|
ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社 代表取締役社長の津村英樹氏
|
ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社(以下、ブロケード) 代表取締役社長の津村英樹氏に、ブロケードがストレージソフトウェアを投入した理由やブロケードが目指すユーティリティコンピューティング戦略をお聞きした。中編では、前編で取り上げたCostに続き、残りのCとなるComplexityとComplianceの詳細、さらにはこれらの3つのCを解決する“オープンな仮想メインフレーム”を取り上げていく。
■ 安価なハードウェアが無数に分散されることに起因するComplexity
|
情報システム部門が抱える問題点を3つのCでまとめたもの(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。多くの企業にとってComplexityとComplianceにきっちり対応することも重要な課題となっている。
|
前編では、顧客の情報システム部門が抱える問題点として3つのC(Cost、Complexity、Compliance)があり、そのうちCostの詳細を取り上げた。
次に問題となるのが、2番目のCであるComplexity(複雑さ)だ。オープンシステムの安価なサーバーとストレージが無数に分散されてしまった結果として、企業内のデータの75%以上がデータセンター外で管理されているという。つまり、個人情報保護法やe-文書法の対象となるデータが必ずしもデータセンターにあるとは限らないのが現状なのだ。このため、重要なデータのバックアップやセキュリティ、その線上にある法令遵守を行う上で大きな足かせとなっている。法律面からもとりわけ縛りの強い金融機関を考えた場合、本社のデータセンターは問題ないかもしれないが、全国の営業所に置かれたサーバー内の機密情報(顧客データなど)を完ぺきに守れると断言できるところはたぶんないだろう。しかし、情報保護に対する意識が高まりつつある現在、これを断言できるレベルにまで持ち上げていく努力は不可欠だ。
また、部門や拠点ごと、もしくはアプリケーションごとに分散して運用されているITシステムもComplexityを増す大きな要因となっている。これは、ITという技術上の問題よりも社内の組織や運用体制といった政治的な問題に強く起因している。現在、どの企業もWindowsサーバーやUNIXサーバーを部門ごとに導入しているが、その投資は部門ごとに割り振っていることが多い。このため、全社的にシステムを統合し、バックアップコンソリデーションなどを行おうとすると、どの部門のバックアップ装置を利用するのか、また部門ごとに配属された管理者がそれぞれどのような役割分担を行うのかといった点で不和が生じるのは想像に難くない。
こうした複雑さは、資産の問題も起因している。これは、具体的にいえば部門ごとにIT資産のリース開始日とリース期間が異なるといったものが挙げられる。全社的にシステム統合を図ろうとした場合、新規でIT資産を購入したばかりの部門は、このシステム統合にすぐ参加できない可能性が高い。従って、ある程度の年数をかけて徐々にシステム統合をしていくアプローチが現実的な選択肢となる。もちろん、統合に要する期間は業務ごとに異なるため、すべての業務が統合を終えるにはかなり時間がかかると考えるべきだ。
「全社的なシステム統合では、その音頭をとる責任者が必要になりますが、それ以上に重要なのは、システム統合の過程で絶対にトラブルが起こらないことを保証できるだけの技術的な戦略をしっかり持っているかどうかです。“技術的にシステム統合が可能です”といわれる場合、すべての統合を“一気”に行うという条件下であることがほとんどです。しかし、段階的にシステム統合を進めていくには、資産や運用条件の異なる複数のシステムをいかにシームレスに統合していくかが重要になります。ブロケードは、この部分において具体的な技術提案をしていくつもりです(津村氏)」。
■ 現状のシステムアーキテクチャではComplianceの徹底がきわめて困難
そして、3番目のCは、現在各方面で騒がれつつあるCompliance(法令遵守)である。Complianceの柱となる第一の作業は、重要データのバックアップだ。しかし、ブロケードの調べによれば、重要データのバックアップを確実に行っている企業は全体の30~40%に過ぎないという。これは、バックアップを行っている企業が全体の30~40%という意味ではなく、バックアップを行っている企業の中で、その作業を“確実”に行っている企業が30~40%に過ぎないという意味だ。バックアップを確実に行うには、バックアップされたデータがきちんとリストアできることを検証する作業が不可欠だが、こうしたバップアップ/リストアの定義や運用管理を行うにはかなり専門的なスキルが要求される。
「海外の企業は、自社内のデータセンターに大手IT企業のプロフェッショナルを常駐させて、運用管理を委託しています。いわゆる“インソース”と呼ばれる考え方です。主に日本の中堅企業は、ITシステムの運用管理をすべて自社で行おうとします。電源や空調設備の問題により、ITシステムを外部のデータセンターにアウトソースする企業はけっこう増えてきていますが、社内にプロフェッショナルを常駐させるインソースという概念はまだ日本では定着していないのが実情です(津村氏)」。
企業の末端部門や地方拠点に至っては、予算の都合で専任のIT管理者を用意できないケースもあり、事態はさらに深刻だ。重要データのバックアップはおろか、外部からのセキュリティ攻撃や情報漏えいの防止策を講じることもなかなか難しい。
「データそのものを分散させている現状のシステムアーキテクチャでは、データのバックアップを確実に行ったり、情報漏えいを未然に防いだりすることは事実上不可能といえます。やはり昔のメインフレームのように、センターでシステムやデータを集中管理し、それを部門の端末からアクセスできるような環境が理想的なのです。むしろそのような環境へと移行しない限り、営業所や地方拠点レベルでセキュリティ確保や情報漏えい防止を徹底することはできないでしょう(津村氏)」。
■ メインフレームとオープンシステムの長所を兼ね備えた“オープンな仮想メインフレーム”
|
オープンな仮想メインフレームの特徴(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。メインフレームとオープンシステムの長所を兼ね備えたITインフラを構築することにより、理想的なユーティリティコンピューティング環境を実現する。
|
こうした3つのCを解決するのが、ブロケードの提唱する“オープンな仮想メインフレーム”である。このオープンシステムで実現する仮想メインフレームは、いわゆる本来のメインフレームが提供する高い処理性能、信頼性、可用性を得るために、SAN、マルチノードクラスタリング、パス切り替えソフトといった要素技術を組み合わせている。ここで、特にSANの部分に着目すると、これはメインフレームでいうところのI/Oチャネルやバスに相当するものであることが分かる。つまり、オープンシステムでいうところのサーバーはメインフレーム内部のプロセッシングエレメント、ストレージはメインフレームの内蔵ディスク、これらを結ぶSANがメインフレーム内部のコンポーネント同士を結ぶ配線といった位置づけになる。
2007年問題などの絡みでオープンシステムに移行しなければならないITシステムはかなり多いと予想されるが、すでに説明したとおり、あまりにも分散しすぎたオープンシステムの集中管理はもはや不可能だ。裏を返せば、オープンシステムでありながら分散をうまく回避できれば、オープンシステムが持つ欠点をつぶせることになる。つまり、複雑かつ大規模なITシステムをデータセンターに統合し、一元管理する形にさえ切り替えられれば、3つのCをうまく解決できるということだ。
「ブロケードが考えるデータセンター側のコンセプトは、メインフレームとオープンシステムが持つ両方の弱点を克服し、両者の長所をいかに引き出すかということにほかなりません。その一つの解が、オープンな仮想メインフレームなのです(津村氏)」。
■ 顧客の真の要求に則って構築されるモノリシックデータセンター
現在、多くの企業や団体でブレードサーバーの導入が進んでいる。同時に、ブレードサーバーの運用に適したデータセンターへのアウトソースも目立つという。しかし、データセンターにブレードサーバーを導入しただけでは、経費の削減にはつながらない。多くのシステムインテグレータやxSPが提案しているように、少なくともハードウェアの管理統合やストレージのバックアップコンソリデーションあたりは進めておく必要がある。一般にいわれるところのデータセンター統合とは、だいたいこのレベルの統合を指している。
一方、ブロケードが中長期的に目指している統合は、さらにステップを進めた“モノリシックデータセンター”と呼ばれるものだ。ほとんどのエンドユーザーがITシステムに対して求めているのは、自社のビジネスモデルに適した業務アプリケーションを短期かつ効率よく作成、運用できることである。正直なところ、プロが適切な環境さえ提供してくれれば、顧客にとってアプリケーションが動作するプラットフォームやシステム側の技術はどのようなものでもかまわない。
モノリシックデータセンターは、こうしたエンドユーザーの真の要求に則って構成されたものだ。具体的には、ファイルシステム、データベース、物理的配置、接続手段など、物理的なハードウェアおよびプロトコルを仮想化したデータアクセスレイヤを設けることで、プラットフォームに依存しない業務システムを構築可能にしている。「モノリシックデータセンターは、お客様から見れば、そこにご自身のアプリケーションが最も低価格かつ効率よく動く仕組みが提供されたデータセンターという位置づけになります(津村氏)」。
|
|
モノリシックデータセンターに向けたデータセンター統合の道のり(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。最終着地点となるモノリシックデータセンターでは、サーバーやストレージが完全に仮想化され、ユーザーから見ると単一のITインフラに見えるようになる。
|
モノリシックデータセンターのレイヤ構造(出典:ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社)。ファイルシステム、データベース、物理的配置、接続手段などを完全に仮想化したデータアクセスレイヤを設けているのが大きな特徴だ。
|
ただし、モノリシックデータセンターは一朝一夕で完成するものではない。本社、支社、営業所などにハードウェアが分散したオープンシステムを、企業の業務に悪影響を及ぼすことなく段階的に単一のデータセンターに統合していく必要がある。これに対し、ブロケードは、今後のステップとして分散したデータを一カ所に集約するWAFS(Wide Area File Service)ソリューション、そして分散した小規模のSANを単一の大規模SANとして統合するためのSAN統合ソリューションを推進している。いうまでもなく、ここで重要な鍵を握るのが、これからのSANの進化過程だ。
後編では、モノリシックデータセンターの実現に向けた道のりとして、ブロケードが提唱しているSANの進むべき方向性を解説していく。
■ URL
ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
http://www.brocadejapan.com/
■ 関連記事
・ ブロケードが目指すユーティリティコンピューティングとは? [前編](2005/09/07)
・ ブロケードが目指すユーティリティコンピューティングとは? [後編](2005/09/22)
( 伊勢 雅英 )
2005/09/12 00:15
|