12月17・18日、東京ビッグサイトにて「OracleWorld Tokyo」が開催されている。17日には「Enabling the Grid-The Power of 10-」のテーマで、米Oracle Corporationで戦略とマーケティングを担当するエグゼクティブバイスプレジデント(EVP)のチャールズ・フィリップス氏が基調講演を行った。
■ 企業のITインフラにおける3つの課題
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米Oracle Corporation エグゼクティブバイスプレジデント チャールズ・フィリップス氏
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同氏はまず、企業のITインフラにおける3つの課題を挙げた。そのひとつめは断片化されたデータ。「データが断片化され、情報が見つけ出せなければアプリケーションは生かせない。情報の完全性が保たれていないと、企業経営における意思決定の質が下がる」とした。そして「これを利用できるよう元に戻すにもコストがかかる」とした。ふたつめは複雑化。「企業の情報システムは、部門別にハードウェアが導入され、アプリケーションは極端な場合では個別に導入されるなど、複雑化が進んでいる。そこには多くのレイヤーが存在し、管理維持が難しい状態になっている」と述べた。3つめはコスト圧力。「世界で景気は少しずつ改善を示しているが、コストへのプレッシャーはなくならない」と述べた同氏は、「既存のアプリケーションを維持しながら、いかに効率的に利用するかが重要になる」とした。
そして「データが複数のストレージに点在したままでは、情報の完全性、正確性がなくなる」と述べ、オラクルでは「データは一カ所に集め、重複を避けるストレージグリットを活用」し、これを基礎に「アプリケーションをその上に統合する」のが基本的な戦略と語った。同氏は統合中心型と情報中心型のアプローチを示しながら、前者について「長期的にはポイントトゥポイントで終わってしまう」とし、DBの上で複数のアプリケーションが連携する形での統合を行うこと、そしてこれを「スイートの形で提供することでコストを下げる」と述べた。
そして3つの課題を解決するのがOracle 10gとなる。同氏はOracle 10gのグリッド技術について「業界が変わるテクノロジ」と断言、「コンピューティングを簡単に、システムの統合を実現する」ものと語った。そして「複数のコンピュータをグループ化し解決する考え方は前からあった」と述べた同氏は、「オラクルのユニークさは、商業ベースを意識して既存のアプリケーションを展開できること」とし、オラクルの提唱するエンタープライズグリットの定義として、「多くのコンピュータを統合し、あたかも1台のコンピュータのように利用できる」とした。
■ コンピューティングコストを下げるOracle 10g
同氏は企業内のITインフラの現状を「孤島のように分断されている」と例えた上で、「それぞれのサーバーがひとつのアプリケーションをキャパシティの数%で動かしている」とした。こうした状況は例えば、「給与支給日前後は忙しくサーバーが動いているが、残りの日は5%の稼働率」だったりするものを指す。同氏は「航空機では座席の15%だったら利益は上がらない」とし、「ピークを意識してキャパシティをそろえれば、各サーバーの負荷は数%になる」と述べた。
Oracle 10gのグリット機能では、「各サーバーを連携したひとつのグリッドにまとめ、一台のコンピュータのようにコントロールできる」。例えば「受注処理サーバーで、負荷が集中するクリスマス時期に、年度末まで余っている会計処理サーバーのリソースを利用できる」。また「さらなる性能が必要ならば小さなサーバーを追加すればよい。そして1台のサーバーがダウンしても残りは稼働しており、ユーザーはその違いを感じられないだろう」と高い可用性についても触れた。
■ グリットを実現したテクノロジの進歩
同氏はオラクルがこの時期にエンタープライズグリッドの技術を発表したことについて、「以前は対応したアプリケーションを利用しなければグリットは利用できなかった。競合他社と違う、アプリケーションに変更を加えなくても既存のアプリケーションがそのまま動作するアプローチを完成させるための時間が必要だった」と述べた。また「安価なブレードサーバーが突破口になった。低コストのブレードで、いま業界が変化している。この経済性から使わない手はないと考えた」と語り、「3~4000ドルのIAブレードサーバー、OSにはLinuxを使い、Oracle 10gでグリッドの複合体にまとめた低コストのコンピューティング環境で、3~4万ドルのプロセッサを積んだSMPマシンに匹敵する性能になる」と述べ、「インテルプロセッサは独自仕様のCPUより、進化のスピードも速くスループットもよい」とした。
そしてストレージについても、「高速のコネクト技術によるネットワークストレージ、大型のSANなどの技術開発が進んだ」ことを挙げ、こうした構成要素が出そろったことで、「Oracle 10gのエンタープライズグリットの提供が可能になった」という。これにLinuxを組み合わせて「安価で高速、高い可用性も兼ね備えた信頼性の高いコンピューティング環境をグリッドで提供していく」と述べた。
■ Oracle 10gでフォーカスされた運用管理の自動化
Oracle 10gは運用管理面にもフォーカスしている。まず同氏は導入に当たって「CDが3枚から1枚になり、インストールに要する時間も従来の4~5時間から17分に短縮された」点に触れた。そして「根底となるRAC(Real Application Claster)のテクノロジにより、サーバー間でアプリケーションをコントロールし、余剰キャパシティを見つけ出す」ほか、チューニングやメンテナンスなど、コストや人的リソースのかかる部分でも「時間をかけて自動化の機能を盛り込んだ」。その機能は単純化されており、システム構成や利用状況に応じた負荷分散が自動的に行われ、「重要なアプリケーションではその振る舞いをユーザーサイドでコントロールできるなど、さまざまな自動化のツールを用意している」とのことだ。そして「スタンダードベースの技術により、使いやすくシンプルなソリューション」なため、「小規模企業でも問題なく運用可能だろう」とした。
最後に同氏は「グリッド技術はこの4~5年での同社の戦略の延長上にあるもの」とし「コンピューティングの低コスト化と、高い処理能力、決してシステムダウンのない高い可用性の3つのメリットにより、ユーティリティコンピューティングに近づく第一歩になる」と述べた。
■ ラリー・エリソンCEOのビデオ講演
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Oracle Corporation 会長兼CEO ラリー・エリソン氏
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またOracle Corporation会長兼CEOのラリー・エリソン氏によるビデオ講演の映像も流された。その中で同氏は「特別仕様のアプリケーションを動かすサイエンスグリッド」とOracle 10gのエンタープライズグリットの違いを語った。
そして「アプリケーションの成長はコンピュータより速い」とし、10gの機能によりこれを解消できる環境が提供できるとした。また「どれだけ巨大サーバーでも障害が起こらない保証はない」と述べ高い可用性を強調、さらに「10gのもっとも興味深い機能のひとつ」として「システムの増加に応じたリソース負荷とデータの再分散を行う」機能について、また管理面で「例えば200台のブレードサーバーのシステムでも、1台にOS/ソフトウェアのパッチを当て、残り199台に複製するだけの」マネジメントツールの機能についても触れられた。
■ URL
OracleWorld Tokyo
http://www.oracle.co.jp/oracleworld/
Oracle Corporation
http://www.oracle.com/
( 岩崎 宰守 )
2003/12/18 00:00
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