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SAPジャパン藤井社長「ITによるボトルネックを取り除き、経営戦略の幅を広げる」

~NET&COM 2004 特別講演

 2月4日から6日まで、「NET&COM 2004」(主催:日経BP社)が幕張メッセで開催されている。6日には、SAPジャパン株式会社 代表取締役社長の藤井清孝氏による「エンタープライズサービスアーキテクチャーで広がる企業システムの可能性」と題した特別講演が行われた。


SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 藤井清孝氏
 SAPジャパンは1992年の設立以来、国内1100社への導入実績があり、独に本社を構えるSAPグループ内でも米、独に次ぐ規模に成長した。世界的に見ても1200万人が利用し、エンタープライズ向けのソフトウェアベンダーとしては世界トップの企業だ。元々はERPパッケージ「SAP R/3」により、企業の基幹系業務プロセスの効率化を支援してきた同社。現在では基幹系以外の分野でも「ヒト、モノ、カネの資源を適切に分配し、またデータを一元化して、ビジネスプロセスや組織体系を標準化していく」ことで、コストの削減や効率化に寄与している。

 同社ではR/3と連携してその製品情報を生かすソフトウェアとして、開発や製造の段階から製品情報を管理する「mySAP PLM」、資材調達での購買を効率化する「mySAP SRM」、需要予測により生産系統を適正化する「mySAP SCM」、製品情報を顧客情報と結んで適切なマーケティングを行う「mySAP CRM」、経営戦略立案のためのデータ分析を行う「mySAP BI」といった製品群がある。同氏はこれらにより「単なる業務プロセスの効率化から、経営課題の解決へとソリューションを拡大してきた」と述べた。


株式時価総額ではMicrosoft、Oracleに次ぐ位置を占めるほか、2002年度のライセンス売上は50%に達する 日本でも、ERPはもちろんSCMやCRMのシェアでSAPが第1位だ SAP R/3 Enterpriseを中心に、基幹系データを各方面で生かすソリューション群

これからの情報システムは環境の急激な変化に適応すべき

企業ニーズに応えるシステム間連携プラットフォームの基盤となるNetWerver
 同氏は情報システムに対する企業のニーズについて、プロセスの実行時間などの性能面、可用性、作業の自動化といった課題は、「データを中心にしたタイトなインテグレーションにより統合されたシステムで達成されつつある」とし、「現在重視されているのは、ビジネス環境の変化のスピードに適応できること」とした。

 その上で「ユーザーに近いところでは、複雑さを低減して既存環境と操作性の変わらないものが求められる。またマネジメントの観点ではシステムの稼働コスト削減と、レガシーといった既存システムなどの新旧混在したシステムの活用が求められる」と述べた。

 これまでの情報システムについて、「例えば電力業では、自由化の波により新規企業が参入した場合に、需要によって値付けを変えるにしても、これまでのシステムでは半年かかっていた。また自由化になればこれまでなかった卸値も発生するため、収益管理も必要になってくる」とした。「商社では事業部単位でなく、個々のビジネスで収益を把握し、それぞれ手を引くのか、投資を増やすのかを判断できるように。また企業の合併統合の際でも、支店別、商品別の製品管理の仕方で、両方のオプションを選べるなど、ITによるボトルネックを取り除き、ビジネス環境の急激な変化に伴い戦略の幅を広げられるように、多くの選択肢をもたらすことが経営戦略上重要になってくる」と述べた。


企業の課題を解決する「SAP NetWeaver」

ポータル提供されるWebサービスがクライアントへのインターフェイスとなる
 同社ではこれを実現するものとして、各々がモジュール化し、Web対応したサービス指向のオープンなプラットフォームである「SAP NetWeaver」を提供している。同氏は「IT業界でも買収により企業間の優劣がはっきりしてきているが、プラットフォームのコンセプトを持つ企業に統合されていくと考えている」とした。

 NetWeaverでは、「人、情報、プロセスの統合を、ポータルとWebサービスで提供するもの」で、「.NETやWebSphereとの親和性を確保し、オープンシステムを担保している」とのことだ。NetWeaverプラットフォームでは、データへのアクセスにPDAなどのモバイル端末を用いることも可能だ。同氏は「修理サービスマンが顧客情報を出先で確認できる。モバイルアクセスでもSCMまで踏み込んでいるソリューションは少ない」と述べた。こうしたモバイル向けの開発は、主に日本で進んでいるという。

 マスターデータ連携に関しては「国内では製造と販売で別会社の場合などに、それぞれのデータが分離しており、製品別収益がトータルでわからないこともある」と述べ、それぞれのデータベースをひも付けする同期が行えるという。また業務プロセス連携では、「一定のルールを作ることで、統合先が入れ替わっても、いちから開発せずに連携できる」ほか、「オープンとレガシー間連携でのコストを低減することができる」という。

 さらにWebサービス基盤としてのWebアプリケーションサーバーの機能も備えており、従来からのSAP R/3向けの開発言語であるABAPに加え、Javaにも対応している。またユーザーインターフェイスも「かたくななSAPの画面でなく、モジュールをベースにした組み合わせで構築が行える」とのことだ。


新しいアプリケーション環境「SAP xApps」

 自動車業界では、「顧客のオーダーに対して、在庫、オーダー管理、生産管理から、輸送状況のシステムにまでの情報にアクセスすることが可能になる」。同社では今後市場へ投入する「SAP xApps」では、このように顧客ニーズに応えるためにクライアントが必要な情報を「実際のアクティビティにあわせて」ポータルに集め、Webサービスによって活用できる。また「これまでのシステムでの業務プロセスにあわせて、アプリケーション上でのカスタマイズも行える」とされる。

 こうしたNet Weaverプラットフォームを中心としたインフラにより、同氏は「現在のIT予算の6割を占めるのが、手作りのインターフェイス、システム数の肥大、検証テストやユーザー教育などの人員やサービスのコストとなっている。これを圧縮することで、ビジネス変化に対応する経営戦略へのコスト割合を高めたい」と述べた。


ビジネスプロセスに変化をもたらすアプリケーション「SAP xApps」 自動車のオーダーを例に、クライアント要求に応じたシステムへのアクセスが語られた ハードウェアやOSなどのインフラ、Net Werverを含むミドルウェア、xAppsやmySAPなどのアプリケーション、そしてビジネスプロセスが4つの層を形成する

国内企業のビジネス環境にあわせて顧客重視の提案を

 国内には、サービス志向のアーキテクチャを推し進めている先進的な企業がある一方、これから基幹系のインフラをオープン化する企業もある。同氏は、「個々のユーザーの置かれる状況は異なるもの。それぞれのビジネス環境や体力に見合った、おしきせでないビジネスを提案していきたい」と述べた。また国内の状況については、「市場規模に比べて参入企業が多く、業界全体で見た場合には重複投資も多い」とし、「淘汰の力が弱い面を、業界内でバックオフィスを統一することでカバーし、標準化により経営の選択肢を増やすことを目指したい」と述べた。

 また「日本はITコストが高い分、投資効率を確実に提示できなければならない。経営層はIT化のメリットを在在庫の減少や売り上げの増加に求めるが、結局のところITは道具でしかない。リアルタイム経営が実現するはずのシステムでも、インプットが行われなければ意味がない。導入により使いこなす人間の意識や、企業文化が変わることが重要だ」と述べた。



URL
  NET&COM 2004
  http://expo.nikkeibp.co.jp/netcom/
  SAPジャパン株式会社
  http://www.sap.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/02/06 20:10

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