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岡村弁護士、「個人情報保護法により企業は二重の責任を負うことになる」

「インターネットにおける個人情報保護と人権」セミナー 基調講演

弁護士の岡村久道氏
 財団法人インターネット協会主催による「インターネットにおける個人情報保護と人権」セミナーが3月23日、都内で開催され、弁護士の岡村久道氏による「知らなければ許されない個人情報保護法の基礎知識」と題した基調講演が行われた。

 岡村氏はまず、個人情報保護法について「さまざまな情報漏えい事件がマスコミをにぎわし、賠償請求についても触れられているが、個人情報保護法は賠償請求を行うための法律ではないことをあらためて認識してもらいたい。この法律は、個人情報を取り扱う際のルールを定めたものであって被害者をダイレクトに救済するものではない」と、個人情報保護法で個人の賠償請求が行えるのではないかという誤った理解があることを指摘した。


顧客情報だけでなく社内の人事情報も対象に

 個人情報保護法は、個人情報を取り扱う事業者に対し、遵守すべき義務が課せられた法律で、2003年5月に可決、2005年4月より本格的に施行される。個人情報保護法成立の背景としてあげられるのが、プライバシーの権利概念の変化だ。「従来のマスメディアに対する“一人で放っておいてもらう権利”から、コンピュータやオンラインに対する“自己情報をコントロールする権利”に変わったことがあげられる。また、個人情報の漏えい事件が連続して発生していることや、住民基本台帳ネットワークシステム稼動と連動した法整備の必要性という側面もある」と、個人情報に対する認識の変化が法整備の基本的な考え方となっている。

 では、個人情報保護法の対象となる「個人情報」とはどのようなものだろうか。第1に生存する個人を識別することが可能な情報。「法人に関する情報は対象とならない。しかし、その法人情報に役員などの情報が含まれる場合は該当することがある」と岡村氏は説明する。第2に個人情報のうち、生存者の情報に限定されたもの。「ただし、死者の情報であっても生存する遺族に該当する場合は対象となる」。第3に特定の個人を識別できるもの。「たとえば、埼玉県の住民は何人いるかといった統計的な情報は除外される。しかし、企業の日常的な業務の範囲でマッチングできる場合は個人情報となる」と説明する。岡村氏は続けて、「どうしても営業目的の個人情報が対象と考えがちだが、この個人情報には従業員の人事情報も該当することを理解しておく必要がある」と、対外的な情報だけでなく、内部情報も対象となることを強調した。


 個人情報保護法の対象となる事業者の範囲だが、法律では「個人情報取扱事業者」と定義されている。「これは、個人データを検索性をもたせて利用している企業を指している。ただし、電話帳やカーナビ・住宅地図などの取扱事業者はこの対象からは外れている。そのほか、データベースのレコード数に関わらず5000人分以下のデータを扱っている事業者も対象外となっている」と、一定以上の規模の企業であれば対象となりうると説明した。

 個人情報取扱事業者は、この法律によりどのような義務が生じるのだろうか。まず個人情報に関しては、利用目的の特定、利用目的による制限、利用目的の通知・公表等の3つが挙げられる。岡村氏は、「これは個人情報を扱う際に、どのような目的で利用するのかを定め、その範囲において利用することを、対象となる個人に告知をすることを意味している。そのため、個人情報を取得する際、どのような目的で使うのかを明確にしておかないと、利用目的が変わるたびに本人の同意が必要になる」と説明する。

 また、個人データそのものの扱いについては、データ内容の正確性の確保、安全管理措置義務、第三者提供の制限の3つが挙げられる。これについて岡村氏は、「データ内容の正確性の確保とは、類似の名前を持つ人と間違えて信用事故を起こすなどの事故が起きないように定められたもの。間違いがあった場合は本人の求めに応じて訂正する義務がある。安全管理措置義務は、いわゆる情報セキュリティを図ることを義務化したもの。第三者提供の制限は、DMなど見ず知らずの業者から送られることを制限するためのもので、第三者に個人情報を提供する場合は、あらかじめ本人の同意を得る必要がある」と紹介した。

 企業は個人情報保護法により、既存のプライバシー権侵害による個人賠償訴訟とあわせて二重の負担を負うことになる。「個人情報取扱事業者は社内体制を構築しないと問題が生じるおそれがある。内規などは世の中にあるものを流用できるが、大切なのはそれを適切に運用すること。ISMS(information security management system)などを用いたセキュリティ監査なども考慮してもよいだろう。施行まであと1年しかないが、企業にとってはやるべきことがたくさんあるので、早く対応策を取ってもらいたい」と、企業に対し意識を持つよう訴え、講演を締めくくった。



URL
  財団法人インターネット協会
  http://www.iajapan.org/


( 福浦 一広 )
2004/03/24 00:00

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