米Dellは、1月末締めの2003年度(FY2004)の業績を先頃発表した。売上高は414億4400万ドル、対前年成長率は17.1%。営業利益は35億ドルに達し、営業利益率は8.6%と競合他社とは比べものにならない圧倒的ともいえる強さを発揮した。とくに、最新四半期では、サーバー、ストレージなどのエンタープライズ分野における成長が大きなポイントだ。果たして、Dellの強みはどこにあるのか。Dellのマイケル・デルCEOと、ケビン・ロリンズ社長兼COOのトップ2人に、エンタープライズ事業、コンシューマ事業戦略などの取り組みを含めて、同社の強みの源泉について話を聞いた。なお、インタビューは、日本人記者5人によるグループインタビューの形態をとっている。
■ 営業利益率よりも営業利益の額の向上を目指す
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マイケル・デルCEO
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―最新決算の営業利益率が8.6%。他社を凌駕する圧倒的ともいえる利益率ですが、これは今後も拡大する可能性があるのでしょうか。その場合、なにがポイントになるのでしょうか。
デル氏
他社が厳しい状況にあるなか、Dellがこの営業利益率をあげられた背景にはいくつかの要因があります。1つには、効率的なビジネスモデルを持ち、価値をお客様に提供し続けているということ、2つめには、エンタープライズのサーバー、ストレージ、サービスから、コンシューマ向けの製品まで幅広いラインアップを取り揃えていること。これらをミックスした形で事業展開がすすめられるメリットも大きい。また、規模の追求による強さが発揮できる側面もある。昨年度は、新しい国や市場にも参入し、さらに規模を拡大することができた。さらに生産性を改善したことも高い収益性につながっている。
営業利益率がさらにあがるのか、という点ですが、むしろ、営業利益の額をあげることを前提に考えている。その結果として、利益率があがるということがあるかもしれない。だが、基本的にフォーカスしているのは営業利益の絶対金額の方です。
■ コア事業を中核に売上高600億ドルは達成範囲内の数値
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ケビン・ロリンズ社長兼COO
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―Dellは、中期の経営目標として、売上高600億ドルを目指すことを掲げていますが、この目標達成は、パソコン事業以外のビジネスの成長にかかっているのですか。
ロリンズ氏
PCサーバー、PCクライアントが当社のコアビジネスであり、この分野での当社の市場シェアは全世界で17%です。その点では、コアのビジネスでもまだまだ拡大の余地はある。業界によっては、30%、40%のシェアを持っているトップベンダーもあるわけですから、17%のシェアで満足しているわけではない。そうした意味で、コアのビジネスの成長は目標達成には重要です。それに加えて、さらに、コアのまわりを囲むような形で、S&P(ソフト&ペリフェラル)やサービス、ストレージがあり、ここにも大きな事業拡大のチャンスがある。顧客からも、「Dellには、コア事業以外の分野でも、もっと積極的に事業を展開してほしい」という声があがっている。この声に応えるように、まわりの市場でも事業を拡大させたい。ただ、これらの事業は、コアの事業とは別の独立したものだとは考えていません。あくまでもコアを支える事業であると考えています。これらの取り組みによって600億ドルというターゲットを達成することは可能だといえます。
■ 事業モデルでの評価ではなく、最終的に利益が上がったかで評価すべき
―日本の製造メーカーは、垂直統合型の事業へと転換を図ろうとしています。また、それで実績を上げ始めています。これに対して、Dellは水平分散型事業の最たる企業だといえます。この点をどう捉えていますか。
デル氏
確かに当社のやり方はバーチカルインテグレシーョン(垂直統合)ではありませんが、水平分散という形でもない。むしろ、バーチャルインテグレーションという手法を採用していると考えている。また、各社ごとにビジネスモデルはさまざまであり、日本の企業のすべてが垂直統合を採用しているわけではない。例えば、先日、中国のサプライヤーパートナーのところを訪問したが、そこでも日本のメーカー向けの製品が作られている。むしろ、依然として、競合他社の方が我々のやり方を追いかけているのではないだろうか。当社のモデルが成功しているということは、日本市場での実績を見ても明らかだ。日本では、昨年の段階で第3位のシェアとなり、前年比25%という業界平均を大きく上回る成長を遂げている。これは上位4社のなかでは最も高い成長率となっている。
ロリンズ氏
企業は、いろいろな戦略をとろうとするが、それが果たして有効な施策であったか、成功したかどうかは、最終的には本当に利益があがったのかどうか、という点で検証されるべきだと考えている。それ以外のところで、成功かどうかが判断されることはない、といっても過言ではないだろう。それを考えたときに、生産方法には、バーチャルインテグレーションや、フルインテグレーションもあるが、ここでも、同様に、利益が出たかどうか、成長につながったかどうかでそれぞれのモデルを評価すべきだと考えている。その点で、我々は自らのモデルに、自信を持っているし、その証に、全世界で成長し、成功している。日本の市場において、製品シェアで11%に近いところにまで伸びていることでも、それが証明されるのではないでしょうか。
■ コンシューマ・エレクトロニクス市場でもデルモデルを活かし高品質な製品を提供する
―Dellは、コンシューマ・エレクトロニクス市場に参入しましたが、これはDellの事業にどんな影響を与えますか。この分野における勝算はどうですか。
デル氏
コンシューマ・エレクトロニクス市場は、これからの市場であり、当社の成功も、この市場がどこまで成長するかにかかっている。ただ、ここにきて、家庭のなかにおけるパソコンの使い方が、以前に比べて大きく変化してきたと思います。例えば、デジタルカメラやデジタルミュージック、デジタルテレビが出てきたことで、パソコンそのものが、デジタルのコンテンツを保存したり、共有化するための理想的なツールになっている。パソコンの果たす役割がますます重要になってきているといえます。パソコン分野において、リーディングカンパニーである当社にとって、パソコンに接続する機器がたくさん出てくることは、大変有意義なことであり、ビジネスチャンスが広がると考えています。
ロリンズ氏
テレビの市場そのものが過去10年間において大きく変化してきたといえます。いままでの中心だったCRTの世界においては、ソニーやパナソニック、三菱などが事業を拡大してきたが、市場の興味は、そのCRTから、フラットパネルへと大きくシフトしてきている。この変化によって、新たな企業が参入できるチャンスが出てきた。というのも、これまでのようにテレビを作ってきた会社がそのテクノロジーを牛耳るのではなく、市場がテクノロジーを保有しているという状況になってきたためです。Dellは、パソコンのフラットパネル分野においては、バイヤーとして購入していた量も、売り手として流通していた量も最大であった。それを考えれば、テレビの分野に参入していくのは自然の流れですし、ここに効率的なデルモデルの仕組みを使うことで、高品質の製品を、これまでに見たこともなかった価格で提供できるようになる。
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右から、マイケル・デルCEOと、ケビン・ロリンズ社長兼COO
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―米国で出荷しているコンシューマエレクトロニクス製品の多くは、日本でも投入されると考えていいのでしょうか。
デル氏
日本では、17インチの液晶ディスプレイを投入したが、この反響が予想を大きく超えるものであり、大変エキサイティングだ。それ以外のコンシューマ・エレクトロニクス製品を、いつ日本に投入するのかについては、日本のチームの方で判断することになる。
ロリンズ氏
ほかの製品への拡大については、今後2-3年において継続的に行っていくことになる。先頃、富士ゼロックスとの戦略的なパートナーシップを結び、イメージングの分野で製品を投入したが、こうした戦略的なパートナーシップによって、日本の優れたテクノロジーを日本市場に投入したり、ひいては全世界へ投入するということも考えている。
■ デルモデルの力が発揮できるエンタープライズ市場
―エンタープライズの分野においても、デルモデルが発揮できる環境となっているのでしょうか。標準化、コモディティ化への変化はすすんでいるのでしょうか。
デル氏
すでにデルモデルの力が発揮できる市場環境になっているといえます。Intelが高性能、高品質、低価格のサーバー向け製品を投入したことで、市場変化がはじまり、それとともにDellも高い成長を遂げた。同時に、日本におけるデルのサーバービジネスも急速に成長し、シェアもトップになるなど、常に上位に位置している。ほかのプロダクトよりも、早く成長が実現できたと考えている。また、最近では、高密度で、高性能、低価格のラックマウント型の製品が注目されており、ここでも同様の変化が起きることになるでしょう。一方、近い将来、同様の変化が起きるのがストレージであると思います。ストレージがコモディティ化し、それによって製品が改善されていくことになる。Dellはストレージ分野において、PowerVaultのほかに、EMCとのパートナーシップで投入しているDell|EMCの製品があるが、これらがサーバーと同じように、低価格化し、高性能化し、業界標準のコンポーネントを使うことで成長が加速されていく。
2003年度のDellのエンタープライズ分野に関する売り上げ規模は85億ドルとなりました。現在、市場の流れは、独自の技術を利用したものや、大きなシステム構成のものから離れていく傾向にあります。16Way、32Wayのものを利用するのではなく、2Wayのような小さなものを使ってつなげていくという形になってきた。スケールアップではなく、スケールアウトという方向性です。大きなデータベースやWebサイト、アプリケーションを稼働させるときにも、大きなサーバーを1台導入するのではなく、小さなサーバーを20台、40台とつなげていく使い方が求められている。例えば、象徴的なのはインターネット検索大手のGoogle。ここでは、メインフレームのような大きなサーバーを使うのではなく、2Wayのサーバーを何千台もつなげて使っている。それで強力なパワーを実現することに成功している。これがスケールアウトのやり方です。また、UNIXから、WindowsやLinuxへの移行という大きな動きも出ており、これもコモディティ化の動きとしては見逃せない。
ロリンズ氏
Dellは、ハイパフォーマンスコンピューティング分野において、全世界で第4位という性能を、クラスタコンピューティングで実現している。こうした最高峰の性能が求められる分野でも、Dellのサーバーが利用されている。
デル氏
Dellがハイパフォーマンスコンピュータのトップ500のなかにランクされるケースが増加しており、同時に業界標準のシステムが占める割合がますます増加している。
■ インストールやメンテナンスの負担を少なくすることで顧客の支持を得る
―他社はサービス事業を加速させようとしていますが、デルはどのようにサービス事業を位置づけているのでしょうか。
デル氏
当社の事業のやり方の特徴は、常に顧客との話し合いを通じて、そこから導き出される戦略を選択しているという点だ。いま、顧客からは独自技術の戦略に囲い込まれたくない、という声があがっている。ベンダーは、独自技術によって、利益を得ることはできるが、顧客はそこから離れられなくなる、移行が難しくなるという状況に追い込まれる。また、独自技術の場合、その製品には多くのサービスが必要になり、投資負担が増える例が多い。しかも、特定の企業からしかサービスが提供されないということになる。当社が提供するシステムの場合は、業界標準の技術を採用しているため、それほど多くのサービスが必要とはならない。むしろ、インストールやメンテナンスに関して、顧客の負担を少なくしたいと考えている。ここが他社とは大きく異なる。これが顧客から支持を得ている要因だといえるのではないでしょうか。
■ URL
Dell Inc.
http://www.dell.com/
( 大河原 克行 )
2004/02/20 00:00
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