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坂村氏「TRONは認識基盤としての段階に移りつつある」

TRONSHOW2004 オープニングセッション

 12月11~13日に東京国際フォーラムで「TRONSHOW 2004」が開催されており、11日にはオープニングセッションとして「ユビキタス、TRONに出会う」をテーマに、トロンプロジェクトリーダーで東京大学教授の坂村 健氏による基調講演が行われた。


ユビキタスコミュニケーターを手にしたトロンプロジェクトリーダー 東京大学教授 坂村 健氏
 TRONは現在、すでにチップやOSといった基本を構成するパーツの開発は終わり、「現在までに電話の高性能化、自動車のエンジンコントロールなどで広く使われているが、これからはものの認識基盤として、いままで入れていなかったものへ組み込んでいくステップ3の段階に入っていく」と同氏は語った。そしてすでに発表されているユビキタスコミュニケーターを手にした同氏は、「小型化は、ソフト開発と同時に進めないと開発効率はあがらない」とし、これを開発基盤にソフト開発を進めると同時に、12月に発表された携帯電話サイズのUC-Phone以上の小型化にも着手をしていることを示した。

 T-Engineフォーラムでは、オープンな組み込みシステム開発プラットフォーム確立を目指している。同氏は、「ソフトウェアは、本などの知的所有物と同じく人類共通の財産」とし、「TRONはカーナビやデジカメ、携帯電話などで使われているが、それぞれが若干違う。今はソフトウェアの再利用ができないので状況を打破したい」と述べ、組込用のMPUを網羅して「違ったチップでも同様に動くOSを作り、配る」ほか、MicrosoftやMontaVista、さらにNTTドコモやSun Microsystemsとも共同して、T-Kernel上で動作する各種実行環境の基盤となるミドルウェアや開発キットも、「ロイヤリティなしで」提供される。また来年にはT-Kernelのソースコードも開示するが、T-Kernelでのミドルウェアの動作保証するため、「シングルワンソースでの提供」となり、改変も許されない。

 このほかコンテンツやミドルウェアの流通システムT-distでは、「課金の手伝いをするメカニズムで、暗号をかけて課金を行う」とのこと。


ユビキタスコミュニケーターを手に食品のトレーサビリティシステムのデモを行う坂村氏
 またユビキタスIDセンターでの取り組みについて、「もっとも安く作れるバーコードをucodeセンターの情報にひも付けすれば、セキュリティレベルの低いものなら十分実用になる」と述べ、情報インフラの整備や日立製作所のミューチップのTRON対応などに伴い「食品のトレーサビリティを行うのに重要なパーツがそろってきた」とし「農家や個人・商店など生産者のメッセージが届くシステムができる」と語った。

 同氏は「TRONは元々は組み込みで、PCを作る技術ではない」と述べ、「マイクロソフトやLinuxと戦ってきたと書かれるのは心外」と語り、こうした試みの目的を「ひとりの人間として、役に立つ技術を世界に提供し、貢献できればと思っている」とした。そして「エンドユーザーの役に立つのが目的で、やりたい人をどうやったらサポートできるかを来年の目標にしている」と述べ、「1社提供ではなく、認定基準をつくって誰でも参入できる仕組みを作る」と語った。


MontaVista Software, Inc. President,CEO Jim Ready氏
 続いて「Linux、TRONに出会う」のテーマでMontaVista Software, Inc. President,CEOのJim Ready氏による講演が行われた。同氏は現在の組み込み製品のシェアについて「2002年の日本市場ではTRONとLinuxで50%近くを占めている」ことに触れ、「PCと違ってユビキタスコンピューティングではオープンインターフェイスで多様性があることが基本的な要件である」と語った。TRONについては「リアルタイム処理をサポートする点がユニーク」と述べる一方、Linuxのアドバンテージとして「デバイス開発やネットワークに強く、アプリケーションやミドルウェアが多い」点を挙げた。両者では今年3月に提携を発表、すでにT-Kernel上にLinuxを移植して双方のメリットを生かす環境を実現しており、「互いに補完しあう関係」だと述べた。


 次に米Microsoft Corporation, Vice Presidentの古川 享氏が壇上へ。そして画面下1/4でTRON、上3/4でWindows CEが動くPDAが発表された。これは9月の提携を受けて作られたプロトタイプだが、「OSをアプリケーションとして動かしているのではなくバランスよく並立しており、共有メモリを使ってOS間でやりとりもできる」もの。「CE側では既存アプリがそのまま動く」とのことだ。T-KarnelをコントロールできるVisual Studio .NETの開発環境で作られたアプリケーションのデモも行われた。それぞれの処理優先度も密接に融合しており、T-Karnelのリアルタイム性は損なわれていない。

 昨日にはITRONとCEが連携する車載機器が発表されており、「今後はこの環境をどこで活かすのか、業界のアイデアに期待したい」と述べた。


CEとTRONが並行動作するPDAを手にした米Microsoft Corporation, Vice President 古川 享氏 CE側で負荷をかけるとT-Kernel側の赤いボールだけに極端な処理落ちが発生していた「3balls」のデモ


URL
  TRONSHOW2004
  http://www.tron.org/show.html
  T-Engineフォーラム
  http://www.t-engine.org/japanese.html
  MontaVista Software, Inc.
  http://www.mvista.com/
  Microsoft Corporation
  http://www.microsoft.com/


( 岩崎 宰守 )
2003/12/12 00:00

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