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電通大竹内教授「ソフトウェア開発の強化には人材育成が重要」

~IPAX Winter 2004 パネルディスカッション

コーディネーターを務めた電気通信大学電気通信学部情報工学科 教授 竹内 郁雄氏
 独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)は1月21日、最近の開発成果から独創性や技術的新規性に富み、近い将来の普及が待たれるソフトウェアを集め、展示紹介するイベント「IPAX Winter 2004 -創造、安心、競争力-」を開催した。同イベントにおいて、コーディネーターに電気通信大学電気通信学部情報工学科 教授の竹内 郁雄氏を、株式会社コーエー 代表取締役会長の襟川 恵子 氏、新日鉄ソリューションズ株式会社 代表取締役会長の棚橋 康郎氏、NTTソフトウェア株式会社 取締役相談役の鶴保 征城氏、株式会社ラック 代表取締役社長の三輪 信雄氏をパネラーに迎えたディスカッション「ソフトウェアの国際競争力の強化に向けて」が行われた。


ゲームソフト業界を取り巻く現状と問題点

株式会社コーエー 代表取締役会長 襟川 恵子 氏
 コーエーの襟川氏は、「産業資本主義から知的立国への舵取りのなかで、ゲームソフトは国益に合致したビジネス」とした。その一方、ゲーム業界全体では4年連続で収益が悪化している。またゲームハードの性能向上により、「人文と理工が融合した総合芸術のようなものを、プログラマー集団が作らざるを得なくなった」と述べ、ゲームの制作規模が巨大化せざるを得ない現状も示唆した。それでもそんな技術畑の集団が「ハリウッドと勝負して、ビジネスで高収益を上げられる」のが現在の国内ゲーム産業だ。ただ市場規模の縮小に伴い、「人材の教育・育成まで手が回らない」点を問題点に上げた。

 またゲームソフト業界の問題点として、「最大にして一番の悩み」と襟川氏がいうのが中古市場。販売店の間では利益率の高さから中古販売が広まっている。この利益はメーカーには還元されないため、「せめて一定期間だけでも扱わないよう」、また「中古販売でもメーカー収益が発生するよう」に、欧米では映画や芸術産業を国レベルで後押ししている例を出しながら、国内での法制化を訴えていた。


問題解決能力とシステム構築能力で勝負するのがSIの本来の姿

新日鉄ソリューションズ株式会社 代表取締役会長 棚橋 康郎氏
 新日鉄ソリューションズは、「分野の選択と集中、製鉄での経験、下請けは絶対にしないビジネスマナー」(棚橋氏)により一部上場を果たしたほか、親会社からの受注を16%にまで減らし、独立性の高いSIとしてソリューション提供を行っている。

 棚橋氏は同社の手がけている業務系のソフトウェアについて、「いまや社会インフラとして、国際競争力を規定する重みがあるもの」にまでなっているとし、「システムを構築する情報サービス産業は21世紀の基幹産業」とその考えを述べた。しかしそこで利用されているプロダクトは、ハードウェアからOS、ミドルウェア、ソフトウェアに至るまで「メジャーなものの大部分を海外製品が占めている」現状を問題視した。輸入1兆円に対し、輸出が7~800億円であることからもこれが裏付けられる。

 一方、SIはどうか。「オープン技術の時代になって、その業務は人手を機械化することから、情報通信サービスへ、また主役がハードウェアベンダーからソフトウェアベンダーへ変化した」とした同氏は、その延長として「これを駆使するインテグレータが主役になるよう変化すべきだが、それに足る力は持っていない」と述べた。これには「何のためにシステムを作るのかとの問題意識が薄いユーザー側の問題と、日本語、寛容なユーザー、下請けの単価をたたく国内の保護されたマーケットで、大きなユーザーにくっついて受注をとる構造が続いてきたSI側の問題がある」と語った。そしてユーザーには「囲い込まれない判断能力を持ってほしい。発注者がシビアでクレバーならばSIも変わらざるを得ない」と述べ、「問題解決能力、質の高いシステム構築能力で勝負する」のがSIの本来の姿とした。


日本IT産業の強みと弱み

NTTソフトウェア株式会社 取締役相談役 鶴保 征城氏
 NTTソフトウェアの鶴保氏は、“日本の強みと弱み”という視点で話を進めた。「自動車、メインフレーム、初期のDRAM」を例に挙げながら、「ハードとソフトのすり合わせ、垂直統合型、あるいは自動車の乗り心地など感性に訴える要素」を強みに取り上げた。また現場の力が強く、オペレーション重視とした面も見られるという。弱みとなるのは、「PC、DRAM」に代表される「モジュールの組み合わせ、水平統合型、あるいはインターフェイスの標準化」とした。そして戦略を重視した面も弱みに上げた。

 これを製品のライフサイクルに置き換えると、「設計と製造の緊密な連携が必要で、マニュアルのない暗黙知の状況で製品を作り上げる初期段階では日本は強い」としたが、「設計と製造が分離され、標準化した形式知の段階では弱い」とした。そして現在の産業においては「初期段階が短くなっている」ことも述べた。


セキュリティに精通したソフトウェア開発者はまだわずか

株式会社ラック 代表取締役社長 三輪 信雄氏
 ラックの三輪氏はまず、「こうした場に出席できるほどセキュリティの認知度が上がった」と実感を語った。そしてソフト開発とセキュリティの関係について、「セキュリティを理解している開発者はきわめて少ない」と述べた。これは「セキュリティへの取り組みは、顧客から付加価値として認められない」点に加え、「セキュリティ面に配慮した開発を行うには、設計からコーディングまでに反映させることが重要で、別のチームが必要となるが、日本でこれができる人材はわずかしかいない」と語った。ただ「日本人は細かいところにうるさく、完璧主義。セキュリティに対して目覚めてさえくれればと、比較的楽観的に考えている」とした。


問題の打開には人材育成が最重要課題

 これら現状への対応策として、出席各氏から異口同音に聞かれたのが「人材育成」。特に大学の教育レベルについて「新卒が即戦力にならず、再教育が必要」な点が問題視された。

 新日鉄ソリューション棚橋氏は、人材教育の重要性について、「SIとして何らかの言語やソリューションで特性を持つように志向すべき」との考えも示し、社員のスキルマップを把握、不足している能力を明確化して教育投資を行う必要性を挙げた。また「個人の力量のばらつきに依存しない工学的システム構築方法の開発と普及」について「個々の企業の努力に加え、国レベルでも取り組むべき」と述べ、「ソフトウェアエンジニアリングセンターの設立、情報処理技術者試験の実施、ITスキルスタンダードの策定の3点セットは適切な施策」と評価した。

 NTTソフトウェアの鶴保氏は、今後については、「ハードウェアではモジュール型の構造は変わらない。そしてソフトウェアでは設計と製造の分離がうまくいったとしても、システム構築が楽になる代わりに雇用が減少するだろう」との見通しを述べた。さらに「インドや中国などでは、日本国内のアウトソース需要を視野に入れた動きが活発化しており、例えばインドでは、現在売り上げの74%を米国向けが占め、日本は3%だが、これを10%にすることを目標にしている。これが実現すれば数千人規模のSIが倒産しかねない」と危惧を表明した。

 また別の面では、YahooやAmazon、Googleなどのアプリケーションサービス企業の巨大化を例にとりながら、「これらがWebサービスプラットフォームとしての役割を果たす可能性がある」と述べ、「むしろ日本は強いはずの、こうしたITコーディネートの分野で、すでに普及しているiモードやオンライン証券などでの技術を生かした取り組みを、国レベルの社会システムとして行えば」との方向性を示した。

 また「テクノロジードリブンばかりクローズアップされすぎるのではないか」とした同氏は、「ケータイ文化、ゲーム、アニメなど、日本には独特のカルチャーがある」として、「IT産業でも、アプリケーションやコンテンツなどを目利きできる人がいないと、国レベルでの産業のポジショニングもうまくいかない」とした。



URL
  IPAX Winter 2004
  http://www.ipa.go.jp/event/ipax/winter2004/
  株式会社コーエー
  http://www.koei.co.jp/
  新日鉄ソリューションズ株式会社
  http://www.ns-sol.co.jp/
  NTTソフトウェア株式会社
  http://www.ntts.co.jp/
  株式会社ラック
  http://www.lac.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/01/22 00:01

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