11月26日に「業務と文書のIT革命」をテーマにした製造業向けセミナー「製造業で進む業務&文書のIT革命とコンプライアンス対策~ITによる法律遵守と先進企業の事例~」が、イキソスソフトウェア株式会社の主催で開催され、「訴訟対策の観点からみたデジタル文書(電子メール)の法律問題~企業における訴訟事例を交えて~」と題し、フランテック弁護士事務所に所属する弁護士で、慶応義塾大学法学部講師でもある金井 高志氏による講演が行われた。
■ 法律上はデジタル文書でも紙の文書と同じ扱いに
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弁護士 慶応義塾大学法学部講師 金井 高志氏
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同氏はまず、以前なら紙で保存されていた文書のデジタル化が進んでいることを背景に、すでに「法律の整備はすでにできている」現状について述べた。「旅行業界では、約款を紙で渡さねばならないと法律で定められていたが、この例を含む100以上の法律が、IT書面一括法によりデータでの対応ができるように改められた」。このほか商法の改正や、国税関係書類に関する電子帳簿法により、すでに法制面での電子化対応が進んでいる。同様に「データの偽造、改ざんに関する法律も規定されており、不正アクセス禁止法は、データの損壊を含む準備段階を処罰するとの観点からも制定されている」とのことだ。
デジタル文書の裁判における証拠能力については、「民事上は証拠の制限がない。刑事裁判と違い、たとえ違法に入手されていたとしても証拠になる」と語った。また「証人に関しては、裁判官は利害関係によりうそを言う確率が高いと思っている」とのことで「裁判で文書はきわめて重要になる」と語った。
また「文書の証拠価値は裁判官が判断できる」ので、権限がないとデータへのアクセスができないなど、状況証拠として改ざん可能性を否定しないと、その証拠価値が下がってしまう。また民事訴訟法の条文では「署名・捺印があれば正しい文書だとされ、デジタルデータの場合にはデジタル署名があれば、同じ扱いになる」とのことで、「紙ベースとデータの文書は法律の上で扱いに違いがなくなっている」と語った。
もし訴訟になった場合、「自社に有利な証拠として、文書として出せるか出せないかがまず重要になる」とし、また「文書提出命令というものがある。原告と被告の間で、自分は持っておらず、相手が持っていると思われる証拠を裁判所命令で出させるもので、相手は原則的に出さなければならない。出せないと、相手方が証拠により真実にしようとしている主張内容が裁判上で認定されてしまう」とし、「2つの側面から、訴訟において文書管理は重要になる」と述べた。
■ 電子メール管理の重要性
文書のなかでも電子メールについては、「法律上は、ほかのデータと同じく文書にあたり、反トラスト裁判、性差別、セクハラ、中傷などの犯罪で決定的な証拠となった事例もある」と述べた。そしてその扱いについて、「紙ベースの書類の場合は、承認を経るなどほかの人間を通したやり取りが行われるが、電子メールの場合は発信者のみの判断で出されている場合が多く、発信するときに“外部に対して出す文書”としての認識が欠如している」と述べたほか、「訴訟の際に自分が中身を知らない証拠を相手が握っている怖さがあり、発信者と受信者に2通残っているのが怖いところ」とも語り、その危険性を説いた。
だがメールの社内管理においては、企業側の管理が必要となるが、「従業員のプライバシーとの調整が問題になり、裁判も行われている」とのこと。「現在までの国内での訴訟では会社が勝っている例がほとんどだが、こうしたことにならないよう、電子メールの使用規則を定める必要がある」と語った。
■ リスクマネジメントにつながる文書管理
これらのことから同氏は、「物理的に残す紙ベースでの整理・保管といった“ファイリング”の考え方ではなく、データにおいては入手、作成から活用、保管、保存、管理までの一連の文書の流れを管理する“レコードマネジメント”の視点が必要になっている」と述べ、文書管理における企業の責任と、情報管理部門の必要性を語った。
文書管理におけるシステム導入、管理、研修などのコストは、「裁判に負けるリスクを考えれば低い」とし、「特にアメリカではそうだが、これから日本でも訴訟が増えていく」と見通しを語った。トラブルが起きたときには、「会社としての責任、役員の責任、社員個人の責任の3つが発生する」。同氏は、株主が取締役への責任追及を行う株主代表訴訟を例にとり、話を進めた。
株主代表訴訟では「取締役に対して、他の役員が投資判断や経営判断といった任務を果たしているかを監視する責任を問う」ものであるため、「会社としては、判断ミスや違法な経営判断をしていない立証のために、役員会の議事録などの資料を出せないと負ける」とのこと。こうした文書もいかに管理しておくかが重要になる。「株式を公開している会社であれば、嫌がらせのような訴訟も起き、常に数件は抱えているもの」と同氏は述べた。
■ 製造業における文書管理
製造業向けのセミナーとして、続いてPL(製造物責任)法について触れた。アメリカで起こっている「特定製品を使っているグループの一部の人が、製品利用者全体を代表して裁判を起こすクラスアクションは、日本でもまだ使われていないが、今後は起こり得る」との見解を示し、この場合には「対象人数が多くなり賠償金額は桁が違う」と述べ、「PL法では被害者が賠償責任者を知ったときから3年、製造物の引き渡しから10年、民法条文では不法行為より20年の間、責任を問うことができるため、長期の情報をもつ必要がある」と語った。
続いて職務発明について、オリンパス事件を例に特許を発明した対価をいくら請求できるのかが述べられた。この裁判では、請求9億に対して228万の判決が下っているが、「発明は確かに行われたが、特許化にあたっては会社の貢献が極めて高く、特許からの利益全体から、特許化での貢献度をかんがみてこうした判決となっている」と述べ、「この裁判では20年前の発明に関して争われており、出願の経緯まで書類が全部出てきている」と、文書管理の必要さを語った。
■ URL
製造業で進む業務&文書のIT革命とコンプライアンス対策
http://www.ixos.co.jp/seminar/semi031126.html
フランテック弁護士事務所
http://www.frantech.jp/
イキソスソフトウェア株式会社
http://www.ixos.co.jp/
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2003/11/27 00:00
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