Enterprise Watch
バックナンバー

大規模エンタープライズ分野に本格参入を果たしたNetApp


米Network Appliance エンタープライズ・データセンターおよびアプリケーション 事業部門担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのリチャード・クリフトン氏
 これまでコスト効率を重視する中小規模オープン系システムに適したストレージを中心に提供してきたネットワーク・アプライアンス(以下、NetApp)。“NetAppといえばNAS”といった印象がかなり強いが、5月に発表されたモジュラー型ディスクサブシステム「NetApp FAS6000シリーズ」はFC SANにもかなり力を入れており、そのターゲットは大規模エンタープライズ分野にまで拡大された。

 今回は、大規模エンタープライズ分野の開拓に向けた意気込み、NAS中心のビジネスから接続性の多様性を重んじるUnified Storageへと移り変わった背景などについて、米Network Appliance エンタープライズ・データセンターおよびアプリケーション 事業部門担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのリチャード・クリフトン氏からお話を伺った。


保守的な日本の大規模エンタープライズ市場を開拓するための“手だて”

NetApp FAS6000シリーズの位置付け(出典:日本ネットワーク・アプライアンス株式会社、以下同様)。NetApp FAS6000シリーズの投入によって、競合他社に水を空けられていた大規模エンタープライズ分野にも本格参入を果たした。
 米国にて先行して発表されたNetApp FASシステムの最上位モデル「FAS6000シリーズ」は、すでに米国内でいくつかの導入実績があるという。基本的には大規模のフレームアレイが設置されているミッションクリティカルなデータセンター環境に導入されている。主な顧客は、エネルギーや金融系、連邦政府関連などだ。また、業種や業態にかかわらず、SAPなどのERPソリューションを水平展開している企業、チップ設計などで大規模のCAD/CAM環境を利用している企業でもFAS6000シリーズの導入が進んでいるそうだ。

 「日本は、NASやSANよりもDAS(Direct Attached Storage)の比重が大きく、ネットワーク化されたストレージの普及は他国に比べてゆっくりと進んでいるという印象です。しかし、ここ数年の間に培ってきたNetApp製品のさまざまなフィーチャーによって、このような流れを変化させられると考えています。日本の企業では、部門別に自分たちの統制を維持し、サービスレベルを実現する能力が重要視されています。日本の大口顧客と意見交換をしたときに気づいたのですが、ITにおける結果やプロセスに対する考え方が他国と大きく異なっています。日本企業の各部署は、企業の成功や業績に対して積極的に参加しなければならないという考えが非常に強いようです。これに対し、他国の企業ではこうした考えが日本ほど強くはなく、むしろコスト低減の必要性からストレージ統合を急ピッチで進めてきました。」


NetApp FlexShareの仕組み。アプリケーションに求められるサービスレベルに応じて、ストレージアクセスに対するプライオリティを3段階で指定できる。プライオリティの高いボリュームは応答時間が短くなる。
 「しかし、NetApp製品が持つ魅力的なフィーチャーによって、日本企業と他国の企業で求められている両方の要件を同時に満たせるものと考えています。例えば、FAS6000シリーズから導入されたNetApp FlexShareを利用すれば、すべてのストレージ管理者が、企業内で定められたポリシーにしたがって共有されたリソースに対するサービスレベルの管理を行えるようになります。このような緻密な管理性を維持しながら、ストレージの統合やストレージのネットワーク化による劇的なコスト削減効果を見込むことができるのです。(以上、クリフトン氏)」


大規模エンタープライズ市場はNetAppにとって新しい開拓対象となるが、今後のNetAppの成長を占う上で重要な鍵を握る分野だという。2005年の国内市場を見ると、NAS(中小規模向け)は177.7億円なのに対し、FC SAN(大規模向け)は819.8億円とかなり大きい。
 日本に限っていえば、大規模エンタープライズの分野はどうしても保守的な考え方をとる顧客が多い。このため、大規模エンタープライズ分野に新規参入を果たしたNetAppではなく、すでにメインフレーム向けストレージなどで多くの実績を持つベンダの製品を選ぶIT管理者も多い。NetAppは、こうした保守的な顧客に対してどのような形で市場開拓を行っていくのだろうか。クリフトン氏は、そのアプローチ策を次のように説明する。

 「保守的な考えを持つ顧客には、他の市場ですでに成熟し、しっかりと実証されたテクノロジを展開することが不可欠です。新しいテクノロジをいち早く提供することも市場開拓の有効な方法かもしれませんが、保守的な考え方を持つ市場には誰もが安心できるテクノロジを基本に置いた展開が適しています。もし、新しいテクノロジを導入するのであれば、その導入リスクを徹底的に排除する努力も欠かせません。」

 「そして、テクノロジと並んで大事なのが、的確なチャネルパートナーと手を組むことです。チャネルパートナーが顧客にとって信頼のできる相談者となれるように、常に一貫して保守的なアプローチをとることで顧客の信頼を獲得します。つまり、チャネルパートナーが顧客にとって最も信頼できるアドバイザーとなり、チャネルパートナーがNetAppのテクノロジーを紹介することで顧客に大きな安心感を与えるのです。」


既存のストレージ環境にも新たな付加価値を与えるNetApp Vシリーズ

NetAppの新しいストレージ仮想化ソリューション「NetApp Vシリーズ」。他社のディスクストレージをVシリーズに接続すれば、Data ONTAP 7Gによる高度なストレージ仮想化機能が提供される。日本での正式発表にはもう少し時間がかかるとのこと。
 クリフトン氏は、大規模エンタープライズ分野を開拓する強力な製品としてNetApp Vシリーズについても言及した。NetApp Vシリーズは、異機種ストレージの仮想化を可能にするゲートウェイ製品で、ここに接続された他社のディスクストレージ製品をNetAppのストレージ向けOS(Data ONTAP 7G)の管理下に置き、ストレージ仮想化を行うというものだ。Data ONTAP 7Gは、ブロックおよびボリュームレベルのストレージ仮想化機能に加え、最先端のシンプロビジョニング機能などを搭載している。

 「Vシリーズを利用することで、NetAppのプラットフォームを他社のプラットフォームにも接続できるようになります。顧客がNetAppのテクノロジを通じて生産性やストレージの利用率を高めたいとき、これまで使ってきたディスクストレージをそのまま使い続けられるわけです。保守的な分野にも関連しますが、特にリスクを最小限に抑えたい場合には、まったく新しいストレージに置き換えるのではなく、すでにあるストレージを有効活用するほうがよいでしょう。例えば、従来型のディスクストレージをすでに大量に持っていて、さらにディスク容量を増やしたいときには、従来のように大量のディスクストレージを増設するのではなく、Vシリーズを導入して既存のディスクストレージの利用率を高めるというアプローチをとれるわけです。」

 「NetAppのスタンスは、大規模エンタープライズ分野を開拓する過程で他社のシェアを“奪い取る”というよりも、むしろ他社製品のユーザーも含む、すべての顧客に対して“新たな付加価値を提供する”というほうが正しいでしょう。Vシリーズも、他社のストレージ製品にはないNetApp独自のテクノロジが詰まった製品ですから、他社製品を置き換えるというよりも、顧客のストレージ環境に新たな付加価値を提供するものと捉えたほうがしっくりきます。現在、多くのパートナーに評価をしてもらっている最中です。日本での発表時期は未定ですが、いずれは大規模エンタープライズ分野を支える製品としてFAS6000シリーズとともに積極的に展開していく予定です。」


多様な接続性をアピールするUnified Storageへの流れ

 2年ほど前にさかのぼると、NetAppは、多くのアプリケーションをブロックレベルのNASで展開できることを強くアピールしていた。例えば、一般にFC SANでの利用が推奨される大規模データベース環境への適応だ。具体的には、Oracle Grid環境向けのストレージとして同社のNASを接続することにより、FC SANよりも安価なインフラでFC SANに匹敵するパフォーマンスを実現していた。また、ボリューム管理層をストレージ側に持たせられることによるサーバ負荷の軽減、ストレージをIPネットワークに統合できることによる運用管理コストの削減などもNASの大きなメリットとして訴えていた。


最近、NetAppが強くアピールしている“Unified Storage”。CIFSやNFSといったプロトコルを通じてファイルレベルのアクセスを行うNASだけでなく、Fibre ChannelやiSCSIといったブロックレベルのアクセスもひとつの筐体で同時にサポートできるディスクストレージを指している。
 しかし、最近では単なるNASにとどまらず、Fibre Channel、iSCSIといった多様な接続性を実現する“Unified Storage”がNetApp製品のアピールポイントになった。クリフトン氏は、このような市場展開の変化を次のように説明する。

 「今回発表したFAS6000シリーズで、NetAppが発表するFC SAN対応製品は4世代目となります。最近では、弊社の世界的な売上げの中でFC SANがかなり優位的なところを占めるまでに成長しました。この数年間に努力してきたのは、業界最高レベルのFC SANを構築することです。すでに業界で最も優れたNASを持つNetAppのポートフォリオにFC SANを付け加えてきたわけです。そして、業界最高レベルのFC SANを構築するために、ストレージやデータ管理などに関連するNetAppの優れた技術をストレージプロトコルに関係なく展開できるようにしました。」

 「確かにNASをさまざまな用途で展開できるという考え方は、これまで私たちが訴えてきたメッセージのひとつなのですが、この数年間にいわゆる“SAN vs NAS”の議論が決して技術的な観点から行われているものではないことを学びました。多くのケースにおいてSANとNASのどちらを選ぶかは、両者に対する投資水準の違いや会社自身の財務状況から決まるものであり、技術的配慮から決まるものではありません。まったくゼロからデータセンターやIT部門を構築するのであればSANとNASは対等な選択肢となりますが、たいていはすでに設置されているITシステムに改良を加えるケースがほとんどです。」

 「例えば、ある顧客がすでにFC SANに対して大きな投資を行っている場合、具体的にはFC SAN向けのストレージやスイッチを数多く導入していたり、FC SANに関連する多額のソフトウェアライセンス料を支払っていたり、高度な人的トレーニングを進めているケースでは、NASのような別の技術にがらっと切り替えることは極めて困難です。つまり、SANとNASの技術的な優位点がどこにあるのかという議論以前に、現状でどんなストレージ環境を構築しているかによって今後の選択肢がおのずと決まるわけです。」

 「ごく少数ですが、SANとNASのどちらかの技術を必要とするものもあります。例えば、Windowsアプリケーションの中でも特にトランザクションI/Oが多く発生するところでは、Fibre ChannelやiSCSIといったブロックベースのSANが必要になります。Windows環境ではファイルベースのCIFSが多く用いられていますが、WindowsにおけるCIFSの実装には不十分なところがあり、高負荷のI/Oに耐えられないケースがあります。このような環境では、技術的な観点からSANを選択する理由があるといえるでしょう。」


中央データセンターとリモートサイトのストレージ統合を可能にするiSCSI

 2005年あたりから急速に導入例が増えてきたのがiSCSIだ。iSCSIは、Fibre Channelのようなブロックベースのデータ転送を行う一方で、そのインフラとしてNASと同じくEthernetベースのLANを利用できるのが大きな特徴だ。ある意味において、SANとNASのメリットを併せ持ったものと考えてよい。NetAppもFASシステムでiSCSIを積極的にサポートし、その普及に一役を買っている。クリフトン氏は、今後iSCSIが活躍すると思われる分野について次のように説明する。

 「iSCSIが普及する主な場所は、FC SANをまったく導入していないところ、もしくはSANを安価に導入しなければならないところです。例えば、内蔵ディスクを持つWindowsサーバー群があるデータセンターでディスクストレージの統合を図りたい場合や、リモートオフィスでWindowsやLinuxサーバーがすでに導入されており、これらを一元管理された中央データセンターと統合したい場合などが挙げられます。」

 「最も一般的なシナリオは、小さなリモートサイトをいくつか持っており、各リモートサイトでのテープバックアップ装置(以下、リモートテープ)を排除したいというケースです。リモートテープを排除するには、中央データセンターとリモートサイト間でストレージ共有およびミラーリングを行い、中央データセンター側でデータのバックアップやリカバリを行えるようにします。この中央データセンターとリモートサイト間のストレージを接続するのがiSCSIです。」

 「iSCSIなら、既存のITネットワークと同じコンポーネントを利用できますし、ネットワーク管理も同じように行えます。仮にコンポーネントとなるスイッチやHBAを購入できたとしても、それがFibre Channelのようにまったく異なるインターフェイスだったら、その管理コストが大きな問題となりかねません。もちろんパフォーマンスレベルやサービスレベルを考えれば、Fibre Channelのほうが優れていることは明らかです。しかし、リモートテープの排除というシナリオでは、期待値がそれほど高くはありません。リモートサイトで利用しているストレージはDASであることが多く、このような環境にiSCSIを導入することは現状維持どころか、むしろアップグレードにも相当するのです。」

 クリフトン氏は、インタビューの最後に次のようなコメントを寄せた。技術の目新しさにばかり目を向けていた筆者には、非常に興味深いメッセージだった。

 「本当のテクノロジとは、最も優れた結果をラボで残すものではなく、実際に顧客が導入し、そこから価値を引き出せるものを指しています。NetAppがこれまで急成長を遂げてきた背景には、NetAppが単なるテクノロジ偏重に陥ることなく、顧客が望んでいるものを的確に把握し、顧客が求める製品を適切なタイミングで市場に投入し続けてきたところにあります。今後もその姿勢を貫き、魅力ある製品を発表していきます。」



URL
  日本ネットワーク・アプライアンス株式会社
  http://www-jp.netapp.com/

関連記事
  ・ ネットアップ、最大容量500TBのモジュラー型ストレージ-ハイエンド市場へ“殴りこむ”(2006/05/25)


( 伊勢 雅英 )
2006/07/31 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.