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IDC井出氏「ユーティリティコンピューティングはITビジネスを変える」

IDC Japan 市場動向セミナー

 IDC Japan株式会社が主催する「市場動向セミナー」が2月18日に開かれ、「ユーティリティ・コンピューティングはITビジネスを変えるか?」のテーマで、同社ソフトウェア リサーチマネージャーの井出 和之氏が講演を行った。


ITビジネスを変えるユーティリティコンピューティング

IDC Japan株式会社 ソフトウェア リサーチマネージャー 井出 和之氏
 同氏はユーティリティコンピューティングについて、「ITビジネスを変える非常に重要な要素として、今後5年から10年続いていく大きな流れになる」と語った。そして「各社ともに打ち出したことで、2003年に一番はやったキーワード」と述べた一方、「現時点ではやや構想が先行していて、実態がよく見えない、わかりにくい概念といえる」とした。

 従来のコンピューティングの利用においては、「ハードウェアやソフトウェア、ネットワークを所有し、その機能を使うのが過去40年の間、基本的な考え方だった」とした。これがユーティリティコンピューティングでは、「能力そのものを活用する形に変わる」という。

 ユーティリティビジネスの例として、電気・ガス・水道を挙げた同氏は、「現在では全国どこでも供給されるのが当たり前になっているが、その初期段階では電力会社は存在せず、自前で発電を行うのが当たり前だった」と述べ、「コンピュータの利用がユーティリティ化するのは、ある意味で、しごく当然な動き」と語った。

 ユーティリティコンピューティングを実現するには、ネットワークをベースに、複数リソースを一括して利用する、あるいはひとつのコンピュータを複数に有効活用する考え方としての仮想化、あらかじめ決まったルールに沿ってシステムの挙動を制御する自動化、処理要求に応じて必要に応じて資源を動的に割り当てるプロビジョニング、そしてリソースを動的に組み合わせて安価に大きな資源を使用できるグリッドの4つの技術要素が挙げられる。

 ビジネスモデルの面でみると、「初期導入コストを低く抑えられ、能力ではなく利用料に課金される。またシステムの二重化などの信頼性の面は標準装備になるだろう」とした。


ユーティリティコンピューティングを掲げる各社の構想

 続いて同氏は、ユーティリティコンピューティングを掲げる各社の構想について、その特徴などに触れた。

 IBMは、2002年に他社に先駆けて「Autonomic Computing」を発表している。「自己構成、自己最適化、自己修復といった、ある意味では、メインフレームで同社がビルトインしていた技術にフォーカスされており、IBM自ら“革新でなく、進化に過ぎない”としていた」とのこと。また「総合ベンダー各社に言えるが、オープン系やメインフレームから開発環境、サーバーソフトウェアまで多岐にわたる製品、サービスを提供しているIBMが、Autonomicで整理、緊密なアーキテクチャにまとめ上げる側面がある」と述べ、「これが各社の構想を刺激した部分もあるだろう」とした。

 先日名称変更されたSun Microsystemsの「N1 Grid」については、「当初はデータセンターの可用性を向上するコンセプトだった」と述べ、「同社の提唱する“The Network Is The Computer”はシンプルだが、グリッドそのものを言い当てている。同社はビジネスモデルもシンプルで、大胆な価格モデルなども特徴的な面白い存在」とした。

 HPについては、「DECやApollo Computerの買収などで、IBM以上にいろいろな要素を持つ企業」とし、「Adaptive Enterprise」については、「最下層から上位までに目配りできている考え方で、すべて自社で提供できると同時に他社製品も組み入れるものとなっている」と述べた。

 日立は、「ユーティリティビジネスに対する歴史的知見を持ち、問題点や克服点をわかっている」とし、「最近では、同社の強みであるハードウェアと、緊密に連携するミドルウェアを強化している」と述べた。同社の提唱する「Harmonious Computing」については「国産ベンダーとしては、よく練り上げられた構想だが、わかりにくくもある」と語った。

 富士通の「TRIOLE」は「コンセプトより実践を重視し、定額制のソリューションなど具体的な商品を出すことに注力している」と述べ、同社については「SE部隊やデータセンター向けのサービスビジネスなどでは、IBMでもあなどれないほど大きな力を持っている」とした。

 NECは「製品レベルが相対的に優れており、より上位層であるソリューションへの指向が強い」と論評、「VALUMO」については「システム構築基盤やミドルウェアを提供することで、分散するコンポーネントをまとめる考え方」とした。

 Oracleの「Enterprise Grid Computing」を実現する「Oracle 10g」は、「ストレージ、データベース、アプリケーションの3階層モデルで、グリッドを前面に出している」と述べ、「プロビジョニングによりビジネス要件の変化に対応する、素直でシンプルなもの」とした。

 VERITASについては「どうしてもバックアップの印象が強いが、最近は事業内容がミドルウェアにまで広がっており、事業参入を表明した」とした。そして「管理系アプリケーションを持つ企業を買収するなどで“Utility Computing”を具体化している」という。


 同氏はソフトウェアベンダー参入の原因に「ソフトウェアビジネス自体の構造の変化」を挙げる。「ここ数年、ハードウェアと一体化したミドルウェアビジネスの階層が厚くなっている。こうした構想の裏には、ソフトウェアベンダーでも階層を広げていかないと、ハードウェアベンダーの囲い込みに勝てないとの考えがある」と述べた。

 またこうした構想の背景には、「ITインフラは、マルチベンダーで構成されるなど複雑化しており、また24時間365日稼働し続けるようになる一方で、人員と予算は削られている」などのユーザー側の状況を受け、ベンダーでは「少ない予算の中でビジネスをしなければならず、既存の予算を削ってでも、新しいソリューションを届けないと自らが成長せず、将来がなくなる」とした。

 また「ビジネス規模に応じたスケーラビリティの確保、サービスレベル要求の高度化といった要因から、規定したレベルのサービスをベンダーなどにアウトソースする形が模索され始めている」とした。


ユーティリティコンピューティング実現へ向けた課題

 同氏は「ユーティリティは、ビジネスモデルの問題にまで大きく展開するため、市場は定義しにくい」としながら、ストレージ、クラスタやロードバランシングといったCPU資源、Citrixのようなアクセスの仮想化、特定リソースをアプリケーションに割り当てる環境を提供するもの、4つの仮想化ソフトウェアの市場についての調査を紹介、「これでもごく一部だが、すでに800億円規模で年率10%成長している。他にもサービスやハードウェアがここに加わる」とした。

 技術的には、「負荷に対してリソースを割り当てる優先順位の記述方法については、実装上難しくもあり各社まちまちで、相互運用に課題がある」とした。また「現時点では異機種混在環境が想定されていない」点も挙げた。さらに「電力でいえば停電を起こさない仕組みをコンピューティングで実現できるのか、地域的にも広域での運用が想定され、対障害応答性の問題がある」とした。

 ビジネス上でも「まず莫大なインフラコストが必要になる。だれがどう負担し、顧客に転嫁するのか。電力にも基本料金があり、いくらベンダーが財務基盤を強化しても、ある程度のインフラコストはユーザーが負担しなければITのユーティリティ化は難しいのではないか」とした。また「利用料の計測やサービスを規定する基準をどう設けるのか。月平均なのか最大利用料なのか、提供サービスの範囲がどうなるのか。ユーザーの納得いく形にするのは時間がかかるだろう」とした。

 「こうした課題を解消するには、5年10年のスパンで時間を要するだろう」としたが、「確実に実現する方向に流れるだろう。ベンダーやユーザーには、リソースを集約して整理統合する局面が早ければ今年中、来年にも訪れる」と語った。

 そして同氏は、「ベンダーでは、コンセプトの定義や、サービス・技術・製品といった要件の見直し、具現化のためのノウハウの蓄積も必要になってくる」とした。そして「電力では違う形状のコンセントは許されないもの。そういう意味では標準化への対応が問われる」とした。



URL
  IDC Japan株式会社
  http://www.idcjapan.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/02/19 19:12

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