Enterprise Watch
バックナンバー

ストレージ分野にも本格進出を果たしたアップルコンピュータ [後編]

Xserve RAIDの利点を最大限に引き出すクラスタファイルシステム「Xsan」

 アップルコンピュータといえばPowerMacやiPodでおなじみのベンダだが、最近ではサーバーやストレージ分野にもかなり力を入れている。今回は、アップルのストレージ製品に焦点を当て、高性能ディスクストレージの「Xserve RAID」とクラスタファイルシステムの「Xsan」について、アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング Xserve 担当課長の鯉田潮氏とプロダクトマーケティング サーバ・ソフトウェア製品 担当課長の寺田和人氏にお話を伺った。

 後編では、Xserve RAIDの利点を最大限に引き出すクラスタファイルシステム「Xsan」について取り上げる。


アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング Xserve 担当課長の鯉田潮氏
アップルコンピュータ株式会社 プロダクトマーケティング サーバ・ソフトウェア製品 担当課長の寺田和人氏

最大2PBのSANボリュームを扱えるようになった最新版のXsan

Xsanを用いることにより、複数のコンピュータが同一のSANボリュームに対して同時にアクセス可能になる(出典:アップルコンピュータ)。
 アップルのストレージソリューションにおいて、Xserve RAIDと並んで重要なコンポーネントが「Xsan」だ。Xsanは、複数のコンピュータから大容量ストレージに共有アクセスするための64ビットクラスタファイルシステムで、Mac OS X v10.3.9またはMac OS X v10.4以降に対応している。通常のファイルシステムでは、ストレージの領域をコンピュータごとに区切ってそれぞれ独立して使わなければならないが、Xsanを導入することで、一つの大容量ストレージを複数のコンピュータから同時に共有できるようになる。

 Xsanの最初のバージョンとなる1.0は今年の1月に登場したが、最新のバージョン1.1ではMac OSの最新版であるMac OS X v10.4(Tiger)に対応した。Tigerでは64ビットのファイルシステムを標準サポートしているため、Xsanでは最大2PB(従来は16TB)のSANボリュームを扱えるようになった。また、SANボリュームを同時に共有できるコンピュータの台数は最大64台に設定されている。「64台というのは、技術上の制限ではありません。アップルで検証したのが64台までという理由で、カタログ上には最大64台と記載しています。このため、アップルによる保証は受けられませんが、64台を超える共有も技術的には可能です(寺田氏)」

 Xsanの管理と監視は、Xsan Adminと呼ばれる管理ツールが用いられる。Xserve RAIDのRAID AdminでLUNを作り、Xsan AdminでこのLUNからストレージプールとボリュームを作成する。Xsan Adminは、RAID Adminと同様に優れた操作性を大きな売りとしている。直感的に操作できるグラフィカルユーザーインターフェイスを利用し、ストレージプールの作成、SANボリュームの管理に加え、後述するアフィニティの設定やクオータの割り当てなどを行える。また、ディスクパフォーマンスを示すリアルタイムグラフの表示も可能だ。


複数のストレージプールを束ねて大容量のSANボリュームを作成

Xsanを利用すれば、複数のストレージプールを束ねて大容量のSANボリュームを作成できる(出典:アップルコンピュータ)。
 先ほどXsanをクラスタファイルシステムと表現したが、もう少し大きなくくりで考えると、これはストレージ仮想化ソフトウェアそのものだ。Xserve RAIDで作られた複数のRAIDセット(LUN)をストレージプールとしてまとめ、このストレージプールをさらに複数集めて単一のSANボリュームとしてまとめる。ストレージプールとして束ねるRAIDセットは異なるRAIDコントローラの管理下にあるものでもかまわない。また、完全に動作しながらではないものの、SANボリュームに含まれるストレージプールを加えたり、減らしたりすることで、動的にボリューム容量の増減を図ることも可能だ。これにより、コンピュータごとにボリュームを区切って使う必要がなくなるため、ストレージ全体の使用効率も大幅に向上する。さらに、高いアクセス性能と可用性、データ保護を両立できる。

 SANボリュームには異なるRAIDレベルのストレージプールを含められることから、当然その中にはアクセス性能の高いものもあれば低いものもある。また、データ保護強度の高いものもあれば低いものもある。もし、高速にアクセスすべきファイルを高速なストレージプールに、失ってはならない大切なファイルをデータ保護強度の高いストレージプールにそれぞれ配置できたら都合がいい。そこで、Xsanでは自動データ配置のためのアフィニティ機能が用意されている。

 Xsan管理ツールでは、特定のフォルダに置かれるファイルが特定のストレージプールにのみ保存されるように、フォルダとストレージプール間のアフィニティを設定できる。これにより、エンドユーザーが意識することなく、高いアクセス性能や特別なデータ保護を必要とするファイルを常に最適なストレージプールへと保存できるようになる。例えば、SANボリューム内にアクセス性能の高いRAID 5ストレージプールとデータ保護強度の高いRAID 1ストレージプールがあった場合、作業中のファイルをRAID 5ストレージプールに、完成したファイルをRAID 1ストレージプールに保管すれば好都合だ。このようなときには、RAID 5ストレージプールに「Fastest」フォルダを、RAID 1ストレージプールに「More Protected」フォルダを配置する。ユーザーは、作業中ファイルをFastestに、完成ファイルをMore Protectedに置くことで、自動的に目的に沿ったデータ配置が行われる。


データのトラフィック制御には専用のメタデータコントローラを使用

複数のコンピュータから同一のSANボリュームに対するアクセス共有を行うために、専用のメタデータコントローラを設置する(出典:アップルコンピュータ)。
 Xsanでは、複数のコンピュータ間で同一のSANボリュームを共有するために、メタデータコントローラを設けている。各コンピュータがデータアクセスする際には、メタデータコントローラがアクセス許可を出し、SANボリュームにアクセスしにいく。SANボリュームは複数のストレージプールを含んでいるが、コンピュータは必要なデータが格納されたストレージプールがあたかも直結されているような感覚でアクセスできる。複数のコンピュータから同一のファイルに対して同時にアクセスがあったときには、そのファイルを編集できるシステムを1台のみとし、その他は閲覧のみの権限を持つように排他制御を行う。Xsanは、こうした排他制御をメタデータコントローラを通じたファイルレベルのロック機能によって実現している。

 アクセスのロックに関連し、Xsanにはストレージの使用量を制限するクオータ機能も搭載されている。クオータは、ユーザー、グループ、アプリケーション、もしくはこれらの組み合わせに対して割り当てられる。Xsanには、ソフトクオータとハードクオータの2種類が用意されている。ソフトクオータは通常の操作でユーザーやグループが使用すると予想される最大容量、ハードクオータは容量の絶対的な上限である。

 ユーザーは、管理者が指定した猶予期間以内であれば、ハードクオータを上限としてソフトクオータを超過することが可能だ。しかし、この猶予期間を超えてソフトクオータを超過すると、ソフトクオータがハードクオータに変わり、ソフトクオータ未満にまでストレージの使用量を減らさないと新たなデータを書き込めなくなる。「ハードクオータは管理者には都合がよい制限機能ですが、ユーザーにとっては融通が利かなくて使いづらいでしょう。管理者側の管理性とユーザー側の利便性のバランスがとれているのは、ソフトクオータです。ソフトクオータは、数多くのユーザーがファイルサーバーとしてXserve RAIDを使用するケースなどに役立つと思います(寺田氏)」。


ADIC StorNext File Systemを併用してマルチプラットフォーム環境に対応

ADICのStorNext File Systemを併用することで、Mac OSだけでなく、Windows、Linux、IRIX、Solaris、AIXなどが混在するマルチプラットフォーム環境でもSANボリュームのアクセス共有が実現される(出典:アップルコンピュータ)。
 Xsanは、基本的にMac OS X向けのソフトウェアなので、それ単体ではMac間でのアクセス共有しか行えない。しかし、XsanはADICのStorNext File Systemと完全な互換性を持っているため、StorNext File Systemを併用することでXsanとStorNext File Systemの間でシームレスな相互運用が可能になる。これにより、Mac OSだけでなく、Windows XP、Windows Server 2003、Windows NT、Windows 2000、Linux、IRIX、Solaris、AIXベースのシステムもアクセス共有に参加できる。また、メタデータコントローラとしてStorNext File Systemを使用できることから、メタデータコントローラのプラットフォームをMac OS以外からも選択可能だ。

 Xserve RAIDやXsanを複数のプラットフォームにまたがって使用するケースでは、高い可用性も重要になってくる。Xsanは、こうした高可用の要求に対応するために、Fibre Channel接続のマルチパス構成やファイルシステムのジャーナリング機能をサポートしている。また、メタデータコントローラの冗長構成にも対応する。メタデータコントローラを1台しか置かないと、この部分がシステムの単一障害ポイント(Single Point of Failure)となってしまう。そこで、Xsanではマスター、スタンバイという2台のメタデータコントローラを設置し、マスターに障害が発生したらスタンバイをマスターに格上げして、こちらに素早くフェイルオーバーするわけだ。

 アップルでは、Xserve RAIDとXsanの組み合わせによるソリューションとして、データセンター、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、映像ワークフローという3つの使い方を提唱している。データセンターのソリューションでは、ストレージ統合やNASの置き換えが主な対象となる。コストパフォーマンスの高さを考慮すると、特にNASの置き換えに威力を発揮しそうだ。Xserve RAIDにNASヘッドの役割を持つファイルサーバーを直結もしくはFibre Channelスイッチ経由で接続し、このファイルサーバーを通じてPCやワークステーションにファイルサービスを提供する。


PCやワークステーションをFibre Channel経由で直結し、Xsanで直接的にSANボリュームのアクセス共有を行う。こうすることで、ストレージの帯域幅が大きく広がる(出典:アップルコンピュータ)。
 ただし、HD品質のビデオなど、非常に高速なデータ転送が要求される用途(映像ワークフロー)では、XserveにFibre Channel経由でPCやワークステーション(例えばPowerMac G5)を直結する形がとられる。例えば、非圧縮HD映像をコマ落ちなしにリアルタイムに転送する場合、1080i/8ビットの映像で1ストリームあたり120MB/sec、10ビットに高めると165MB/secもの帯域幅を必要とする。もし、複数の編集者による共同作業を行った場合には、複数のストリームが同時に流れる可能性もあり、さらなる帯域幅が要求される。こうした高レベルのリアルタイム転送をEthernetベースのNASで実現することは難しく、アップルはFibre Channelベースのソリューションを強く推奨している。

 アップルのXserve RAIDとXsanによるストレージソリューションはかなり安価だ。Xserve RAIDや2チャネルFibre Channel HBAの価格は前編で取り上げたとおりだが、Xsanも1ノードあたり10万2900円と手頃な価格に設定されている。ここでいうノードとは、Xserve RAIDに直結しているメタデータコントローラやファイルサーバー、映像編集用のPowerMacを指している。従って、データセンターのソリューションのように、末端のクライアントとして数多くのPCやワークステーションが接続されていても、これらの台数はいっさいカウントされない。例えば、2台のメタデータコントローラ、4台のファイルサーバーが接続されたデータセンターの環境では、6ノード(=61万7400円)として計算される。

 最後に、鯉田氏は、Xserve RAIDとXsanによるストレージソリューションについて「アップルは、ハイエンドの最先端ではなく、普及クラスの最先端を狙っています。つまり、他社のように可用性、冗長性、ディザスタリカバリといったものを提供するエンタープライズSANという位置づけではなく、アップルのPCが得意とする映像ワークフローにも耐えられるような、データの高速共有を提供するコストパフォーマンスに優れたSANを目指して、自社のストレージ製品をアピールしていきます」と総括した。



URL
  アップルコンピュータ株式会社
  http://www.apple.com/jp/

関連記事
  ・ ストレージ分野にも本格進出を果たしたアップルコンピュータ [前編](2005/07/25)


( 伊勢 雅英 )
2005/08/01 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.