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CA前田氏、「ITILはプロセス管理のベストプラクティス」

~ITILソリューションセミナー 講演

 3月11日にコンピュータ・アソシエイツ株式会社(以下、CA)の主催にて都内で開催された「ITILソリューションセミナー ~運用管理からITサービスマネジメントへ~」で、同社のエデュケーションサービスリプリゼンタティブ、前田 隆氏が「ITIL(サービスサポート/サービスデリバリ)の概要」と題して講演を行った。


ITサービスマネジメントとITIL

テクノロジーディビジョン エデュケーション エデュケーションサービスリプレゼンタティブ 前田 隆氏
 前田氏はITILの説明の前に、まずITサービスマネジメントについて解説をした。それによれば、「PCを使った業務はまずお金を扱う会計からはじまり、次に数値を扱う計算や製造の部門に広がっていった。しかし今では、数字の情報ではなく言葉を使った情報が使われるようになり、ビジネス側にその情報が流れ込んできた。またビジネス側でも情報を使っていかねばならなくなった」という。つまり、ただPCを使っていれば良かった時代から、処理するだけでなく処理した後の情報をいかに取り出すかが重要になったというのだ。そして、「ビジネスの中でITが占める割合、依存度が高くなってきた。それがITサービスマネジメントの必要性そのものだ」と前田氏は述べる。

 そうして登場したITサービスマネジメントだが、これに対する要求は大きくわけて3つだという。「ITサービスを、お客様に今も将来も変わらずに、ニーズにあったものを提供し続けていくこと。どういったサービスをどういったレベルで提供できるかということ。そして、コスト削減ができること」(前田氏)の3点がそれだ。これらの目的を満たせなければ、もしITを導入したとしても、ITの競争で負けてしまうという。


ITILのベースとなっている8冊の書籍。現在日本語に訳されているのは、「Service Support」と「Service Delivery」の2冊だ
 これを何とかしようと試みたのが、80年代後半の英政府だ。前田氏によれば「英政府ではお金をかけてITを導入したが、うまく活用できていなかった。そこで構造改革をし、ITそのものの活用、つまりITでいったい何をしようとしているのか、ITに対して何を要求しているのかをきっちりと定義しようという動きになり、PCを使うサービスをうまく動かすのにはどうしたらいいのかをまとめさせた」という。これがITILのはしりとなるものだが、これが非常にうまくいっていたために民間でも使えるようにしようという動きが発生し、ITILのは定着につながっている。ITILは8冊の書籍(うち1冊は2004年夏の出版予定)をベースとしているが、すでに英や旧英領などでは10年ほどの歴史を持ち、失敗例から教訓を学びとるなどして、ベストプラクティスとしての確立が行われてきている。

 「ITILを実施するためには、手順とか内部のほかの業務プロセスとのからみもあるので、どのプロセスからやっていくのかを事前評価した形でやっていかないと効果がない。しかし、ベストプラクティスとしてひな形がすでに用意されているので、分析やプロセスを定義するための活動の負荷が軽くなる。また、プロセスを実施したあとのアウトプットを予測することが楽になった」(前田氏)。

 「しかし、プロセスは導入したからといってサッと良くなるわけではない。プロセスは改善し続けていかねばならない」と前田氏は続ける。「事業を動かしていくためのプロセス改善では、まず自分がどこにいるのかを把握しなくてはいけない。はしごの何段目にいて、上に行かねばならないのか、下に行かねばならないのかをはっきりとつかむことが大事。そしてすでに導入しているものも含めて、どこが強くてどこが弱いのかを把握した後は、どこまで持っていくかという目標を決め、また目標を達成しているかどうかを審査する方法の確立が必要となる。達成がわかりやすい数字だけでなく、アンケートの統計など言語からの情報を取り込んでいって、きっちりと評価するプロセスが必要なのだ」。


企業のサポート業務のプロセス「Service Support」

 こうしたITサービスマネジメントのプロセス導入に焦点をあてたもののなかに、ITILの「Service Support」がある。企業の内外に対するサポート業務に適用するもので、すべての情報を集積したCMDB(Configuration Management Database)というデータベースをバックボーンとして利用し、サービスデスク、インシデント管理、問題管理、変更管理、リリース管理、構成管理の6つのコンポーネントから構成されている。

 「このうちサービスデスクは対応窓口を1つに絞り込むという単なる機能だが、ここに来た問い合わせがただのサービス要求ではなく、パフォーマンスが急に低下するなどの「インシデント(事件・事故)」だと認識された場合は、インシデントは各管理プロセスに乗ってくる」(前田氏)。

 まずインシデントはインシデント管理へ送られるが、原因がわからないなど、根本的な問題解決が必要な場合はさらに問題管理へ送られ、原因の調査が行われる。その後、システムに問題があったことが判明すれば、システム変更を管理する変更管理、変更後のリリースを管理するリリース管理のプロセスへ。そして、これら一連の流れすべては構成管理で管理されることになる。


Service Support全体の流れ。すべてのバックボーンとして、“信頼できるデータベース”CMDBがある インシデント管理プロセス。ここでは根本原因の解決よりも、復旧のスピードが優先される 問題管理プロセス。根本原因の調査のため、問題を分類し、調査し、診断し、解決後は変更管理フェイズへ送る

変更管理プロセス。変更するときにどれだけの人員をかけるか、スケジュールはどうするか、などを管理する リリース管理プロセス。どういった方針で、タイミングで
変更版のリリースを行うかなどを管理する
構成管理プロセス。ほかのプロセスで得られた情報はすべてここで管理される

サービス提供のプロセス「Service Delivery」

 日本語に訳されているもう1つのITIL書籍が、「Service Delivery」だ。これは、サービスレベル管理、可用性管理、キャパシティ管理、ITサービス財務管理、ITサービス継続性管理の各プロセスからなっており、サービスを顧客に対して提供するビジネスが対象となる。

 サービスレベル管理では、サービスをあるレベルを保証して提供するSLA(サービス保証契約)が基本。これで顧客に何を提供するかが決まるのだが、可用性管理ではどれだけのパフォーマンスを提供できるバックボーンがあるか、ITサービス財務管理ではそのサービスを提供するためにはいくらかかるのか、キャパシティ管理では現状を分析していかにチューニングをしていくか、をそれぞれ管理する。また、ITサービス継続性管理では、ディザスタリカバリを含め、サービス継続のためのリスク管理を行う。


Service Deliveryの流れ サービスレベル管理プロセスの例。サービス供給者がすべてを自前で提供できるとは限らないので、外部組織と請負契約をしっかり結び、アウトソースで対応する キャパシティ管理プロセス。ITリソースのパフォーマンスなどを監視するとともに、分析、チューニング、実装を反復的に繰り返す

 前田氏はこうした2つのITILを解説したのち、最後にITILを導入するメリットとして「1)実績のあるベストプラクティスがベースであること、2)組織に依存しないプロセスであること、3)部分的に導入できること、4)計画的に拡張できること、5)ITサービスの財務管理ができること」をあげ、講演を締めくくった。



URL
  コンピュータ・アソシエイツ株式会社
  http://www.caj.co.jp/
  ITILをご存知ですか?(CA)
  http://www.caj.co.jp/itsm/

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( 石井 一志 )
2004/03/15 00:00

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