているわけではありません。エンタープライズ製品に不可欠の信頼性や管理性を重視した機能美というのが正しい表現ではないでしょうか(鯉田氏)」。

 さて本題に移るが、Xserve RAIDが登場したのは2003年2月のことである。Xserve RAIDは、コストパフォーマンスに優れたATA HDDを内蔵しつつ、外部インターフェイスには高性能なFibre Channelを備えたディスクストレージだ。現在では、他社でもこうした構成の製品を数多く見かけるようになったが、2003年当時ではまだとても珍しかった。鯉田氏は、アップルがATA HDDにいち早く着目した理由を次のように説明する。

 「ATA HDDを必要とする背景には、データの急増が挙げられます。最近1年間に約100PBのストレージ容量が出荷されましたが、ここ何年かの経緯を見ますとその伸び率は年間66%にも達しています。大容量ながらも非常に高価な従来型のストレージは、データ保護、可用性、スループットなどの面において非常に優れていますが、その一方でお客様がストレージに投資できるお金も限られているのが実情です。従って、性能と価格のバランスをとりながらストレージに投資していきたいというお客様が増えてきています。アップルのXserve RAIDは、こうしたニーズに応えるベストな製品です」。

 現行のXserve RAIDに搭載されているATA HDDの容量は400GBと250GBだ。基本は400GBだが、コストを少しでも下げたいという顧客向けに250GBも用意されている。後述するように、Xserve RAIDは最低4台から最高14台のドライブ構成で購入できる。アップルストアで購入した場合、最小構成の250GB×4台(合計容量1TB)で69万3000万円、最大構成の400GB×14台(合計容量5.6TB)で150万1500円という価格設定になっている。また、最初は最低の4台からスタートし、必要に応じて1台ずつドライブ(Apple Drive Modules)を追加していくことで容量の拡充を図ることも可能だ。

 「Xserve RAIDのGB単価はとにかく安くなっています。現在の価格設定ですと、1GBあたり268円くらいです。これくらい手頃な価格になりますと、お客様の側でも“こんなに安かったら、あんな使い方をしてみよう”という新しい試みが次々と生まれてきます。Xserve RAIDのGB単価は、業界内でGB単価が安いといわれている大手ベンダのストレージ製品のさらに半額くらいですから、ATA-FCディスクストレージのポジションとしてはかなり面白いところを突いているのではないでしょうか(鯉田氏)」。


HDDごとに独立したATAインターフェイスを設けることで高いスループットを実現

 Xserve RAIDの筐体は19インチラックに収まるラックマウントタイプで、高さは3U、内蔵可能なHDDは最大14台となっている。基本的にはデータセンターなどの19インチラックに収められるが、フォーカルポイントコンピュータの「XtroVERT」のようにXserve RAIDを縦置きにする専用の台座も販売されている。重量は45kgと少々重くなるものの、こうした縦置き台座を利用すれば映像編集用のPowerMacの隣に並べて使ったりもできる。

 ATA HDDは、Apple Drive Moduleとして提供されている。これは、ベアドライブを実装したホットスワップ対応のXserve RAID専用ドライブモジュールである。Xserve RAIDとApple Drive Module間のコネクタとしてパラレルSCSIでおなじみのSCA2(Single Connector Attachment-2)が採用されている。SCA2は、インターフェイス、電源、その他の制御信号線を1つの80ピンコネクタにまとめたもので、安全なホットスワップを実現するために欠かせない機構だ。


ユーザーが設定した台数のHDDとRAIDレベルでRAIDセット(LUN)が作られる(出典:アップルコンピュータ)。
 筐体内部には、2基のRAIDコントローラが搭載されている。それぞれ7台ずつのHDDを担当しており、ちょうど1台の筐体に2台のRAID装置が組み込まれている形となる。ハードウェア的なRAIDセット(LUN)は7台の範囲内で作られるが、ソフトウェア的に複数のRAIDグループをさらに束ねられる。ハードウェアでサポートされているRAIDレベルは0、1、3、5、0+1の5種類で、これらをホストベースのソフトウェアRAIDによって10、30、50のハイブリッドRAIDを構成できるようになっている。Xserve RAIDの運用管理も含め、RAIDセットの構築やLUNマスキング、スライシングといった設定は、すべてJavaベースのグラフィカルな管理ツール「RAID Admin」によって簡単に行える。

 なお、RAIDコントローラとHDDの間はそれぞれ独立したATAインターフェイスで接続されている。ATAインターフェイスをすべて並列動作させ、7台ずつ別々のFibre Channelポートを利用することにより、かなり高いスループットが得られる。UNIXファイルシステムのデータ転送性能を測定するBonnieと呼ばれるベンチマークテストで計測したところ、データ転送速度は読み出しで380MB/sec、書き込みで322MB/secにも達したという。2Gbps Fibre Channelポート×2チャネルの帯域幅は約400MB/secなので、ほぼ帯域はいっぱいのデータ転送が行われていたことになる。エンタープライズ用途ではI/Opsの数字も重要だが、I/Opsについては今後Xserveと組み合わせて計測する予定だという。


コンポーネントのホットスワップや冗長化によって単一の障害ポイントを排除

Xserve RAIDのブロックダイアグラム。単一の障害ポイントが発生しないように内部アーキテクチャが設計されている(出典:アップルコンピュータ)。
 Xserve RAIDの内部アーキテクチャは、ノンストップで使用できるレベルの信頼性を得るために、単一の障害ポイント(Single Point of Failure)をなくすという考え方に重きが置かれている。例えば、このクラスのストレージシステムとしては珍しく、パッシブ型のデータパスを備えるミッドプレーンを中心とした構成を採用している。パッシブ型とは、ミッドプレーンのデータバスがコンデンサ、コイル、抵抗といったパッシブ素子のみから構成されていることを意味している。トランジスタを代表とするアクティブ素子がないことから故障率の低減につながっているわけだ。

 また、特に壊れやすい電源モジュールとファンモジュールは完全に冗長化されている。電源モジュールにはロードシェア型が採用されており、片方の電源モジュールに障害が発生してももう片方の電源モジュールで動作を継続できるようになっている。ファンモジュールも同様で、片方さえ正常に稼働していれば十分に冷却できるように設計されている。さらに、単体でのホットスワップは不可能だが、エンクロージャの監視と各コンポーネントのステータス記録を行う環境管理用コプロセッサも冗長化されている。これにより、片方のコプロセッサに障害が発生しても、もう片方のコプロセッサを通じて各コンポーネントの自動調節や管理者へのリモート通知を継続できる。

 HDDの障害は、グローバルホットスペアによって対処される。グローバルホットスペアは、RAIDセットの中に組み込まれていない余剰のHDDを自動的に予備用のホットスペアドライブとして割り当てるものだ。RAIDセット中のHDDが故障すると、RAIDコントローラは故障したHDDをグローバルホットスペアのHDDに切り替え、管理者の介在なく自動的にRAIDの再構築を行う。この再構築はバックグラウンドで処理されるため、ストレージサービスは一切中断されない。また、故障したHDDを新しいHDDに交換すると、この新しいHDDがグローバルホットスペアとして自動的に再構成される。

 キャッシュメモリとしてRAIDコントローラごとに512MB、合計1GBが搭載されているが、停電時のバックアップを行うキャッシュバックアップバッテリーモジュール(4万740円)がオプションとして用意されている。これにより、本体に電源を供給しなくてもキャッシュメモリ内のデータを最長72時間保持できる。また、DB-9シリアルポートを通じてAPC製の無停電電源装置(SmartUPS)と接続することにより、UPSのステータスを見ながらXserve RAIDのキャッシュ動作方式を自動的に切り替える仕組みを備えている。通常は、パフォーマンスを優先するためにライトバックモードで動作するが、UPSによるバッテリ駆動になるとデータを確実に保護できるライトスルーモードに切り替わる。


高速かつ安定したデータ転送が可能なFibre Channelを強く推進

Xserve、Xserve RAID、Fibre Channelスイッチを内蔵した19インチラック。サーバーとストレージ間はFibre Channelによって接続されている。このデモシステムは、データセンターでのシステム環境を想定したものだ。
 Xserve RAIDの外部インターフェイスはFibre Channelだが、その接続方式としてポイントツーポイント、ループ(FC-AL)、ファブリックのいずれにも対応する。また、インターフェイスはカッパー(銅線)に加え、長距離接続用の光ファイバもサポートしている。Fibre Channelポートの転送速度は最高2Gbpsだが、本体には2つのFibre Channelポートが搭載されており、両方のポートをフルに活用すればボックス全体で4Gbps相当になる。なお、1Gbpsでの動作もサポートしているため、古い1Gbps Fibre Channel HBAを搭載したサーバーやワークステーションもそのまま接続できる。

 ファブリックを利用する場合には、別途Fibre Channelスイッチが必要だ。このとき、Fibre Channelスイッチとしてブロケード、QLogic、Emulex、シスコの製品が動作認定を受けている。現在、McDataの製品に対する検証が進められており、近いうちにMcDataの製品も正式にサポートされるという。また、Fibre Channel HBAとしてQLogic、LSI Logic、ATTO Technology、さらにはデータ管理ソリューションとしてベリタスソフトウェア、OSとしてマイクロソフト、Red Hat、Novell(NetWareおよびSUSE Linux)、Terra Soft Solutionsの認定も受けている。「Xserve RAIDは、業界大手のストレージインフラ製品およびデータ管理ソリューションとの相互運用性を持ち、たいていの環境で問題なくつながります。今後も主要なベンダの認定を受けられるように働きかけていきます(鯉田氏)」。

 アップルは、ディスクストレージの接続インターフェイスとしてFibre Channelをかなり強く推進している。実際、2Gbpsポートを2チャネル装備したFibre Channel HBA(Apple Fibre Channel PCI-Xカード)をケーブル2本付きで5万7540円(税込)というかなり戦略的な価格で発売しているほどだ。鯉田氏はこの理由を次のように説明する。

 「アップルは、Fibre Channelのニーズが今後もっと高まっていくものと予想しています。これまで、ハイレベルはFibre Channel、ローレベルはパラレルSCSIという構図がありましたが、アップルはローレベルでもFibre Channelを推し進めていきます。これまで、Fibre Channelは高価であるとか、難しくてよく分からないといった理由で敬遠されてきましたが、パラレルSCSIと比べると技術的に優れていますし、とても使いやすいインターフェイスです。また、実績も非常に豊富で、安定したデータ転送が可能です。特に弊社のPowerMacが得意とする映像系のデータを扱う場合には、高速かつ安定したブロック転送が不可欠なのです」。


 後編では、Xserve RAIDの利点を最大限に引き出すクラスタファイルシステム「Xsan」について取り上げる。



URL
  アップルコンピュータ株式会社
  http://www.apple.com/jp/

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( 伊勢 雅英 )
2005/07/25 11:05

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