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坂村教授、「ユビキタス社会に向け、日本が基盤作りを」

~IPAX Winter 2004 基調講演

 1月21日に開催された「IPAX Winter 2004」において、東京大学教授の坂村 健氏が「ユビキタス・コンピューティングが拓く新しい情報社会」と題した基調講演を行った。


東京大学教授 坂村 健氏
 IPAX Winter 2004を主催するIPAは、前身の特別認可法人 情報処理振興事業協会より1月5日に「独立行政法人 情報処理推進機構」として発足し、その目的の一つとして良質なソフトウェア開発の推進を掲げている。坂村氏はソフトウェア開発において最も重要なものとして「基盤」を挙げ、「いくら良質な応用ソフトを作っても、基盤となるOSが変わってしまうと動かすことが難しくなってしまう。まず大事なのは基盤を固めること。組込用のTRONもそういったアプローチで開発した」と述べた。

 さらに同氏は「大昔は大型コンピュータ、90年代はPCとインターネットのための基盤作りが行われてきた。そして21世紀のコンピューティング環境においてまず取り組まなければならないのは、ユビキタスのための基盤作りだ」と語った。

 ユビキタスについては現在、さまざまな分野において研究・実験が行われており、同氏が携わっている「T-Engineフォーラム」も推進している。同氏はユビキタスへの取り組みの中から、2003年に行ったRFIDタグを使った農産物のトレーサビリティ実証実験を例に、その重要さを説明した。

 この実験はキャベツやダイコンなど農産物一つ一つに極小のRFIDタグを埋め込み、その農産物がどこで生産されたのかがわかるだけでなく、RFIDタグを通じて生産者の氏名、使われた農薬の種類、流通経路、生産者からのメッセージまでがユビキタスコミュニケーターなどの端末に呼び出せるというもの。「過剰と言う人もいるが、昨今の食品に関する事件などから関心は高まっており、知りたいと思う人は必ずいる。重要なのは情報を必要としている人がそれを得られること」。(同氏)


RFIDタグを使った農産物のトレーサビリティ実証実験の流れ RFIDタグが埋め込まれた農産物にユビキタスコミュニケーターを近づけると生産者のメッセージが表示される

 RFIDについてはチップのコストの面などから実用化を疑問視する意見も多い。しかし同氏は「コスト問題は必然的に生まれる競争にに対しての企業の努力から必ず解決される。現にタグの価格は以前より下がって、現在は10円となった」と説明する。

 「農産物は生産者、運送業者、流通業者、小売店、消費者の手に渡る。仮にRFIDにかかるコストが10円として、それを負担するのは業者だけではない。生産者が情報を発信するため、また消費者がそれを受け取るためなら、それぞれが2円ずつ払うことに反対することはなくなるだろう。RFIDを使う目的は業者のコスト削減のためだけではなく、あらゆる人が有意義に利用できることだ」(同氏)

 このような農産物やRFID以外にもユビキタスへのさまざまな取り組みが存在する。同氏は「これまで日本は、米国などが策定した国際標準規格に安易に従ってきていた。ユビキタスという新しい分野において技術的に優位に立つ日本は今、積極的に実証実験を行って基盤を作り、それを世界に公表するべき。それらの成果を世界の人に利用してもらうことによって初めて世界に貢献したことになる。こうした取り組みの評価はすぐにはわからないが、10年後に評価されるものだ」と述べ、講演を締めくくった。



URL
  IPAX Winter 2004
  http://www.ipa.go.jp/event/ipax/winter2004/


( 朝夷 剛士 )
2004/01/22 00:01

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