Enterprise Watch
バックナンバー

マクデータが推し進めるSANファブリック製品の新たな戦略

他社製品との完全な相互運用性、新しい仮想化モジュールの導入

マクデータ・ジャパン株式会社 代表取締役社長の石本龍太郎氏
 SANファブリックの構築に欠かせないファブリックスイッチとダイレクタ。マクデータ(McDATA)は、これらの中でも特にダイレクタクラスのハイエンド製品で定評がある。一方、ファブリックスイッチを中心とするローエンドおよびミドルクラスの製品は、ブロケードやQLogic、シスコといった競合他社に押されているのが実情だ。もちろん、マクデータもこうした現状にただ指をくわえているわけではなく、新たな製品戦略を通じてダイレクタ以外のセグメントでもビジネスを着実に広げようとしている。

 今回は、マクデータ・ジャパン株式会社 代表取締役社長の石本龍太郎氏に、競合他社にはないマクデータの強み、ファブリックスイッチのシェアを高めるための戦略、来年に発表が予定されている新しい仮想化モジュールの概要などについてお話を伺った。


原則として自社製品同士の接続しか保証しない競合他社

 冒頭でも述べたように、マクデータ製品のシェアは、ダイレクタはかなり大きいものの、ファブリックスイッチは競合他社にかなり押されている。しかし、他社のインストールベースが大きいという現状は、マクデータにとって逆にビジネスチャンスにつながると考えているようだ。それを可能にするのが、他社製品との接続性や相互運用性である。

 実は、ブロケード製品で構成されたSAN、シスコ製品で構成されたSAN、QLogic製品で構成されたSANがそれぞれあったとき、これらを相互に接続することはベンダ自身が保証していない。つまり、ベンダが保証するのは自社の製品で構成されたSANを相互接続することだけなのだ。もちろん、標準化の進んだファイバチャネル技術に基づく製品である以上、異なるベンダのスイッチやダイレクタ同士を接続し、基本的なSANファブリックを構成することは難しくない。実際、筆者がStorage Networking World Americaの取材に出かけた際にも、異なるベンダ製品間で大規模なSANファブリックを構成するデモ環境をこの目で見てきた。

 しかし、現実のユーザはベンダが保証しないことに不安を覚え、異なるベンダ製品からなる複数のSANをそのまま孤立させているのだという。「複数のSANを持ち、しかもこれらのSANが異なるベンダ製品から構成されているというお客様はかなりいらっしゃいます。特に日本では、製造系でこうした傾向が強く見受けられます。ITシステムは、設計、製造、営業、経理、人事など、各部門で縦割りに管理されており、それぞれの部門で異なるベンダに基づくSANが導入されているからです。そして、これらのSANは相互に接続することなく、孤立して運用されているのが実情です。これが、いわゆるSANのアイランド化と呼ばれる現象です(石本氏)」。


他社ベースのSAN環境との接続性と相互運用性を保証するマクデータ

ブロケード、シスコ、QLogic製品からなるSAN同士を直結することは、それが物理的に可能だとしても、ベンダ自身は保証していない。一方、マクデータ製品は、ブロケード、シスコ、QLogic製品の互換モードを備えているため、これらのSANの間にマクデータ製品を挟むことで相互接続を行えるようになる。
 マクデータのダイレクタやファブリックスイッチは、このような孤立したSAN同士を相互に接続し、SAN全体をひとつにまとめる役割を果たす。マクデータの製品は、自身のFCポートをブロケード互換、シスコ互換、QLogic互換として動かすモードを備えているため、マクデータ製品と他社製品からなるSANを自由に接続できる。つまり、他社同士では直結できなかったものが、その間にマクデータ製品を挟むことで間接的には相互接続が実現されるのだ。そして、他社ベースのSANで構成されたリソースやインフラを拡張したり、複数のSANをまたがってストレージ上のデータを共有したりできるようになる。

 複数のSANアイランドを接続するには、SANルーティングを利用する方法もある。マクデータ自身も、SANルーティングを行う製品としてEclipse SANルータシリーズなどを発売している。他社でもSANルータを発売しているが、原則として自社製品との接続しか保証していない。これに対し、マクデータのSANルータは、ダイレクタやファブリックスイッチと同様にブロケード、シスコ、QLogic製品との接続および相互運用性を保証しているのが大きな特徴だ。

 さらに、SANルータを利用すれば、他社ベースのSANをつなぎ込むだけではなく、長距離接続などの付加価値も同時に盛り込める。例えば、IPネットワークを介して数千km離れたリモートサイトにディザスタリカバリ環境を構築するといったことが可能になる。「すでに金融系を中心にディザスタリカバリ関連の案件が急速に増えています。今後は、単にハードウェア製品を提供するだけでなく、ディザスタリカバリやビジネス継続にフォーカスしたソリューションも具体的に提案していきます。ストレージやサーバーベンダとの共同プロジェクトも水面下で動いており、近いうちに特定の分野やマーケットに対するソリューションを発表したいと思っています(石本氏)」


SMB市場向けの低価格ファブリックスイッチにも力を入れる

4G FC対応のSphereon 4400ファイバチャネルスイッチ(上写真)と4700ファイバチャネルスイッチ(下写真)。
 マクデータは、他社製品との接続性や相互運用性を前面に出し、ローエンドのファブリックスイッチでも攻勢をかけていく。その矢面に立つ製品が、最近発表された4G FC対応のSphereon 4400および4700ファイバチャネルスイッチだ。

 4400は、高さが1Uラックマウントサイズ、幅はその半分という業界最小サイズの16ポートスイッチである。電源は、筐体を小型化するためにAC-DCアダプタによる外付け電源方式を採用している。アダプタのサイズはノートPCのものとほぼ同一だが、アダプタからケーブルなどが誤って抜けたりしないようにロック機構を装備している。また、ホットプラグに対応した冗長電源もオプションでサポートする。4700は、高さおよび幅が1Uラックマウントサイズの32ポートスイッチだ。

 「4400は、エントリレベルのSANをターゲットにしています。主に初めてSANを導入するSMB市場に向けた製品です。1Uラックマウントに4400を2台並べれば合計32ポートになりますから、ポート密度という点では4700と同じです。従って、最初にどれくらいのポートを必要とするかによって、4400と4700を使い分ければよいでしょう。4400と比較して4700は後々の拡張性に優れていますから、将来的にある程度の規模を見込むなら4700を選択すべきです。また、4700はこのクラスの製品としては珍しくFICON CUPをサポートしていますので、メインフレームを接続するお客様には4700をおすすめします(石本氏)」。


マクデータの認知度を高める活動を積極的に進めていく

 SMB市場に向けた低価格のファブリックスイッチは、これまでマクデータが十分に追従できなかったセグメントだ。顧客の多くは、競合他社の製品をすでに採用しており、マクデータが入り込む隙はあるのだろうか。これに対し、石本氏は次のように答える。

 「ファブリックスイッチは、いくつかのユニークな機能の違いはあるものの、それが絶対的なユニークさではありません。つまり、たとえ他社製品が採用されたとしても、それが単に性能や機能面で優れているとは限らないのです。これは、ダイレクタと大きく異なる点だと思います。つまり、これまでのマクデータに欠けていたのは、マクデータ製品の認知度を高めるための活動だったというわけです」。

 「これからは、大手OEMだけでなく、そのリセラー、販売店、二次店以下までを含め、製品紹介やトレーニングなどを積極的に行っていきます。こうした啓蒙活動を通じて、売る側の方々にもマクデータの名前をどんどん覚えていただきます。“マクデータの製品を使えば他社製品との接続性、相互運用性の問題も解消できる”というメッセージをもとに、私たちの味方を着実に増やしていきます(以上、石本氏)」。

 今後は、ブレード向けのスイッチも発売する予定だという。すでに、今年10月24~28日に米フロリダで開催されたStorage Networking World Fall 2005では、マクデータとQLogicの共同開発によるブレードサーバースイッチでデル、HP、IBMの各ブレードサーバーを接続するデモ環境が一般に公開された。そして、いうまでもなく競合他社からもブレードサーバースイッチは発売されることから、シェアの奪い合いが激化するのは想像に難くない。

 「結局、ブレードサーバースイッチだけでSANは構成されません。ブレードサーバーと従来型のサーバーが混在する環境でストレージを共有しようと思えば、そこには新たにSphereon 4700のようなファブリックスイッチが必要になります。ここで、新たなビジネスチャンスが生まれます。また、マクデータの製品は基本的に他社製品とも接続できるわけですから、他社のブレードサーバースイッチにもそのまま直結できます。従って、他社のブレードサーバースイッチが普及すれば、そこにマクデータ製品を絡められるチャンスも自然に生まれてくるわけです。マクデータは、競合他社が同類の製品を発売することに対してまったく危惧していません。むしろビジネスチャンスだと思っています(石本氏)」。


マクデータ製品にストレージ仮想化機能を追加する専用のサービスモジュール

 マクデータ製品で来年の目玉となるのが、VSM(Virtualization Service Module)と呼ばれるストレージ仮想化製品である。これは、ファブリックベースのストレージ仮想化を提供する専用のモジュールで、マクデータ製のファブリックスイッチやダイレクタに外付けしてストレージ仮想化を追加するものだ。他社でもファブリックベースのストレージ仮想化ソリューションを発売しているが、これらのソリューションと大きく異なるのはストレージ仮想化のために専用のASICを起こしたことだという。これにより、他社製品を大きく引き離す、毎秒100万I/OものI/O性能を実現し、ボトルネックがきわめて少ないストレージ仮想化を可能にしている。

 そして、このVSMは低価格のファブリックスイッチから大型のダイレクタまで共通に接続できる。現在、ダイレクタクラスの製品に専用のボードを追加することでストレージ仮想化をサポートするのが一般的だが、これではダイレクタでしかストレージ仮想化を実現できないことになる。そもそもスイッチはボードを追加するだけの物理的なスペースがないので、筐体の小さなローエンドおよびミドルレンジ製品では機能拡張を図りづらいのだ。そこで、マクデータは、モジュールを外付けする形に切り替えることで、特定のモデルだけが特定の機能を付加できるという問題を根本的に解決した。

 外付けモジュールの形態は、ポート数を維持するのにも役立つ。通常、ダイレクタではボード1枚あたり4~8ポートの接続ポート(例えばFCポート)が搭載されている。そして、ストレージ仮想化ボードを追加する際には、接続ポートを提供するための既設ボードを差し替えなければならない。つまり、貴重な接続ポートをつぶさなければならないのだ。また、ストレージ仮想化の処理性能を高めるには、このストレージ仮想化ボードを複数追加するわけだが、それにより利用可能なポート数はさらに減っていく。一般に、ダイレクタやファブリックスイッチのコストは接続ポートあたりの単価で見られることが多く、利用可能なポート数が減っていくことで実質的なポート単価も上昇してしまう。これに対し、マクデータの外付けモジュールは、接続ポートをまったくつぶすことなく新たな機能を追加できる。これは、ユーザの投資保護という観点からも歓迎すべき特徴だ。

 将来的には、さまざまな追加機能をモジュールとして提供していく予定だという。例えば、SANルーティングを行う追加モジュールを検討している。これにより、購入当初は最小限のファブリックスイッチとして導入しつつ、システムを運用している間に複数のSANアイランドを接続したり、ディザスタリカバリ環境を構築するといった段階になったら、SANルーティングモジュールを追加してSANルータにアップグレードできるのだ。

 マクデータは、他社製品との接続性や相互運用性に加え、こうした機能拡張の柔軟性を武器にビジネスチャンスを一気に広げようと目論んでいる。その成果が出るのは、マクデータの知名度を高めるマーケティング活動が順調に進み、さらにはVSMが実際に市場に登場する2006年以降ということになりそうだ。



URL
  マクデータ・ジャパン株式会社
  http://www.mcdata.jp/


( 伊勢 雅英 )
2005/11/21 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.