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他社とのアライアンスや環境問題への取り組みで独自色を出す3PAR


3PARdata株式会社 代表取締役副社長の加藤賢造氏
 3PARのストレージ製品が持つストレージアーキテクチャについては、すでに本連載(高いスケーラビリティとコスト効率を兼ね備えた3PARのストレージアーキテクチャ)で詳しく取り上げたが、同社はビジネスの展開においてもVMwareやRiverbedとのアライアンス、環境問題に対する取り組みなど、他のストレージベンダーにはない独自色を見せている。今回は、こうしたユニークな取り組みについて、3PARdata株式会社 代表取締役副社長の加藤賢造氏にお話を伺った。


これからはITインフラ全体を仮想化する時代に突入する

 ユーティリティコンピューティングの実現には、仮想化技術が重要な鍵を握っている。これまで配備されていた多数のサーバーやストレージは、ブレードサーバーやサーバー仮想化技術によってサーバー統合が行われ、さらにハイエンドストレージとストレージ仮想化技術によってストレージ統合が行われてきた。3PARは、こうしたITシステムの統合を単に実行するだけでなく、さらに高水準の統合を目指しているという。

 その代表的な取り組みが、VMwareとの強固なアライアンスだ。VMwareは、これまでサーバー統合という位置付けからサーバー仮想化製品を提供してきたが、今後はサーバーだけでなくインフラ全体を仮想化する時代に突入する。インフラの仮想化には、サーバーの仮想化だけでなくストレージの仮想化も欠かせない。そこで、VMwareと3PARがタッグを組んだわけだ。両社は従来からパートナー関係にあったが、より強固なアライアンスを結び、カスタマーサポートの部分でも協業できるようにした。これにより、仮想化システム上で何らかの問題が発生したら、両社の開発エンジニアが力を合わせて解決にあたれる。

 「現在、サーバーの仮想化はかなり進んでいます。3PARは、ユーティリティコンピューティングの中のストレージブロックを担い、現在のサーバー仮想化環境を真のユーティリティコンピューティングに変換していく手助けをします。3PARのストレージは、高いディスクI/O性能によって仮想サーバーアプリケーションの性能を保証しつつ、Thin Provisioningによってコストを抑えながら仮想サーバーの展開を可能にします。さらに、3PARの優れたユーティリティストレージ環境がストレージブロックの管理負荷を大幅に軽減します。このように、性能、コスト、管理性の面でユーティリティコンピューティングの実現を支援するのが3PARの大きな役割です。(加藤氏)」


VMware仮想サーバー環境のパフォーマンスを高める3PARのストレージ

 VMwareの仮想サーバー環境は、物理サーバー上で動作するVMware ESX Serverによって提供される。ゲストOSはこのESX Server上で動作するが、数多くのゲストOSが稼働する環境では多数のランダムI/Oが発生する。そして、このような高いランダムI/O負荷を伴うOSインスタンスは、物理サーバーのメインメモリとそのページングアルゴリズムに大きな負担をかける。数々のアプリケーションで発生するI/Oは、ESX Serverから見ればまったく関連性のないアクセスパターンを持ったものだ。このため、サーバーメモリ側のキャッシュヒット率は必然的に低下する。結果としてストレージに対するページングも頻発し、ディスクに対するI/O負荷が増大してしまう。

 通常、多くのストレージでは大容量のキャッシュメモリを搭載することでこの問題に対処しているが、サーバー側の上位キャッシュでヒットしないものはストレージ側の下位キャッシュでもヒットしづらい。つまり、最終的には物理ドライブが持つアクセス性能に頼らなければならないのだ。3PARのストレージは、このようなケースで威力を発揮する。3PARのストレージアーキテクチャ(3PAR InSpireアーキテクチャ)は、データを細かいチャンクレットという単位に分割し、構成する論理ドライブのサイズとRAIDレベルに応じてできる限り多くの物理ドライブにチャンクレットを分散させる。このように多数の物理ドライブに対して並列アクセスを行うことで、キャッシュがヒットしづらい仮想サーバー環境でも優れたI/O性能が得られる。

 また、ESX Server上で動作するゲストOSの数が増えてくると、ESX Server全体で必要とされるストレージ容量もかなりの大きさになる。従来型のストレージでは、ゲストOSが使わない余剰な領域を含めてすべてのディスク領域を物理ディスク上に割り当てなければならない。例えば、ゲストOSあたり2TBのシステム領域を作ったとき、ゲストOSが10個あれば20TBもの物理ディスクが必要になる計算だ。一方、3PARのストレージなら、Thin Provisioningによって大きなシステム領域でありながら、実際にシステムが必要としている最小限の物理ディスクを割り当てれば済む。VMwareの最新バージョンは、物理サーバーを飛び越えてゲストOSが移動できるVMotionテクノロジを搭載しているが、VMotionを実行している間のI/O停止時間を短縮する目的でゲストOSあたりのボリュームサイズを大きくとることが多い。このようなケースでも3PARのThin Provisioningが役立つ。


3PARのストレージは、キャッシュヒットのしづらい仮想サーバー環境でも優れたパフォーマンスを発揮する(出典:3PARdata株式会社、以下同様)。 多数のゲストOSを稼働させるにはストレージ側にも多くのディスク領域が必要になるが、Thin Provisioningを利用することで実際に使用する最低限の物理ディスクだけを割り当てれば済む。

最小限のコストと労力で災害対策を始められる3PARのソリューション

Thin Provisioningによってリモートサイト側のストレージも無駄なディスク領域が発生しない。つまり、リモートサイトのストレージ構成を最小化できるわけだ。
 大企業では、当たり前のように導入が進んでいる災害対策(ディザスタリカバリ)。災害対策は、ITシステムの中でもとりわけ敷居の高いソリューションのひとつであり、資金が潤沢でなければなかなか実行に移せないのが実情だ。従来型のストレージでは、無駄なディスク領域をリモートサイト側にも必要とすることから、トータルコストがかさみやすい。しかし、3PARのThin Provisioningを併用すれば無駄なディスク領域が排除されるため、リモートサイト側のストレージも最小限の規模で構成できる。

 一般に、大規模のストレージシステムではFibre Channel接続を基本とするケースが多く、リモートサイトにデータを飛ばすにはDWDM(高密度波長分割多重)装置やFC-IPコンバーターなどを配備しなければならない。このため、ストレージ本体だけでなくサイト間を接続する通信インフラのコストも高額になりやすい。これに対し、3PARのストレージはIPによる直結を標準でサポートしており、こうした高価な通信機器やネットワーク回線を新たに用意する必要はない。

 また、災害対策のためのリモートコピー機能(3PAR Remote Copy)は、5~6個のコマンドを入力するだけですぐに開始できるという。他社のストレージであれば、有償のコンサルティングサービスを受けて、実際に災害対策環境が本稼働するまでに数週間かかったりするが、3PARのストレージであればすぐに災害対策を実施できる。加藤氏によれば、2006年に出荷されたシステムのうち35%がリモートコピーのライセンス付きで出荷されており、災害対策の仕組みを念頭に置いた顧客が確実に増えていることを意味している。


Riverbedとの技術提携によってリモートコピーのネットワーク帯域を抑える

プライマリおよびリモートサイトにRiverbedのアプライアンス(Riverbed Steelhead)を配置することで、限られたネットワーク帯域を有効に使ってリモートコピーを実施できるようになる。これにより、災害対策のためのコストを削減できる。
 通常、サイト間のネットワーク帯域は、そこで運用されるアプリケーション用として確保されるものだが、ここに災害対策用のリモートコピーが加わることでさらに広帯域のネットワーク回線が必要になる。しかし、より広帯域のネットワーク回線は、機器類の月間リース料や回線使用料を跳ね上げる大きな原因だ。そこで、3PARはRiverbedとの技術提携によって、必要とされるネットワーク帯域の削減にもメスを入れた。Riverbedは、データセンターにすべてのデータを集約させるWAFS(Wide Area File Service)関連のベンダーとして有名だが、この仕組みを災害対策にも応用しようというわけだ。

 プライマリおよびリモートサイトのゲートウェイとして配備する同社のアプライアンス(Riverbed Steelhead)は、高効率のデータ圧縮機能と優れたアルゴリズムを持つ大容量のキャッシュを備えている。これにより、ネットワーク回線でやり取りされるリモートコピーのデータ量を抑え、限られたネットワーク帯域でリモートコピーを実施できるようになる。このようなWAN高速化ソリューションを手がけるベンダーは、Riverbed以外にもPacketeerなどいくつかの選択肢があるが、加藤氏は3PARがRiverbedを採用した理由を次のように説明する。

 「Riverbedを採用した最大の理由は、Riverbed Steelheadのデータ圧縮率そしてトランザクションを減らす効果が非常に高いことです。環境およびデータの種類によって効果は異なりますが、実際の試験データとして、3Mbpsに帯域制御されたWAN環境でも実効転送レートは、30Mbpsの処理(10倍高速化)だった例があります。もともと北米や英国の金融機関が、3PARのストレージで災害対策を実施していました。3PARのストレージは、差分のデータしか飛ばさないので他社よりもデータ転送量は少ないのですが、ストレージの規模が大きくなると更新データの絶対量も増えてしまいます。そこで、リモートコピーに必要なネットワーク帯域を削減するためにRiverbedが導入されました。Riverbedの提携話は、Riverbedが持つ技術的な優位性はもちろん大きな判断材料となりましたが、むしろお客様主導でスタートしたといったほうがいいかもしれません。」


Thin ProvisioningとカーボンクレジットでCO2排出量を削減&相殺

 3PARは、環境問題に対する取り組みもかなり積極的だ。すでに、3PARのストレージ製品を通じて排出されるCO2(二酸化炭素)の量を削減したり、カーボンクレジットで相殺したりする「カーボンニュートラルストレージ」の展開を開始している。まず、CO2排出量の物理的な削減だが、これはThin Provisioningによって対応する。統計的に見ると、ストレージ容量全体の60%は、アロケートがかかっていながら実際には使われていない領域だという。このため、Thin Provisioningによってこうした無駄な領域を排除することで、CO2排出量も60%ほど削減できる。

 しかし、Thin Provisioningで無駄な領域を排除したとしても、実際に書き込まれる容量分のストレージ製品はこれからも発売していかなければならない。そこで、実際に販売されるストレージ容量分についてはTerraPass(カリフォルニアに本拠地を置く環境ベンチャー企業)のカーボンクレジットを購入する。ストレージのCO2排出量は、TerraPassによって1TBあたり年間1トンと計算されている。カーボンクレジットは、CO2を吸収するための植林事業など、主に北米でのエコエネルギープロジェクトに対する資金として利用されている。つまり、出荷されるストレージ容量に対するカーボンクレジットを購入することで、CO2排出量を相殺した形でストレージを出荷できるのだ。

 「北米のお客様には、TerraPassと3PARのロゴが入ったグリーン賞を授与しています。日本でもこのグリーン賞の認証を受けられますが、日本ならではの取り組みとしてもう少し違った形で展開できないか検討しているところです。現時点でTeraPassのカーボンクレジットを購入した金額は3000ドル(約36万円)にすぎません。CO2の排出量が大きいのは自動車や飛行機など化石燃料で動く機械ですから、ストレージでこのような取り組みをしたところでどれだけ効果があるのかという疑問もあります。しかし、3PARは今まで誰もやっていないことにチャレンジする精神こそが重要であると考えたのです。」


ストレージ業界で最初に環境問題への取り組みを発表した3PAR。Thin Provisioningによって物理ディスクの出荷量を抑えつつ、出荷された分の物理ディスク容量に対するカーボンクレジットを購入する。全世界的に環境問題が叫ばれる今日、いち早く名乗りを上げた3PARの姿勢を高く評価したい。
 「幸いにも、環境問題に対するお客様の取り組みはかなり積極的です。3PARが日本の主要な企業に調査を行った結果によれば、上場企業の23%がストレージシステムに対するCO2の削減を実施していると回答しました。3年以内のレンジで見ると、上場企業のほぼすべてが環境問題への取り組みを計画し、実行に移すと回答しています。また、ヨーロッパでは、投資会社が各企業の環境への取り組みに基づいて格付けを実施しています。これは、企業の社会的責任(CSR)と関連させながら、今後生き残れる企業かどうかという投資判断の材料にもなっています。日本の投資銀行も参加し始めていますので、今後日本でも環境問題への取り組みがさらに重要視されるでしょう。(以上、加藤氏)」

 なお、3PARdata株式会社が実施したストレージ関連の調査結果は、同社のWebサイトから入手可能だ。従業員が500人以上の国内企業に勤務する1000人のIT従事者に対するアンケートだが、なかなか興味深い結果が得られている。興味のある方は、同社のWebサイトをチェックしていただきたい。



URL
  3PARdata株式会社
  http://www.3par.jp/
  3PARdata - 企業におけるストレージ装置の利用実態
  http://www.3par.jp/storage/

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  ・ 高いスケーラビリティとコスト効率を兼ね備えた3PARのストレージアーキテクチャ(2006/09/04)


( 伊勢 雅英 )
2007/05/23 00:00

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