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ガートナー、「ITを企業の成長に使う時期がきた」

Gartner Symposium/ITxpo 2003

 11月19~21日にガートナージャパン株式会社主催により開催されている「Gartner Symposium/ITxpo 2003」で、ガートナーによる「日本における情報通信技術(ICT)市場の動向:拓かれる新たな局面」と題した基調講演が行われた。基調講演には、ガートナーリサーチ アジア・パシフィック&ジャパン グループバイスプレジデント兼リサーチフェローのジェイミー・ポプキン氏、ガートナージャパン リサーチバイスプレジデントの栗原潔氏、ガートナーリサーチ部門シニアバイスプレジデントのボブ・ヘイワード氏が登場した。


IT部門はビジネス指向に変革を

ガートナージャパン リサーチバイスプレジデントの栗原潔氏
 栗原氏は、Harvard Business Reviewの2003年5月号に掲載された記事「IT Doesn't Matter?(ITは重要ではない?)」に触れ、企業にとってのITの重要性について講演した。

 まず、今回掲載された「IT Doesn't Matter?」とはどんな内容なのか。栗原氏が要約したところによると、「ITとは電気のような存在になりつつある」「ITは不可欠ではあるが、企業の差別化要素ではない」「ITへの支出額と企業の業績には相関はない」という内容となっている。これに対して、「この記事がでたときは、ガートナー社内でもいろいろな議論が起きた」と同社内で大きな話題になったことを紹介した。しかし、栗原氏はこの記事に対し、「本当にそうなのか?」と疑問を投げかけた。

 電気のような存在になった点については、「ITのインフラの側面を見ると確かにそういえる。しかし、それはITのほんの一部だ」と反論。企業の差別化要素ではないという点については、「インフラ部分ではそういえるが、どう使うかによって企業の差別化ができるのがIT」とこれについても反論した。ITへの支出額と企業の業績に相関がないとの点については、「この数字の根拠が不明で、反論しようがない」と述べた。

 では、どのようにすれば企業の差別化にITは使えるのだろうか。栗原氏は、5年前に使ったスライドを提示し、「このスライドはITの間違った使い方を示したもので、年だけを変更した。見てのとおり今でも十分に使える。というよりも、今こそこの内容が重要になっているのではないか」と述べ、企業でのIT利用が目的ではなく手段となりがちな点を危険と指摘した。政府がITを教育現場に導入している例を挙げ、「テレビ番組で政府内でもITに詳しい大臣が出演し、教育現場にIT導入を進めていることを話していた。しかし、学校でどうITが活用できるのかという質問に対し、答えられなかった。まさに、手段が目的と化した典型的な例」と話した。

 栗原氏は、「ビジネスプロセス指向のIT戦略と、IT指向のビジネス戦略を組み合わせた“ビジネスプロセスフュージョン”が企業の差別化に必要になる」と述べた。ビジネスプロセスフュージョンは、これまで独立していた多様なビジネスプロセスを統合し、統合管理することで可能になるビジネスの変革と説明した。「企業でよく聞かれるのが、うちはすでにアプリケーション統合など済ませているという声。しかし、アプリケーション統合はあくまでも手段であり、目的ではない。ビジネスプロセスという目的にフォーカスし、これを実現する手段としてアプリケーション統合が必要になる。IT部門はビジネス指向になること。これにより、企業は真の意味でのリアルタイムエンタープライズに変革できる」と述べた。


効率化・経費削減のITから、ビジネスプロセス改善のITへ

ガートナーリサーチ部門シニアバイスプレジデントのボブ・ヘイワード氏
 引き続きヘイワード氏から、情報通信技術市場の調査結果を元に、日本の現状について講演が行われた。

 ヘイワード氏はまず、金額ベースで企業のIT投資が減少傾向から横ばいになっているとし、「2004年、2005年は伸びるのではないか」と企業が投資段階に入りつつある点を指摘した。しかし、この投資傾向で気になる点として、「日本は製造業などの分野では非常にIT化が進んでいる。しかし、同じ製造業なのに管理部門では遅れているとの調査結果がでた」と、ホワイトカラーの分野で改善の余地があるとした。

 日本固有の傾向として、「特定のベンダーにシステム開発を委託している企業が多い。系列がIT分野でも日本企業の自由を損なっている」と指摘した。そのほか、「ビジネスプロセスの改善よりも、効率化・経費削減という目的にITを利用している企業が多い。また、CIOの数も他の国に比べて少ないのも特徴的」とビジネスプロセスの視点が弱いと指摘。これらの結果から、「日本の企業では、ビジネスからITを見るのではなく、ITをエンジニアリングとみる傾向が強い。ITがわかる経営層が必要だ」と企業のITに対する認識の変化を求めた。


ガートナーが示す8つの検討事項

ガートナーリサーチ アジア・パシフィック&ジャパン グループバイスプレジデント兼リサーチフェローのジェイミー・ポプキン氏
 栗原氏・ヘイワード氏の講演のまとめとして、ポプキン氏から企業のITに対する検討事項として8つが挙げられた。

 1つ目は、独立したCIOを用意すること。「専任のCIOを用意している企業がわずか3.4%しかいないため、ITを戦略的に利用できていない。ITに対する上級管理職を用意してほしい」とした。

 2つ目は、適切なITガバナンスを確立すること。

 3つ目は、ベンダーによる囲い込みをなくすこと。特定企業にシステム開発を委託するのではなく、目的に応じて使い分ける必要があるとした。

 4つ目は、TCO(Total Cost of Ownership)、TVO(Total Value of Ownership)などのトレンドを確実に捉えること。

 5つ目は、ITのパフォーマンスをちゃんと計測すること。「半分以上の企業は、どうやって効果測定をすればいいかさえわかっていない。これでは、投資対効果もわからず、ITが活きているのかどうか判断できない。すべてが定量的に測れるものではことを理解しながら、しっかりとパフォーマンスを測定してほしい」とした。

 6つ目は、事務部門でもITを利用すること。「はっきりいって、日本のホワイトカラーの活動は時代遅れ。紙が使われすぎている。業界ごとの過剰規制をなくさないといけない」とした。

 7つ目は、アウトソーシングを戦略的に行うこと。「なにをアウトソーシングするのか、自社になにを残すのかの選択が重要」とした。

 8つ目は、効率化・コスト削減にだけITを使わず、製品・サービスの革新にも利用すること。

 「日本は戦略的にITを利用する点で遅れている。またITへの投資が少ない。これはITを効率化という点でしか見ていないからだ。今こそITを企業の成長に使う時期にきている。しっかりとITを活用してほしい」として締めくくった。



URL
  ガートナージャパン株式会社
  http://www.gartner.co.jp/
  Gartner Symposium/ITxpo 2003
  http://www.gartner.co.jp/symposium/


( 福浦 一広 )
2003/11/20 13:00

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