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仮想化時代にマッチしたiSCSIベースのストレージ「DELL EqualLogic PSシリーズ」【前編】


デル株式会社 アドバンスドシステムグループ ストレージソリューション 本部長の秋山将人氏
 古くは、その接続形態がDAS(Direct Attached Storage)であれSAN(Storage Area Network)であれ、サーバーとストレージの間では基本的に一対一の関係が築かれていた。しかし、近年では複数のストレージを組み合わせて単一の仮想的なストレージに見せるストレージ仮想化や、アクセス性能、保管コストなどの異なる複数のストレージに対してデータを最適配置するILM(Information Lifecycle Management)など、ストレージの新しい活用方法が次々と実用化されつつある。こうした新しい利用スタイルでは、サーバーとストレージ間の接続を動的に構成できる枠組みが必要になる。

 そこで登場したのが、iSCSIベースの高性能ストレージ「DELL EqualLogic PSシリーズ」だ。今回は、デル株式会社 アドバンスドシステムグループ ストレージソリューション 本部長の秋山将人氏に、Fibre Channelベースのストレージが抱える問題点と、それを解決するDELL EqualLogic PSシリーズのアーキテクチャについてお話を伺った。


SCSIをネットワーク化するFibre Channelのストレージ用プロトコル

 近年、比較的規模の大きなストレージ環境では、ストレージとサーバー間の接続にFibre Channelが広く用いられている。Fibre Channelは、もともとスーパーコンピュータと高速記憶装置を接続する目的で使われていたHIPPI(HIgh Performance Parallel Interface)に代わるギガビット級の高速通信インターフェイスとして登場したものだ。Fibre Channelは、機器間を直結するポイントツーポイント方式に加え、複数の機器間をループ状に接続する調停ループ方式、さらにはIPネットワークのようにスイッチを介したネットワークを構成できるファブリック方式をサポートしている。

 Fibre Channelは、その役割ごとに分割されたレイヤ構造をとっており、それぞれの用途に最適化されたプロトコルは上位のFC-4レイヤで規定されている。近年、Fibre Channelはストレージ接続にほぼ特化した形で発展してきたが、ここで使われているプロトコルがFCP(Fibre Channel Protocol)だ。FCPは、80年代からストレージ接続を支えているSCSIプロトコルをFibre Channel上でやり取りするためのマッピングプロトコル(SCSI over Fibre Channel)である。SCSIプロトコルを理解する機器(イニシエータとターゲット)と、それをFibre Channel上でやり取りする仕組み(FCP)さえあれば、機器間の接続をネットワーク化しながら、従来通りのSCSIスタイルでデータアクセスが可能だ。

 このように、FCP(以下、なじみ深い呼称としてあえてFibre Channelと書く)はSCSIを拡張してできたものなので、その接続形態がデイジーチェーンからネットワーク形式に変わったとしても、機器間のやり取りはSCSIとほとんど変わらない。つまり、イニシエータとターゲットに相当する機器のID(ポートアドレス)をユニークに決めた上で相互に通信を行う。裏を返せば、Fibre Channelの優れている点は、非常に固定的な構成をとりながら、ファブリックの規模を柔軟に拡張していけることだ。Fibre Channelでは、機器類をFibre Channelスイッチに接続し、簡単な設定を行うだけでプラグオン的に使えるようになる。IPネットワークの世界では、通常独立したサーバーで提供されるDNS(Domain Name Service)機能が、接続された機器類のアドレス情報を管理している。これに対し、Fibre Channelは、スイッチに直結された機器の情報をスイッチ自身が内部で管理し、その管理情報をスイッチ間で共有する形をとっている。

 「Fibre ChannelベースのSANを設計するのは、とても難しい作業だといわれています。しかし、Fibre Channelのアドレス構造を考えれば、ユーザーが設定すべき項目はTCP/IPほど多くありません。つまり、固定的な構成をとれるFibre Channelなら、その設計も実はあまり難しくないということです。Fibre Channelの設計が世の中で難しいといわれる理由は、Fibre Channel自身があまり一般的なものではないからでしょう。TCP/IPに関する書籍はいくらでも書店に並んでいますが、Fibre Channelに関する書籍はほとんど見つかりません。多くのIT管理者やエンジニアにとってなじみの薄いものですので、“何となく難しい”というイメージがつきまとっているのです。(秋山氏)」


Fibre Channelの固定的な構成がボトルネックとなるストレージ仮想化

 固定的な構成でファブリック全体を組めるFibre Channelは、従来通りに多数のサーバーとストレージをただ接続するだけのために使っていれば特に問題はなかった。むしろユーザーの設定項目が少なく、秋山氏のようにFibre Channelを熟知している技術者からすれば、シンプルで取り扱いも容易なインターフェイスだったといえる。しかし、複数の物理的なストレージを組み合わせて仮想的なストレージプールを作り上げるストレージ仮想化や、データの価値、アクセス頻度などに応じて複数の物理的なストレージにデータを最適配置するILMといった新しいストレージの活用方法が登場してからは、逆にこの固定的な構成がボトルネックとなってしまった。

 Fibre Channelでは、サーバーとストレージ間でやり取りする際には、サーバーの物理ポートとストレージの物理ポートを明示的に一対一で対応させる必要がある。従来のようにサーバーとストレージが一対一で直接やり取りするスタイルであれば、アドレスが固定的に割り当てられるFibre Channelでも問題はない。しかし、ストレージ仮想化やILMを実現するには、サーバー上で動作するアプリケーションから物理的なストレージの姿をまったく意識させないような形でアクセスできる仕組みが求められる。そのためには、サーバーから見える仮想的なストレージに単一の仮想アドレスを割り当て、この仮想アドレスとストレージ側の物理アドレスを相互に変換する機構を追加しなければならない。


Fibre Channelでストレージ仮想化を実装する3つの場所

 現在、このような物理-仮想アドレスの変換方式、いわゆるストレージ仮想化を実現する場所は、大きく分けると3カ所ある。1つ目は、独立して設けられた専用サーバーやアプライアンス上でFibre Channelの固定的なアドレスと仮想アドレスを変換するものだ。この方式は、FalconStorのNetwork Storage Server(NSS)アプライアンスやDataCore SoftwareのSANmelody、IBMのSAN Volume Controller(SVC)などで採用されている。アプリケーションが動作するサーバー(ストレージと最終的にやり取りする本来のサーバー)から見れば、アドレス変換を行う中間の専用サーバーが仮想的なストレージのように振る舞い、この専用サーバーが物理ストレージに対する実際のデータアクセスを代行する。

 2つ目は、Fibre Channelスイッチの中でアドレス変換を行うものだ。この方式は、EMCのInvistaや富士通のETERNUS VS900 バーチャリゼーションスイッチなどで採用されている。専用サーバーやアプライアンスを立てる先ほどの方式と比べると、本質的にはアドレス変換を行う場所が専用のサーバー上なのか、スイッチ上なのかという違いでしかない。ただし、スイッチ上にすることで、実データのやり取りを広帯域のファブリック本体で行えるため、パフォーマンスは専用サーバー型よりも優れている。なお、実データと制御情報のやり取りに関して、アウトオブバンド型やインバンド型といった別の分類方法もあるのだが、今回本稿で掲げている分類はあくまでも仮想化を実装する“場所”に基づくものだ。アウトオブバンド型やインバンド型といった分類は、また別の機会に取り上げよう。

 3つ目は、ストレージ本体にアドレス変換機構を置き、そのストレージ配下に複数のストレージを接続するものだ。この方式は、日立のSANRISE Universal Storage Platformで採用されている。通常は、ハイエンドストレージをフロントエンドに置き、その下にミドルレンジやローエンドのストレージを直結する。アドレス変換やデータアクセスの制御はすべてハイエンドストレージが実行する。アプリケーションが動作するサーバーからは、ハイエンドストレージの姿だけが固定的に見えるため、すでに(日立の)ハイエンドストレージを導入している環境でストレージ仮想化をアドオンするには都合がよい。


 「いずれにせよ、生まれながらに固定的なアドレス構成をとるFibre Channelでは、ストレージ仮想化を実現するためにどこかでアドレスを変換してあげる必要があります。すでにFibre Channelベースで構築されたSAN環境をそのまま仮想化できるというメリットはもちろんありますが、デメリットの観点でいえば、やはりアーキテクチャが複雑になりやすいことが第一に挙げられます。SANの中に仮想化レイヤを設けなければなりませんので、階層的にはアプリケーションが動作するサーバーがあり、サーバーと仮想的なストレージが結ばれるSANがあり、その中にアドレス変換を行う仮想化レイヤがあり、その仮想化レイヤと物理的なストレージを接続するSANがさらにあって、最後に物理ストレージがあるといったつながり方になります」

 「このような形でアドレス変換機構を実装すると、管理すべきポイントは複雑多岐にわたりますし、仮想化レイヤ自身がデータアクセスのパフォーマンスを完全に決めてしまいます。また、どんなストレージが接続されていても、多くのストレージが持つ高度な機能、例えばスナップショットやクローン、レプリケーションといった機能を利用できなければなりませんので、こうした数々の機能を仮想化レイヤにも盛り込んであげる必要があります。しかし、これではますますパフォーマンスの確保が難しくなります。つまり、Fibre Channel上でストレージ仮想化を展開していこうとすると、Fibre Channelの仕様そのものがボトルネックとなってしまうのです。(以上、秋山氏)」


ストレージ仮想化時代に向けたiSCSIという選択肢

iSCSIの大きなメリットは、ダイナミックなアドレス体系にある(出典:デル株式会社)。サーバーから見える仮想ストレージの仮想IPアドレスと物理ストレージが持つ物理IPアドレス間のリダイレクト処理をTCP/IPの基本的な機能によって簡単に実装できるからだ
 このような理由から、EqualLogicはサーバーとストレージ間の接続にiSCSI(Internet Small Computer System Interface)をあえて採用した。iSCSIは、SCSIコマンドをIPパケットの中にカプセル化したものだ。TCP/IPは、Fibre Channelと比べてアドレッシングを動的に変更できる。このような特徴はTCP/IPのオプション機能ではなく、プロトコル自身に最初から実装されているものだ。もちろん、サーバーとストレージ間をFibre Channelのように固定的な構成とすることも可能だが、ストレージ仮想化やILMを前提とした環境では積極的に動的な構成をとればよい。

 Fibre Channelは、DNSのようなアドレス変換機能をスイッチに内在させることで設定を簡素化しているのに対し、TCP/IPはDNSを完全に独立させることでネットワーク構成の柔軟性を大きく高めている。もちろんストレージ専用のアドレス変換機構(DNSのようなもの)を別立てすれば、システム全体の構成は少々複雑になりかねない。そこで、EqualLogicは、このアドレス変換機構をストレージ内部に持たせ、物理的なサーバーとストレージだけという従来ながらの構成にとどめている。

 iSCSIでは、その通信がすべてTCP/IPのルールで実行される。TCP/IPのレイヤが通信上のコネクションレイヤとなるので、iSCSIでのやり取りはすべてTCP/IP上のやり取りにすぎない。IPネットワークにとっては、たまたまその上でやり取りされているのがSCSIプロトコルというだけの話なのだ。iSCSIは、SCSIを支える基本的なアーキテクチャであるSAM-2(SCSI Architecture Model 2)に基づき、イニシエータとターゲットの間でクライアントサーバーモデルを採用している。


 イニシエータとターゲットは、1本以上のTCPコネクションを確立して通信を行うが、両者の接続において相互に識別するためにIPアドレス(ネットワークエンティティID)が用いられる。ここで、ストレージ側に仮想IPアドレスを割り当て、サーバーからはこの仮想IPアドレスに対してアクセスさせる。ストレージ側では、内部のアドレス変換機構によって実際にアクセスする物理ストレージのIPアドレスを割り出し、データアクセスを実行する。実は、こうした仮想-物理アドレスの変換処理は、TCP/IPの世界ではごく当たり前のように行われているものだ。つまり、ストレージ仮想化に必要なアドレス変換機構を生まれながらに持っているのがTCP/IPであり、その上で動作するストレージ向けプロトコルがiSCSIというわけだ。

 「iSCSIは、TCP/IPを通じてコネクションレイヤを構成しているので、特殊なものが何ひとつ必要ありません。例えば、サーバー側の接続ポートには、iSCSI専用のホストバスアダプタ(HBA)を必須とはしていません。TCP/IPの通信が可能な通常のNICで十分です。また、仮想ポートから物理ポートに対して動的にリダイレクトする処理は、TCP/IPの世界で一般的に行われていることです。このため、サーバー側にマルチパスソフトウェアのような特殊なソフトウェアをインストールする必要もありませんし、ネットワーク部分にも特殊なLANスイッチは不要です。当社が目指したのは、TCP/IP の機能を最大限に生かしながら、iSCSIという標準ベースの中で、サーバーから見ればストレージポートが仮想化されているような環境を実現することだったのです。(秋山氏)」

 後編では、このような考えのもとに設計されたDELL EqualLogic PSシリーズのアーキテクチャについて解説していく。



URL
  イコールロジック
  http://www.equallogic.jp/

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( 伊勢 雅英 )
2008/09/25 00:00

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