IT Governance Symposium 2004(主催:住商情報システム株式会社)が2月18日に開催され、「ITガバナンス実践への第一歩を踏み出すために」と題したパネルディスカッションが行われた。パネラーとして、ITM Software社の創設者、会長兼CEOのケネス・コールマン氏、アビームコンサルティング株式会社 戦略ビジネス事業部シニアマネージャの原市郎氏、日本ユニシス株式会社 ビジネスコンサルティング統括部長の多田哲氏、日本オラクル株式会社 取締役専務執行役員の山元賢治氏、住商情報システム株式会社 取締役エンタープライズ・ソリューション事業部長の杉橋剛氏の5名が出席した。モデレーターは、日経BP社 日経コンピュータ編集長の横田英史氏。
■ 企業のIT化にとっての問題点とは
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アビームコンサルティング株式会社 戦略ビジネス事業部シニアマネージャの原市郎氏
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住商情報システム株式会社 取締役エンタープライズ・ソリューション事業部長の杉橋剛氏
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まず、今回のテーマを踏まえ、企業のIT化がうまくいっていない点について、各パネラーの意見を伺った。
原氏はIT投資の評価方法について触れ、「ROIの評価にはさまざまな方法があり、かならずしも定義する必要はない」とし、一定の基準を持とうとする傾向に問題点があるのではないかと指摘した。「IT投資がうまくいっている企業を見ると、ユーザー部門と協議をして導入している企業は成功している」と、実際に利用する事業部門と調整することが事後評価のしやすさにつながるとした。
多田氏は、「KPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)を納得して導入してもうまくいかないことがある。部門間で合意ができていても、大きな枠組みがだめで失敗している例もあり、一様に理由があるわけではない」と、問題点を単純化できないと触れた。
山元氏は、企業の予算に触れ、「各企業の投資割合を見ると、毎年同じ割合であったり、同業他社と横並びであったりする。しかし、IT投資では複数年度に分けてお金をかける案件も多く、日々進化するITに対する投資手法としては問題があるのではないか」と、IT投資に不可欠なスピード感が乏しい点を問題点として挙げた。
杉橋氏は、導入段階の費用に焦点が当てられすぎているとし、「サービスイン後の活用に焦点を当てた投資にしたほうがいい」と述べた。
■ ITを特別扱いにしないところからスタートしよう
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ITM Software社の創設者、会長兼CEOのケネス・コールマン氏
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日本ユニシス株式会社 ビジネスコンサルティング統括部長の多田哲氏
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では、こうした現状を解決するには、どのような方法が必要なのだろうか。米国の現状に触れながら、コールマン氏は「米国ではIT投資に対し、柔軟性やスピードに敏感だ。日本企業は製品の品質に関して“カイゼン”することに非常に敏感だが、ITに関してはまったく異なっているように思える。IT投資を一回限りで評価するのではなく、変化にあわせて変えられるかが重要」とした。
原氏は、企業のトップがITに明るくない、もしくは言葉がわかりにくいため距離を置いている点を指摘し、「ITを特別扱いしないでもらいたい。ITをビジネスの投資として考えなければならない」と、ITのブラックボックス化の改善を提言した。
多田氏は、原氏の発言を受け「逆の言い方もできる。IT部門の人が経営の言葉を知らないため、コミュニケーションができていないことがある。実際、コミュニケーションが弱いと、事業部門の満足度も低いという結果が出ている」と、日本の固定化しがちな人事制度にも触れながら、IT部門側が経営に伝わる言葉を持つことを提言した。
■ 自社にとって付加価値があるかどうかでパッケージを選択する
企業全体のIT化の象徴的なものがERPである。日本ではERPを導入する際に、既存のビジネスプロセスを変えずに、パッケージ側をカスタマイズするという傾向が多いという。これに関してコールマン氏は、「米国でも初期段階では、ビジネスプロセスを変更せずに導入することが多かった。しかし、結果的に高くつくことがわかり、現在では多くの企業がカスタマイズを最小限にし、利用する現場側をパッケージに合わせる動きが出ている」と、カスタマイズを極力さける流れとなっているのを紹介した。
「ここで重要なのは、ベンダーの言いなりになってパッケージをそのまま使っているわけではないという点だ。多くの企業はビジネスプロセスを変えるのは、導入により付加価値がつくときのみ」(コールマン氏)と、あくまでも導入基準は企業のビジネスを進める上でメリットがあるかどうかである点を指摘した。
多田氏も、「ERPの導入効果を測ろうとしているが、これは意味がない。企業全体で経営効率がどう改善したのかという点をみないと判断できない。ITを必要以上に高度なものとしてみないほうがいい」と、ERPを含めてITをあくまでも経営の一部分として考えるよう提言した。
■ 経営の一部分という側面からITを見ることが重要
横田氏より、ある自治体の話として昨年まではIT関連予算は申請すれば通るものだったのが、今年は知事のチェックが入るようになったという話が紹介された。IT投資の必要性の見極めが高まっている象徴ともいえるが、企業のIT部門にとってはより経営層への説明の必要性が高まっているともいえる。これを踏まえ、各パネラーに対し、経営層に理解してもらうための問題点について質問された。
原氏は、IT部門単独で成果にコミットすることに無理があるとし、「事業部門のコミットがないとシステム導入は成功しない。事業部門が理解できる、つまりビジネスの言葉でITを説明しているところは成功している」と共通の言葉でコミュニケーションをとる重要性を強調した。
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日本オラクル株式会社 取締役専務執行役員の山元賢治氏
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山元氏はベンダーの立場からのアドバイスとして、「プロダクトの導入に際し、導入企業の社長がでてくることはあまりない。逆に社長がでてくる企業は、非常に意欲的だ。そういった会社を見ていると、IT部門がうまくベンダーを利用しているように見える。つまり、ベンダーの言葉で現状の問題点を伝えさせることで、IT部門に有利なように進めている」と、ベンダーを使うのも一つの手として紹介した。
まとめとして、「コールマン氏から指摘があったように、日本が品質改善で成長したのと同様に、ITを特別なものとせずに会社のビジネスに役立つ道具だと意識して扱うことが重要だろう」(コールマン氏)と述べ、パネルディスカッションを終了した。
■ URL
IT Governance Symposium 2004
http://www.seminar.co.jp/itgovernance/
住商情報システム株式会社
http://www.scs.co.jp/
ITM Software
http://www.itm-software.com/
アビームコンサルティング株式会社
http://www.abeam.com/jp/
日本ユニシス株式会社
http://www.unisys.co.jp/
日本オラクル株式会社
http://www.oracle.co.jp/
( 福浦 一広 )
2004/02/19 11:17
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