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日立、中期経営計画を上方修正


代表執行役 執行役社長の庄山悦彦氏

2005年の売上高を9兆円、営業利益を4000億円以上に修正
 株式会社日立製作所は2月4日、同社の中期経営計画「i.e.HITACHIプランII」の進捗状況などについて説明。そのなかで、同社・庄山悦彦社長は、当初掲げた2005年度売上高8兆円、営業利益率5%以上の目標を、売上高9兆円規模、営業利益4000億円以上へと修正することなどを明らかにした。

 庄山社長は、「絶対的な利益額の達成と、FIVで黒字化が最優先課題」として、売上高での上方修正を掲げる一方で、利益重視型の中期計画であることを改めて強調した。

 なお、FIVとは、日立独自の付加価値評価指標で、税引後事業利益から資本コストを控除した「経済的付加価値」をベースに算出しているもの。FIVにおける黒字化の実現には、資本コストを上回る収益が必要となる。

 売上高1兆円の上方修正要因としては、情報通信で2000億円、電子デバイスで2000億円、デジタルメディア関連で1000億円、物流・サービスで1000億円、高機能材料で1000億円、新規事業で3000億円を想定。「金融サービス、電力・産業システムは伸びはないと見ている」とした。

 i.e.HITACHIプランIIでの大きな柱のひとつが、売上高の約2割にあたる不採算事業からの撤退。

 すでに、三菱電機との合弁であるルネサステクノロジへの半導体事業の移管、日東電工やスリオンテックといった関連会社の株式売却など積極的な動きを見せていたが、今回の会見では、「すでに撤退は10%程度はやってきた。今年も、来年も、もう少し手を打つことはできるだろう。2割の削減は常に考えている」としながらも、「だが、2割の目標にこだわると大きなミスを犯すことになる。いまの市場環境を見ると、徹底してやるべきではない時期だとも考えている。これは減らすことが目標ではなく、日立グループを強くすることが目標である」として、以前の会見で見せた2割削減への強い意志とは一転して、市場環境を見ながら柔軟に対応していく姿勢を示した。


 今回の発表で、新たな方針として示されたもうひとつのポイントが、家電事業への取り組みについてだろう。

 家電事業に関しては、一時期は売却も視野に入れているのではないかとの憶測もあったが、今回の会見では、「家電事業は、日立のブランド価値を高める上でも重要な事業」と位置づけ、「家電事業をやめるということは考えていない」と発言した。

 さらに、本社内にコンシューマ戦略本部を設置し、同本部長に庄山悦彦社長自らが就任、家電事業の牽引役を務める。また、家電事業を担当する日立ホーム&ライフソリューションの社長にマーケット戦略部門担当の石垣忠彦執行役常務を送り込むとともに、同社組織体制を事業グループ制から事業部制へと転換し、収支責任の明確化などを図ることを明らかにした。

 「2002年4月に家電事業を分社化したのは、個を強くしようという狙いからだったが、これからの白物家電やプラズマテレビなどの動きを見ると、もう少し大きなくくりでやっていかないとうまくいかないだろう。この分野に対して、グループをあげての体制再構築が必要だと考えた。石垣氏は、マーケティング戦略部門を担当しており、グループ内をよく知っていること、営業経験、海外経験を生かせること、そして、私がコンシューマ戦略本部長に就任することで人心を一新するのがいいと考えたことなどがあげられる」と庄山社長は語る。

 また、「家電事業は、1社でやるのではなく、半導体事業のように複数社で取り組んだ方がいいと考えたこともあったが、いまは自力でやることがいいと判断している」と、合弁会社などの設立の意向がないことを示した。


主な事業再編内容

グローバル事業の伸長内容
 ところで、これまでのi.e.HITACHIプランIIの進捗状況だが、庄山社長は、買収、再編、提携などの戦略、社内制度の改革、グローバル事業の成長など順調に推進していることを示した。

 事業の再編では、ルネサステクノロジへの半導体移管後、同社で黒字化を実現していること、IBMから買収したハードディスク事業が収益の向上に直結していること、日立情報システムズと日立ネットビジネスの合併や、カシオ計算機と携帯電話の共同開発会社の設立などの再編を進めた成果が出つつあることを示した。

 また、管理職以外の一般社員にも、実力・成果型の報酬体系を打ち出し、これを4月以降、実施するなどの改革や、グループ経営委員会の設置により、グループ経営の徹底を図るなどの動きを見せている。

 成長事業としては、パソコンやデジタル関連機器を支える基幹材料や部品が大きく伸張。ハードディスクドライブは、今年度400億円の赤字と見込んでいたものが109億円にまで赤字幅が縮小。2004年度にはブレイクイーブンのところにまで引きあげることが可能な見通しを示した。

 また、海外事業についても、米国における大型超臨界石炭火力発電設備の受注など、米国市場での電力・産業システムの動きが活発化しており、連結売上高にしめる海外比率が前年同期の34%から36%に拡大。「今後も海外比率を高めたい」と語っている。


収益改善策
 FIVの黒字化については、2001年度時点で赤字だった材料・産業機械、情報・通信システムなどを2005年度には黒字化させ、新たに加わったハードディスクドライブ事業も黒字化を目指す。半導体事業に関しては、三菱電機との合弁であるルネサステクノロジ、NECとの合弁であるエルピーダメモリといった合弁によって、収益性の改善に取り組み、これもFIVの改善に貢献すると予測している。また、都市開発、オートモーティブシステムなどの収益性を高めていくことで、全社的なFIVの黒字化を目指す。

 「ハードディスクは回復基調にあるが、競争の激しい市場だけに、引き続き研究開発投資を行うとともに、効率化を目指した取り組みが必要」とした。

 今回新たに示した2005年度の達成目標は、先にも触れた通り、売上高9兆円規模、営業利益で4000億円規模の達成。そして、FIVの黒字化となる。これに向けて事業構造改革を引き続き推進していくのに加えて、Cプロジェクト(キャシュフロー)、Dプロジェクト(資材調達)、EプロジェクトII(IT活用)で構成されるコーポレイト・イノベーション・イニシアティブ(CII II)を推進していく。


主なInspireA事業
 また、社長プロジェクトともいえる「InspireA」事業を30事業選定。必要に応じて、コーポーレイトから戦略的資金の投入やグループを横断した事業運営体制の構築などの施策を実施できる体制をつくる。

 情報・通信分野については、ITソリューション事業を中長期的に成長戦略のための重点強化策のひとつに掲げ、セキュリテイサービスや同社が提唱するハーモニアスコンピューテイングの強化、e-Japan戦略IIの関連新規事業へ取り組み、「元気・安心・感動・便利の社会の実現に向けた貢献を図りたい」とした。

 庄山社長は、今回のi.e.HITACHIプランIIのゴールとして、「デジタル時代からユビキタス時代への変化のなかで、新たな時代の勝者を目指す。ユビキタス時代におけるキーテクノロジー、デバイス、コンポーネントに加え、これらを活用した商品、インフラまでを総合的に提供できる強みを発揮したい」とした。

 i.e.HITACHIプランIIの1年目の成果はほぼ及第点に達したといえる。問題は、赤字縮小を始めた一部成長事業において求められるFIVの黒字化に向けての仕上げと、家電事業などへのテコ入れだといえるだろう。



URL
  株式会社日立製作所
  http://www.hitachi.co.jp/

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  ・ 日立、第3四半期は増収増益と黒字転換(2004/02/04)


( 大河原 克行 )
2004/02/05 12:30

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