株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は12月24日、「日米のITアウトソーシング事情」をテーマにメディアフォーラムを開催、NRI営業開発部上席コンサルタントの袖山 欣大氏が報告を行った。同氏は情報通信関係の戦略コンサルタントとして、営業開発部では企業の成長戦略策定に関わるアウトソース案件を担当している。
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株式会社野村総合研究所 企画・広報担当役員 楠 真氏
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報告に先立ち、NRI企画・広報担当役員の楠 真氏が、NRIについて野村証券の経営企画部門とIT部門担当の子会社が合併した企業との紹介を行った。同社は野村証券のほかに、セブンイレブン・ジャパン株式会社の情報コンサルティングを引き受け、経営企画・意志決定をサポートしている。
ITアウトソースについて同氏は、15年前にKodakが自社IT部門をIBMに売却した事例を紹介、アメリカではこれを端緒に、大きなアセットを抱えるIT部門の売却ブームが起き、「バランスシート改善に非常に大きな寄与した」とのこと。しかし当時のIT部門は「バリバリのエリートが行く部署でない」もので、その実態は「リストラ大興行」ともいうべきものだったようだ。
NRIでは、「米で何が起きているかは、自分の本業に関わる非常に大きな関心事」として事態を注視しており、国内での同様の動きに対しても「日本企業の慣行とシステムのあり方のなかで、リストラが可能か」との視点を持っていたとのことだ。ただITアウトソースへのNRIの視点として、同氏は「いわゆるIT支援と、企業買収は同じものではない」ととらえていると語った。
■ 米国のITアウトソース市場の動向
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野村総合研究所 営業開発部 上席コンサルタント 袖山 欣大氏
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ITアウトソーシングにおける5つの事業領域と
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続いて報告を行った袖山氏は、まずITアウトソーシングについて、既存のITアウトソースとして国内でも広く行われているホスティング、その保守運用といった「単純アウトソース」のほか、IT部門買収を行ったKodakの事例のような「開発要員そのものを買収するアウトソース」、そして業務そのものをアウトソースするBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)、新規事業や新たなビジネスを共同して行うBTO(ビジネストランスフォーメーションアウトソーシング)の5段階に分類した。BPO、BTOでは「結果として情報システムも提供する」ことになる。
同氏は米国のITアウトソース市場について、IDGの資料を示し、金額ベースで685億ドル、シェアではIBMが22%でトップと述べ、「今後5年間で年率7.7%と、極めて高い成長が見込まれる」とした。その一方で料金は20~30%低下しており、またITアウトソースでシェア2位のEDSでは、顧客にEnronやWorldComを抱えていたために昨年に8割の減益となったことに触れ、現在は「BPO、BTOなど、ビジネス変革も含めた付加価値の高い戦略を担当し、上流へ広範囲な囲い込みを行う方向へシフトしている」と語った。
ITアウトソースを実施した顧客側へのGartnerの調査では、20%以上のコスト削減効果があったとするのは21.1%、コストに変化なしが18.4%、コスト増が9.4%となっており、「従来のビジネスプロセスの混乱によるオーバーヘッド、IT部門買収によるモチベーションの低下と辞職の増加」といったマイナス要因も生まれており、「その半分は不満を抱えている」とのこと。「4割の企業では、ITアウトソース評価コンサルタントを独自に雇う動きがある」という。
こうした動きを受け、米国ではITアウトソースの導入における方法論への議論が進んでいる。料金モデルでは、「ビジネス成果やパフォーマンスベースでの導入効果による」モデルも登場している。現在のところ市場では、「単純アウトソースが65%に対し、4%程度」とのことだが、NRIではこうした動きが加速するとしている。
アウトソース先としては、コスト面でメリットのある海外への需要がインドを中心に増加しており、「今後5年で3560億ドルが海外へ流出し、コスト削減効果で1380億ドルの試算」があるほか、「金融機関雇用の8%が海外へ外注される」見通しという。そしてこうしたアウトソースの利用に関しては、リスク管理において企業側で「独自の利用基準」のシステムが確立されつつあり、一方ベンダでも「ガイドラインやベストプラクティスの提供が行われているとのことだ。
■ ITアウトソースの新たな形となる2つの事例
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Merrill LynchのITアウトソーシングモデル構造図
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Thompson Financialの担当する事業領域
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新たなビジネスモデルとしてBTOを提唱し始めた企業であるAccentureは、AT&T Consumerとアウトソースによる業務変革で大型の契約を結んだ。その内容は「5年で50億ドルのコストを26億ドルに」するもの。経営に参画することでベンダ側でも大きなリスクも伴うものだが、「継続型の大型上流コンサルティングとも言えるもので、本当に実行できるのか注目している」という。
またNRIでは、Merrill Lynchが行った財産管理用プラットフォーム構築におけるITアウトソースにも注目しているという。株取引アドバイザの生産性向上を狙ったもので、契約先が「金融ノウハウを持ち、情報を集め、教育も行える企業であるThompson Financialで、そのサブにIBMやMicrosoftなどのITベンダがつく形」はこれまで見られなかったもの。また「証券会社のコアコンピタンスは営業フロントであるというのが従来の考え方」であり、これをアウトソースできれば「ほかの企業でも営業系システム戦略の考え方が変わる」と述べた。またアウトソース先でも「業界ナレッジを重視する新しい流れ」になりうるとのことだ。
■ 国内におけるITアウトソースのビジネスモデル
国内のITアウトソース市場は、米国ほどでないにせよ「市場全体から見れば伸びている」分野。ただ単純型でない戦略型のアウトソースの事例は2000、2001年を境に減少している。またこの頃までは日本IBMの独壇場で、1999年の大和銀行のIT部門に始まり二十数社を買収している。それ以降ではNTTデータの進出が目立っている。
日本IBMは対象となる業種・分野において「明確な戦略に基づいてアウトソース事業を進めている」とのこと。これが国内IT大手との違いといえる。そして「情報子会社を買い取ることで顧客も買っている」ビジネスモデル。発注は日本IBMが受け、この子会社に対しては効率化圧力をかけることで収益を伸ばすものだ。
一方NTTデータでは、「アウトソースというより事業買収」とも言えるビジネスモデルをとっており、「IT子会社としては優秀だが、現状ではもたないところに資本参画」して技術力を買うもの。受注は子会社が受け、NTTデータの営業力によって外販を増加させる形となっている。ただ「始まったばかりで成功するかどうかは今後の話」とした。
NRIでは、「業務に改革をもたらすような情報システムを導入することで、企業の価値向上を図る」形でのアウトソースを行っている。そして同氏は今後のITアウトソース市場の動向として、「囲い込みによる、うまみのある案件はなくなっている。また今後はリストラ中心の効率改善型から、新規事業創出型へと移行するだろう」と語った。
■ URL
株式会社野村総合研究所
http://www.nri.co.jp/
( 岩崎 宰守 )
2003/12/25 00:01
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